「あはっ、あははは!おしまい。おしまいだ!」
「うう、そんな…あんまりだよ、こんなのってないよ……」
「絶望、破滅、無駄、虚無……私たちは……」
G.Bibleを解析するために必須だった「鏡」。数多くの試練を突破し、ようやく手にしたゲーム開発部だったが、早速とばかりに解析して帰ってきたデータを開くこと数分後の光景であった。
その顔は夢と希望をあふれさせた輝かしい笑顔から一転、絶望に染まらせ床に手を着いて項垂れていたのだった。
「え、えっと、私はよくわかっていないのですが……G.Bibleは嘘を言っていないと思います…。」
「……アリス、そうゆう問題じゃないんだよ。せっかく頑張って手に入れたのに、これなら嘘の方が良かったよ……。」
「うわぁぁん!終わりだ!もう廃部になるしかないんだぁ!!」
―――遡ること少し前―――
「ヘイ、ちびっ子たち!いい子にしてたかな!?マキちゃんサンタからかなり早めのクリスマスプレゼントだよ!」
「「「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」」」
「G.Bible exe実行準備!」
「あ、そうそう。セキュリティソフトだけ外して丸々移したからG.Bible以外にも「Key」ってフォルダも一緒に入ってたけど、開いてもよく分からないし無害そうだからそのまま一緒に入れちゃったよ。」
「ケイ?」
「「キー」でしょお姉ちゃん!本当に高校生なの!?」
「なんかこのフォルダ、解析不能な機械言語をしていてね。ぶっちゃけた話、G.Bibleのセキュリティソフト突破するより解析が難しいくらい難解なの。時間があるときに挑戦してみるけど今はG.Bibleの方が重要でしょ?」
「ナイス判断だよマキ!」
「じゃあ間違いなく渡したから!頑張ってね!」
お仕事完了!とマキは部室をルンルンと出て行く。残されたのは起動準備中の表示を見守るゲーム開発部の4人。あれだけの難関を潜り抜け手にしたものなのだ。伝説とまで言われるデータには何が入っているのか。これだけ起動に時間がかかっているのだからきっとすごいソフトなのだろう、各々期待を胸に静かに見守る。
そして待つこと数分。ついに起動の文字がディスプレイに表示される。
「やっと、やっとだ。じゃあ改めて見よっか!」
「噂では「ゲーム開発における秘儀。みんなが知っているようで、誰も知らなかった奇跡」って最後に見た人が言っていたらしいから、これがあれば最高のゲームを作れる!」
「これでみんなと一緒にいられるわけですね!」
そして起動したG.Bibleがテキストを次々と表示させていく。さながらゲームのオープニングのようなテイストでそれを読み進める4人を魅了する。だが―――
【 ゲーム を愛しなさい。】
「え?うそ、終わり?まさかまさか―。」
【 エラーではありません。何も壊れてなどはいません。これが結論です。ゲームを愛しなさい。】
「本当にこれで終わり!?」
「ファイルの損傷もデータサイズも問題なし……そ、そんな。」
「じゃ、じゃあ本当に……。」
「おわりだぁぁあああああ!!」
そして冒頭に戻る。期待していた分裏切られた時の落差はひどく、アテにしていた事もありアリスを除いてこの事実を受け入れる事が出来ないでいた。
「なんだか今のみんなはSANチェックに失敗したようになっています!」
「仕方ないじゃん!本当に最後の手段だったんだよ!それが誰でも知っているような文章だけで終わりだなんて!釣りだよこんなの!」
「ごめんねアリスちゃん……私たちはG.Bibleなしではいいゲームは作れない……。」
「いいえ、アリスはそれを否定します。」
他3人が項垂れるだけで何もできない中、アリスだけは前を向いて何とかしようと鼓舞する。
その目には絶望の色はなく、寧ろこれからなのだという決意の色が宿っていた。
それこそ自身が言うように、光属性の勇者であるかの如く、皆を絶望の淵から引っ張り上げるかのように。
「TSCはとても面白いゲームでした。目を閉じるだけで今もプレイした時のわくわく感が、溢れてきます。そしてアリスは知っています。」
「ユズが、モモイが、ミドリがこのゲームを愛しているのかを。」
「まるで夢を見ているかのようでした。待望のエンディングに近づくたびに覚めないでほしい、もっとこのワクワクを、楽しい世界を終わらせたくないという気持ちでいっぱいでした。」
「G.Bibleなんてなかった時でも楽しいゲームが作れたのです!ならきっともう一度作れます!」
「アリス……。」
「作ろう。」
「ユズちゃん?」
「私にとってTSCのプロトタイプに低評価が沢山ついていた頃、二人が来て面白いって言って一緒になってくれた。仲間になってくれた。そしてアリスちゃんも同じ。私には夢のような時間だった。」
「……欲張りかもしれないけど私はこの夢の時間を終わらせたくない。この先もずっと楽しい夢を見ていたい。」
アリスの言葉に床を見つめるだけだった3人は一人、また一人とその顔を上げていく。
そしてその瞳には先ほどの絶望とは違った色を宿し、気力を漲らせていく。
「私が間違ってた。作ろう!今度こそ最高のゲームを!G.Bibleなんてなくったって作れるってことを証明してやる!残り時間はどれくらいある!?」
「6日と4時間38分です。」
「それだけあれば十分!さあ皆!「テイルズ・サガ・クロニクル2」の開発を始めよう!」
私、サエカはゲーム開発部の部室前から離れる。しばらく前に到着して中の様子を窺っていたのだ。
あれだけやってまだダメなら、そのお尻を蹴り飛ばしてやろうと思っていたけどどうやら大丈夫そうだ。先生はユウカさんに連れ去られ、お説教と抗議の嵐となっている筈だしもう手伝えることは少ないだろう。なので私は差し入れとしてロールケーキやおにぎりなどを持って来よう。そう歩き出した時だった。
「よう、さっきぶりじゃねぇか。そんなところで突っ立って何やってんだ?」
そこにはC&Cの最強、ダブルオーことネル先輩が立っていた。
恐らくゲーム開発部に用があるのだろう。だが決起したばかりの彼女たちの邪魔をさせるのは、たとえリベンジであってもさせるわけにはいかない。
私にできるのは足止めが少々って所だが、それでも大したことはできない。だが、私は少しでも時間を稼ぐために腰が抜けそうになるのを我慢しながら、精一杯虚勢を張る。
「いえ、先生がゲーム開発部に来ているかと思いまして。」
「なら当てが外れたな。先生とやらは今頃ユウカにお説教食らってるはずだ。特に用がなくなったんならそこをどきな。」
「それはできませんね。私は”シャーレ”として彼女たち、ゲーム開発部の手伝いを請け負った身です。せっかく決起した彼女たちの邪魔をさせるわけにはいきません。」
サエカの言葉にネルは嬉しそうに、獰猛にその口角を吊り上げる。ネル自身もリベンジ、というわけではなくリオに言われて襲撃するつもりだったが、その前においしそうなデザートがあるというのならば、つまみ食いすることに否はなかった。もっともリベンジも襲撃もあまり結果は変わらないのでいちいち口にはしないが。
「へぇ。あたしの前に立ち塞がるってのか。いいぜ。でもこっちもリオの奴に言われた仕事なんでな。文句言うなよ。だがこのまま終わっても面白くねぇ。先手はやるよ、何ならあたしは目を瞑っていてもいい。時間をやる。」
「………言いましたね?ダブルオーの名のもとに誓いますか?」
「あん?なんだそれは。……まぁ構わねぇよ。ダブルオーの名に懸けて誓ってやる。」
「では。時間はそうですね……1週間ください!!!!!」
「………は?」
呆気にとられるネル先輩。だが、ここで頑張っても十中八九時間稼ぎにしかならない。
もしここで突破を許し、ぎりぎりのゲーム開発部にダメージを与えてしまったらそれこそ終わりだろう。私の決死の執行猶予、もとい命乞いでどこまで粘れるか。
「舐めてんのか?長すぎだろそれはよぉ。あたしは今の話をしてんだぜ?」
「わかっています。ネル先輩はおそらくリオ会長から指示されてきましたね?」
「ああ、そうだ。”不確定要素”の確認だとよ。何のことかわかんねーけどもっとデータが欲しいんだと。」
「その指示に期限はありましたか?」
「いや、ねぇ。けど雇い主に言われたことはわざわざ後回しにする理由もねぇだろ。それになんか楽しそうだしなぁ。」
「で、あればです。1週間で私はゲーム開発部を手伝うというお仕事を終えます。その後でしたら邪魔はしません。1週間。その時間があれば誰も仕事を失敗せず、ネル先輩も遊べてハッピー。おいしいものは最後にとっておいた方がいいでしょう?」
「はっ、物は言いようだな。いいぜ。だが、あたしはダブルオーの名に懸けて誓ったんだ。サエカ、お前はシャーレの名をかけて誓え。それとリオに対しての事情説明はそっちでやりな。それで今は手を引いてやる。」
「感謝ぁ~。」
ネルは1週間後が楽しみだと言わんばかりに踵を返す。対してサエカは疲労の絶頂と言わんばかりに大量の汗をかき、天敵の姿が見えなくなってからへたり込む。
流石に限界だった。だがこれで期限までの時間を確保する事が出来、あとはゲーム開発部次第。
「頑張ってください。期待していますよ。成功するも失敗するも青春という学生生活においてのスパイスです。今しか味わえないそのかけがえのないものを、噛みしめてくださいね。」
そう言ってサエカは渋々シャワーと報告の両方を同時にできそうな場所に向けて、歩き出したのだった。なお、先生はセミナーのお仕事を1日手伝うということで手打ちにしてもらい、その日合流することはなかったのだった。
「それで、私のところに来たと。」
「ええ。まぁはい。シャワー貸してください。そしてリオさんとお話をしたいので繋げてくれませんか。」
サエカはリオに唯一此方から無理やり連絡を取れそうな場所、特異現象捜査部に来ていた。シャワーを浴びるだけならばエンジニア部でもいいが、リオに連絡が取れない。
ならばいっそのこと常にじっとりとした視線でどこからか見守っているであろうヒマリのところに来た次第だった。
「あらあら、まぁまぁ。私ではなくあの下水道の沈殿物みたいな女にコンタクトをとるためだとおっしゃいますか。このミレニアムが誇る天才美少女ではなく。」
「まぁ、3割くらいはヒマリさんに用事があったのも否定はしないからそこを何とか。」
「ああ、やっと来たんだ、サエカ。部長がいつ来るのか、いつ来るのかってうるさくて。来てくれて助かったよ。」
「エイミ?」
「部長ってば仕事もほっぽり出して、ずっと監視してるんだもの。気持ち悪いったらありゃしない。」
「エイミ??」
うわこれはキモイ。たびたび視線を感じるとは思っていたけど、”たびたび”ではなく”ずっと”だったとは。なぜこんなに好かれているのだろうか。
「ごほん!さすがに四六時中はしていません。」
「してたのは否定しないんだね。」
「エイミは黙っていてください!」
「それでですね。あの汚水と連絡を取るのは構いません。ですが条件があります。」
「なんでしょう?」
「私と一緒のお風呂に入りなさい!それとあの工業用廃油女に用事があったのではなく、この私に用事があったと訂正してください。あの女のついでみたいに言われるのはサエカちゃんとは言えど我慢なりません。」
これを聞いてエイミとサエカは固まる。片や小さい女の子に対して拗らせすぎでしょという呆れ。
もう片方はどれだけリオさんに負けたくないのかという呆れだった。
「ええ……まぁそのくらいでしたら構わないです。」
「それに……用事だけでは3割といいましたが、”あの時”助けてもらったお礼を言いたかったので実質ヒマリさんに対して6割です。」
「改めて、あの時はありがとうございました。”できるおねーちゃん”を持つと助かることだらけですね。」
半分嘘である。礼を言いたいというのは本音ではあるが、めんどくさいという気持ちが少しあるので実際はそこまでの割合を占めていない。だがこれを口に出してどちらも拒否されてしまえばさらに面倒になるのは目に見えているので、黙っておくサエカだった。
勿論エイミにはバレていたようで、渾身のジト目を貰う羽目になったが。
「ん゛ん゛っ!………いいでしょう。先にシャワーを浴びてしまいましょう。エイミ、手伝ってください。」
「あんまり部長をからかわないでね。」
「善処します。」
2人の声は上機嫌となったヒマリには届いておらず、ミッションを達成する事が出来たのだった。
「ふぅ、こうしてサエカちゃんと一緒にお風呂に入るのはいつぶりでしょうか。身も心も洗われてしまいますね。」
「いつぶりも何も初めてでは。」
「しっ、部長の中ではもう何度も入ったことになってるの。合わせておこう。」
「えっ、あっはい。い、いやー!ヒマリお姉ちゃんと一緒に入れてうれしいなー!(棒読み」
「んぶっふっぅ!(ブクブクブク…」
おぁぁああ!?適当に合わせたらヒマリさんが、恍惚の表情を浮かべてお風呂に沈んで行ってしまったよ!?メーデーメーデーエイミさぁん!!
「サエカの攻撃は言葉でもダメージが高すぎる。ただでさえ部長は紙装甲なんだから気を付けて。」
そんな無茶な。
しかしここで救世主ともいえる、ヒマリさんを現実に戻してくれる存在の声が聞こえる。
『聞こえるかしら、サエカ。ネルから話は聞いたわ。』
「なっ、無遠慮な女ですね。こんな仲睦まじく、和気藹々としているお風呂場に侵入してくるとは。貴女にデリカシーとかTPOとかないのですか?」
そう、リオである。小型のドローンでお風呂場まで侵入してきたのだ。
これに関してはサエカもヒマリと同じ顔をせざるえないが、早めにお風呂から脱出できそうだと割り切る。
『別に女同士なのだから問題はないでしょう。いつまで浸かっているか分からないのを待つより、口だけは動かせる現在の時間を使ったほうが無駄なく効率的よ。』
「そんなことを言っているからあなたは友達ができないのですよ。人のプライバシーは大切にしなさい。嫌われますよ。ああ、すでに嫌われていましたね。失礼しました。」
『………………なんとでも言ってちょうだい。』
言葉とは裏腹にその声色からはそれなりにダメージを受けたような間が流れる。
勝手知ったる仲ではあるとはいえ、プライバシーを覗くような行為に眉を顰める。
だが現状においてはプライバシー云々よりも、ヒマリにとってはサエカとの親睦を邪魔されたことの方が腹立たしく普段より数割増しでツンツンしていた。
「それで?わざわざ暇ではないのよアピールをして、覗きに走った変態女の要件はサエカちゃんですか?」
『このドローンは音声しかやり取りができないものだから、あなた達の姿は見えていないわ。安心してちょうだい。』
「そうゆう問題ではないと何故分からないんですか?」
エイミとサエカはお互いに目を合わせ「また始まった」と肩をすくめる。こうなるとお互い話を聞かず、リオの言う時間の無駄が発生するのだが本人はそれに気付かず時間を浪費する。
この言い合いはヒマリがのぼせてダウンするまで続いたのだった。
「それで、わざわざこのタイミングで来たのには理由があるんですか?連絡取ろうと思っていたから助かると言えば助かりますけど。」
『いえ、このタイミングに特に理由は……う、ごめんなさい。話しかけるにもタイミングが大事ということね。反省するわ。今スマホに送った場所に来てちょうだい。私からも話があるの。』
悪びれもしないので私が神秘を纏った圧をかけるとドローン越しにでも感じたのか素直に謝る。
その素直さが少しでもヒマリさんに向けられれば、ここまでこじれたりしないだろうに。
「わかりました。少ししたら向かいますね。」
「サエカちゃん?私を置いてあのノンデリ女のところに行くというのですか……?」
「すいません、これも仕事なもので。」
「私よりもお仕事を取るというのですか……!?」
うわ、めんどくせぇ。これはきっとサエカだけではなくエイミも思ったことだろう。
このムーブは間違いなく、くそめんどくさい女が男に投げかける質問だ。
しかしこのままでは埒が明かないと、サエカは強硬手段に出ることにした。
「もちろんヒマリお姉ちゃんも大事ですよ。ですがお仕事を蔑ろにする私は胸を張ってお姉ちゃんに会えませんから今は見送ってくれませんか?」
そう首をコテンと横に倒しあざとい視線を送りながら攻め落とす。
これには折角お風呂でののぼせから回復しかけているのにまた逆戻りしてしまった。
「んぶっふぅ……!そ、そうですね、お姉ちゃんがわがまま言ってはいけませんでしたね。」
「ええ、ええ。お姉ちゃんは頑張るサエカちゃんが大好きなので引き留めてすいませんでした。お仕事、頑張ってください。」
よし、これで離脱できる。そう思っていたところエイミさんが近づき―――
「さっき、からかわないでって言ったばかりだったのに。まぁでも今回はめんどくさいのは分かってるつもりだから、今度アイス買ってきてね。それで許してあげる。」
「りょ、了解であります……。」
こうしてサエカはタスクを3つ終わらせリオのもとに向かうことができるのだった。
近いうちサエカには不幸になってもらいます。へへ、エデン条約が近づいてきたねぇ、サエカちゃん?
評価とコメント貰えるとサエカだけでなく作者も喜びます(チラッ