シャーレの決戦兵器   作:わんぱくフォックスですまない

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ちょっとだけ長め。


第36話 えっ起床?

≪おい、ねぼすけ。起きろ。≫

 

声が聞こえる。でも私は眠い。もう少し寝かせてほしい。

 

≪おい、起きろってば。ぶっ殺すぞ。≫

 

うるさいなぁ。少し疲れてるんだよ。

 

≪よーし、狸寝入りだな?怒ったぞ。くらえ、神の一撃。≫

 

バコッ

 

―――いったぁ!!

 

≪やっと起きたか、この木偶の坊。いつまでも寝てるなよ。≫

 

―――何するんだよぅ!もう少し優しい起こし方無かったの!?親父にもぶたれたことないのに!

 

 

記憶に懐かしい病室で目を覚ます。そこには前と同じくパイプ椅子に座り、マズいコーヒーを片手に足を組んでいるサエカが御冠で睨みつけていた。

 

≪だまらっしゃい。こっちが優しく起こそうとしたら付け上がりやがって。お前が愚鈍だから姉貴と顔合わせてしまったじゃないか。責任取れ。≫

 

―――えぇ……。

 

≪む、何だその顔は。何か言いたいことがあるのなら聞こうじゃないか。≫

 

―――お姉ちゃんに会えたのならよかったじゃん。何が不満なの……。

 

私が純粋な返答をすると「こいつ……」みたいな目で睨みがさらにきつくなる。特に姉妹仲が悪いとかそうゆう話はなかったと思ったけど、何か不都合があったのだろうか。

 

≪いいわけないだろ……私のような神性が強い人間と接触すると精神が削られることがあるんだ。最悪発狂する。≫

 

―――え、何この子。自分が神様とか言っちゃうイタいお年頃だったの?

―――まぁ―しかたないよね!13歳だもん、そうゆう時期だよね。

 

≪なに自分は分かってますよ、みたいな顔してんだ。不敬罪にするぞ。≫

≪そうでなくても私の魂と接触すると、真理の理解が進んで神秘の総量が増えるんだよ。扱いきれない神秘をその身に宿したらどうなるかよくわかってるだろうに。≫

 

―――あー、そうゆうことね。理解理解。

 

≪我ながらムカつくなぁ……もう一回殴っても許されるよね。≫

 

暴力反対。にしても確かにサエカと話すと体が軽くなるというか、不思議な影響を及ぼすのは身をもって知っている。まさかそれが神秘に影響があるせいだったとは。

もしかして体の主導権を頑なに握ろうとしないのは、その辺が理由だったりするんだろうか?

 

 

≪まぁ今回は不可抗力というか、愚姉の暴走を止めるためっていうのもあったから、仕方ないっちゃぁ仕方ないんだけどさ。いやでも、元はと言えばお前が学びもせず変な爆弾を、2度も食らったことが原因だ。やっぱお前が悪い。三つ指ついて私に詫びろ。≫

 

―――えぇ……ご、ごめん?

 

≪うっす。ペラッペラの謝罪だな。心が籠ってないね。金箔並みに薄い謝罪だ。今どうゆう状況かわかってるのか?≫

 

―――なんか背の高いネーちゃんに虐められたことは覚えてるよ。それとそっちが本性なの?猫被るのやめたんだ?

 

 

図星だったのか、ジッとこちらを見つめ無言になる。相変わらず目に光は灯っておらず、何を考えているか分からない目をしているが、その瞳の奥では様々な激情が渦巻いているのは何となくわかった。

 

 

≪……自分自身に対して演技も糞もないだろ。お前は私で私はお前で……って言ってもわかんないよね。説明するのも面倒だし、いいや、忘れて。なんにしても覚えてるなら結構。まったく、あのババア、ポンポンと危ない物を子供に持たせやがって。2度も活動停止させられるとは思わなかったわ≫

 

訳の分からないことをブツブツと呟いているが、どうせ聞いても教えてはくれないだろうと思い深堀することはしなかった。だが、あの爆弾について見識はあるらしく、その情報だけ聞いてみることにした。

 

―――ねぇ、あの爆弾について何か知ってるの?知ってたらシバき倒しに行きたいから教えて。

 

≪んんー?あー、あれね。知ってるけど作ってる奴がどこにいるかとかは教えないよ。馬鹿みたいに突撃したところで返り討ちにあうだろうし。それで死なれちゃたまらない。≫

 

―――かまわない。あんなのを量産して。許せない。

 

 

悪い癖だね、と頭を抱えながらも説明を拒否することはしない様子だった。

だがあんなものは”悪意”の固まりだ。明確な、ドロドロとした害悪。あの時ロケランを撃ったヘルメット団も、あの背の高いネーちゃんも本人が望んで武器を手にしたかは分からない。

けど道筋を、台本を用意したのはきっと”大人”だ。子供を消耗品のように道具として扱う。自分さえよければそれでいいというその精神はどうしても許せなかった。

 

 

≪念のため言っておくよ。作った奴と使うように指示した奴は別人。どっちも悪い奴には変わりないけど、恨むなら使()()()()()()()()()()にしてよね。≫

≪武器を作る奴と、戦争する奴。どっちも悪いことには変わりなけど、圧倒的に後者が悪い。個人的な恨みもあるし、気に食わないから会うことがあればぶっ殺しちゃってね。≫

 

≪んで、作った奴……だけどこっちは憶測。作ったのは「ゴルコンダ」ってやつ。指示したのはババア……「ベトリーチェ」恐らく今回の事はこの二人が関わってるだろうね≫

 

―――そっか。この情報は共有してもいい情報?

 

≪落ち着いて聞いてくれたようで何より。てっきり忠告無視して殺しに行くかと思ったよ。情報はできるだけ内密にしてほしいかなー。ゲマトリアだから生徒にはどのくらいの悪影響があるか分からないし―。≫

 

―――わかったよ。

―――そういえばもう一つ聞きたいことがあったんだ。いい?

 

≪内容によるね。≫

 

―――無貌の神について何か知らない?

 

あれ?自分の口から出たはずなのにうまく発言できなかった……いや、なんだこれ?

一人混乱してるとサエカが真剣な顔で私をジッと見つめてくる。この子、突然真剣になったりふざけたりで、振り幅激しいな……あんまり嘘とか付けないタイプだろうか?*1

 

≪……よく聞こえなかったね。まぁ身体の方も治っていい時間だ。そろそろ外の景色を見たいから早く戻りたまえよ、女狐。私はできれば一人でいたいからね。戻ってくるなよ。≫

 

―――あっ、ちょっとまっ

 

 

 

 

「うへ……。」

 

戻されてしまった。結局のところ私の知りたいことはあまり教えるつもりはないんだろーなー。

あのキツネにはなんかそうゆう意地悪というか、性格が悪い所がある。さっきのだって多分聞き取れた上で、ああゆう反応をしたんだろうし。今思うとクッソムカつく!

あんなマズいコーヒーを澄ました顔でがぶ飲みしやがって!馬鹿舌!陰気!朴念仁!!

 

一人見知らぬベットで目覚め、先ほどの事を思い出して心の中で憤慨する。次会ったら何とかしてぎゃふんと言わせてやろうと決心していた。だがそんな細やかな決意よりも目下、サエカにとってより緊急性の高い問題が発生していた。

 

 

ぐぅ~

 

 

「お腹空いた……というかここ何処……。」

 

恐らくは病院……だろうか?白く清潔なベットに薬品や消毒液の匂い。サエカにとってはひどく嗅ぎ慣れた匂いであり、また見慣れた風景であった。

 

「サエカ……?」

 

近くの机から声がした。そこにいたのは車椅子に座り、本を読んでいたセイアだった。

その顔には驚きと喜びが宿っており、わなわなと震えると車椅子から立ち上がり、飛びついて―――は来れず1、2歩でべちゃっと倒れててしまった。

 

「起きたんだね!これは夢ではないのか!?いや、痛いから現実だ!サエカ、サエカ!顔が見えない!サエカ!」

 

わしゃわしゃとその場で蠢き、騒ぎ立てるセイア。明らかにティーパーティーホストが、というより年頃の少女がする動きではなかった。

ぶっちゃけこれが姉かと思うと、サエカ的にはこちらが夢であってほしかった。

 

「セイア様……?何を遊んでいるんですか?ってサエカさん。意識が戻ったのですね!」

 

 

背の高い青髪の女性が騒ぎを聞きつけ現れる。床を蠢く謎の生物と化したセイアに呆れながらも、その本分を忘れずにサエカに近寄る。

 

 

「意識が戻り安心しました。念のため、心拍や呼吸、簡単な「ぐぇっ!」検査をさせてください。」

 

どうやらこの女性は病院の先生?生徒?医学に精通した人であり、恐らく私を救ってくれた命の恩人なのであろうことが窺えた。だが床を蠢くホストを容赦なく踏みつけ近寄ってくるその姿は、些か、いやかなり狂気を含んでおり、色んな意味で背中に冷たいものを感じるのだった。

 

「……ミネェ……。」

 

「心拍、呼吸共に異常なし……創傷は……驚きました。回復の速さもそうですが、傷口がきれいさっぱりなくなっています。直接関わっていなければ致命傷を受けたなど信じられないほどに。」

 

奇怪な鳴き声を無視して簡単な検査を終える。前回のもそうだが、あれだけの怪我を負えば一生にわたる傷跡が残るはずなのだ。それこそ3年間の間に受けたであろう拷問や手術痕は未だに残っているし、どうして消えているのかサエカ自身もわからなかった。

強いて言えば治療環境と腕の違いなどはあるだろうが、床でカサカサと這い寄ってくる生物(セイア)には凡その見当がついているのだった。

 

 

「……恐らく神秘によるものだろう。病室でサエカが言っていたよ。”治すのに神秘が足りない”、と。それはそうとしてそろそろ起こしてくれないかい?私の今の筋力では自身の体重も支えられないんだ。」

 

「あら……セイア様、てっきり自発的にリハビリしているものかと思っていましたが、違ったのですか。日ごろから適度な運動を心掛けないから回復が遅いのです。……どうですか?これを機に軽いランニングでも。」

 

「そ、そのうちね、そのうち……。」

 

 

そうしてセイアはミネに抱き起され、車椅子に戻される。おでこが赤くなっていたが、再度、今度はゆっくり車椅子を押しながら近寄ってきた。

 

「ありがとう、ミネ。手間をかけたね。そしてサエカ。無事でよかった……本当に死んでしまったんじゃないかと気が気ではなかったよ……私の側から2度もいなくならないでおくれ……。」

 

セイアは近づくと、ゆっくりとサエカに抱き着く。サエカはよくわからないまま子供のように泣きじゃくるセイアを優しく抱擁し、あやす。これではどちらが姉なのか分かったものではない光景なのだが、事情を知るミネは仕方ない事なのかもしれないと思うことにして口を開くことはなかった。

 

 

「えっと、ごめんなさい?あー、えっと、すいません。ここが何処か聞いてもいいですか?それと助けてくれたのは貴女……でいいんですよね。遅くなりましたが、ありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか……。」

 

「礼には及びません。それが私の職務であり、信念に基づいた行動でしたから。」

「私はトリニティ総合学園3年、蒼森ミネと申します。救護騎士団の団長を務めております。」

 

命の恩人は最もトリニティで医学に通じた人物だった。その表情は自信と信念にあふれており、基本あまり自信のないサエカには羨ましく、そして眩しく見えた。

 

 

「それと場所ですが、ここはトリニティ校舎から一番近い私のセーフハウスです。緊急事態だった故に、一番近い場所を選択しましたが、後ほどもっと秘匿性の高いセーフハウスに移動してもらいます。」

 

「移動、ですか?」

 

「はい。お二人は現在公式では行方不明、恐らく死亡したものとして扱われています。これを利用して、敵対勢力が鎮圧されるまでの間、雲隠れしてもらいます。まさか死んだ人間をもう一度殺そうなどと考えたりはしないでしょう。」

 

とんでもないことを言われ、サエカは現状のヤバさを思い知らされる。確かに深夜にティーパーティーホストの部屋を直接襲撃して、あまつさえ例の爆弾で殺人未遂までやってのけたのだ。

ミネがいなければ間違いなく”未遂”では済まないそれを、もう一度貰いたいかと言われれば否である。だが、サエカにも身分や仕事があり、尚且つ隠れているのは性に合わないという厄介な性格をしていた。

 

 

「ええ!?誰も知らないんですか!?せ、先生は?というより今、何日ですか!?」

 

「私たち以外に生存を知っているものはいません。誰が敵かわかりませんから。それと今は貴女が昏睡状態に陥ってから丁度10日です。」

 

「10日ぁ!?や、ヤバい、仕事が……。」

 

それだけの期間行方不明になったとすれば、大規模な捜索が行われていてもおかしくはない。サエカとしてはあまりそういった迷惑をかけるのは好きではなく、すぐにでも戻りたいが、ミネの言うこともまた理解でき、困惑する。

 

 

「……非常に言いづらいのですが、恐らくサエカさんは大丈夫である可能性があります。」

 

神妙な顔で慌てふためくサエカに事情を説明しだすミネ。その時抱き着いているセイアの抱きしめる力が強くなった気がしたが、気にせず説明を聞く。

 

 

「大丈夫、とは?」

 

「はい。おそらくですが今回の犯行はサエカさんを狙ったものではなく、ホストであるセイア様を狙ったものかと。」

 

「……根拠は?」

 

「一つ、ホストであるセイア様の部屋にサエカさんが居ることを知っているのは、ナギサ様とごくわずかな警備の者のみ。そこから警備の穴を突き、目的地まで来るよう計画を立てることは不可能であり、サエカさんを襲撃するだけならわざわざ警備の厚いタイミングで襲撃する意味は薄いかと。」

 

「二つ、戦闘力が高いと噂されるサエカさんを一方的に倒し、奥にいたセイア様を襲わなかった理由が不明です。わざわざ警備に見つからず隠密行動を心掛けていたのに、目撃した可能性が高いセイア様を口封じしなかった理由が分かりません。」

 

「三つ、それに伴い薄暗い中でセイア様とサエカさんの区別ができなかったと予想。聞けばサエカさんは公的にはミレニアムにいることになっています。目標地点にセイア様と瓜二つの少女がいてそれを目標と誤認したと思われます。」

 

「捕捉するとセイア様の容姿はある程度把握していても、妹の存在、またその動向を把握できておらず、警備に詳しいものの犯行。内部犯と外部犯の組織的犯行である、そう私は考え、公的な役職にいるサエカさんが戻らなければ、内部犯はどこかでセイア様とサエカさん両方が行方不明なのを知るでしょう。そうなってくると、外部犯と情報を共有し、”本当に殺害で来たのか”という疑問が出てきます。これは避けたいのです。」

 

「つまり、私には何食わぬ顔で日常に戻り、襲撃犯にはターゲットの排除に成功したと誤認させ、安全を手に入れる……この認識で合っていますか?」

 

「はい。本当は別の手段があればよいのですが……患者をまた危険な場所に放り出すとは、救護を志すものとして不甲斐ない限りです……。」

 

 

ミネは己の力が足りないと嘆き、悔しそうに俯いてしまう。だがサエカとしては流石に悪意ある2度目ともなれば怒るというもので、安全なら安全でも構わないし、襲ってくるなら襲ってくるで次はタダではおかないと静かに闘志を燃やしていた。

そこで静かに泣いていたセイアが待ったをかける。

 

 

「……なぁ、やっぱりやめよう。私の身が危険なのはいい。だがこれ以上サエカに危ない目にあってほしくないんだ……考えようによってはサエカを囮に使うような最低な行いじゃないか……私はホストとして、姉として許容できない。」

 

涙を流しながらもその目には強い感情が宿っており、本当に自分の命など惜しくはないと本気で思っている顔つきをしていた。

だけどね、セイアさん。流れ弾でもね、私に当たってるんだよ。つまりこれは私の喧嘩だ。

 

 

「いいえ、大丈夫です。今回は後れを取りましたが、次はありません。”シャーレの決戦兵器”に喧嘩を売ったことを後悔させてやります。一発だけなら誤射ですが2度もとなれば。」

「それに、そうすることで安全が得られるのならば迷わずそうするべきです。誰が信用できるのか、誰が敵で誰が味方なのか。”裏切者”を見つけて見せますよ。」

 

「サエカ………。」

 

「本来であれば私は止めなければなりません。ですが今はやむ負えない状況として、サエカさん。貴女の意思を尊重します。私の信念に反することではありますが、どうか、お願いします。」

 

 

「任されました。動くのは早い方がいいでしょうし、早速動きますか。手始めに―――」

 

 

「お腹がすきました!!!ご飯ください!!!!」

 

 

もう我慢ならんと叫んだサエカの絶叫に二人は苦笑いするしかなかったのだった。

 

 

 

 

さて、セーフハウスから出てきたはいいがどうしたものかな。私の個人的な目的のために武装は回収しておきたいけど、どこに保管されているのか。

間違いなくティーパーティーのどこかだよなぁ……お通夜状態のところに故人と思われていた人物がいきなり顔を出す。気まずいにもほどがあるって!

 

それにセイアさんと別に、私が行方不明になった理由もでっち上げなければならない。

問題は山済みであった。だが理由に関しては、セーフハウスを出てくる前に考えてはある。少し理由としては矛盾がはらむけど、姉が死んだ状態であれば無理に追及はされないだろうし、というか追及しないで。この手の舌戦は弱いのよ!

 

服装はボロボロになった連邦生徒会の服をそのまま着てきた。実に破廉恥で恥ずかしいけど仕方ない。その重い足取りのままティーパーティーのテラスへと足を進めた。

 

 


 

 

sideナギサ

 

ああ、胃が痛い。良い紅茶を入れている筈なのに、いつものように香りを楽しむことも、その贅沢な味わいもなく、ただ作業的に気を紛らわすためだけにカップに口を付ける。

本来ならばこのような風情のない雑な味わい方は好きではないが、飲んでないとやっていられないという気分だったのだ。

 

「はぁ……セイアさんもこのような気持だったのでしょうか……。」

 

脳裏に浮かぶのは妹が見つからず、荒れに荒れていた友人の姿。すべてを諦め、一人にしてしまえば消えてなくなりそうなほど脆く、儚いその姿に何度心が締め付けられた事か。

しかも今度は妹のサエカも同時に行方不明と来た。ダメージを負ったのがどちらかは分からないが、ロクでもない事にはナギサにとって変わらなかった。

そしてもしセイアが狙われていた場合。明らかにホストだと知っての犯行。警備をものともせずやり遂げたその実力。

次に狙われるのは自分か、それともミカか。その恐怖心が思考の鈍化に拍車をかけていた。

 

「神様……彼女が一体何をしたというのですか……サエカさんとて、私の幼い時からの友人……何故奪うのでしょう……。何故…何故…。」

 

絶望に打ちひしがれながらも、その責務を果たすべくまるで回らない頭を回し、ホストの仕事をこなしていく。

そんな時、ナギサにとって最悪だけは避ける報告が上がって―――いや、来たのだった。

 

 

コンコン

 

「……どうぞ。」

 

「お仕事中失礼します、ナギサ様。あの……シャーレのサエカ様がいらっしゃいましたが、いかがしましょう……?」

 

「……は?」

 

聞き間違いかと思った。だが報告を上げた生徒は二人が現在行方不明であり、その情報の意味をよく知る腹心的な生徒。ナギサ同様、混乱しているようだがきっと報告に嘘はない。

はしたなく椅子を倒しながら、勢いよく立ち上がる。

 

 

「い、今すぐ通してください!」

 

「は、はいっ!」

 

そうして待つこと1分強。まだかまだかと焦りが先行して、部屋の中を歩き回る。ナギサの人生においてここまで時間が長く感じたことはなかった。

 

 

「ただいま戻りました。そしてお騒がせしました……。」

 

「サエカさんっ!!」

 

 

現れたのはボロボロで見るに絶えず、血まみれの服で現れたナギサの友人、サエカだった。

だが汚れなど関係ないと、感極まったナギサはすぐに飛びつき、その小さくあどけない友人を抱きしめる。

 

 

「うぉぉ!?な、なんですかぁ!?あ、いい匂い……。」

 

サエカも驚いて変なことを言っているがナギサにとっては気にすることではなく、今は生きて帰ってきたことを喜び涙が出そうになるが、今はその時ではないとぐっとこらえる。

 

 

「無事で…良かったっ……!」

 

「お、落ち着いてください!とりあえず事情の説明と情報の共有を!」

 

「そう……ですよね…すいません、取り乱しました。説明をお願いできますか…?」

 

 

深く深呼吸をして努めて冷静になる。油断すればすぐにでも涙腺が決壊しそうになるが、意地と気合でその衝動をねじ伏せる。そうしてナギサはサエカの話を、今回の事件のあらましを知る事が出来た。

 

 

 

 

 

「つまりサエカさんは逃走した犯人を追いかけたものの、あと一歩及ばず、逃げられてしまった…そうゆうことですか?」

 

「……力及ばず申し訳ないです…。」

 

「いえ……大丈夫です。こちらこそ巻き込んでしまい、なんと言ったらよいか…。」

 

 

サエカの説明では、深夜に襲撃を受け、中庭に落下。その後犯人からの追撃を受け戦闘へと発展したが、時間をかけることを嫌った犯人が逃走を開始したため、追跡を開始。不眠不休で追いかけたがそれすら罠であり、誘い込まれた場所で袋叩きに合うもなんとか撤退に成功。

回復と移動に時間がとられ帰還が遅くなってしまったという。

 

この話を聞いてナギサの顔に暗い影を落としてしまう。この話の通りであれば、サエカはセイアの事を知らないのだ。サエカがボロボロになりながらも生還しているということは、現場の血痕はセイアのものであるということが確定してしまい、そしてその生存が絶望的であると妹であるサエカに伝えなければならない。

幼い友人を傷つけてしまうのを分かっていながらも言わないわけにはいかず、ナギサの感情はまたどん底まで落とされてしまっていたのだった。

 

 

「サエカさん……落ち着いて聞いてください……あなたの姉…セイアさんは―――」

 

ああ、言いたくない。なぜこんな惨いことを。

 

「現在行方不明で、おそらく―――亡くなっています。」

 

きっと恐らく取り乱すだろう。それは仕方のないことだ。唯一の家族が突然亡くなったと言われれば私だって泣きじゃくり、部屋にこもるだろう。それが13歳の子供だとすればなおさら。

だが予想に反してサエカの反応がない。不思議に思い、顔を上げてサエカの表情を窺うと―――なんとサエカは少し申しわけなさそうにしていたが、ほとんど無表情だったのだ。

その光景に一瞬不気味さを感じたナギサであったが、幼子に姉の訃報をいきなり叩きつけた所で飲み込むまで時間がかかるだろうと、自分の浅はかさを呪った。

 

 

「そう―――でしたか……。」

 

「すいません、配慮が足りませんでした……まずは休息してください。部屋を用意しておきますので……。」

 

重い空気の中どのように声を掛けたらよいかわからず、情緒を正すためにも休息を提案する。

だがサエカの帰還を待ちわびたのは、ナギサだけではなかったようで、扉が勢いよく開く。

 

 

「サエカちゃん……!う、うわぁぁぁ!ごめんさいごめんなさい!!」

 

その姿を見るなり人目も憚らず号泣しだしたのは、ここ最近口数がとても少なくなったミカだった。ごめんなさい、ごめんなさいと連呼しながら、私がしたのと同じようにその小さい身体を抱きしめる。

 

 

「うぐおぉぉぉおおああああ……!?く゛る゛し゛い゛!しぬしぬしぬ!!!」

 

前言撤回。ナギサと同じようにではなく、その有り余るパワーでの全力抱擁だった。

ナギサやミカは知らない事であったが、サエカはフィジカルこそあれど、それに本来付随する耐久力がまるでない。つまりサエカは全力で抵抗しているものの、振り払うわけにもいかないので圧倒的な圧力で圧縮され、冗談抜きで死にそうになっていた。

 

 

「おぁ……(ガクリ」

 

「あれ!?サエカちゃん!?サエカちゃん!?しっかりしてー!!??」

 

 

こうしてサエカは半日と立たずまた意識を失うのであった。

*1
目糞鼻糞を笑う




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