シャーレの決戦兵器   作:わんぱくフォックスですまない

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黒服回です。


第17話 えっ、大人の戦い?

もぐもぐもぐ―――

 

コツコツコツ―――

 

 

 

数時間ほど前―――

 

カイザーPMCを蹴散らした後、補給と状況整理のため一旦解散し、シャーレに戻ってきていた。

 

執務室に入ると何となくの違和感を感じ警戒をする。この感じ、ワカモさんじゃない。

私の知らない”誰か”の痕跡を感じる。その誰かはすでにいないようだが、罠を張られた可能性があるため迂闊に動けずにいた。

 

その懸念を伝えると先生はタブレットを操作し、不在時の監視カメラを見る。するとそこには黒い靄のようなものが一瞬映り、消えて行く映像が残されていた。場所は先生のデスクの前。

どのような罠があるかどうか不明だが、悠長に構えていられるほど時間は余していない。

私はこのままじゃ埒が明かないと判断し、先生をできるだけ下げてから先生のデスクの前まで歩いていく。

 

 

結果的に罠はなかった。だがこれから罠にかかるかもしれない物が、その机には置かれていた。

黒を基調とした白い稲妻のような模様が入った小さい封筒。私は先生の許可を得てからそれを開ける。

しかし中に入っていたのは”白紙”の紙が一枚だけ。特に危険があるように見えなかったので本来の受取人であろう先生に手渡す。

 

受け取った先生は白紙のはずの紙を穴が開くように見つめ、段々と表情が険しくなる。どういう理屈かわからないが、先生にとっては白紙ではなく何かの手紙のようであった。

内容を聞けば黒服と名乗る大人からの手紙で、アビドスの事やホシノさんの事に関して、一度話がしたいというものだった。

 

そしてアビドス自治区にトンボ返りした私たちは焼き鳥を頬張りながら夜の街を歩いていたのだった。

 

 

 

 

「ん、しぇんしぇ、このタレおいしいですよ。」

 

”サエカは何でもおいしそうに食べるね。でも今は遠慮しておこうかな?この時間においしい焼き鳥なんて食べたら、ビールが欲しくなっちゃうからね。”

 

「んぐ、んぐ。では先生。せめて携帯食でも、どうぞ。罠である可能性も、ありますし、軽いものでも、お腹に入れておかないと、万一長期戦に、なった場合、困ると思います。」

 

”ありがとう。それもそうだね、じゃあ少しだけ食べようかな。”

 

 

そういう先生にカロ〇ーメイトを差し出す。少し冷える夜の街をモグモグと食べながら歩を指定された目的地に向け歩くのだった。

 

 

 

 

 

少し歩き、指定された場所に到着する。そこには小綺麗なビルが聳え立っており、何故か近づくことに忌避感を覚える不思議な場所だった。だが先生は何も感じないのか臆さず、ためらわず中に入り指定された部屋の扉を開けた。

 

 

「お待ちしておりました。シャーレの先生と百合園サエカさん。」

「あなた達とはこうして、直接顔を合わせてお話してみたかったのですよ。」

 

 

先生を呼び出したこのビルの主は、人の形をしているが、今まで見たキヴォトスのどれにも当てはまらない、異形の見た目をしていた。

これが”サエカ”の言っていた黒服か。この世界に来て最初に会話をしたのがこの人と考えると、感慨深くなる。

 

 

 

「まず、先にはっきりしておきましょう。私たちは貴方方と敵対するつもりはありません。」

「寧ろ、協力したいとすら考えています。私たちの計画において最も障害になりうるのは、貴方だと考えています。」

「私たちにとってアビドスという小さな問題は大した問題足りえません。ですが先生。あなたの存在は違う。敵対することは避けたいのです。」

 

”あなたは何者?”

 

 

おっと。先生の顔が微妙に怖い。相手が大人だからか、決して生徒に見られていい雰囲気ではないものを纏っている。

 

 

「失礼。そういえば自己紹介がまだでしたね。私たちは貴方方と同じキヴォトスの外から来た存在。もっとも、お二人とは違った領域にいたものですが。」

「過去にあったとされる組織で適切な名前がありましたので、今はその名を拝借して使っています。私たちの事は「ゲマトリア」とお呼びください。」

 

「私たちは、観察者であり、探究者であり、研究者です。」

「どうですか?先生。私たちと同じものを追い求め、協力できる立場にあると信じています。先生、私たちと同じ「ゲマトリア」に来ませんか?」

 

”断る”

 

 

 

おおう、即答。何となくだが黒服がしょんぼりした気がする。

そして察する。これは”大人の戦い”であると。先生は黒服の物言いに対し、敵として定めつつあるが私はその限りではない。”サエカ”の話からもこの男は何かを知っている。

どうやら先生に物理的な危険はないと判断し、私は応接室のソファーに座り食べかけの焼き鳥とジュースを取り出して夕飯を食べ始めることにした。

 

空気が読めない行動だとは思うがお腹がすいたのだ。ペコちゃんなのだ。なのでヒートアップしていく先生とは裏腹にあえて空気を読まない。もぐもぐ、びゃぁうまいぃ!

 

 

 

”私はそんな提案に興味はない。ホシノを知っているようだが、どこにいる?返してもらおうか。”

 

「クックック…その要求には正当性がありません。何の権利があってそのような主張をされるのでしょうか?」

「ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されていないのですか?」

 

”いいや?「まだ」だ。顧問である私はまだサインしていない。だからホシノはまだ対策委員会所属で、生徒会副会長であり。―――私の「生徒」だ。”

 

「なるほど。そうでしたか。先生と生徒の概念。これは中々に厄介ですね。」

「どうあってもホシノを諦めることはできないと?彼女さえ諦めてもらえばアビドスの学校も通えるようにしましょう。PMCもこちらで何とかしましょう。それでもですか?」

 

”断る”

 

「どうあっても私たちと敵対すると?あなたに戦う力などないでしょうに!」

 

 

そう畳みかける黒服に対し先生は懐から一枚のカードを取り出した。あれは…危険なものだ。使わせてはならない。私の中の本能(サエカ)が叫ぶ。思わず食べる手を止めてしまった。

 

 

 

「…先生。たしかに”ソレ”は貴方だけの武器です。ですがそれの危険性をうっすらとですが、理解しています。」

「それは使えば使うほどに、あなたの時間が削られてゆく。このような場所で使わずにもっと大切な場所で使うことをお勧めします。」

「なぜ、貴方はそこまでして助けようとするのですか?本来与り知らぬこと。放っておけばよいではありませんか。」

 

”私は先生である前に一人の大人だ。大人とは子供の責任を取るものだ。あの子たちにはその苦しみに対して責任を取るものがいない。”

”そしてあの子たちは助けを求めた。救われるのは子供の当然の権利だ。私はその子供たちの助けてほしいという言葉を受け取った。ならばその受け取った願いに対して責任を果たす義務がある。”

”大人として社会を動かし、利益を求め、結果を追い求める事を是としている「ありふれた大人」である貴方達には分からないだろうけどね。”

 

「交渉は決裂…ですか。良いでしょう。私は貴方の事は気に入っていたのですが、仕方ありませんね。」

「ホシノは現在、砂漠のPMC基地にある地下実験室に隔離されています。」

「とある実験の応用性と、再現性の確認のために確保していましたが、前提が崩れてしまいましたね。」

「精々頑張って助け出すと良いでしょう。微力ながら幸運を祈っていますよ。」

 

 

 

その言葉を受け、無言で部屋を後にしようとする先生。あっ、ちょいまち先生。私の用事はまだ終わってない。そして食べ終わってもない。

 

 

 

「待って、ください、先生。私は彼と、話したいことがあります。」

 

「奇遇ですね、サエカさん。私もいくらか話したいことがありました。ついては先生。お話を聞かれていきますか?ここから先はアビドスともホシノとも関係のない、手紙での内容から外れたものです。先生が聞く義務はありませんが。」

 

”貴方のような大人と、サエカを二人きりにさせるわけにはいかない。義務はなくとも権利はあるだろう。私も残らせてもらう。”

 

「そうですか。して、サエカさん。話したいこととは?貴女には貴女自身の事に対し、無条件で情報開示を要求できる権利があります。私はそれに対し嘘偽りなく答えると約束しましょう。食べながらでも構いませんのでどうぞ。」

 

「助かります。ではまず、一つ目。私はどういった、状態なのですか?」

 

「ふむ、そうですね。少し質問が抽象的ですが良いでしょう。」

「サエカさん。貴女は現在、元のサエカさんの肉体から魂が不活性化してしまった際、肉体が空っぽになった中身を補完するために、呼び起こしたものです。それによって、本来ならあり得ない一つの肉体に魂が二つある、という状況を作り出しています。」

 

「理解しました。では魂が二つあると、どのような、デメリットが、生じますか?」

 

「人によってはデメリットとは感じないかもしれませんが、今後起こるであろう問題は予測できます。」

「まず起こるであろうことは魂の融合です。それによって自分の記憶にない体験が自身の記憶に交じります。性格面や思考なども混ざり、最終的には”どちらでもない”魂が誕生すると思われます。」

「これ自体はゆっくりと起こると予想されますが、すでにその兆候は出ているのではありませんか?例えばそうですね。食べ物の好みが一部上書きされていたり、倫理観が元の世界のものと違うものになっていたり。とかでしょうか?」

 

 

 

おっとぉ?これには心当たりあるぞ。例えばロールケーキ。私は食べたことはあるが”作ってもらった”事はない。倫理観に対してもそうだ。PMC理事に人殺しと蔑まれたが私は嬉々として彼らに暴力を振るった。あまり気にしていなかったが、気付かずに私は”サエカ”に毒されていたようだ。

 

 

 

「ああ、それは身に覚え、ありますね。まぁ、その結果残るのが、”私”なのか、”サエカ”なのか、はたまたどちらでもない、”誰か”になるのか。そこはぶっちゃけ、どうでもいいです。」

「私にとっては、今は夢のような時間。サエカとの取引で、今があります。だから結末がどうであれ、たった一度きりの夢、は全力で、楽しみたいです。」

 

 

私はすでに死んでいる。それなのにこれだけ輝いた日常をくれた彼女には感謝している。彼女がどのような意図で私と取引したのかは分からない。完全な善意ということはないだろう。

私の中では彼女はすでに契約に対し先払いをしている。ならばその結末がどうであっても文句を言うのはお門違いなのだ。

 

 

 

「ふむ…?取引、ですか?よければですがその内容をお聞きしても良いでしょうか?」

 

「”サエカ”は、無を欲し、”私”は、有を、欲した。だから交換しましょう、そう持ち掛けられ、死にゆく意識の中、私は、了承しました。」

 

「無と有…ふむ…あのような状態で意識を保っていたと…?だがそれならなぜ…?」

 

 

何か気になる事でもあったのか一人考えに沈む。するとここまで黙っていた先生がたまらず、といった様子で口を出す。

 

 

 

”まって。気になることが多すぎる。まず黒服。なぜサエカの事を詳しく知っている?”

 

「なぜも何も。理由は簡単ですよ、先生。」

「彼女、百合園サエカさんを誘拐して人体実験をし、魂と神秘に対しアプローチしたのは他でもないゲマトリアな―――。」

 

 

最後まで言い切る前に先生は黒服の胸ぐらをつかみ上げる。その顔にはかつてないほどの憤怒の表情が見れた。

 

 

 

”お前が!お前がこの子に対してやった事の重さを理解しているのか!?かけがえのない子供の時間を、心の傷を、この子を心配する、家族の気持ちを何だと思っているんだ!!??”

 

「…落ち着いてください、先生。その子供が怯えていますよ。」

「それに誤解しないでください。その非人道的な行為を実行したのは確かにゲマトリアのメンバーですが、私ではありません。」

 

 

驚いた。ここまで怒るとは。生前含めて男の人が怒鳴り散らすのは初めて見たし、中々迫力があるものだ。ワカモさんと違った迫力で、思わずおにぎりを落としてしまった。…チビってはいない。

 

 

 

”それを信じる根拠は?”

 

「他ならぬ、サエカさん本人です。直接害された元のサエカさんは、意識を表層に出している様子はありませんが仇敵を前にすれば、多少なりともアクションは起こすでしょう。」

「それに、私を含め一部のゲマトリアメンバーは、目的こそあれどサエカさんを援助し、その命が尽きることの無いよう手を尽くしてきました。」

 

「そう、です。先生。私はこの世界に来て、無線越しではありますが、彼に、助けてもらいました。現状、嘘は吐いていません。それと、私の為に、怒ってくれて、ありがとうございます。」

 

”そうか…私の早とちりだった。いきなり胸ぐらを掴んですまない。”

”それとサエカ、びっくりさせちゃったね、ごめん。”

 

「いえ、大丈夫です…それで、なんでしたっけ…。」

「ああ、そうです。まだ聞きたいこと、があるんでした。私の持っている、この武装。これは何ですか?最初から、持っていましたけど。」

 

「その銃は僭越ながら私が”サエカさんに”プレゼントさせていただきました。」

「アビドスの砂漠に潜む大蛇、その名は「ビナー」それのアツィルトの光と呼んでいる主砲を、私なりに解析し模倣したものです。」

「ビナーを直接分解し解析したわけでないので、劣化品であることは留意してください。彼のものは今だ健在であり、もし相まみえることがあっても性能では劣っていますので、火力勝負は避けることをお勧めします。」

「盾の方はサエカさんが撃破した、と言っても逃げられてしまったので、こちらも健在です。名を「ケセド」ミレニアムの廃墟に潜む軍需AIの残骸です。その後はそちらで改造したようなので説明は割愛させていただきます。」

 

「このアイマスク、は?」

 

「それは私の作品ではありませんので詳しくは説明できませんが、同じゲマトリアメンバーの手で作成されました。」

「彼曰く、そのアイマスクの主な機能は「テクストの固定」だと言っていました。」

「何度か外したことがあると思うので、こちらもある程度説明は省きますが、不用意な神秘の暴発を抑える、所謂「拘束具」のようなものと思っていただければ。」

 

 

 

ふむふむ、凡そサエカの言っていた事と相違ない。疑っていたつもりはないが、裏が取れたような気持ちだ。あっ、おにぎりなくなちゃった。

 

 

 

”私からも質問いいかな?”

 

「クックック、何でしょうか?同盟を蹴った先生に対し、質問に答える義務は私にはありませんが聞くだけ聞きましょうか?」

 

”なら一つだけ。答えなかったら、代わりにサエカに聞いてもらおうかな。”

”先生として聞き捨てならないことを先ほど言っていた。黒服、お前は先ほどサエカを援助したと言った際に「目的はあれど」と言った。その目的とやらを答えてもらう。”

 

 

 

ああ、目的。そういえばそんなことを言っていたね。別に彼らが何を目的にしていて、私にどのような対価を求めるのかはどうでもいいと思っていた。それこそ”生贄”が目的と言われても納得するだろう。

 

 

 

「クク、クックック。本来答える義理はありませんが、これは誠意として答えてあげましょう。」

「私たちがサエカさんを助けたのは「念のため」です。」

 

「念のため?なにの、ですか?」

 

「ええ。「念のため」です。サエカさん、貴女は良くも悪くも爆弾です。私たちはその爆弾に信管を取り付けたに過ぎない。勝手に爆発しないように。」

 

”何か言い方に含みがあるね。まるでその爆弾を「使う機会」があるような言い方に聞こえる。”

 

「クックック、それは何とも言えません。ですが確実に言えるのは、現在の彼女は単騎でこのキヴォトスを破壊できるだけの炸薬量を持った爆弾。そこに制限(セーフティ)を設けることは当然ではありませんか?」

 

”質問を煙に巻くのは感心しない。それはキヴォトスを暴発から守る「手段」であって「目的」じゃない。まどろっこしいのは好ましくない。さっさと話したらどうだ。”

 

「おやおや…クックック、そうですね、先生。多少侮っておりました。」

 

 

え、?まじ?私勝手に「そうなんだー」って納得しちゃってた。こやつめ。

 

 

「仕方ありませんね。では今度こそ理由を話しておきます。」

「百合園サエカさん。彼女はキヴォトスを根底からひっくり返し、破壊しかねない存在に対しての「ワイルドカード」としての役割を期待しています。」

 

”そんな存在があると?”

 

「限りなく0に近いですが0ではない、とだけ。」

「私たちゲマトリアは研究者でもあります。可能性が0でないのならその対策はして然るべきでしょう。」

 

 

だからこその人工天使と?わからんね、まったく。この平和(笑)のキヴォトスで終焉を迎えるほどの存在が現れるとは思えない。それこそ治安悪化からの終末戦争とかの方が納得できる。

 

 

「んんー、聞けたいことは、聞けましたし、今回は、この辺で、お暇しましょうか。」

「あ、ついでに連絡先、教えてもらっても、いいですか?」

 

 

先生の眉間にすごい皺が寄る。悪い大人と関係を持ってほしくないと顔に書いてある。

 

 

”サエカ…。”

 

「心配して、くれてありがとう、ございます。ですが、大丈夫です、先生。情報だけなら、害はありません。どう捉えるかで、有用にも、有害にも成りえます。悪を悪である、そう切り捨てず、取捨選択です。清濁併せ呑むにせよ、そうでないにせよ、持てる選択は、多いに越したことは、ありません。」

 

”そうだね、サエカを信じることにする。でも困ったり騙されそうになってると感じたときは遠慮なく、相談してね。”

 

「クックック、信用されないのは悲しい事ですね…クックック。」

「ではお帰りの前にこちらをどうぞ。お近づきの印にトリニティで毎週限定5組しか買えない、超高級ロールケーキです。」

 

 

 

うっひょぉぉぉおお!!すげえうまそう!!!なんだよこいつすげー有用じゃん!!!

限定って辺りが女の子の心をくすぐるよね!!私の中にある黒服の評価がぐぐぐーっと上昇したのだった。

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