第5話 えっ、砂漠ヤバない?
朝――けたたましく鳴るアラームを止め、眠たい体に鞭打ってもぞもぞと布団から這い出る。
前の体は動くことがなんてなかったがゆえに、睡眠は浅く朝は早起きだった。
しかしこの体になってというもの朝がつらい。単に疲労からくるものなのか体に精神が引っ張られているのかはわからない。
時刻は6:00時の表示をしていた。まだ少し早いけど朝はゆっくり準備したいので寝ぼけながら顔を洗い、シャーレの制服に着替え髪や尻尾を整える。
朝はあまりがっつり食べれないので食パンを一枚咥え冷蔵庫の中の午後の紅茶を朝一飲むという小さな罪を犯す。*1
今日の業務量を大雑把にまとめながら歯を磨き、シャーレの執務室に向かい先生が来る前にメールの確認や細かな業務の振り分け、優先順位を決めていく。
ある程度まとまったら朝寝ぼけながら出勤してくる先生のために、時間に合わせ軽い朝食とブラックのコーヒーを淹れておく。
この1週間共に仕事をしていてわかったことがある。この大人、普段は立派で頼りがいのありそうな大人のようだけど、私生活はズタボロもいいところで、正直目も当てられないダメ人間の類だった。
ま、まぁ?非の打ちどころのない完璧超人の方がやりずらいというか?勘ぐってしまうので少しダメなくらいが?人間らしくていいといいますか?あのカイチョーも変なところでポンコツでしたし?
それに、毎日おいしいって言ってくれるので昔、台所に終ぞ立つことすらできなかった私は嬉しくなり日課として続けている。
こうして朝食を抜き、仕事の効率低下を避けるためという建前のもとこうして朝ご飯を作る。
ここまでが私の朝のルーティンだ。
そうこうしているとシャーレの執務室のドアが開く。
「おはよう、ございます、先、生。今日もよろしく、おねがいします。」
”おはよう…うぅん、眠い…今日もよろしくね。”
男は少しダメなくらいがいいと昔友達が言っていたがこれはどうなんだ。
「まずは、すごい顔、してる、ので顔、洗ってきて、くだ、さい。そのあいだ、にいつも通り、朝ごはん、とコーヒー置いておき、ますから。」
”はぁい…サエカのご飯のために行ってきまーす…”
うーんこの。
なぜか執務室に備え付けられているシャワールームの洗面台へと向かう先生の背中を見送ってから休憩室の簡易デスクに温かい出来立てのご飯を並べていく。
”ただいま!少し眠気がさえたよ、ありがとう。”
”おぉー!今日もおいしそうな朝ごはんだ!眠気も疲れも吹っ飛んでしまうサエカのご飯!私はこれのために生きていると言っても過言じゃないね!いつもありがとう!”
「あり、がとうございます。そんな、に喜んでもらえる、なら作った甲斐、があります。」
「食べながら、でいいので今日、のスケジュール、やメール内容、を聞いてくだ、さい。」
先生はコクリ、と頷きやたらきれいな所作でご飯を食べ進める。
スケジュールや先生にしかできない仕事の説明、現状におけるキヴォトス、特にここD.U地区周辺の治安状態を説明し、粗方食べ終わった先生に昨晩から朝方にかけて届いたメールのうち重要そうなメールを読み上げていきそして最後、早めに対応したほうがよさそうなこのメールを読み上げる。
「朝のうち、にアビドス、地区にあるアビドス高等、学校よりメール、が来て、いました。こちら、は先生、に対処を、考えても、らいたい、ので内容を読み、上げますね。」
そう言ってアビドスから届いた救援要請のメールを淡々と読み上げる。
私も読み上げながら考える。アビドス高等学校――アビドス自治区にある廃校間近の学校であったと、各学園の資料を流し読みしていた際に見て知っていた。
広大なアビドス砂漠に言葉は悪いけど何もしなくても廃れていきそうな自治区にわざわざアクションを起こしている不可解な内容。
一通り読み上げ先生の反応をうかがう。朝ごはんに満足そうな顔で礼をいうと仕事モードに入る。
”そうだね、武力組織ってのも気になるし、内容からかなり切羽詰まった状態ということが分かるね。サエカから見てこのアビドスはどんなところで、この件に対して簡単な所感を聞かせてほしい。”
「はい。アビドス、自治区は近年の、原因、不明な砂漠、化により町中、砂に覆われた、地域です。」
「私情を、挟まない客観、的な所感を上げ、ますと、連邦生徒会、が見捨て、たような、言い方は悪い、ですが放って、おけば勝手に、なくなる学校、をわざわざ攻、撃する意図、が見え、ません。」
”そっか。確かにそれだけ聞くと相手の武力組織の意図が分からないね。確か近い期限の仕事ってないって言ってたよね。”
「はい、差し迫った、内容のもの、は今のところ、ない、ですけど―――」
”よし!じゃあ善は急げ!困ってる子たちを助けにいこっか!”
まさかの即断即決である。判断が早い、これには天狗のお面を被ったあの人もにっこりだ。
まぁ何かキナ臭さもあるのは事実だし、そもそもの話シャーレ自体の業務内容に困ったことがあれば助ける、という便利屋のような側面もある。だけど砂漠かぁ…
「今日、今すぐに、ですか?大丈夫、です、けど食料と水、等の物資、をまとめる、ので少々、時間をくだ、さい。」
”水はわかるけど食料も?かなり多めに見積もっているつもりだけど、そんなに厳しい環境なの!?”
「なに、いってる、んですか。舐めてる、と冗談抜き、で遭難して、死に、ますよ。」
”そんなに!?わ、私も持てるだけの物資は持つね…?”
そんな会話があった5日後。私達は物の見事に遭難していた。どうやら私も舐めていた部類に入っていたらしい。粉バナナ☆
地図の更新が数年前で止まっているとか思わないじゃんね。
そして現在、持てるだけの物資は持ったが身長と体重の軽さゆえに積載量のあまり多くなかった私と、そもそもあまり力のない先生が持っていた物資のほとんどを使い切ってしまっていた。
ぶっちゃけ干からびそうだ。ウオオォォォオオアッチィィィィイイイ!
熱中症対策のため先生にかなり多めに水分を取らせていたけど、先生をこれ以上危険の状態にさらすのは忍びないので先生一人を日陰に休ませ私は電柱をよじ登る。辺りを見渡すと高校らしきものは見えるがその方向に進んでいても一向にたどり着けない。きっと幻術か罠にはまっているんだと思う。そうに違いない。*2
この現象を不思議に思いながら電柱を降りる―――途中で銃で撃たれた。
い゛い゛っ゛た゛ぁ゛!?
電柱から自分の足で降りること叶わず地面にべちゃっと墜落する。
いったい!!痛い!マジ痛い!神秘こもってた!生徒だこれ撃ったの!どこの野蛮な女だこらぁ!
「ぬ゛っ、おあっ、いいいい…!」
まるで知能を宿していない獣のような奇声を上げ、痛みにこらえ体をよじりながら私を撃墜した下手人を探すと―――自転車にまたがりながらこちらに銃を向けて困惑した顔をする、
そして痛みにこらえ、どうしてやろうかと考えていると声をかける存在が現れる。
”い、今の音なに…?”
そう、先生が日陰から顔を出していた。だが平和ボケした先生とは別に私は危機感を覚える。
私の視界に入らない位置から、声をかけることもなくいきなり発砲してきた
「あ、ごめん。不審者かと思った。滑り落ちるとは思わなかった。」
―――謝罪してきた。不審者はとりあえずの精神で撃つのか?一発だけなら誤射ってかおぉん?
私がグルグル威嚇して少し警戒していると先生がこれ幸いと声をかける。
”あのっ、君はこの辺詳しかったりしない?私たちアビドス高等学校って所に行きたいんだけど、道に迷っちゃって!”
たははー、とおどけて見せる先生に毒気を抜かれて戦闘態勢を解く。
「ん、それなら私と目的地は一緒。アビドスにお客さんなんて珍しいし、よければ一緒に来る?」
どうやらこの生徒は野蛮人ではなく砂狼シロコさんという第一村人だったようだ。
いきなり撃たれたのは激おこだけど、せっかく道案内もしてくれるというのだから一発だけなら誤射の精神で留飲を下げる。
そして彼女に案内されながらようやく5日間の遭難生活を終えることとなった。
やっとの思いで校舎に到着し部屋の扉を開けると3人の生徒がいた。
「ただいま。」
「おかえりシロコ先ぱ―――って後ろの人だれ!?」
「わぁー遂にシロコちゃんが人を拉致してきました☆」
「拉致ですか!?何処からですか!?うぅ…ついに犯罪に手を…」
すごい言われようだ。たったこれだけでこのシロコさんが普段どのように彼女たちに思われていたのかが分かると同時、とりあえずで先制攻撃してきた異常性はここの常識ではなく、部屋の中の彼女たちはまともそうで安堵した。
「みんな落ち着いて!今ならまだ何処にもバレず隠すことができるわ!確かスコップって倉庫にあったわよね!?」
前言撤回。彼女もだいぶヤバそうだった。
「拉致なんてしてない。普通にこの学校に用があるんだって。」
”どうも、こんにちは!連邦捜査部シャーレの先生です!そしてこちらは―――”
「百合園サエカ、です。アビドス、高等学校からの、支援要請メールを受け、来ま、した。」
「ええっ!シャーレの!?」
「わぁ、支援要請が受理されたんですね!よかったですね、アヤネちゃん!」
「はいっ!何日も返信がなかったために受理されなかったと思いましたが、これでようやく…」
「ホシノ先輩にもこのことを教えてあげなきゃですね、ホシノ先輩は今どこに?」
うっ、返信しなかったのはせっかくだからサプライズにしてみよう、なんて先生が茶目っ気を出しそれに悪乗りした挙句、遭難して彷徨ってました。なんて恥ずかしすぎて口が裂けても言えない…。
隣を見てみると先生も同じことを思ったのか苦笑いをしている。このことは一緒に墓まで持っていこうと二人は固く決意した。
「ホシノ先輩なら隣の部屋で寝てるわよ。私、ちょっと起こしてくるわね。」
そう言って黒髪の猫のような特徴をした生徒が部屋を出ると―――外から銃声が多数聞こえてきた。
「銃声!?校門前に武装集団を確認!あれは…カタカタヘルメット団です!」
各々応戦するために武器を取り、今まで散々煮え湯を飲まされてきたのか、少なくない敵意を滾らせる。
「ホシノ先輩を連れてきたわよ!ほら先輩!敵襲よ!起きて!」
「むにゃ、まだ起きる時間じゃ―――」
寝ぼけた様子から一転、私を視界に収めるや雰囲気が変わる。
「ホシノ先輩!校門前にカタカタヘルメット団が!こちらはシャーレから救援に来ていただいた二人です!」
手早く今必要な情報を共有していく。するとホシノ先輩と呼ばれた桃色の髪をした生徒はどこか滲み出ていた剣呑さを潜め最初の雰囲気に戻る。
「よろしくねぇー。ふぁーおちおち昼寝もしてられない。おのれヘルメット団めー。」
4人が出動しようとするところに先生が待ったをかける。
”私が戦闘の指揮をするよ!これでもシャーレの仕事で沢山戦闘指揮してきたからね!どうかな?”
全員が意外そうな顔を見せ、危ないときは各々の判断に任せ行動をしてもよい、という条件のもと先生の指揮を受け入れる。
「では、私は、先生の護衛、が第一、のためここから、初撃と、必要に応じて、援護、します、ね。」
「えっ、あんた銃撃てるの?どうやって照準するのかしら?」
「目は諸事情、により開けられ、ないですけど、このアイマスク、の機能、で視界は、取れていますので、照準は、可能、です。」
「へぇ、すごいですねー!ハイテク装備、というやつでしょうかー?それなら安心です!」
皆の納得を得たようなので部屋の窓から”プチカタストロフ”を構え5秒ほどチャージする。
いつもの駆動音が鳴り響き、校門入り口に固まっているカタカタヘルメット団に向けてぶっ放す。
ロボット群と戦った時のような長いチャージをせずに放ったので、あの時のような出力の高いビームは出ないが不良の生徒をぶっ飛ばすだけなら十分な火力を出していた。
それを薙ぎ払うかのようになぞる。
結果から言えば、一撃で終わってしまった。他の直撃をもらわなかったヘルメット団たちも、気絶した仲間を背負って撤退していく。
「な、何よその武器!?なんかビームみたいなのが出てあいつら吹っ飛ばしちゃったわよ!?」
「わぁ!アイマスクだけでなく武器もハイテクさんだったんですねー!」
「す、凄まじい威力ですね…」
「ん、この子は私が拾った。」
一撃で終わったことが普段ちょっかいをかけられている彼女たちからすれば、かなり痛快だったようで若干引きながらテンション高めにリアクションをしていく。
「そのビームのような攻撃、どこかで…」
”一発で終わっちゃったね…あまり大きな怪我をしていないといいんだけど…”
「あのくらい、ならちょっと服が焦げる、だけ、火傷も負わない、どちらか、といえば熱量、じゃなく衝撃波、で気絶させた。だから先生、の心配してる、ことには、ならない、です。」
敵の心配をするなんてお優しいこと。まぁでも私自身彼女らに恨みは一切ないので、本気でダメージを与えるつもりもなくあっちイケー!くらいの感覚だったのだ。まさか大半がワンパンだとは思わなかったけど。やだ、私の攻撃力高すぎ…?
そうして襲撃?は物の数秒で終わるあっけないものとなってしまった。
ホシノパイセンは過去にビナーのアツィルトの光を見てるし、サエカの奇妙な神秘を感じ取って警戒しています。
こいついっつも誰かしら警戒してんな。