シャーレの決戦兵器   作:わんぱくフォックスですまない

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第52話 えっ、代償?

アリウス襲撃事件から1週間。私はトリニティから離れて、シャーレで溜まっていた仕事を一人黙々と処理していた。

当初の目的であった補習授業部の合格。そしてその邪魔をしてきたナギサさんからも、正式な謝罪もあり、皆が元の生活に戻ったことで大団円になる…かと思われた。

 

確かに一部の生徒たちは何も知らず、いつも通りの生活を送っているだろう。しかし事件を起こした首謀者たる聖園ミカ、襲撃を実行したアリウス生、間接的に事件を助長したセイアはその限りではなかった。

 

具体的な処罰は保留であるものの、ミカは重要参考人保護という名目で地下の檻に軟禁され、彼女に付き従っていたアリウスの生徒らも武装を取り上げられたのち、シスターフッドと正義実現委員会の監視の下で決して自由とは言えない生活を送っていた。

 

そして姉であり、ミカの暴走を始めるきっかけとなってしまった百合園セイアは、仕方なかったとはいえ連絡や責任の放棄が問題視され、今回の騒動の責任を取って、一時的処置としてミカの処遇が決定するまでの間、ホスト権限を凍結するという審判が下った。勿論、この結果になったのは自身が決めた事であるのだが。

 

それによって、ティーパーティーが一度に2人分も席が空いてしまい、残された桐藤ナギサは学園の維持としてティーパーティー業務、今回の騒動の後始末とエデン条約の進行というブラック労働の連邦生徒会もびっくりな業務量が課せられることとなった。

 

この事から、今回の騒動に関わった首脳陣3名が3名共、種類や重さは違えど一様に罰を受けるといういわば喧嘩両成敗という結果に。これにはその優秀さと、当事者という理由で後始末に忙殺されているハナコや、学園外ではあるがエデン条約を直接取り仕切っているゲヘナ側のヒナ、またその2校に対して条約を提案したことが今回の事件のきっかけであると、責任追及された代行のリンもまた頭を抱える事となった。

 

勿論、セイアと同じく黙秘を続けており、直接被害にあったのにもかかわらず報告を上げなかったサエカも、罰としてエデン条約調印のその日までトリニティの敷地に入ることが禁止されている。

その為、先生の側にいることが出来ず、泣く泣くシャーレの業務で一人寂しく様々な学園に赴き仕事をしていた。*1

余談だが同じく外部に連絡を取らなかったミネは、セイアの言もあり医療行為と生命の優先という業務を優先したとして問題視はされず、普段通りの生活に戻っている。

 

 

 

「うあ゛ぁ~、疲れたもぉぉん!」

 

「しょうがないでしょ、色々失敗してしまったら責任は取らなきゃ。」

 

「そうだね、でもその失敗こそが良くなるためのチャンスでもあるんだ。何事も捉え方次第さ。」

 

 

 

場所はミレニアム。今回の騒動でトリニティ…厳密にはエデン条約に関わることが出来なくなり。ゲヘナも含めた2校に立ち入ることも係わることが出来なくなっていた。

そのため今はエデン条約と何のかかわりのないミレニアムで、愛銃のメンテナンスがてら本来の当番生徒であるユウカと一緒に仕事をしていたのだ。

 

 

「そうは言ってもですね、ウタハさん…先生が変な事してないかだとか、偏った食事をとっていないかだとか、トリニティの悪辣さに精神がやられていないかだとか、心配することは山ほどあるんですよ……。」

 

「前半の二つはともかく、先生だって立派な大人だろう?その程度はうまく捌くさ。」

 

「そうね、あんなのでも、た、頼りがいはあるし…きっと心配するようなことにはなっていないわ!あ、でもトリニティの物価って高いから無駄遣いしてないかは心配かも…。」

 

「ユウカはユウカで何を心配しているんだい…?さて、サエカ。メンテナンスは完了したよ。それにしてもすごい技術力と発想力だ。これは私も負けてられないね。」

 

 

 

騒動前に黒服に改造してもらったプチカタストロフ。メインの機構事態に変わりはないが、やはり無理に使ったからか消耗が激しくマイスターであるウタハにメンテナンスしてもらっていたのだ。

本来は黒服に頼むのが筋ではあるのだが、彼はあくまで研究者であって技術者ではない。

そのうえ一応は先生や生徒と敵対している身であるため、万が一にでも接触している姿を知られるリスクは避けたかったのだ。

 

だからこそ現状接触可能で、サエカの知りうる最高の技術者に頼っている。サエカ自身としてはなんだか両者に義理を欠いていると感じて後ろめたいのだが、当のウタハはなんのその。寧ろ新しい知見が得られて表面上は冷静なふりをしていても内心は飛び上がるほど上機嫌だったりした。

勿論かわい後輩に頼られて事も、上機嫌の原因となっているのだが。

 

しかしそんな彼女でも、カートリッジサイズに落としたバッテリーの小型化はすぐには出来ず、手元の黒服製バッテリーは量産することが出来なかった。なので現状としては咄嗟の場合はカートリッジ、余裕のある時はバッテリーの再装着というハイブリットとなっている。

 

 

「改めて見てもすさまじいわね…。あの莫大な予算をつぎ込んだ、アリスちゃんのレールガンの元にした武器でしょ?維持費凄まじそうね…。」

 

「うん、まぁそうだね。こうやって涼しい顔でメンテナンスしているけど、サエカも随分無茶しているなと感じるよ。レールガンの方はこの辺のことを考慮して整備しやすく、かつあまりお金がかからないように設計してあるんだけどね。」

 

「うーん、確かに先生とかが維持費を見たら卒倒しそうですけど、お金は使いきれないほどあるので…。それにお金をケチっていざという時結果を出せないなんて、考えたくもないですからね。」

 

 

 

そう。実はこの武器はあり得ないほど金がかかる。最初の頃は1発いくらとか計算していたけど、今は感覚がバグって考える事はやめている。そもそもの設計者が研究のために頭のねじが飛んだような金額をドバドバと注ぐ変態だ。そのお金の出所は分からないが、金銭感覚の狂ったやつが作ったことは明白。であれば渡される装備も維持費の事を考えている筈もなく。もしシャーレの出費に入れるなら9割はメンテナンス費用と記されるだろう。勿論面倒なので先生には報告していない。

 

そんな金銭感覚の狂った武器を使って、トリガハッピーできるのは偏に姉の存在があるからである。両親や家の事は知らないが、私が行方不明であった期間も一切変わらず、私の口座には毎月生活費が振り込まれていることに気が付いたのはちょっと前の事だった。流石お嬢様。

 

 

「金額に関してはサエカもトリニティのお嬢様だ。何とか出来るくらいの財力はあるのだろうと察しはつくよ。けど私が言っているのは、ここまでお金をかけて整備しなければならないほど、普段から無茶をしていることを気にかけているんだ。」

 

「そんなに無茶をしているの?」

 

「ああ、うん。この銃の素材と出力から計算して、普通に使った場合のメンテナンス時期は凡そ算出できる。だけどその計算から周期があまりにもずれていてね。サエカ、仕事上無茶することは仕方ないかもしれないけどしっかり休むんだよ。人は一度壊れたら機械の様にはすぐ直らないからね。」

 

「そうね。サエカが無茶することで悲しむ人がいる。それは忘れないで。もし助けて欲しい時はもっと気軽に私たちでも周りの人でも構わないから頼りなさいよ?サエカが頼ってくれないと私たちも頼り辛いんだから。」

 

「ありがたきお言葉―。」

 

「ふんわりしてるわね……。っと、こっちも終わったわ。サエカはこの後どうするの?ゲーム開発部にでも寄って行ったりする?あの子たちサエカと打ち上げ出来なかったからもう一度やるんだーって待ってるわよ?」

 

「んんー…気持ちは嬉しいですけど次はアビドスに行かねばならぬゆえー…。」

 

「まっ、そうよね。あの子たちにはうまく言っておくから、無茶だけはしない事!」

 

「無茶しないようにというのは同意だが、もし出るのなら早くした方がいいだろうね。ここミレニアムには君の事が好きすぎる輩が多すぎる。メイド部や特異現象捜査部の彼女に捕まらないようにね。」

 

「感謝ぁ~。」

 

 

 

 

こうして私はシャーレの仕事を終え、帰路につく。勿論、帰り道に勘の鋭いアスナさんや、ヒマリさんに命じられたエイミさん等がいたが上手く逃げおおせることに成功したのだった。

 

 

 


 

 

 

そして先生欠乏症に耐え、やっとの思いでエデン条約調印の日。

こんな日でも不必要に生徒を刺激しないよう、式のギリギリまで合流が許されていなかった。

この判断を下したのは他ならぬ先生自身であり、この時の私はまだ先生が公正に私を裁いただけだと思っていたのだった。

私は補習授業部の打ち上げの後、すぐに先生に処分を言い渡されたせいで泣く泣くシャーレへと戻った。そのせいでこの1週間。トリニティの世論がどうなっているかなど知る由もなく。

 

この日、先生が言っていた「不必要に生徒を刺激しない為」と言った意味を知るのだった。

それこそが問題解決のためとはいえ、軽率に自身を犠牲にした私に対する罰になって執行される。

 

 

 

―――ねぇ…あれ、バケモノじゃない……?

 

 

最初に聞こえたのはそんな呟き。確かに今までも不良の生徒に似たようなことを言われることもあった。だが周りの生徒はそんな二つ名的な意味で言う訳もなく。

 

 

―――ホントだ…死にぞこないだ…。

 

―――まじあり得ない。

 

―――人の形したバケモノと同じ空気吸いたくない。

 

―――あんなのは人間じゃない。

 

―――死ねばよかったのに。

 

―――人間が生き返るわけない。

 

―――あれは妹の皮を被った生物と表現するのもおぞましい何か。

 

―――セイア様も可哀そう。

 

 

 

様々な角度から聞こえてくる侮蔑の声。ここに来て先生が私をトリニティから遠ざけた理由を理解したのだった。

 

ただでさえトリニティの生徒たちは、大嫌いなゲヘナと手をつなぐ今日この日が嫌いな生徒も多く、また日頃のストレスが溜まっていることもあり、目の前をとぼとぼ歩く「人でない何か」は格好の的になったのだ。

 

少女たちは口々に叫ぶ。化け物と。人が相手でなければ法律は適応されないと。

ティーパーティーという、自分たちではどうにもならない相手に鬱憤を晴らすことは出来ない。

だが人でなしであれば?人権というものがないバケモノであれば?少女たちのブレーキは今この瞬間に意味をなくした。人は正義という大義を得た時が、最も残酷になれるのだ。

 

 

 

「いたっ…!」

 

 

突如どこからか石が投げられる。そしてそれは下を向いて歩いていた少女の頭部に当たり、血を流す。通常、石を投げられた程度であれば、いかにキヴォトスの平均以下の防御力であるサエカとて、出血には至らない。だがこの時のサエカは1週間の疲労と精神的ショックでより物理ダメージを通しやすくなっていた。

 

周囲から浴びせられる罵声と悪意。前世の生きた記憶がある彼女とて、中身はまだ子供。寧ろその生涯の殆どをベットで過ごしたために悪意を知っていても、こうも直接言葉と暴力を向けられる経験が少なかったためにより精神にダメージを与える。

 

そして人間心理とは恐ろしいもので、一人のブレーキが壊れれば、その周囲も波にのまれエスカレートする。結果この場に蛮行を止める者はおらず、波紋のように広がった悪意はついに言葉ではなく投石に変わった。

 

 

 

(痛い…痛い……!そっか先生はこうなるって分かって…!そう、だよね…私の体の事だから忘れてたけど、普通は死んだら生き返らないよね…。)

 

 

ひたすら投げられる暴言と迫害の投石。そんな暴威に晒されて身を守るため蹲る小さな少女。

世間は祝いのイベントの如く扱う最中、その少女の中では後悔と恨みが蓄積し、先生が、アビドスの生徒が、ゲーム開発部やミレニアムの生徒、そして補習授業部が育んでようやく芽が出たサエカの人としての感情は急速に死んでいく。

 

そして感情のままに傷つける少女たちは、人生経験の少なさから知らない。

 

―――人であれ動物であれバケモノであれ。イジメ続ければ牙をむくのだと。

 

 

しかし幸か不幸か。彼女たちが痛みでもってその愚かな行為の代償を学ぶことはなかった。

 

 

 

「お前ら、何をしているんだ!?」

 

「そこの生徒、賓客に何をしてるっすか!?」

 

 

 

大声と共に現れたのは風紀委員会と正義実現委員会。どうやら入り口付近で騒いでいるのを巡回警備中に発見し、解決するため介入してきたようであった。

石を投げていた生徒達も、風紀委員会はともかく正義実現委員会と事を構えるつもりはないようで、捕まる前に散り散りに去っていくことで事なきを得る。

 

奇しくも普段交わることの無い二つの治安部隊が、幼き少女を助けることによって今回のエデン条約が平和のために調印されるのだと、偶然近くにいたリポーターがこの事を発信したことでより強固に支持されることとなった。

 

 

 

「お前……怪我がひどいな。なんだってこんなことに…。」

 

「貴女は…風紀委員会のイオリさんでしたか?申し訳ないっす、今はトリニティにおいてサエカさんの扱いは少々複雑でして…この事を危惧した私たちが警護に来たのですが間に合わず…。」

 

「おい、謝るのは私にじゃないだろ。何でもいい、まずは治療だ。えっと…仲正イチカで合ってるか?もし合ってるなら応援を呼んでくれ。あたしらの仲間じゃ迷子になる。」

 

「ごもっともっすね。サエカさん、意識はありますか?今から救護騎士団の所へ治療に向かうっすよ。その後先生にも正式に謝罪しに伺うっす。」

 

「ご…ご迷惑を……おかけします…。」

 

 

 

その後何とか救護騎士団へ運び込まれ、*2治療を受けて暫し。報告を受けた先生がノックもせず突入してきた。

 

 

”サエカっ…!無事……じゃないよねごめん。私が迎えに行くべきだった…。”

 

「先生……女の子の部屋にはノック位するものですよ…それにこれは罰です。私がした事への。だから気にしないでください。理解してますから…先生が私をトリニティから追い出した理由。」

 

”ごめんね…あの時既に様子を見に来ていた生徒たちに君の事を気味悪がる生徒が結構いてね……私の力では守り切ることが出来なかったんだ。”

 

「分かってますって。私ももう少ししたら動けますので、私に構わず先に出席準備をしてください。先生までわたしの側で油を売っていたら、私に石を投げてきた生徒が余計な勘繰りするかもしれませんから…。もし、先生に石を投げられたら私……きっと我慢できません。」

 

”でも……いや、わかったよ。サエカも無理はしなくていい。出席する義務はないからゆっくり休んでいて。”

 

「ふふ、先生は優しいですね…そんな先生が私は大好きですよ。だから先生、早く治すために頑張った私にハグしてください。」

 

”うん……うん?”

 

「隙ありです。」

 

 

この時私は後で後悔する気がしながら、フリーズした先生にそのまま抱き着く。

先生もまんざらでもないのか、子供の戯言だと思ったのか分からないが素直に応じて抱きしめ返してくれる。そんな役得に、これなら石を投げられた甲斐もあるものだと、口に出せば怒られそうな事を考えながら暫く抱き着いてその匂いを堪能するのだった。

 

そしてそんな安心できる幸せに身を置いて、疲れた身体が我慢できるはずもなく。

私はそのまま安らかに眠ってしまうのだった。

 

 

*1
尚これは先生の下した判断で、それを聞いたセイアは血の涙を流したという。

*2
風紀、正実延べ15人でサエカと装備全般を輸送




石投げで気絶すれば中のサエカ降臨。エデン条約はミサイル前にBAD END
その場合先生は怪我しないし、ゲヘナシナシナシロモップは爆誕しない。
先生が撃たれないのでサオリの精神的トラウマも発生しない。騒動に紛れてアリウスは来るけど原作程被害は与えられない。ほぼ万全の半覚醒サエカ、ヒナ、ツルギ、脱走したトリニティピンクゴリラが相手になるため。

結果だけ見ればハッピーエンド。しかし石投げした生徒は死ぬし、報道もされるので詰み。
黄金戦士裁判長にゴリラの脳が焼かれないし、ペロキチのブルアカ宣言もないし色んなフラグを踏めないので後で詰む。


???「本当はハグじゃなくてキスしたかった。でも流れるように避けられた。ぴえん。」
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