シャーレの決戦兵器   作:わんぱくフォックスですまない

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エデン条約編
第32話 えっ協力要請?


「あっ、こっちっす!久しぶりっすね!」

 

はい。既に帰って寝たくてしかたない、ねむねむフォックスです。

ミレニアムから電車で超特急で来たために、あまり休息の取れていない体に鞭をうって緊急の仕事をこなしに来ちゃった。

 

 

「お久しぶりです、イチカさん。早速ですが、知りえている範囲で構わないので、状況の説明をお願いします。」

 

サエカは周囲に聞こえない程度の声量でイチカへ説明を求める。

イチカも人当たりのよい顔から一転、まじめな顔つきになり、事態の重さを物語る。

 

「………了解っすよ。ただ、私たち正義実現委員会の一部は事態収拾のために上層部……ティーパーティより情報を貰っているだけで、すべてを知っているわけじゃないことは留意してほしいっす。それとわかっているとは思いますが、他言無用でお願いするっすよ。」

 

「……こほん。では歩きながらでも。」

「事の始まりはトリニティ郊外で不良生徒が倒れていると通報があったっす。それに対しては、いつも通りの日常みたいなものなので普段の対応……私たち正義実現委員会数名と同じく数名の救護騎士団で対応に当たったっす。」

 

「んで、到着した対応班は廃ビルの中に通報通り、倒れている生徒を複数人発見したらしいっす。」

「そこで不可解な状況に気が付いたらしく、倒れている生徒一人一人が銃撃戦とか、戦車砲に撃たれたとかのレベルではない怪我を負っていたらしく。勿論命にかかわるレベルではないっすけど、出血もそれなりにしていて、このキヴォトスではあまり見ないレベルの凄惨な現場となっていたらしいんです。」

 

「で、出血の量もおかしいっすけどあり得ないことではないので、対応した生徒はとりあえず救助に当たったらしいんすよね。けどそこにもっと明らかにおかしいことがあったんです。」

「……生徒の怪我の重さのわりに周辺の()()()()()()()()()()()()()()()ことだと。」

「もちろん爆心地のような跡は残ってたっす。けどそれも爆竹が爆ぜたとか花火が暴発したとかそうゆう可愛い規模で決してヘイローを持つ生徒に出血を強いる跡ではないっす。」

「ここまでだったらおそらくシャーレまで話が行く前に、というよりティーパーティの興味まで引かなかったっす。問題はここかれでして。」

 

「……なんと元凶と思われる爆弾が現場にまだ残っていたんですよね。」

「そこで対応に当たっていた正義実現委員会3名、救護騎士団2名が爆発に巻き込まれ、そのうち2名の意識がまだ戻ってないっす。ただ、不幸中の幸いというべきか爆心地から離れいていたおかげでそれなりのダメージこそ負いましたが、命に別状はないっす。」

「ただ、普通の爆発ではまず負わないであろう怪我で、その不可解さがティーパーティの目に留まり、現場の封鎖と戒厳令が出されまして。」

 

「事態を重く見たティーパーティは心苦しい気持ちもありましたが、シャーレに、()()()()()()()()サエカさんに協力を求めた次第っす。」

「私が知っている範囲はこのくらいっすね。ツルギ先輩やハスミ先輩ならほかにも何か知っているかもっすけど。」

 

歩きながらも長々と申し訳ないっすね、なんていうイチカであったが、その人当たりのよい顔つきからは仲間を傷つけられた事への怒りがにじんでいた。

同時に、こんなことにまだ小さな子であり、守るべき子供であるサエカに頼らねばならないという悲しさや、不甲斐なさ、悔しさといった感情もごちゃ混ぜになって表面上は事務的に涼しい態度をとっているものの、情緒がぐちゃぐちゃになりかけているのが透けて見えていた。

 

 

「……わかりました。そんな危ないものをいたずらに量産していることは許せませんね。それと、被害にあった生徒には無事……とはいいがたいかもしれませんが、最悪は免れたようでよかったです。」

 

「いえ……こちらこそ申し訳ないっす。でも、一番痛い思いをしたはずのサエカさんが、前を向いて頑張っているって怪我した子たち知ってもらえたら少しでも励みになるっすよ。」

 

サエカからすれば、当時意識がはっきりとしなかったために、転んで擦りむいて痛ぇくらいにしか思っていなかったが、今回の事件で明確に()()があると憤る。

直撃を食らわなくてもダメージを与える事が出来る爆弾。そんなものは早めに消し去らなばならない。それを作った敵も含めて。

イチカは自身が正義実現委員会の中核の一人であると理解しているがために、より連携を密にしてこれ以上の被害が出ないようにと決意を固める。自分にできるのはそれくらいなのだとあくまで自惚れない。

2人はそれぞれの考えをもって今後の事を考えるのだった。

 

 

「到着したっす。ここからは前回と同じく武装を預けて向かってください。……いまさら言うのもアレっすけど無理しちゃダメっすよ。人一人ができる事なんてたかが知れてるから、困ったら頼ることをお勧めするっすよ。」

 

イチカはそれだけ言って振り返らずに去っていく。彼女も忙しいのだろうが無茶して時間を作ってくれたに違いないとサエカは思い、会話を長引かせず礼だけ言って先へ進む。

案の定サエカの武装をティーパーティの子たちは運ぶ事が出来なかったのだった。

 

 

 

「失礼します。」

 

「やぁ。呼び出してすまなかったね。悪いとは思ったんだが流石に困ってね。シャーレの力を借りたい。」

「サエカ、もし今回の事件が君にとって辛くトラウマを刺激するものであれば言ってくれ。その場合、こちらも最大限配慮しよう。」

 

「いえ、お構いなく。」

 

「……サエカは強い子だね。見習いたいものだ。すまない、今回はその強さに甘えさせてもらうとするよ。」

 

ティーパーティの執務室にはホストである百合園セイアと、補佐としてナギサが座っていた。

元より体の強くないセイアは、今回の事件で自身の体に鞭打って動き回ったために顔色は優れない。その補佐としてのナギサもやはりあまり顔色がよろしくない。

こんな時は元気印であるミカの出番だが今回はおらず、冷たい空気だけが執務室を支配していた。

 

 

「大まかな話は、ここまで案内してくれたイチカに聞いたと思う。で、だ。処理中にも色々なところから同型と思われる爆弾がいくつか出てきてね。被害は増える一方なんだ。」

「幸いなことに一定距離離れていれば、普通の爆弾と同じで大した脅威にならない。ここまでだったら遠くから爆弾を投げるなりして処理で来たんだが、どうゆう原理なのか実弾や榴弾といった火薬を使用するものでの処理や破壊が難しくてね。そこでサエカの武器……それを試してみてほしいんだ。」

 

「つまり物理攻撃の効果が薄いから、さらなる火力というか消し飛ばしてみてはどうか、ということですか?」

 

サエカはあまりにも脳筋な解決方法に驚く。確かに砂をガラス状にし、彼のビナーでさえ防ぎきれなかった圧倒的な火力。その火力をもってすれば物理に耐性があれど無効化でない限り通じるかもしれない。

もっとも、本来助けを求めてはいけない、トラウマを抱えていてもおかしくないサエカに助けを求めるほど、追い詰められているのにはまた違った問題があった。

 

 

「ああ。すまないが試してみてくれ。それと私たちが手をこまねいている理由は他にもある。」

「この新型爆弾は物理に対して耐性があるのも厄介ではあるんだが、問題はそちらではなく爆発による破壊する対象だ。」

「ヘイローを持つ生徒に対して極めて高い効果を持つ爆弾ではあるが、今回それがどれほど厄介なのかを知らしめる結果となった。何故ならヘイローを持つ生徒()()に効果があり、他のヘイローがない人や動物には見た目通りの威力ということが分かった。」

 

 

サエカはその説明をうまく理解できず頭に?を浮かべる。

おそらくサエカだけでなく、大半の人間がどこぞの議員のような構文の使い方に疑問が浮かぶだろう。

だがそんな考えが浅はかであると言わんばかりに、その真の脅威をナギサがセイアの説明に付け足すのだった。

 

 

「わかりますか?要は有機物だけに効果があります。無機物に対しては、さほどの損害を与えることはなくその暴威を()()します。」

「つまり……壁の裏側やドアの向こうに爆弾があった場合、その壁やドアを()()()()()()()()()すり抜けます。これでは盾を構えても意味を成しません。なので回収も解析も処理も何もできずで。正直お手上げなのです。」

 

おおう、それでは爆弾処理班もまともに動けないわけだ。生身で分解すらできない爆弾処理なんて無理の無理ぽよ。

この顔から見て恐らく何人かが遮るものを透過してやられたのかな?

生死を彷徨う程のダメージを負った生徒は出なかったようだけど、気絶はしても一定以上の怪我を負うことが少ない、このキヴォトスの生徒だ。トラウマになってもおかしくないよね。

私の場合痛みも何も、あまり意識を保てなかったからトラウマという程じゃない。

あれだ。怖い夢見て数日たったくらいの気持ち。

 

 

「……わかりました。やれるだけのことはやってみます。ただ、周辺の建物にも被害が出るかもしれないのは目を瞑ってほしいです。」

 

「大丈夫だ。発見した場所は郊外の廃ビルなどの場所だからね。何なら周囲5キロ範囲全て更地にしてもらっても構わないとも。」

 

「それなら安心です。では早速対処してしまいましょうか。」

 

「ああ、来てもらって早々すまないね。頼むよ。送りは正義実現委員会に頼んである。万が一にも備えて救護騎士団にも同行してもらう。」

 

「ええ。分かりました。では早速行ってきます。」

 

このような危ない仕事はさっさと終わらせるに限る。そして休もう。流石に眠い。

私はふらふらと待機させているという車両に向かうのだった。

 

 


 

 

「こんにちはー、送迎待機している正義実現委員会の方たちは、こちらで合っていますか?」

 

「………………。」

 

指定された場所に向かうと複数の車両と案内役なのか、ピンク髪の正義実現委員会の生徒が立っていた。

サエカはその子が今回の案内役なのだと思い挨拶するが、悲しいかな、無視される。

他の上級生と思われる生徒たちは準備で忙しそうで、邪魔するのも気が引けたサエカはもう一度声をかけることにした。

 

 

「すいませーん!シャーレの者でーす!!お手伝いに来ましたがこちらで合ってますかー!!」

 

「うるさいわね!聞こえているわよ!」

 

あらん?聞こえていたのね。ということは意図的に無視された!?かなしす。

 

「あんたがシャーレで、それを送り届けてバックアップするように言われてるから、知ってるわよそのくらい!」

 

「むぅ。」

 

「大体、あんたみたいな小さな女の子に助けてもらわないといけないほど、私たちは弱くないわよ!」

 

「こ、コハルちゃん……!その人セイア様の妹様だよ……。ハスミ先輩やイチカ先輩が畏まる相手だよ……!」

 

その態度に近くにいた同じ一年生だろうか。コハルと呼ばれた生徒に説明する。

確かに注意したその生徒の言う通り、サエカはトリニティの現トップの妹であり、連邦生徒会所属で、さらに超法規的機関である”シャーレ”のナンバー2だ。*1

だがサエカとしては価値観そのものは現代日本のそれであり、しかも人生のほぼ全てを病室という狭い鳥籠の中で過ごした世間知らず。

 

本来であれば、公的な人間にこのような無礼は許されないほどの立場であるが、それに気が付くことはなかった。

そしてそれは同じく世間知らずのコハルと呼ばれた生徒も同じであり、自分がどれほどマズい行動をとってしまったのかイマイチ理解できていないようだった。

 

だがその彼女も”シャーレ”という肩書に対してこそ、そのような態度をとったが注意してくれた生徒のおかげで、どれほど良くない態度をとってしまったのか気が付き、見る見るその顔を青くするのだった。

 

 

「えっ、うそ!?セイア様の!?わ、わたしホストの身内に……えっ、あのっ、ご、ごめんなさい!」

 

「え、あ、はい。大丈夫です。別にホストの妹だからと言って横暴な態度に出ることはないので、普段通りにしてくれますと助かります。」

 

「えっ、いやでも、ハスミ先輩でも畏まる…?すごい人に失礼な態度を……!」

 

「あー…。いや、気にしないでください、私はそんなすごい生徒ではなく()()()()()()()ような、ごく普通の生徒ですから。それに年齢で言えば私こそ先輩と敬わねばなりませんから。」

 

「あぅ…本当にごめんなさい…。」

 

この光景を彼女の尊敬するハスミが見ていたら、大いに慌て叱責したであろうが、幸い(?)にもこの会話を聞いていたのは近くにいた生徒一人だけであり、サエカ自身も問題にしていなかったためにこれ以上発展することはなかった。もっとも、サエカ自身敬われるのも慣れないし、好きではないので大事になられると困るのだが。

 

 

「さて、では気を取り直して。連邦生徒会直下”シャーレ”所属の補佐官、百合園サエカです。ティーパーティーより支援要請を受け参りました。現場までの案内はこちらで合っていますか?」

 

「あっ、はい!こちらで合っていますです!私はサエカ様の案内をするように仰せつかりました、下江コハルと申しました!」

 

「そんなに気を張らなくて大丈夫です……口調がおかしくなっているので普段通りにお願いします。なんかむず痒いので。」

 

「え、はい…じゃなくて分かったわ!周辺警戒として私達、正義実現委員会がサエカを守るから安心して!」

 

むず痒いからと言ったがここまで変わり身が早いとはサエカも思っておらず、少々面を食らうがすぐにきっとただの素直な子なのだろうと気にしないことにした。

友達というわけではないが、変に傅かれるよりフランクな方がいい。ドロドロとした人間関係が多いと記憶しているトリニティでも、意外とこの生徒のような純粋な子も多いのかもしれないと考えを改めながら、車両に乗り込むのだった。

 

 

 

「あっ、着いた。ここ…というよりこの建物で沢山見つかっているらしいの。ハスミ先輩には絶対に近づかないようにって言われてるから、よく知らないんだけど何するの?」

 

「コハルちゃん……朝のブリーフィングで言ってたよ……。」

 

おっと。このエリート様はどうやら何も知らないらしい。またさっきの子が小声で教えてくれている。てっきりイチカさんあたりが案内に来るかと思っていたのに、この子が来るあたり忙しいのかな?

 

サエカは移動中ずっとコハルから先輩の自慢をされたり、自信がエリートの中のエリートだと言っていたのでさぞ凄いのだろうと思っていたが、蓋を開けたらこれである。まだすごい能力を持ている可能性もなくはないが、この時点でサエカはコハルの事を背伸びしたいお年頃なのだと生暖かい目で見るようになっていた。

 

「えっ、あっ、も、勿論聞いていたわよ!け、けどサエカが何するのかちゃんと把握しているかの確認をしただけよ!」

 

「ええ……。まぁ私は把握しています。危険な物の除去……と言ってもどこにあるのか分からないので、この()()()()()()()()()()()。」

 

「そうそう、それで合って……えっ?」

 

何食わぬ顔で自身のこれからやることを説明した小さな女の子に対して、コハルは聞き間違いでもしたかしらん?とフリーズする。

だがこれはコハルだけではなく、他の正義実現委員会のメンバーも驚きにその行動が止まる。

無理もない。ブリーフィングではサエカという少女が、爆弾の処理に有効な手段を持っているかもしれないから協力を仰いだ。その手伝いをしてほしい。としか言われておらず、実際にどのような方法で処理するとは聞かされていないのだから。

唯一苦笑いしながらも、動きを止めていないのは救護騎士団のメンバーだけであり、その彼女たちとて、カイザー戦やビナー戦では同じような反応をしたのだった。

まぁ見ればわかるよ、と言わんばかりに透き通った顔をしながら。

 

 

「えっ、えっ、消し飛ばす?何を言ってるの!?馬鹿なんじゃないの!?ビル一棟を一人でどうにかするつもりなの?」

 

「ええ、まぁはい。そのために来ましたから。それに最近私がなんて呼ばれているか知っていますか?」

 

「うーん、ちびっ子キツネとか……?」

 

「その返しでコハルさんが私に対してどうゆう印象を持っているのか分かりました。」

「あまり嬉しくないですが、最近では”シャーレの決戦兵器”なんて呼ばれているそうですよ。」

 

「何それ強そう。」

 

「まぁなんでもいいです。私も疲れているので早く休むためにさっさと終わらせてきますね。丸ごと消し飛ばすので500Mは離れて対ショック態勢を取っていてください。私からの無線があるまで近付いてこないようお願いします。」

 

 

その後文字通り跡形もなく溶解させ消し飛ばした。念には念を入れ、神秘砲も撃ちこみ排除に徹底したのだった。もし消し飛ばせなければ融解させた建物と違い残っている筈だが、それらしきものは見当たらない。

私の仕事が完了したことを確認し、無線で待機車両に声をかけてサエカは休む。これでどうにもならなければ本当にお手上げだが、何とかなって良かったと安堵の息をもらしながら。

 

 

「しかし、あれが量産されてるってことは世界征服でも企んでる人物なのかな。もしそんなことをしようとしてる人がいるなら、”大人”になりなさいってぶん殴らなきゃね。」

 

 

サエカはそんな大層なことを考えているだろう、阿保をとっちめてやるとやる気を出しながら、帰りの車両でマシンガントークをかましてくるコハルに、少しうんざりしながら帰路につくのだった。

*1
二人しかいないが。




保存していた分が消えてしまったために再度書き直しました。
私事ですが、引っ越しやらなんやらで少し投稿に日が開くことがあるかもしれませんが、エタらずに行こうと思います。

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