シャーレの決戦兵器   作:わんぱくフォックスですまない

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主人公がサボっている間の先生視点。


第46.5話 えっ、模擬試験?

side先生

 

”サエカ……。”

 

 

揺れる車の中、丁寧に寝かされた少女を見て、私は思わず彼女の名前をこぼしてしまう。

その奇麗な顔を見て、私は狐に化かされてしまったのではないか。疲れているのは私なのではないか。そう思わずにはいられなかった。

()()はいったい何だったのか。凡そ少女に、生徒に対して抱くことなどあってはならない感情。それは恐怖だった。一歩間違えば精神をおかしくしてしまいそうなほどの恐怖。

私は今や相棒と言っても過言ではない少女、サエカに対してその感情をあの時確かに覚えてしまっていた。

 

客観的に見ればそれも無理はないと思う。首から上がなくても言葉を発し、意思を持って動き続ける胴体を見たらだれだって同じことを思うだろう。

だが私とて長く生きてはいない。多少の動揺はすれど、本来ならば生徒に対し先生である私が慄然とすることはない。

だが、あのような本能的な恐怖。もとい正気が削られるような本能からの警鐘。それがどうしても理解できず、こびり付いて離れなかった。

きっと夢だったのではないか。そう思いたくても首周りと脇腹に広がった白い服にはよく目立つ赤い模様がその淡い希望を否定する。

 

 

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

”ああ、うん。大丈夫だよ。ちょっと責任感じてたところ。”

 

「あまり無理はしないでください。お疲れのところ手伝ってもらった身としては、どの口が言うんだ、というところかもしれませんが……。」

 

”あ、ごめん。ハスミを責めたわけじゃないんだ。ちょっと配慮が足りなかったね。”

 

 

だめだ、だめだ。思考の大半を先ほどの事で埋め尽くされている。お陰で生徒に気を使わせてしまった。こんな状態では補習授業部に、起きたサエカに合わせる顔がない。

サエカが倒れた理由の説明だってうまく説明できた自信がない。生徒に嘘をつくのは心苦しいが、まさか首無し状態から謎の力で復活しました。なんて説明できるはずもなく、交戦後、撃退に成功したが疲労ゆえか意識喪失。血は相手の返り血でありサエカ自身は無事である、と説明したがどうだろうか。

……実際、生徒が強い力を使った後は意識を失いことがあるらしく、一応は信じてもらったがもしかしたら何か気を使わせてしまったかもしれない。

 

 

「到着しました。時間も時間ですし、危険があるかもしれないので先生は正義実現委員会の仮眠室を今日はお使いください。日が昇り次第、補習授業部が利用している建物へ送らせていただきます。」

 

”ありがとう。でも仮眠室は遠慮しておくね。私は待合室のソファーを借りるとするよ。”

 

「先生がそれでよいなら強くは言いませんが……そういったところから疲れは溜まるのです、とだけ言わせていただきますね。それとサエカさんですが、救護騎士団に任せようかと思います。」

 

”あはは、返す言葉がないよ。気を付けるね。それとサエカの事はお願い。”

 

「任されました。当直の子たちに話は通していますので、早めにお休みになってください。」

 

”うん。夜遅くにごめんね、ありがとう。”

 

 

その後ハスミと別れて、待合室のソファーで横になったが寝付くことはできなかった。

 

 

 

 

 

翌朝。と言っても戻ってきたのが早朝に近い時間だったので厳密には数時間後。

私はサエカの様子を見た後に補習授業部の合宿場に戻ってきていた。

 

 

 

「あ、おはようございます先生。」

 

”おはよう、ヒフミ。皆はもう起きてるのかな?”

 

「はい。全員起きてます。特にアズサちゃんがやる気いっぱいで。」

 

”それは良かった。じゃあ模擬試験の前に朝ごはんでも食べようか。”

 

「はいっ!」

 

 

朝ごはん、なんて言ったがこんな所でもサエカのいない弊害が起きる。

ここ最近はすべてサエカが用意していたおかげで、食べ物に困ることはなかった。キヴォトスに来てから何度か自炊はしているが、所詮は独身男性の作る物。とても他人に振舞えるようなものは作れなかった。

なので申し訳ないが、朝ごはんはトーストや目玉焼きなどの簡単なもので済ませる。

 

 

「なんだか懐かしい味に感じますね。」

 

「最近、サエカちゃんの作る愛の籠った料理に慣れてしまいましたから、仕方ありませんね。」

 

「確かにサエカの作るごはんはとてもおいしいけど、私はみんなと一緒に食べるこれも好きだ。」

 

「まぁ、サエカだってあんなに頑張ってるんだし、疲れちゃうのも仕方ないよね。」

 

 

補習授業部の皆にも、あまり心配しないようにサエカは疲労で体調を崩し、少々の間お休みと伝えてある。特に疑問を持つこともなく、素直に受け入れてくれたが、やはり嘘をつくというのは慣れない。顔に出てないといいけど……。

 

 

 

”よし、じゃあ模擬試験をしようか。”

 

「予習と復習はしてきた。今度こそ、モモフレンズを手に入れて見せる。」

 

「わ、私も負けてないんだから!」

 

”やる気十分だね。模擬ではあるけど、明後日の2次試験前最後の模擬だから頑張っていこう。じゃあ……始め!”

 

 

開始の合図とともにペンを走らせる4人。勉強の回もあってか、前回よりもスムーズに感じる。

これは合格も近いかな?もし全員で合格出来たら、私からも何かご褒美を用意してもいいかもしれないね。頑張った子は報われなきゃ。

なんて考えながらテスト用紙と格闘と格闘してる生徒を眺めていると、通信が入っていることに気が付く。

 

 

”みんなごめんね、少し電話しに席を外すけど、引き続き頑張ってね。”

 

 

一言だけ断ってから教室をあとにして誰もいないような場所に出る。通信の相手は―――。

 

 

『おはようございます、先生。ミレニアムが誇る超天才清楚系病弱美少女ハッカーであり、「全知」の学位を持つ眉目秀麗な乙女であり、そしてミレニアムに咲く一輪の高嶺の花である「特異現象捜査部」部長、明星ヒマリです。キッチンの三角コーナーのような女と同時に話をしたいというものですから、正気を疑いましたが……まぁいいでしょう。』

 

”急にごめんね。少し聞いてみたいことがあって……。”

 

『かまわないわ。シャーレの先生……私は貴方を評価している。そんな貴方が私たちに聞きたいこととなれば、重要、または機密に関すること。傍受対策は万全だから話してちょうだい。』

 

 

そう、通信相手はミレニアムにいる天才2人、セミナー会長の調月リオと特異現象捜査部部長の明星ヒマリだった。本来なら滅多に連絡の取れない二人だが、どうやら一定の信用はあるらしく、すぐに対応してくれた。その信頼には嬉しく思う反面、また誤魔化して話をしなければならないという罪悪感が、私の口を重くする。

 

 

”うん、ありがとう。本来なら君たちに聞く事じゃないんだけど、頼れるのが君たち二人しかいなくてね。もし難しかったら無理に答えなくてもいいからね。”

 

『このミレニアムの超天才清楚系病弱美少女ハッカーに、答えられるのことなどありません。どうぞ何でもお聞きになってください。報酬はサエカちゃんの寝顔写真3枚で手を打ちましょう!』

 

『この間、人のプライバシーがとか言っておきながら……いえ、貴女に言っても無駄だったわね。大した用事でなくても構わないわ、先生。もしかしたら貴方の話から得られる着想があるかもしれない。』

 

 

サエカの寝顔写真かぁ……。今行けば多分撮れるけど、なんだかとても重い要求な気がする。

それでも私の知る限り、キヴォトスにおける最高の知恵者はこの二人を置いていない。

なんとか2枚に負けてもらえるよう交渉しつつ、私は本題に入った。

 

 

 

”2人は頭部を失った人間が活動可能だと思う?”

 

『『……はい?』』

 

 

質問の内容が意外だったのか、素っ頓狂な声を上げる2人。無理もない。おそらくデカグラマトンや例の爆弾、または新たな脅威に対する意見交換を求めてきたと思っていたところにコレなのだ。

念のため、先にアロナに聞いてみたところ、「いくらキヴォトスの生徒さんが外の世界より頑丈だとしてもありえません!」だそうで。そこのところは私と何も変わらない。

だが、”あの時のサエカ”らしい何かは確実に首から上を欠損した状態で動き、あまつさえ意思疎通ができていたのだ。これには私もアロナも結論が見つからない。

だからこそ二人ならあるいは、と考えての今回の通信だった。

 

 

 

『なんだか不穏な質問ですね。それを知ってどうするのですか。』

 

”いやぁ、知ってると思うけど実は今、トリニティで補習授業部の顧問をやっているんだけどね。生物学の教科書読んでるうちに気になっちゃって。ほら、先生たるもの内容が何であれ知ることは大切かなー……なんて。”

 

『先生が生徒に勉学を教えてもらうというのはいいのですか……。』

 

”いやー、ごめんごめん。調べてもなかなか出てこなくてね。君たちのような知恵者に頼るしかもうなくて。で、どうかな?”

 

『……先に言っておくわ、先生。切断された頭が少しの間動くというのは聞いたことがあるけれど、「頭部を失った状態の胴体側」が意思をもって動く、なんて言うのは物理的にあり得ないわ。もし、そんなことがあるとすれば、それはもう()()()()()()()よ。』

 

『業腹ですが私も同じ意見です。生物学は得意な方ではありませんが、それはもはやオカルト、科学では説明付かない領域の話です。技術が進めば電脳化して胴体側に信号を無線で、なんて手法もあるかもしれませんが、そのような話をしているわけでありませんよね?』

 

”うん。でもまぁ2人が知らないのであれば、無理、だよねぇ。”

 

 

流石に2人も聞いたことがないと話す。確か元の世界では頭部がない鶏がしばらく生きていた、なんて話もあったけどそれを人間に置き換えた場合あり得ない。

それに喋っていて、尚且つ私の事を認識していた。とてもではないが私の知るサエカではなかった。

そこでふと思い出す。私のよく知るサエカ―――もとい沙華。彼女の記憶では私と同じ、「外の世界」から来たと言っていた。そしてその際に百合園サエカの体を奪ってしまった。そう悲しそうに打ち解けてくれたことがあった。で、あれば。

 

 

『――せい?』

 

 

あれは本来この世界に生きていた「百合園サエカ」じゃないのか?いや、私の知る”沙華”が偽物なんて言わない。まだ知らない”サエカ”も”沙華”もどちらも私の大切な生徒だ。

ああ、だめだ。思考が混乱してきた。どっちにせよその仮定が合っていたとして、あの状態で動ける説明にはならない。

 

 

『せん―――だいじょ――ですか?』

 

 

ここは思い切って本人に聞くのが正解だろうか。しかし頭部がない状態で動いていた、なんて言われたらパニックになってしまわないだろうか。生徒を不必要に混乱させることは望むところではない。だが……()()はダメだ。()()はその気になれば悪戯に人を殺し、このキヴォトスに災厄を呼ぶだろう。もしかして黒服が言っていたのはこれの事か?

…………そもそも私はなんでここまで()()を警戒しているんだ?なぜ……。

 

 

『先生?サエカちゃんのコスプレ写真、貰ってもよいですか?』

 

”うん………うん!?”

 

『言いましたね!先生たるもの、了承したことに嘘は言わない。そうですよね!?』

 

『どさくさに紛れて何を要求しているのかしら?』

 

『はぁー!(クソデカ溜息)まったく、”かわいい”を理解できないとは。ああ、デザインセンスが皆無な貴女に、ルックスの良し悪しなど理解できるはずもありませんでしたね。』

 

”えっ、えっ、何の話!?”

 

『私たちの呼びかけに空返事しか返さないあたり、深い考え事をしていたのは分かるわ。何度も声をかけたのだけれど。』

『そこでそこの頭が少し……ちょっと……いや、かなりおかしい特異現象捜査部の部長が気持ち悪い要求をしたのよ。』

 

『誰が頭のおかしい超天才病弱系美少女ハッカーですって!?』

 

 

ぎゃあぎゃあと仲良く?喧嘩を始める2人。こちらの声ももはや聞こえていないようで、まったく関係ないところまで飛び火し、収まりがつかなくなってしまっていた。

先生としては喧嘩の仲裁をしたいところだが、彼女たちのこれはただのじゃれあいみたいなもの*1なので諦めて通信を切ることにした。

 

 

”今日は時間を取ってもらって助かったよ。ありがとう、また何かあったら連絡するね。”

 

『だからプリンはプッチンして、お皿にのせて食べるのが視覚効果も合わさっておいしいと何故分からないんですか!』

 

『それは違うわ。ただのプラシーボ効果に過ぎない。実際は洗い物が増え、プッチンしてお皿にのせる際にこぼすリスクが無駄に発生するだけよ。そのままの容器で食べるのが合理的よ。』

 

”あー……だめだこりゃ。”

 

 

謎の口論に発展した二人を放置して通信を切り、平和な?ミレニアムを観測して気持ちに少しゆとりを持たせる事が出来た私は、補習授業部の元へ戻るのだった。問題は何も進展しなかったが。

 

 

 

 

 

「先生、それではお願いします!」

 

”結果発表ぉぉぉぉおおお!!!!”

 

「うわなに、うるさいってば!!」

 

 

通信を切断して戻ってくると、意外に時間が経過していたのか模擬試験は終わっており、答え合わせを待つのみとなっていた。

長時間は慣れていたことを謝罪し、すぐに採点を始める。すると彼女たちの成長を大いに感じられる結果となっており、私は表情をほころばせる結果となっていた。

 

 

”みんな、すごいね!心の準備はいいかな?”

 

「ど、Don ' tこいよ!」

 

「どっちなんですかコハルちゃん……。」

 

 

緊張しすぎてテンパっているコハルを宥めながら発表していく。結果は―――。

 

 

ヒフミ 75点

アズサ 73点

ハナコ 69点

コハル 61点

 

 

”おめでとう!みんな合格だよ!”

 

「えっ、本当!?後から実は嘘でしたとか言わない!?」

 

「うん、やっと合格できた。うれしい。」

 

「アズサちゃんすごいです!60点どころか70点を超えちゃいました!努力の結果ですね!」

 

 

ニコニコなのかニヤニヤなのか、判断に困る表情のハナコを含めて皆が互いの合格を喜び合う。

補習授業部が立ちあげられてから皆で協力し、頑張ってきたのを知っているから先生としてこれほど嬉しいことはない。あかん、おじさん涙出そう。

そして互いに喜び褒め合うこと数分。ヒフミがバックからモモフレンズのぬいぐるみたちを取り出していく。あれ……?今バックより明らか大きいものまで出てきたぞ……。どうなってるんだろう、そのバック。多分ツッコんだらダメなんだろうな、ハナコも宇宙猫になってるけどツッコんでないし。

 

 

 

「それでは!全員合格しましたので、約束のモモフレンズグッツの授与式を始めようと思いますっ!」

 

「おぉ……!」

 

「わ、私は謹んで遠慮させていただきますね。」

 

「私も……。」

 

「そ、そうですか…。」

 

 

独特なデザインにハナコとコハルは惹かれるものがないのか、辞退する。

確かにデザインはどれも個性的で、好きか嫌いかは結構別れそうな見た目をしている。それでもヒフミやアズサの様子を見るに心の底から好きなのだとわかる。

そう言えばシャーレにもコラボの打診が来てはず。私はその手の話に疎いがゆえに、サエカに任せっきりだがどうなっているのだろう。今話すのはなんだか危ない気がしたので私は口を噤んだ。

 

 

「ど、どれを選ぼう……!どの子も魅力がありすぎて中々選べない……!ぐっ、すまないヒフミ!私の代わりに選んでくれないか!」

 

「私がですか?そうですね……ではこちらのペロロ博士はどうでしょうか!このペロロ博士は物知りで勉強もできるという設定があるので、今このタイミングにはとても良いのではないでしょうか!」

 

「うん、これにする。かわいい、好き……えへへ……。」

 

 

 

私は喜ぶアズサが好き……本当にかわいい、えへへ……。おっといけない。

 

 

 

「うーん、人の趣味というのは広いものですねぇ。」

 

「どの口が言ってんのよ……。」

 

 

うん、うん。趣味というのは十人十色、千差万別。決して人の好きを否定してはいけない。

かくいう私も様々な趣味があるが、散財癖のおかげでユウカに財布を握られているから、キャッキャとはしゃぐ彼女たちが羨ましい……。流石にプライベートなものは見られないけど、なんだかサエカあたりにはバレてそうと感じるのは何故だろうか。……お宝の隠し場所を今度変えておこう。

そんなどうでも良い事を考え時間が過ぎていくのだった。

*1
本人たちは必死




先生の秘密の宝物のうち、1冊はすでにバレています。(第15話参照)
先生はいろんなジャンルを嗜みます。

バレるのが嫌なら自宅に持って帰ればいいのに 
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