???「あはは、しけぇです。」
side先生
「裏切者の分際で、ここまで抵抗するなんて。だが全ては無意味で虚しいだけだ。諦めろ。」
私たち補習授業部のメンバーは、アズサの陽動で体育館にアリウスの生徒を
そしてここには、この作戦を立てたハナコもうまく合流している。あとは彼女の言う最後の仕込みとやらが上手く機能してくれれば、とりあえずはこの騒動に終止符を打つ事が出来る。
どのような仕込みかは聞いていないが、私は先生だ。生徒が「信じて耐えてほしい」と言えば私は信じるだけだ。
もし失敗しそうであれば、最悪私たちが退避してサエカに体育館ごと消し飛ばしてもらうというサブプランもある。だからきっと上手くいく筈だ。
「そうだな、無意味で虚しいかもしれない。でも、それが無駄である証明にはならない!ヒフミ、コハル!」
「うう、えぇーい!」
「あ、あんたたちが悪いんだからね!」
アズサの掛け声で投げ込まれる大量の手榴弾。体育館の上に潜んでいた二人が投げ込んだものだ。
ここに来るまでアズサのトラップで、足元ばかりに注意を払っていたアリウスの子たちには殊の外効いたようで、次々に昏倒していく。
「ぐ!まだだ!たった4人で覆せる戦力差ではない!Ⅵ班からⅧ班!C4で壁をぶち破ってキルゾーンを作れ!」
「それも予想済みです♡」
「なっ―――。」
突如体育館の屋根から家具や大型のゴミが降り注ぐ。落としたものは体育館の備品であったり、寮の家具であったり様々だ。それにより外で待機していた生徒も無力化していく。
「先生、時間的に作り出せるトラップは今ので最後だ。ごめん。」
「大丈夫ですよアズサちゃん。残りは先生の指揮で、ですから。もうひと踏ん張りです♡」
「そうです、アズサちゃん!ここまで奮闘できたのもみんなで頑張ってきたからです!」
「は、ハスミ先輩がすぐ動けない分、私も頑張るからっ!」
皆成長して……オジサン感動だよ……。おっといけない、歳をとると涙もろくてだめだね。
じゃあ、期待に応えて指揮しないとね。アロナ、バックアップよろしく!
アロナの戦闘補助システムを起動していく。すると慣れ親しんだ圧倒的な演算速度、その情報が頭に流れ込んできた。見方陣営の移動可能距離、残弾数や敵の配置、予想される着弾地点や軌道。
それらがスローになった視界で映し出されていく。
「アズサ、相手の先頭に一撃、その後右斜めに展開。ハナコ、後ろに下がってグレネードでけん制、ヒフミ、正面にデコイ。そのあと左斜めの障害物を使いつつアズサの援護。コハル、遮蔽物に身を隠しつつ、後方の生徒から狙撃していって。」
一人一人に手早く指示を出しては次の展開を考える。人数差こそ凄まじいものがあるが、作戦が崩れたせいでうまく連携が取れていない。これなら誰も怪我せずに制圧できそうだと一先ずは安心する。この間に正義実現委員会が動いてくれれば助かるのだけど……。
「ぐっ、くそっ!なぜこの人数差で……!なぜ裏切り者に負ける!?」
最後の一人、チームのリーダーらしき生徒が納得いかないと叫ぶ。
確かにアズサはどちらの陣営から見ても裏切者かもしれない。それでも、彼女なりに信念を貫いた結果の事。場や雰囲気に流されず、自分の信じた正しいことを成そうという気持ちは嬉しさを覚える。
”それだけアズサの信念が強かったって事かな。”
私は少し悲しそうな表情をのぞかせるアズサの頭をなでて落ち着かせながら、前に出る。
尚もまだ納得いかないといった様子のアリウスの生徒だったが、何かを言う前に、鈍い音と共に崩れ落ちてしまった。
「ヒ、ヒフミ……相手は悪党かもしれないけど、正義実現委員会としてもそれはちょっと…。」
「あ、あらあら…なかなかワイルドというかなんというか……。」
倒れたアリウス生徒の後ろから現れたのは、どこから持ってきたのか、金属バットを振り抜いた余韻に浸っていたファウスト様だった。心なしか目がキマっているような気もするけど、薄暗いからそう見えるに違いない。うん、きっとそう。
「いい奇襲だったと思う。」
違うそうじゃない。
「あはは…、隙だらけだったので
「つい」じゃないよ「つい」じゃ。やだこの子怖い。
「まぁ最後はあれでしたが、ようやく一息付けますね。これで次のフェーズ……正義実現委員会の行動と、私の仕込みが動き始める頃合い。第2波…増援部隊を何とか耐えきれば恐らく私たちの勝ちです。」
「ま、まだ来るの!?」
「もう来るならきやがれっです!こうなりゃヤケクソです!アズサちゃんに酷いこと言う口にこの金属バットぶち込んでやりますから!」
完全に悪の親玉だよ。平凡な君はどこに行ってしまったんだ。先生悲しい。
えっ、これがトリニティ流のお仕置?そうなのハナコ?え?違う?じゃあ……ああ、ナギサのロールケーキね。納得。良かったねナギサ、君の友達はちゃんと理解してくれているみたいだよ。
「―――へぇ。じゃあ私も口に突っ込まれちゃうのかな?」
作戦が順調に進み、気が緩んだ補習授業部の声が体育館に響く中、それは嫌によく聞こえた。
それは騒いでいた皆も同じだったようで、示し合わせたわけでもないのに喧騒がぴたりと止む。
まるで蛇に睨まれた蛙。絶対者の気配。声を発した主はその気になれば片手間に私たち全員の息の根を止める事が出来るという確信。生物としての圧倒的な差がそこには感じられた。
「えー、なに?急に静かにならないでほしいかなー。なんか空気読めてないって言われてるみたいで傷つくんだけど?」
「聖園……ミカ…さん…。」
「気安く人の名前呼ばないでくれる?えっと…ああ、浦和ハナコ、だっけ。余計なことして色々邪魔してきてるのは貴女の案だよね?」
強めの語気から発せられる強烈な感情の乗った圧。直接向けられたわけではないのに嫌な汗が服を濡らす。そんなものを直接向けられたハナコは、まさに立っているのがやっとという様子で、彼女の計画の破綻を如実に表していた。
それと並行して、先ほどとは比べ物にならない人数のアリウス生徒が体育館へと入ってくる。
”ミカ!そこは危ない!ゆっくり此方に来てほしい!”
「やっほ、先生。こんばんは。どうしてここが危ないのか教えてほしいな?」
「先…生……ダメです…!彼女は…彼女こそが―――。」
ミカの後ろに並んだ今は敵対関係にあるアリウス生徒達。それに対し、ミカは気にするそぶりもなく、屈託のないいつもの…とは言い難い少々歪な笑顔をのぞかせる。その様子を見て嫌でも現在の置かれた状況を理解する。
そんな彼女の言葉を遮って、酷い汗を流しながら、震える唇でハナコが必死に訴える。
それを見て、ハナコとは対照的に、ミカの口が三日月形に裂ける。
「あーあ、失敗しちゃった。もう少し先生の側にいたかったのに。やっぱり私は腹芸なんて苦手かも。いや、それとも流石はトリニティの才媛って褒めるとこかな?」
”そ、そんな……。”
「騙してごめんね?先生。でもね、目の前で起こったことは受け入れなくちゃ。先生は正義の味方で、私はトリニティの裏切り者。黒幕登場って感じ?」
「それと、正義実現委員会は動かないよ。私が邪魔になりそうなものは事前に片付けておいたの。」
―――裏門を守っていた子も含めて、ね。
なんでもないかのように最後に付け足された言葉。それを聞いた補習授業部から戦意を削ぐには十分すぎる言葉だった。
「え、あ、サエカ、ちゃんが…?いいえ、ハッタリです!戦闘の音は聞こえていません。いくらミカさんでもそれは―――!」
「―――できると言ったら?」
「……ハナコ、大丈夫だ。サエカは強い。すぐにやられるとは思えない。」
「もぉ、信じてくれないなんてひどいなー。何なら
”ナギサをどうするつもり?”
「それは内緒♪」
サエカに何かあったというのは嘘ではないのだろう。その証拠にヒフミが先ほどから通信を試みているが状況は芳しくなさそうだ。どの程度怪我をしたかわからない以上、迂闊に行動する事は危険だと判断する。
”そっか。因みになんだけど、どうしてこんな事をしてしまったのか、理由を聞いてもいいかな?”
「こんなこと?理由がなければダメなのかな?んーまってね、理由…理由かぁ。」
「…ゲヘナが嫌いだから、かな?私はね、心の底からゲヘナが嫌いなの。」
「……だからエデン条約を取り消そうと?そのためだけにナギサさんを…?」
「”だけ”って言ってくれるよね。仲良くできると思う?あんな角の生えた野蛮人みたいな連中と握手なんて絶対にできない。―――そんな都合のいい夢物語なんてないんだよ。」
「だから同じゲヘナを憎む者として、アリウスの手を取った。ま、トリニティも嫌いだろうけど、大事な和解へのステップアップかな。」
あくまでも理由はシンプルであると主張する彼女だが、私は少しばかり違和感を覚える。
先日会話をした時、平和を願うような発言をしていた。ここまで感情豊かであり、表情がころころと変わる少女が、このような乱暴な事をおくびにも出さずに実行できるのだろうか。
それに理由を聞いた際。クーデター紛いな事をして理由がスラスラと出てこないのも引っかかる。
なにか、ミカがここまでの事をやらざるを得ない目的があるはず。なんだ?何を見落としている?
「さて、おしゃべりはここまでにしよっか。あとはナギちゃんだけだけだから、あなた達の事は見逃しても良かったんだけど……邪魔するなら仕方ないよね?」
「……あとはナギサさんだけ…。一つ聞かせてください。セイアちゃんを襲撃するよう指示したのはミカさん、貴女の指示だったのですか?」
「お喋りはここまでに、ってさっき言ったばっかりなんだけどなぁ。アイスブレイクも過ぎればグダグダになるだけだけど…その質問には答えてあげる。セイアちゃん襲撃の指示を出したのは私。これで満足?」
―――違和感。まただ。おそらくだがこの違和感の正体が、今回の騒動もとい、ミカの語らない本心が絡んでいるのだと思う。
だがそれを探ろうにも、すでにミカは話す気はないようで、静めていた覇気がまた纏われる。
「先生、もう話は聞いてくれそうにない。私が彼女の相手をするから、皆で他のアリウスを何とか抑えてほしい。」
「ま、待ってください!アズサちゃん!先ほどの覇気は正義実現委員会のツルギさんと同等の圧を感じました!一人では危険です!」
確かに一人で相手をするのは危険だと私も思う。確かに日々荒事に追われているヒナやツルギ、ネルといった各学園の所謂「特級」と呼ばれる生徒と違い、彼女の立場もあってか極端に情報が少ない。だが、私でも感じる彼女たち特級の通ずる圧倒的な圧。それは生物としての格の違いを嫌でも感じるほどの絶対的な差。私程度なら銃を使わないでも、文字通り指先ひとつで殺せるだろう。
それに、先日のサエカのタックルを不意打ちで貰ったはずなのに、「痛い」で済ませた圧倒的なタフネス。彼女が弱いと判断するには圧倒的に情報が弱すぎた。
それ故の一人で相手をするにはあまりにも危険であるという、至極まっとうな答え。
だが悲しきかな、私たちの前に立ち塞がっているのはミカ一人ではない。他のアリウスの生徒が動かないという保証は一切ないのだ。ミカを相手にしても圧倒的な「個」の力で蹂躙され、アリウスの生徒を相手にすれば、圧倒的な「量」で圧殺される。つまりは”詰み”だと。
だからこそ、アズサはまだ少しでも可能性のある両面戦闘を選択した。どちらか片方を野放しにしないために。でも私としてはそんな自己犠牲の様な作戦は好きじゃないな。君たちにはもっと自由に学生生活を謳歌してもらいたい。
チラリとコートの内側に光る”カード”が目に入る。……だめだ。確かにこれを使えば、現状悪い方向に向きつつある流れは変えられるだろう。だが対峙しているのは同じく教え導かねばならない「生徒」なのだ。いかに強力であっても、いや強力だからこそ、生徒に向けるわけにはいかない。
「確かに危険だと思う。だけどこの状況は私の責任でもある。それに、誰かが抑えないと駄目な事には変わりない。」
「ですがっ!」
なおも言い募るハナコだったが、ミカが間に入る。
「作戦会議はおしまい?じゃあ、アリウスの君たちはあっちで戦っててね。巻き込んじゃ悪いしさ☆あ、それと先生は絶対傷つけないでね。あとが面倒だから、さ!」
「ぐっ!?」
言い終わると同時、凄まじい速度でミカがアズサに接近してパンチを繰り出す。
だが、私には辛うじて見えた程度の攻撃に、アズサはしっかりと反応して受け流すことに成功していた。だが―――。
「アズサちゃん!?」
叫ぶヒフミに釣られ、受け流すことに成功していたアズサへ視線を戻す。
確かに受け流すことには成功していた―――が、ダメージを受けないわけではなかった。
ミカの拳を受け流したはずの左腕は一瞬で青黒く変色し、みるみる腫れあがっていった。
それはまるでダンプカーに轢かれて受け身を取っただけのような、儚い抵抗の様で。
「今の一撃でダウンさせるつもりだったんだけどなー。変に抵抗すると痛いだけだよ?諦めなって。」
「……このくらいは何ともない。それに私は諦めない。諦めたら試合終了だよって、先生が言ってた気がする。」
それ多分私じゃない先生だと思うな。
そしてさらに加速するミカとアズサの攻防。ミカは様子見しているのか、銃を使わない接近のみを用いて攻撃を仕掛ける。それに対して、アズサは上手く攻撃をさばき、距離を取りつつ、なりふり構わない様子で爆弾を投げまくり、要所要所で必殺の一撃を叩き込む。
だが対峙しているのはミカだけではない。そちらに対処するため、私は視線を補習授業部へと戻す。
「うう、なんでよぉ…こんなのってないよ…あんまりじゃない……!」
「コハルちゃん……私たちだけ座ってみているわけにはいきません!もう少しだけ頑張りましょう…!ハナコちゃん、想定まであとどのくらいかわかりますか!?」
この圧倒的な戦況に、心の折れかかったコハルが半泣きになる。どうして、どうしてと年相応に言葉をこぼすが、ヒフミたち同様、下は向かず、まだ前を向いていた。
そこにハナから増援部隊は予想の範囲内で、あとは時間稼ぎが目的だったヒフミは、その逆転の一手に賭け、作戦立案者のハナコへ問う。
「……時間ではもうそろそろのはずですが…ここまで時間の経過が遅く感じたのは初めてです。何とか間に合ってくれれば―――。」
やはりハナコも現状は苦しいと判断し、ヒフミ同様に逆転の一手、今作戦のジョーカーに希望を見出す。予定時間も過ぎているのに現れない切り札たる
…どうやらハナコは賭けに勝ったようだ。
「トリニティの生徒が一部、こちらに向かってきています!」
「…なんで?ティーパーティーの戒厳令を無視するグループなんていないはず……。」
アリウスの生徒が報告を上げると、それが聞こえていたのか、ミカがアズサを吹き飛ばして不思議そうに聞き返す。
だが、これこそが私たちが待っていた報告だった。
「いますよ。ティーパーティーにも命令できない、独立的な集団が。」
「これは……大聖堂からです!」
「シスター…フッド……!?」
「私が呼ばせていただきました。……勿論、それなりのお約束をして、ですが。」
「ふぅん、これがあなた達の切り札って事?ちょっと面倒だけど、どうせホストになったら掃除しようと思ってたし。うん、丁度いいかな?」
「…………。」
此方の切り札がシスターフッドだと知って、意外そうな表情をするミカ。
だがそれは、あくまでも意表を突かれた、程度の感情であり、まったく脅威に感じていないようにも見えた。どれだけの人員が来るかわからないから余裕そうな表情を取っている?それとも……。
打てる策はすべて打った。予想外は数多くあれど概ね想定道理に動いてはいる。だけどなんだ?これだけやってもまだ
しばらくして、体育館の壁が爆破され、近くにいたアリウス生徒が吹き飛ばされる。
その煙の中から今作戦の切り札たる協力者、シスターフッドがぞろぞろと姿を現した。
「けほっこほっ。きょ、今日も平和と安寧が、皆さんと共にありますように…。」
「お、お邪魔します…。」
「シスターフッド、これまでの習慣に反することではありますが、ティーパーティーの内紛に介入させていただきます。」
シスターフッドが現れたことで完全に戦闘がストップする。この隙に吹き飛ばされて負傷したアズサの元へ駆け寄り、治療を行い騒ぐコハル。どうやら一人で危ない真似をしたことにご立腹なようで、泣きながら罵倒し、それでも丁寧な治療をするという気様な事をやっていた。
この戦力差。如何にアズサを軽くあしらったミカと言えど、本気でやり合えばただでは済まない。
だが、これだけの人数を見ても狼狽え、多少の乱れがあるアリウスの生徒とは逆に、なんでもないかのように鼻を鳴らすだけだった。
「うっうぅ…危ないことしちゃダメでしょ!?怪我ですまなかったら…どうするの!?」
「うぐぅ…ごめん…。」
「形勢逆転です、ミカさん。もはや争いは無用です、降伏してください。」
「…どこが逆転してるの?寧ろ
「……あくまで戦うことをやめないというのですか?この状況での勝算がどれくらいか、分からない貴女ではないですよね?」
「…………………。」
少女は瞑目する。今の置かれた状況、自身の目的を今一度考える。
最初の動機は何だっただろうか。そうだ、サエカちゃんと初めて会ったあの日、彼女の謎を突き止めて、少しでもセイアちゃんと仲良くしてほしい、そう思ってアリウスの事を調べ始めたことがきっかけだったと思う。
まだセイアと知り合う前、同じティーパーティー候補と噂されている子の様子が変という噂を聞いて、興味本位で見に行った事があった。
噂の生徒は、私よりも小柄で、クラスの中で孤立していたのが見えて、つい話しかけてしまった。
だが、こちらに振り向いた生徒の目は、世界に絶望し、無力な自分を呪うどす黒い諦観と悲哀の目。それがひどく気になった。
その生徒は話しかけても無視、とまではいかないが実に淡白な受け答えしかしない。当然、今よりもお転婆で我儘な気質の強いミカにとっては面白いものではなく。
だから頭では悪いとは知りつつも、彼女のつけている日記。今にも死にそうな顔をしているのに、その日記だけは律儀につけていたのが気になって、勝手に開いてしまった。
そして知る。少女の絶望を。怒りを。
当然、勝手に開いたことがバレ、酷く罵られてしまったが、あまりにも可哀想だと同情してしまったのだ。それゆえに思った。力になりたいと。
同情的な意味合いは強い上、若干の罪悪感もあったと思う。だがミカの行動原理は
最初の経緯はどうであれ、”友達を助けたい”。それは変わっていない。だからこそ着手した調査の中で知ってしまう。アリウスの増悪、トリニティの歴史の闇を。
だから思った。青臭い子供だから故に。目に入る全てを助けたい、そう思うのは彼女の優しさ故か、はたまた傲慢故か。
しかしアリウスを助けようにも、その出自のせいでトリニティの闇に触れたくない保守派の二人を説得することは難しかった。特に政治や根回し、言葉の伝え方が得意でないミカならなおさらだ。
だからこそ、強硬策に出る。直接話のテーブルにつけば、分かってくれるのではないか、と。
そのために深夜のアポなしで接触できるように、持てる権限を駆使して機会を計らった。
思えばこれが失敗だったのかもしれない。少女はアリウスの憎悪を見誤ったのだ。
対話する事が出来れば、どちらも分かってくれると。しかし傲慢なお嬢様は知らない。
対話とは、
結果、アリウスはこの機会を好機と捉え、アズサではない別の誰かが無防備なセイアを襲ったのだ。
自分の考えた穴だらけの作戦のせいで、親友が死んでしまった。折角妹が見つかって、それまで物調面だったどこか放っておけない彼女が笑うようになったのに。
―――他ならぬ自身のせいで。
少女は呪った。浅はかな自分自身を強く。助けるつもりが、殺害してしまった愚かさを。
少女は知った。世界の残酷さを。その穢れを。アリウスの長年募らせていた憎しみを。
少女は察した。親友がアリウスとの関係は慎重になるべきといった意味を。
少女は思った。親友の命は無駄にしないと。ここで止まってしまえば、意味もなくただ親友を亡き者にした”魔女”になると。
故に。
せめて、アリウスとの和解は成し遂げて見せる。それが今、罪深い自身にできる最大の贖罪であり、使命だと。
ならば目の前の障害は、試練なのかもしれない。己が”魔女”か”聖女”かを決める。
正直なところ、先ほどの言葉は嘘ではなかった。
サエカに初めて会ってからというもの、
彼女に会うまでの私なら、恐らく勝算は高くなかっただろう。それこそ死に物狂いにでもならなければ。
だが今は手加減できる余裕がある。怪我はさせても殺すことはないだろう。
―――もうこれ以上犠牲は出さない。
だからさっさと終わらせて、アリウスがナギサに何かをする前に回収する。それだけだ。
せめて一瞬で意識を刈り取ろう―――そう思い、神秘の覇気を開放する。だがそれと同時、外から自分と同等、またはそれ以上の”力”を感じた。
即座に同格との戦闘を予見する。本能が危険と判断するも、ここで止まるわけにはいかないと気を高めるが、体育館に現れたのは、ツルギではなく、自身が卑怯だとは思いつつも、不意打ちで無力化したはずの少女だった―――。