ナギ虐からしか得られない栄養素がある。あはは…。
誤字報告ありがとうございます!
「チームⅣ、ポイント到着。損害および交戦なし。目標周辺に警戒レベルの変化は認められず。」
「他チームも問題なく、ポイントに到着。作戦を開始します。」
暗闇の中、少人数で動く招かれざる客。念密な作戦を練り、訓練された軍隊のように感情などなく、淡々と作戦を遂行する。その様子を見下ろす影がひとつ。
「夜分遅くにご苦労さんですよ。職務上、交戦規定に抵触しないために、形ばかりの警告を送らせていただきます。尚、警告を無視した場合、抵抗の度合いによっては生命の安全は保障されませんので悪しからず。…………命が惜しかったら回れ右して、健やかに過ごしてください。」
どこか見覚えあるガスマスクの集団の前に飛び降りたのは、ガチガチに装備を固めたフルアーマーのサエカだった。
それに対し、ガスマスクの少女たちはただ面倒なだけだと言わんばかりに、言葉もなく排除を開始する。
「ROEクリア。今の私は数で正面から落とせるほど、甘くないです。
まだ日が昇らぬ時間。トリニティの裏門でシャーレの決戦兵器による蹂躙が始まるのだった。
時は少し戻り。
「………はぁ………。」
薄暗い部屋の中、紅茶を片手に溜息をつく少女、トリニティのホスト桐藤ナギサの姿があった。
彼女もまた、補習授業部が緊張と不安で眠れないのと同じように、なかなか寝付く事が出来なかった。
日々の業務、エデン条約への焦り、友人の死、そしてその友人の妹との決別。さらに追い打ちをかけるように自分の身の危険という、本能的なストレス。それらが短期間に重なった結果、とっくに限界など越えて、気を抜けば倒れてしまいかねないほど疲弊していたが、どうしても寝付く事が出来なかった。
そんな中、部屋のドアがコンコン、とノックする音が響く。
「……紅茶のおかわりでしたら結構です。」
部屋の主であるナギサは、気の利かせすぎた従者がそろそろ紅茶がなくなるだろうと思い、ノックしたのだと思った。しかし、ノックをしたのは想像していた人物ではなく、必死に落ち着かせようとしていた心に再び波風を立てる事となった。
「可哀そうに。眠れないのですね。」
「なっ……!」
現れたのは、従者でもなく、正義実現委員会でもなく、補習授業部にいるはずの浦和ハナコだった。その顔にはナギサでもわからぬほどの完璧な微笑を浮かべており、どういう意図で尋ねてきたのか分からず、ささくれ立った心に恐怖心を生む。
「浦和……ハナコさん……!どうしてここを……!?」
「ふふ、この程度の事であればすべて把握しているからです。合計87個のセーフハウス、一見ランダムに使い分けているようですが、その実、法則があることも。」
「なっ……!で、ですが警護のものがいたはず……!」
「勿論いましたよ?ですが、私
月明かりの中、ハナコの微笑がいっそう不敵で、不気味に映る。
そしてその言葉の意味を理解する前に、その答えは自ら言葉を発する。
「動くな。」
突如として後頭部に触れる冷たい感触。この状況でもまだ自身が声を上げ、時間と隙を作れば立て直せる。あとは残った警護をかき集め、数の暴力でもなんでも制圧してそれを理由に退学にさえできると思っていた。
だが背後で既に頭部に照準されており、状況は最悪。いっそ抵抗してみるか。そんな考えがよぎるが、戦闘に不向きな自分では一蹴されるのがオチだと変に冷静な頭が計算をする。
そんなことを考えていると、外からどこかで聞いた独特な戦闘音が聞こえてきた。
「あら?外が気になりますか?ですが気にしないでください。これはここに誰も来ないように、私たちの小さなお友達が頑張ってくれている音ですから♡」
「!?」
それを聞いてナギサは絶句した。聞き覚えのあるこの独特な音は、いつか見たサエカの戦闘記録での音。つまり彼女が外で何かしらと戦闘しているということ。
しかし目の前で相変わらず微笑んでいる浦和ハナコの言う話が本当であれば、彼女、サエカがトリニティの裏切り者の側にいることに他ならない。
確かにサエカとは友人であると自負しておきながら、二次試験の折、焦りから彼女の琴線に触れひどく怒らせてしまった。先に自身が信頼を裏切っておきながら、ここで裏切り者と責める気にはなれなかった。
それでも、心のどこかでまだ”古い友人”だと思い込み、ハナコの言葉を否定し、外を覗こうとしたが侵入者はそれを許しはしなかった。
「動くな、と言ったはず。」
「ぐぅ…!あなたは……白洲アズサさん……!裏切者のもう一人は貴方でしたか……!どうやってサエカさんを唆したんです!?」
組み伏せられながらも、少しでも時間を稼ぐために質問をするナギサ。だがこれだけ音を立てても警護の人間はおろか、給仕すら来ないところを見るに、無力化してきたというのは嘘ではないと現実を突きつけられるだけとなった。
「唆しただなんて人聞きの悪い……。サエカちゃんも行動に移すだけの理由があった、それだけです。そしてそのサエカちゃんも、私たちも駒でしかありません。目で見たことしか信じられないナギサさんに真実に辿り着け、なんて酷かもしれませんが。」
「な……まだいましたか……誰ですか!」
「答えても構いませんが、その前に……。ナギサさん、ここまでやる必要はありましたか?」
目の前にいるのは、ナギサが認め、その行動から危険視した正真正銘のトリニティの才女。
そんな彼女が、声色を変え、わずかばかりに悲しそうな表情をして疑問を口にする。
ナギサは思った。なぜそのような質問をするのか、と。貴女ほどの知力と才能があれば態々質問せずとも理解できるでしょう、と。事ここに至っても、ナギサには”人の心”というものに配慮するという事が出来なかった。
「最初から怪しかった私や、アズサちゃんは仕方なかったかもしれません。ですがヒフミちゃんやコハルちゃん、そして本来無関係のシャーレの先生を危険に巻き込んでまで、進めるのはあまりにも乱暴が過ぎませんか?」
「それは……。」
「特にヒフミちゃんは……ナギサさんと仲が良かったと記憶しています。サエカちゃんも。そんな彼女たちの”大切”を踏みにじってまで……。」
「そうですね……。
「……そうですか。」
―――後悔はしていない。その言葉に偽りはなかった。だがどうしても引っ掛かりを覚えてしまう。「本当にこれでよかったのか」「やり方は他にもあったのではないか」と。
しかしもう遅い。友情を踏みにじり、大切を傷つけ、独裁的な強硬手段を取った。
トリニティで優秀な部類に入ると自負しているナギサにとって、これが精いっぱいだった。
そうまでして守りたいが故の唯一があるが故に。
「では、あまり時間もあるわけではありませんし、先ほどの質問を答えるついでに、私たちの指揮官からナギサさんへ、メッセージをお伝えしますね。」
メッセージ。そう言ったハナコの表情が先ほどまでの悲しそうな、非難するような表情から変わり、歪んだ。ここ、トリニティでは既に見慣れてしまった、”嗜虐と悪意”に満ちた表情に。
「「あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ。」……とのことでした♡」
「なっ!?それは―――!?」
突如響き渡る銃声。ナギサは自分が何をしてしまったのか、ここにきてようやく理解したが、反省することも後悔することも嘆く時間すら与えられず、意識を落としたのだった。
sideサエカ
『目標を確保。近距離で5.56mm弾を丸々1弾倉分当てたから、1時間くらいは起きないと思う。』
4チーム目、数十人をボコボコにし終わった時、丁度アズサさんから第一任務達成の知らせが届く。戦闘慣れしてないお嬢様に1弾倉丸々って酷くない?と思ったけど、自業自得でもあるのでとりあえずツッコまないようにした。南無。
「お疲れ様です。こちらも4チームほど無力化しました。なんかそこらのチンピラより練度が高いですね。正直厄介です。」
『……そうか。まぁ彼女たちも訓練しているから。その様子だと消耗もしてなさそうだし、私はこれから正面の方で敵の誘導をしてくる。』
「お願いします。不測の事態が起きた場合、呼んでください。それまで門番してますので。」
通信を切りながら考える。ハナコさんが言うには、これで「本当の裏切り者」に情報が行くはず。そうなればアリウス側も焦って攻勢に出てくるはずだ、と。私には正直ちんぷんかんぷんだ。
本当の裏切り者?誰それって感じ。でもハナコさんのシナリオには既にいて、確定ではないけどある程度絞れてはいるんだそう。聞いても教えてくれないし。
なんにしても、アズサさんが正面で陽動してくれるなら、先生たちは動きやすいと思う。
大半がコソコソと裏からきてその処理にてんてこ舞いだけど、それもハナコさんの考えたシナリオが進めば落ち着くのかも。
あーあ、ゴキブリみたいにわらわらと。いっそ
しばらくすると、遠くの方からドッカンドッカンと爆音が聞こえてくる。
おー、やってるやってる。多分アズサさんのトラップだよね。初日に合宿場に設置して、私が処理しきれなかった奴だ。中々殺意が高い。でも今回はグッチョブと心の中で称賛する。
そんな中、背後に近づく気配を感じ取る。これは―――。
「あはっ☆バレちゃった!後ろから驚かせようと思ったのに!」
「ミカさん!?こんな暗い場所で危ないですよ!今、襲撃を受けているんです!」
後ろから現れたのはミカさんだった。正面からは相変わらず、グレネードやロケランを飛ばして、なおも増殖するアリウスの生徒たち。私は盾があるけど、見たところミカさんは愛銃以外手ぶらで、この戦闘に巻き込むのは危険だと思った。どれが
「うんうん、見ればわかるよー?でもねサエカちゃん―――。」
「……?」
俯きながら交戦中の危険地帯にゆっくりと近づいてくる。どれが致命的な一撃かわからないのであまり余裕がなく、そのままミカさんの接近を許してしまう。そして突然言葉を区切った事に理解できず、頭をかしげると、突然の攻撃を受けてしまった。
「ごめんね。」
「うぐぁ!?」
もろに脇腹を殴られてしまった。まるで交通事故にでもあったような感覚で、装備込みとはいえ、ゆうに300キロ超の重量を誇るサエカを軽々吹き飛ばす。
そしてそれほどまでに威力の高いパンチを受けたサエカは、折れた肋骨の痛みにのたうち回り、血をまき散らした。
「………!!!いや、私はこの手を汚してでも、やることがある。だから……ごめんね。」
「うぎぁあっうう……!!なん…で!?どうし……げほっごぼっ!」
痛みに苦しみ、蹲りながらもなんとか言葉を繋ぐサエカだったが、ミカは努めて冷静に言葉を返しす。そしてそれはサエカのやる気をそぐには十分であった。
「なんで、か……それはね、サエカちゃん。
「………そう…ですか……うぐっがはっ…!」
裏切者。ミカさんはただそれだけを告げる。本当に嫌になる。どうしてトリニティは嘘ばっかりなんだ。どうして誰も心から向き合おうとしないんだろう。
だってほら。嘘つきは自分だと告白するミカさん。どうしてそんなに悲しそうな、泣きそうな顔してるのさ。ほんと……みんな嘘ばっかり。
「捕まえておいて。そのくらい負傷すれば動けないと思うから。あ、殺しちゃだめだよ。私、その子にこの前殴られてムカついてるから、私の手で殺したいし。」
「……今殺せばいいんじゃないのか。」
「わっかんないかなぁ。今は優先すべきことがあるの。もしここで最後の力を絞って道ずれとかされたら支障が出るでしょ?この程度のところで躓いて作戦進行もできていなかったくせに、意見するなんて随分偉くなったもんだよね。」
「……わるかった。」
それだけ言ってアリウスの生徒を一瞥すると、私とは目を合わせずに体育館の方へ歩いていく。
たいしてアリウスの生徒は殺すことはできないでも、せめて武装解除させようと躍起になるが、盾は数人がかりで引きはがせても、プチカタストロフは今や200キロオーバーの重量。私の手から離す事が出来ないでいた。
正直、今すぐにでもミカさんを止めに向かいたい。だけど先ほどの攻撃で肋骨が内蔵に深く刺さったのか呼吸も浅く、立ち上がることはおろか、言葉もろくに話す事が出来なかった。
ああ、嫌になる。嫌な事ばっかりだ。
アビドスでの大怪我と同じ場所に大怪我を負うこの身体の脆さが。
その時と同じガスマスクを着けて、うっすらガスマスクの奥に見える死んだ目が。
私の持ち場を守る事が出来ない自身の弱さが。
そして、泣きそうな顔で嘘を吐くミカさんが。
しばらくして体育館の方から銃声や爆発音が響いてくる。たぶん、補習授業部とミカさんがぶつかった音。助けなきゃ。……先生も、補習授業部も、ミカさんも。
吐血しながら無理やり半身を起こし、愛銃にもたれかかりながらなんとか立ち上がる。
しかし周りのアリウスの生徒は見逃してはくれないわけで。
「……おい、立ち上がってどこに行く。殺すなとは言われていても、いたぶるなとは言われていない。無駄な手間をかけさせるな。」
「フゥー!フゥー…!ああ、そういえば貴女達がいたんでしたっけ……。あまりにも弱かったので忘れていました。」
「こいつ……。」
正直今の私が目の前のアリウス生徒達と戦って勝てるとは思わなかった。だけどここで何もしないで寝てるわけにはいかないと、自身を奮い立てる。せめてここに居るグループだけでも行かせないために。
しかしどうしたものか。気合で立ち上がったけど何も作戦なんてない。状況打破のために何とか回らない頭で必死に考える。すると先ほどのミカさんの言葉が頭をよぎった。
そうだ。ちょっと賭けになるけど経験から考えて
「……さっき、ミカさんが言ったこと覚えてます?」
「いきなりなんだ?殺すな、だけだろ。良いから黙って座ってろ。」
「くふっ、はははは……人の…話は。」
「?」
「ちゃんと聞きましょうね!!!」
「なっ!?そいつの武器から引きはがせ!!」
バッテリー式でなくカートリッジ式にしたメリットがこんな早く生きてくるとは。
これは黒服に感謝だね。だってバッテリー式だと交換する時間が、今みたいな場面ではタイミングでは命取りになるから。きっとサエカには怒られるけど大丈夫。信じてるからね!サエカ!!
「遅い!ロードカートリッジ!!」
「臨界!」
複数のアリウスの生徒が飛び掛かってくるが遅い。私が叫ぶとリボルバー機構が高速で回転し、その規格外の電力を動力部へと送る。
そして発生した莫大なエネルギーは
凄まじいほどの破壊の光が収まった時、そこに残されたのは門の形を残さない残骸クレーターと、ボロボロになって動かなくなった生徒達だった。