シャーレの決戦兵器   作:わんぱくフォックスですまない

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黒服回


第47話 えっ、半裸?

くそっ、寝すぎた!ああやってナギサさんに八つ当たりをしてしまったけど、本来どのような状況であっても先生を守ることが私の仕事だったのに!

一度死んだのだから復帰に時間がかかっても仕方ない?そんなものは言い訳だ。私の命が助かっても大事な人がいなくなってしまっては、肉体は生きていても精神は死んでしまう。それでは死者と変わらない。どうして肝心な時に人の足を引っ張るのだろう。これでは病室にいた時と何も変わらない!

 

先生の安否が不明なことに焦り、かつてないほどの自己嫌悪に駆られる。それでもベットの上で泣くことしかできなかった昔の自分と決定的に違うのは、立ち上がり走る事が出来る足があること。

後悔することは後でいくらでもできる。泣くことも、今である必要はない。そう自分に言い聞かせ、足を必死に動かす。そんなとき、スマホが震えていることに気が付く。

急いでいたので相手を見ることもせず、応答ボタンを押す。かけてきたのは―――。

 

 

 

「こちらシャーレのサエカ!現状手が離せませんので、用件だけ手短にどうぞ!」

 

『……クックック、随分忙しそうなご様子。そんなサエカさんにお知らせを、と思いましたが……。』

 

 

黒服だった。こんな1秒を争うかも知らない時に悠長に話などしてられない。残念だけど後でかけなおそう、そう思って切ろうとするが。

 

 

「ごめんなさい!後でお願いします!」

 

『クックック……、そうですか。先生の所在と安否に関しての話だったのですが。また何か分かれば―――「なんだって?」……おやおや。』

 

 

今まさに直面してる問題で、最も欲しい情報。余裕のあまりないサエカの怒鳴り散らす声が、深夜ゆえに人気のない閑散としたトリニティに響き渡る。

 

 

「それを先に言って!皆は……先生は無事なの!?」

 

『おっと、これは想像以上に切羽詰まったご様子。それほどまでに追い詰められているとは思わず、配慮が欠けてしまいました。』

 

「そんなのはいい!!どうなったんですか!?」

 

『ククッ……、あまりこのような時間に大声を上げてはいけませんよ。……ええ、先生は勿論、同行していた生徒も無事です。先生にはかすり傷もありません。』

 

「そっかぁ……よかったぁ……。」

 

 

それを聞いて私は情けなくその場にへたり込む。緊張が抜けて足腰に力が入らなくなってしまった。まだ自分の目で確認したわけでないので、絶対とは言えないが、それでも先生の無事を知らせる情報は焦った私の毒気を抜くには十分だった。

 

 

『おやおや……先生は本当に愛されていますね。少し妬けてしまいますね、クックック……。』

『つきましてはサエカさん。お疲れの様ですし、先生が戻ってくるまでの間、良ければお茶でもいかがでしょうか?』

 

「ああ……うん、はい。なんか一気に疲れましたし、良いですよ……。どこに行けば?」

 

『いいえ、こちらが誘ったのですから、送迎はこちらでさせていただきます。』

 

 

突如サエカの目の前に円形の真っ黒なものが現れる。初めて見る怪奇現象に全身の毛が逆立つが、さらにそこから真っ黒な腕が伸びてきたのを見て、ついに耐えられなくなり腰を抜かしてしまう。

 

 

「ひぇあぁぁあ!?」

 

「おっと、驚かせてしまい申し訳ありません。」

 

 

現れたのはつい先ほどまで通話していた黒服本人だった。初めて見るそれにビビり散らかしたサエカを見て、黒服は満足そうに笑う。口では謝っておきながら反応を貰えてうれしかったのだろう。

サエカ的には情けない悲鳴を聞かれてむくれっ面ではあるが。

 

 

 

「驚かさないでください!なんですかそれ!」

 

「クックック……すいません。これは指定座標へ転移できる優れものでして。今回はブレスレットを起点にゲートを開かせていただきました。この先は私のオフィスへと繋がっています。どうぞ、足元にお気をつけてくぐってください。」

 

 

腰を抜かして抗議するサエカの手を取り、起き上がらせるとゲートの説明だけして直ぐにくぐって見えなくなってしまう。そういえばシャーレの監視カメラで、似たようなものを見たことあったっけななんて思うと自然と恐怖心は薄れていった。そのおかげで多少腰が引けていたサエカも、若干ビビりながらゲートをくぐるのだった。

 

 

 

「…………!おぉー……。」

 

「申し訳ありません、ゲートを長時間展開していると、あそこを管轄としているゲマトリア……ベアトリーチェに気取られてしまうために、簡単な説明しかできなかったことをご容赦ください。」

 

「ああ、まぁ構いませんけども。ちなみに気取られると何かマズいんですか?」

 

 

最近何かと聞く気がする名前に若干のイラつきを覚える。って言うかあの辺その黒幕の管轄なのか。ただでさえトリニティってだけで嫌いなのに、さらに嫌いになる理由ができちまったよ。ふぁっきゅー。

 

私の質問に対し、手際よく紅茶を注ぎながら少し考える様子を見せる黒服。隠し事は良くないぜ、ベイベー。

 

 

「前にもお伝えした通り、我々ゲマトリアはあくまでも相互不干渉をもとに行動しています。現状、サエカさんに対し、思惑通りに事が進まないことでイラつきを覚えてらっしゃるようでした。なのでここで私が関わっていると誤解されてしまっては、相互不干渉を理由に少々面倒なことになりまして。」

 

 

あーね。そういえば前にも言ってたような。それにしても思惑、ねぇ。そういえばサオリとかいう人も言ってたっけな。どうにもそのベアトリーチェとかいう奴は私と先生が邪魔らしい。

それを踏まえると、セイアさんを排除するように指示したのも同じような理由なのかな?

 

 

 

「そうでしたか。それで?わざわざそのようなリスクを負ってまで、私を招き入れた理由は何ですか?まさか本当にお茶したいだけってことはないですよね?勿論、お腹減ってるので食って飲んでいきますけども。」

 

 

お生憎様、こちらはお腹が減っているうえに、極上ロールケーキを食べ損ねたんだ。食べ物に関しては、ケチのつけようがない完璧な対応を常にしてくる黒服には結構期待している。

だからこそ、中途半端なものを出したら許さないよと言外に伝える。

 

 

 

「ククッ、クックック……バレていましたか。話が早くて何よりです。勿論、お茶をご一緒にというのは嘘ではありませんので、ここに居る間はお好きなだけ楽しんでいってください。」

 

 

やったぜ。

 

 

「まぁ、何となく想像できます。この前の戦闘で私が()()()()()()()件ですよね?」

 

「勿論です。包み隠さず言うのであれば「ワイルドカード」のメンテナンス、状態の確認をしたく今回声をかけさせていただきました。」

 

 

ああー、なんかそれも前に言ってたっけなぁ。意識がなかったからどういうことしたのか知らないけど、確かに死なないでプチカタストロフを振り回せるなら、キヴォトスにおける災厄にはなりえる。

この際丁度いいので、どうせどこからか状況の把握をしていたであろう黒服に聞いてみることにした。

 

 

「一応聞いておきたいんですけど、私って何をしていたんですか?」

 

「そうですね……、私が口を噤んでも恐らくどこかで知ってしまうでしょうから、伝えておきましょうか。一応ショックを受けないよう、気を確かに持ってくださると幸いです。」

 

 

随分もったいぶるじゃん。そんなにえげつない事したの?先生の前で?でもサオリとかいう人は逃がしたんでしょ?なぁに、どうせたいしたことでは―――。

 

 

「サエカさんは頭部……、首から上を欠損した状態で敵対した少女に手傷を負わせ、撤退させることに成功しておりました。」

 

 

う そ だ ろ。

大したことあったわ。え?まじ?なぁにそんな馬鹿な事……え?うそじゃない?ガチ?まぁじかぁ、化け物じゃん、私。

ご丁寧にどこから撮影したかわからない証拠映像まで出してくる。*1うわぁ……ドン引きだよ。

 

 

「えぇ、なにこれ……。コンテニューとか、無かった事にした、とかは聞きましたけどまさかこんな化け物みたいなことをしていたとは……。黒服さん、もしかしなくても私って「人」じゃないですね?」

 

「ククッ、私に敬称は不要ですよ、サエカさん。それと質問に対しての答えですが、何をもって「人」とするのか。その定義が不明なため、ご満足いただけるような回答を私は持ち合わせてはおりません。何卒、斟酌いただきますよう。」

 

「むぅ……。」

 

 

確かに黒服の言う通り、「人」としての定義と言われると私も言葉に詰まる。

「人」と「人ならざるもの」考えは色々あると思う。私の中では「生命活動」をするものが人としての定義なんだけど。あとは人の営みとかそうゆうふんわりとした考えしかできない。

そう考えると「人」って何なんだろうね?

 

 

「申し訳ありません、先ほどのコンテニューや無かった事にした、そう聞いたと仰いましたが、どなたに言われたのでしょうか?」

 

「ん?サエカだけど……。」

 

「なんと……。あの時力を使った……?ならばどうして無事に……?」

 

 

何かが黒服の琴線に触れたのか、ブツブツと独り言をつぶやき、一人瞑想に耽る。

時折サエカを見つめるが、その瞳?はサエカ本人を見つめるのではなく、もっと別の人物を見つめているように感じ、居心地の悪さから身をよじる。

 

 

「あまりじろじろ見ないでほしいんですけど……。」

 

「……これは失礼しました。先生の未来の奥様を見つめていたとあっては先生に嫌われてしまいますからね。」

 

「だっ、誰が未来の奥様ですか!張っ倒しますよ!?」

 

「……では先生からプロポーズされてもお断りになると?」

 

「そ、それとこれとでは……は、話が違うと言いますか、なんというかその………。」

 

「クックック……先生は引く手数多の優良物件です。そのように奥手ではどこかの生徒に奪われてしまいますよ。もっと肉食動物のようにグイグイいかれては?」

 

「そ、それができれば苦労はしませんよ!って言うか大きなお世話です!!」

 

 

などと威嚇しながらも、ついつい生前経験することの叶わなかった結婚生活を妄想するサエカ。

何を考えているか、そのあたりに無頓着な黒服でもわかるくらいにはニヤニヤしていたがそれも仕方のないことと言える。サエカの結婚への妄想と理想は現実の知らない小学生女児と何ら変わりないのだから。

 

 

「それはそれは。失礼しました。お詫びと言っては何ですが、”プチカタストロフ”の改修をさせていただければ、と。それと可能でしたらサエカさんの血を少々いただきたく。」

 

「えぇ~、まぁ採血は慣れてるのでいいですけど、変なことに使わないでくださいね?それと改修ってどのくらい時間かかるんですか?先生帰ってくるまでに終わるなら構いませんけど。」

 

 

血は何に使うか知らないからどうでもいいけど、メインウェポンである”プチカタストロフ”はないと非常に困る。いくらフィジカルが桁違いとはいえ、体術は目も当てられない。そのせいで不覚を取り、先生を危険にさらした。また、私の技量では通常の銃器で命中精度に難がある。形だけの連邦生徒会支給品である拳銃では心もとない。

 

 

「問題ありません。既に準備はできていますので。凡そ2時間程度で終わります。」

 

「それなら……、まぁ。」

 

「では、こちらに。」

 

 

黒服に誘われるがままついていくと、手術室のような、薄暗い部屋の真ん中に台が置かれた部屋に到着する。部屋の隅にはよくわからない機材や、工具、資料などあらゆる物が綺麗に纏められ、部屋の主の性格を物語っていた。

 

 

「なんか不気味ですね。私、これから拷問でもされるんですか?」

 

「そのような心配をなさらないでください。私はそのような事はしません。今回、後回しになっていた”プチカタストロフ”の改修、もとい完成させてしまおうかと思いまして。」

 

「え?これって完成品じゃなかったんですか?」

 

 

普段気兼ねなく振り回してるこれが完成品じゃない?エンジニア部でさえ再現できず、スーパーノヴァという別のアプローチになったというのに、まだ手を入れる余地があったとは。

 

 

「はい。元々はケセドを制圧するために、急ピッチで仕上げたものでした。その後、サエカさんと気軽に連絡の取れる状況ではなくなってしまったために、改修が遅れてしまいました。申し訳ありません。」

 

「そうなんですねぇ。因みに、どういったアップデートを?」

 

 

黒服の事だ。どこぞの部活のドライヤー機能とか、Bluetooth機能とかそう言った戦闘に役立たない機能はつけないだろう。それでも自爆機能を付けないとは言えない。私は黒服に対して全面的な信頼を置いているわけではないのだから。

 

 

「そうですね……砲身の材質とバッテリーカートリッジ、EMP対策、半永久機関の出力向上を予定しています。これにより射程の自由化、冷却速度向上による再発射可能までの時間短縮、バッテリーの小型化による装填速度とチャージ速度向上、エネルギー効率の向上により出力の大幅アップが見込めます。」

 

 

その分、軽量化した代わりに別のパーツが内蔵されるから若干重くなるんですけどね、なんて笑う黒服。別に私からすれば2、30キロほど増えたところで誤差でしかないので気にすることではない。だが盾とバッテリーの互換性がなくなるのは少しめんどくさい。

なのでエンジニア部に公開していいかと問えば、むしろ改良をお願いしたいくらいだと、また笑う。

意外にも物を作り出す人として、エンジニア部は高く買われていたようだ。製作者は秘密というところは変わらず、了承してくれた。

 

その後、何に使うかわからない採血をされ、改修が終わるまでの間、最初の部屋でたらふくお菓子やケーキを食べて待機するのだった。

…………こんなに食べてお腹周り大丈夫かな……う、動けば問題ないっしょ、うん!!

 

 

 

 

 

「では、夜分遅くにお付き合いいただきありがとうございました。念のため、先生には私と会ったことは秘密にしてくれると助かります。間男として先生にシバかれるのはご遠慮いただきたいですからね、クックック……。」

 

「もうツッコみませんよ……。というか、黙っていてもプチカタストロフの改修でバレるのでは。」

 

「……………………。」

 

 

あっ、コイツ考えてなかったな。次に先生と会ったらプロレス技でもかけられるだろう、哀れな黒服を放っておいて、すでに朝日が昇ったトリニティに帰り、補習授業部を待つのだった。

 

 

 

 

自室に戻り、若干溜まった仕事を片付けること1時間弱。結構集中していたのか補習授業部が帰ってきた気配に気が付かず、部屋からギャアギャアとコハルさんの騒ぐ声が聞こえてくる。それによってようやく仕事から意識が切り替わる。

 

 

「ん……?ありゃ、結構時間たってた。」

 

 

とりあえずは若干気まずい先生に無事を報告しなければと思い、騒ぐ補習授業部をよそに先生の部屋まで歩いていく。

案の定いつも通り、鍵は開いていて一言断りを入れるも、返事がないために扉を開く………が、想像とちょっと違った光景がそこに広がっていた。

 

 

「先生?おかえりなさい。サエカです、入りますね。」

 

 

 扉を開けた先には、パンツだけとなった先生がシャワー室の前で佇んでいた。

 

 

「………………………。」

 

”サエカ……。”

 

 

変態的な格好とは裏腹に、虚ろな目でサエカを見つめる先生。互いに変な時間が流れるが、感極まった先生が涙をほろほろと零し始めたことによって、時間が動き出す。

 

 

”サエカ……!よかった……!よかった無事で……!!!”

 

 

先生は泣きながらもその衝動を抑えきれず、半裸なのを忘れて、部屋の入口に棒立ちするサエカを強く抱きしめる。―――半裸なのを忘れて。

それによって虚を突かれたサエカは先生の変態タックルに耐えられず、廊下に尻もちをつく形で倒れてしまう。

 

 

「きゃぁぁぁぁああああああ!!??」

 

 

予想だにしない光景と行動に、本来なら嬉しいはずのそれも驚愕とパニックに変わる。

そして廊下でそんな悲鳴が聞こえれば。

 

 

「うるさいわね!疲れてるんだからゆっくり……きゃぁぁぁぁ!!な、何やってるのよ変態!!淫乱!色欲魔!セクハラ教師!!」

 

「どうしたんですかコハルちゃん……あらあら♡」

 

「あわわわわ!あ、アズサちゃんは見ちゃダメですー!!」

 

「?」

 

 

先生が落ち着き、事態を把握して離れるまで、その騒ぎは収まることはなかった。

勿論、先生はそのまま廊下に正座をさせられ、説教されるのだが、それは別のお話。

先生は別の涙を流すことになった、とだけ記憶しておこう。

*1
見せられないよ!付き




プチカタストロフのパワーアップ回でした。

カートリッジシステムが導入されました。リロード回数で威力の上限突破ができるようになります。リボルバー機構なので最大出力×6倍になりました。勿論その分冷却には時間がかかります。

状況に応じて狙撃ができるようになりました。勿論サエカ自身にはそんな腕はありません。アシスト必須です。

基本出力が向上しました。

重量が増加したため機動力が低下しました。

以上により、遅滞戦闘、拠点防衛能力、継続戦闘能力が向上しました。

サエカがパワーアップしたので、世界はバランス調整のため、運命にアップデートを加えました。
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