Guten Tag! 休む暇もなくシャーレから次の現場へ駆り出されている暇なしフォックスだよ。
今はどこで何をしているかというと―――
「もういや!こんなことやってらんない!つまんない!!」
「それもこれも全部先生のせい!!」
”えぇ!?そんなぁ!?”
はい。超嫌々ながらも渋々に何とか我慢して、飲み込んでぶー垂れながらトリニティにトンボ返りしてお馬鹿さんたちの相手をしております。
何を思ったのかナギサさん、シャーレに落第しそうな学力よわよわちゃんを助けてやってほしい、なんて依頼してきた。確かに強権を持つシャーレとは言えど、あくまでも本業は先生だ。教鞭をとることに否はないと思う。けど、まさかこんなところでアビドスでの協力依頼の借りを返す、なんてことになるとは思わなかった。折角優先的にシャーレにお願いできる権利を手に入れたのに、教鞭をとってほしい、なんてどれだけナギサさんは優しいんだろ。上に立つ人の器は違うね、聖母に見えちゃった。
てっきりシャーレの強権を使って無茶振りしてくるんじゃないかな、なんて思ってた私の人としての器の小ささを殴りたい。
個人的にはトリニティに先生を置いておきたくはないのだけど、見ようによればシャーレよりは安全なのかも、と思わなくもない。けど実際襲撃されたのは警備の一番厚い場所だし、やっぱトリニティは危ないのかも。ああ、ミレニアムが恋しい……。
「もう、だめですよコハルちゃん。先生が困っていますよ♡」
「半ば自業自得なのですから、ここは先生に
「なんか卑猥に聞こえるんだけど!そうゆうのはダメッ!」
「そ、それに私は正義実現委員会の一員だから!授業に出られないこともあって……それで仕方ないの!」
この前エリートって言ってなかったっけ??頭ポヤポヤしてたから記憶違いかな……。
「それは他の正義実現委員会の生徒も条件は同じだ。でも他のメンバーはいない。」
「うっ……。」
「それはつまりコハルちゃんが単に、おバカさんだからですよ、ということですか?」
「まぁそうともいう。だけど仕方ないものは仕方ない、人生は往々にして虚しいものだ。」
「確かに……人生は辛く苦しいものですからね。仕方ないのかもしれません。」
「あぁもう!!うるさい、うるさーい!私が馬鹿だって言うなら同じような理由で集められてる、あんたたちも一緒じゃん!バーカバーカ!!!」
「あ、あはは……ちょっと落ち着いて……。」
「寧ろなんであんたたちは落ち着いていられるのよ!みんな仲良く退学になるっていう状況で!」
あぁ、そっか。コハルさんがこんなに取り乱しているのは、失敗したら退学になるかもっていう心理的な負担だったのね。首にリーチがかかった社会人的な感覚かな?ぶっちゃけ私には学生生活の記憶がないのでその辺分からないけど。
「大丈夫ですよコハルさん。そうならないために私たちが居ますので、泥船に乗ったつもりで安心してください。」
「うぅ……さ、サエカがそう言うなら……。」
「え!?いやいや、泥船はダメですよコハルちゃん!?騙されないでください!?」
"そうだよ、コハル。その退学を避けるために、ナギサはこの場を用意してくれたんだ。寧ろどん底から這い上がってきたって物語の主人公みたいでカッコいいから頑張ってみよう?そしてサエカはシレっと絶望してる人をおちょくらない。”
「はぁーい。」
こうして何とかまとめ上げ、試験勉強をする。人数こそ少ないが、一人一人の癖が半端なく強い。本当に大丈夫かな……心配すぎて夜しか眠れない。頼むぜ先生。
―――遡ること数日前。
「…………あっ。」
”ん?あぁ、メールだね。差出人は……トリニティ総合学園ホスト代行、桐藤ナギサ……。”
”トリニティからメールが来てるけど、サエカは何か聞いていたりする?”
「………トリニティ?知らない学園ですね……。」
”こらこら現実逃避しない…。ほんとトリニティ嫌いだね……仕方ないと言えば仕方ないかもだけど、一応メールは見てみよう?”
サエカの眉間に少女にはあるまじき皺が深々と刻まれるのを無視して、先生はそのメッセージを読み上げる。サエカとしては未読無視したかったところだが、先生が勝手に開封してしまったことでそれは叶わぬものとなった。
”うん……うん……あらまぁ。”
「どうせ私も巻き込まれるのでしょう……最悪だぁ……。」
”いや、多分サエカの考えていることとは違うよ。拒否を許さないって言うのは何となく感じる文章だけど、依頼内容自体は至極真っ当で優しさすら感じるものだね。”
「優しさ?ですか?トリニティに?明日はグレネードの雨でも降るんですかね?」
”いやな天気だなぁ……話でしか聞かないけどそんなにトリニティはヤバいの?”
「治安はいいでしょう。物理的な危険、という意味であればミレニアムより安全かもしれません。ですが、どこよりも精神的な治安は悪いです。陰湿迂遠で皮肉の応酬。笑顔で毒を吐き、集団リンチするお嬢様(笑)の集団ですよ。」
あの自分さえよければというスタンス。
私はホストであるセイアさんの妹であり、連邦生徒会所属ということもあって直接の被害には合ってはいない。だけど、どこからか常に聞こえるんだよね、妬みや僻み、あることないこと吹聴して、何の利益もないはずなのに蹴落としてやろうという、理解に苦しむ言動。
正直個人的にはゲヘナの方が過ごしやすい。
”そっかぁ……でもま、そうゆうのも含めて先生として腕がなるよね。もしサエカも悲しいと思ったり辛かったら先生に言ってね。何とかするから。”
「……はぁ。まったく、そうゆうところですよ。ま、行けば分かりますよ。で、その胡散臭そうな依頼内容は何ですか?」
”学力が足りなくて落第になりそうな生徒に勉強を教えてほしい。だってさ。”
「………………は?」
「こんにちは、先生。今日は忙しい中来てくださり嬉しく思います。」
「私はトリニティ総合学園、テーパーティーホスト代行、桐藤ナギサと申します。」
「ヤッホー先生!そしてまた会えてうれしいよサエカちゃん!この前はごめんね?」
「私はナギちゃんと同じくティーパーティーの聖園ミカだよ!よろしくね、先生!」
渋々と先生について歩き、案内されたのはいつものテラス。そこにはいつも通りの紅茶やアフタヌーンティースタンド、笑顔の二人が座っていた。
”うん、よろしくね!”
「折角トリニティにお越しくださったのです。まずは紅茶でもいかがですか?」
「うーん、何かサッパリしたのがいいです。」
「ではニルギリのレモンで。先生は?」
”じゃあせっかくだし、貰おうかな?でも、私は紅茶に関して詳しくないから、飲みやすいものでもあると嬉しいかな?”
「そうですね……ではニルギリ同様に時期ではありませんが、ディンブラのストレートを。」
こうして注文を聞き終えたナギサさんは自ら紅茶を準備する。学校のトップに準備させるなど何も知らない生徒からすれば恐縮ものだけど、私は知っている。この人は飲むのも準備するのも、何から何まで好きらしい。こだわりの部分だからこそ、適当にお湯をぶち込んではい終わり、では気持ち悪いんだと思う。
慣れた動きで準備が終わると、私たちの前に出される香りが良い紅茶。高貴な人にこういった行動されると何か目覚めちゃいそうだよね、へっへっへ、くるしゅーない。
「こうしてトリニティの外の人間がこのテラスに招待されたのは、先生が初めてです。本来はトリニティの生徒ですら簡単には入れないような場所でして。」
「ナギちゃんちょっといやらしくなーい?なんか恩着せがましいっていうか!って言うかサエカちゃんが先だから初めてでは無くない?」
「……いいえ、サエカさんは現在もトリニティの中等部に籍を残しています。なので外部の人間ではありませんよ。」
「あっ、たしかに!なんか連邦生徒会のイメージ強かったから忘れちゃってた!ごめんね、サエカちゃん!」
私にまだ籍あったんだ。出席日数足りないからダメかと思ってたよ。
「では早速ですが、本題に入りましょう。」
「わお、ナギちゃんいきなりだね!?もうちょっと場を和ませるジョークとかそうゆうアイスブレイクとか……。」
「…………………。」
おおこわ。ナギサさんがミカさんへガンを飛ばしている。大抵の生徒はあの眼光に睨まれれば蛇に睨まれた蛙、竦み上がってしまうに違いないね。
けど流石は幼馴染のミカさん。慣れているのか気が付いていないのか分からないけど、凪として受け流している。ナギちゃんだけに。*1
”あなた達がトリニティの生徒会長って事でいいのかな?”
「ほら、これが大人の話術!空気を読んで自然に話題を作ってくれたよ!」
「………はい、おっしゃる通り、私達がここ、トリニティの生徒会長たちです。」
「あれ?なんか無視された?あれー?」
ナギサさんが生徒会長
この辺は歴史に興味のある人間でないと正直つまらないと思う。
なので私は無視されて涙目のミカさんに構うことなく、アフタヌーンティースタンドの下からサンドイッチと紅茶を貪る。うーん、このサンドイッチ、ナギサさんの手作りだったりするんだろうか?ロールケーキ同様ふわふわでおいしい。美味である。
「うぅ、ナギちゃんもサエカちゃんも目を合わせてくれない……嫌がらせだぁ……ひどくない?私たち小さいころからの幼馴染なのに……こんなひどい扱いを受けたのは……割とつい最近受けたような気がする……。」
遂にミカさんに泣きが入る。先生はその様子に少しオロオロしてるけど、なんか最近ここでのやり取りに慣れてきた私には、なんというか既定路線のお家芸に感じて「また始まった」くらいしか思わない。
だけどこの茶会にそれなりに気合を入れていたのか、普段なら無視するナギサさんの額にも青筋が走った。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「ああもう、うるさいですね!?」
「「ひぇっ……。」」
「今、私が説明しているんですよ!?それなのにさっきから横でブツブツブツブツと!!」
「邪魔をするのなら、そのよく動く口に……。」
「ロールケーキをぶち込みますよ!!??」
ひぇ……ナギサさんがついにキレた。怒ったのは初めて見たけど迫力がすごい。
今回はあくまでミカさんに向いたものだったので、私は耐えられたけど、当事者だったら耐えられなかった。妹だし。
けど内心ビビってしまったのは確かなので、ケーキに伸ばした手をそっとひっこめた。あれだ、かーちゃんが怒鳴り散らしてたらなんか、大人しくなっちゃう奴。や、しらんけど。母親とか覚えてないし。
「「「”…………………。”」」」
突然の大声に場が静まり返る。
「……失礼しました。つい大声をあげてしまいました。」
”む、無理しないでね?”
「いやぁ、こわいこわい。」
「ではそろそろ本題に入るとしましょう。」
「先生……補習授業部の顧問になっていただけませんか?」
それは事前に言っていた内容と相違ないものだった。「部」と名がついているものの、実態は顧問というより、担任のそれ。まさに「先生」にうってつけの依頼と言えた。
「トリニティは昔から「文武両道」を目標に掲げる歴史と伝統を重んじる校風です。それなのにこの大切な時期に成績のよろしくない、もっとストレートに言うならば落第寸前の生徒が複数人もいまして。」
「私たちもなんとかしてあげたいんだけど、いまは「エデン条約」の件でバタバタしてねー。残念だけど人手も時間も足りなくて。けどそこで思いついたのがシャーレの先生ってわけ!この間の借りを返すと思って何とか
「それにほら、先生って先を生きる者、っても読めるでしょ?だから、迷える子たちに生きる指針として手を差し伸べてほしいんだ。色んな所で噂に聞く活躍を見せる先生なら、きっと実績と尊敬でもって生徒たちが付いてきてくれるって信じてるから!」
「その噂では尊敬という言葉が合うか合わないか……大分意見が割れているという話を耳にしますが、きっとそれは先生の邪魔をしたい人たちが居るのでしょう。」
”そ、そうだね……まったく、かわいいいたずらだよね、はっはっは。”
うぉ、マグロ並みに落ち着きなく目が泳いでいる!先生どにょ……それはやましいことがあると自白しているものでは……。
「とにかく、今ちょっと私たちは忙しくてね。お願いできないかな?」
”もちろん。助けが必要な子がいれば誰であろうと助ける。それが私の職務であり、モットーだから!もちろん君たちも何か困ったことがあれば、何でも言っていいんだよ。君たちも等しく可愛い私の生徒だからね!”
少々面を食らっている二人だけど、これが先生の素なんだよね。いつも不意打ちで来るけど慣れなきゃやっていられない。慣れ……慣れ……。うう。
こうして補習授業部のメンバーリストを貰い、成績の振るわない生徒に会いに行くのだった。
―――最後まで誰一人としてテラスの中央、正面に置かれた空席に言及することなく。
廊下を歩くこと数分。先生は名簿を見てから何とも言えない表情をしており、その足取りも気持ち少し重そうに見えた。
聞けば既知の生徒が名簿に載っており、どうリアクションしてよいのか分からないのだそう。
「それで、先生。今向かっているのはその知っている生徒さん、でいいんですよね?」
”うん、そうなんだけど、なんて言うか複雑だなぁ。もし、この落第や単位って言うのに私たちが関わっていないとも言い切れないから、もしそうなら申し訳ないなって……。”
はて?トリニティに先生とかかわりのある生徒なんていただろうか?
疑問を抱くサエカをよそに、先生はあらかじめ指定されていた教室を開く。しかしそこにいたのは一人だけで、オドオドとバツが悪いような気の弱そうな生徒がいた。
「あ、あはは……こんにちは、先生……サエカちゃんもお久しぶりです……。」
”や、やぁヒフミ。元気そうで何よりだよ。”
?私にも面識がある?昔のサエカだろうか?いや……この独特な声はどこかで覚えがある。
何処だっけ?ううむ、思い出せない。
「いえ、あの、その。これには深い訳がありまして……。」
”深い訳?もし事情があるのなら代わりにナギサに説明してくるよ。”
「あっ、えっと……あぅぅ…事情、というのはですね……ペロロ様のゲリラ公演に参加するために、テストをその。サボってしまいまして。」
ギルティ。ペロロサマとか言うのはよくわからないけど、テストをサボる理由としては弱すぎない?推しのライブのために大事なテストを捨てるとは、この人結構なオタクでアウトローな人だな?
けどそれ自体は悪いとは思わない。生きるために必要な趣味の熱量は人それぞれだし、こうした可愛いやらかしも、学生生活を彩る青春の一ページなのだから。
では何が問題かというと、恐らくこの人、常習犯だ。雰囲気から決して初犯でないと私の勘が言っている。というか一回だけで退学の危機、なんて事態にはならないだろ常考。
”……………oh”
「そ、そんな冷たい目で見ないでください……!ゲリラ公演と言ってもちゃんと予定は確認していましたし、不備はなかったはずなんです!それなのに試験日が
”まぁやってしまったものは仕方ないよね。気持ちを切り替えて頑張ろう!”
「はい……そうですよね……が、がんばります!」
「それとナギサ様からですが、今回の補習授業部の活動、先生のサポートを頼まれまして……。」
サポート?補佐官である私が居ながら、この根っこがヤバそうなアウトローの生徒に先生のサポートを頼むとは、私信用されてないのかしらん……?
「……それだけ大変で癖のある生徒さんが多い、ということでしょうか……?」
”そうかもしれないね……あっ、でもナギサもきっとサエカを信用してないとか、荷が重いとかそうゆうことを考えてじゃなく、友人としてできるだけ休んでほしいっていう気づかいだと思うから、考えすぎないようにね?”
「そ、そうですよ!ナギサ様もミカ様も、
入院してる、か。確かに真実は当事者である私を含めた3人しか知らない。
本当のごく一部には状況としては死亡が濃厚、とされているがトリニティのメンツ的にも、一般生徒がパニックを起こさないためにもという配慮で、現在入院中という扱いになっている。
実際はおそらく暇だ暇だとぼやきながら、本でも読んでゴロゴロしているのだろうけども。
「大丈夫ですよ、理解しているつもりです。それに先生を助ける人は何人いてもいいですから。」
「そう言ってもらえると助かります……。」
ん?待てよ?さっきの言い方だとこのヒフミさんとやらは、滅多に一般生徒が接触できない分派のトップたちだけでなく、ホストであるセイアさんとも面識がある?
ティーパーティーのメンバーの制服というわけでもなく、恐らく親しいであろうその口ぶり……
あっ、思い出した。この人、アビドス戦争の時、トリニティの砲兵隊を率いていた人だ。
通信で声を聴いただけだったからすぐ思い出せなかったけど、確かにあの時からアウトローな部分はあった。騙されたことを理解しながらも、構わず任務の続行をした人。
名前は確か―――
「―――ファウストさん。」
「えぇ!?なんでいきなりその名前を!?や、やっぱり少し不服なんですか!?」
どうやら記憶違いなどではなく、ビンゴだったらしい。思った以上に動揺しているけど、先生も気まずそうなのはどうしてだろう?
「あ、いえ、大丈夫です。お気になさらず。」
「絶対不満ありますよね!?サエカちゃんが大丈夫でも、私が大丈夫じゃないんですっ!?」
「そ、そんなに取り乱さなくても……つい言葉に出てしまっただけで深い意味なんてありませんから……それより今日中にメンバーの顔合わせをするんですよね?早く見つけないと下校してしまいます。」
「う、うぅ……そ、それは確かにそうなんですけど……!」
こうして私達3人はおバカさんたち、もとい残りの補習授業部の生徒たちを捕まえに出発するのだった。
しばらくは平和。たぶん。