「は…?ショック…なんだって?」
「ええ。ですからショック療法です。」
記憶の復元。その為のショック療法だと?いやいや、言いたいことは分かる。だが少し待って欲しい。
先ほどのテレポートのような技術に、テクスチャなどというキヴォトスの心髄を知っているかのような発言をしてどのような超技術で妹を復活させるのかと思えば、ここに来てえらく原始的になっている。……実話私が過度に警戒しているだけでこの大人たちは意外と大したことがないのか?
そんな些か間抜けな思考をしていると、それが表情に出ていたようで黒服が説明を再開する。
―――もっとも、その内容はロクでもない物には変わりなかったのだが。
「クク…、そのように警戒なさらないでください。何も漫画やアニメのような創作物の様に、頭を物理的に叩いて思い出させようと言う訳ではありませんから。」
「な、なんだ。驚かさないで欲しいね。今からどれだけどつきまわされるのかと戦々恐々としてしまったじゃないか。」
”だとしても何をするつもりだ?どのようなやり方であれ強制させるつもりはないぞ。”
「他に手早く記憶を戻す手立てがあるのならばそれもいいだろう。だが忘れるな、シャーレの先生よ。これには明確なタイムリミットがあると。」
「マエストロの言う通りです。貴方は常に最良の結果に手を伸ばし続けている。無論それを否定するつもりはありません。―――ですが。」
内容はいまだ不明の中、予想される荒治療に内心怯える私を庇い、生徒を守る意思を見せる先生。
だが”タイムリミット”という言葉にどうしても強く出られず、勢いを削がれ二の足を踏む。
そんな先生に対し思うところがあったのか、まるでおどける様子もなく、真剣な声色で忠告を送る。まるでそれが自身で経験し、悔やみきれないほどの失敗と後悔をしてきたかのように。
「最良だけを求めるのであれば、その逆も想定するべきでしょう。■■■■■■さんを戻せず、セイアさんも傷つき、キヴォトスは外部からの脅威に備えられず滅ぶ。そんな未来を。」
”―――っ!!”
「…ぶつかり合い、より良い方法を模索するのは勝手だが…、そなたは早計が過ぎる。そう活きるのは方法を聞いてからでも遅くないと思うが。」
”それは…!―――すまない。少し頭に血が上った。”
指摘されたことに納得し、遺恨こそ残るがそれは私怨であると理解し再度ソファーに座り直す。
この日何度声を荒げたか分からない程、先生の情緒の波は乱高下を繰り返すが、その理由を本人が知ることは今は無い。他ならぬ黒服だからこそ、その存在を認めたくないからこその激しい感情の発露であると。
そんな彼を見て、セイアは少しばかり嬉しく思う。自身のために、またその大切な妹のために普段温厚で理知的な彼がここまで声を張り上げている。そんなちょっとした欲求が内に渦巻くがセイアもまたそれを自覚することは無かった。
「ショック療法…そう先ほど伝えましたが、勿論物理的なものではありません。記憶というものは肉体と魂に刻まれたモノで衝撃によって回復するものではありませんからね。」
「じゃあ…。」
「お察しの通り、精神的に、です。」
ほう、つまり私の精神に揺さ振りをかける、そういうことだね?…え、いや待って欲しいそれはそれで何をされるか分からないという未知の恐怖があるね…。今から殴りますと言われれば歯を食いしばることも出来ようが、これからトラウマを作ります、そう言われて対処などできるものか。
攻めて自己暗示的な物であれば嬉しいが…。
「調べたところ、キヴォトスの中のデータには貴女の妹の情報は一切ありません。ですが唯一…キヴォトスの世界や技術によらない彼女のデータを私共は持っています。」
「なっ、それは本当かい!?」
「ええ、勿論。そう焦らずともお見せしましょう。ですが警告します。これこそがショック療法の要であり、貴方方の精神を壊すものです。故に問いましょう―――」
「あなたは彼女のスティグマを共に背負えますか?」
これまで以上に真剣に、また適当な返答は許さないという強い意志でもって私を見つめ、言葉を投げかける。いつの間にか彼の右手に握られていたそれ。一般的なUSBメモリーのそれだが、この時ばかりはその中身がミサイルを撃つための発射コードのように見えた。
「見るも自由、見ないも自由です。そこはセイアさん、貴女の意思を尊重しましょう。」
「…意地が悪いね、君は。どうせ返事はハイかYESしかないだろうに。私が私の大切を取り戻す事のどこに躊躇う必要があると思うんだい?」
「お言葉ですがセイアさん。貴女は理解しているつもりでもまるで理解していません。以前までの貴女であればこのような問答などする暇もなく、私の手からこのメモリーカードを奪っていたでしょう。今の貴女は漠然と家族だから大切、そう思っていませんか?本来の貴女が■■■さんに抱いているのは大切という気持ちではなく最早依存。その違いをよく理解したうえで検討してください。」
「だとしても道は一つだと思うがね。進むも止まるも引き返すも私の匙加減。一々進むのに大それた覚悟など必要としていては大成は無しえないと思うががどうだろうか。」
中途半端な速度で歩いていては穴を飛び越えることが出来ず、下に落ちてしまうだろう。同じ怪我をするのであれば穴に落ちるよりも、走って転び、擦りむいた方がいい。その時はまた立ち上がれるのだから。
時には歩くより―――まず走れだ。そう何処かの天才発明家も言っていた気がする。
その精神で黒服を正面から見据えるが、肝心の彼はそれを笑うでも諭すでもなく、ただ―――只々冷静にその真意を読み取ろうと動かない。
だがそれも長くは続かず、その突発的に発生した視線バトルは黒服が先に折れたことで進んだ。
「わかりました、こちらをどうぞ。…ですが持ち帰らないでください。」
「それは―――どうしてだい?」
「単純にそれの中身は理解していなくても、見る者全ての精神を病ませるに足る特級呪物ともいえる物です。日頃からシャーレに無断で侵入されたり、盗聴されたり、ハッキングされるザルさに定評のある先生では危険でしょう。」
まさか。シャーレとはあの連邦生徒会長が作った肝いりの今や連邦生徒会に次ぐキヴォトスの最重要機関だ。そんな場所に身を置く先生が情報の管理を甘くしているわけもなく、またセキュリティを甘くしているなどあり得ない。そう思い否定してほしくて先生の顔を見やると、肝心の彼は明後日の方向を見ていた。…嘘であってほしい。
「そうでなくてもコレの中身がセイアさんにどれほどの影響を与えるか未知数。先生にとっては業腹かもしれませんが、少しでも対処が可能な人間がいた方がよろしいかと。」
「それならしょうがないね。私の覚悟が揺るがないうちに始めてしまおう。」
”セイア…。”
「おや、先生は反対なのかい?……その気持ちは嬉しいけどね、信用とは別に彼らの言う事は尤もだ。タイムリミットというのがどれほど正確な情報かは不明だけど、一度その可能性を提示されてしまえば情報を持たない私達ではどうやってもその可能性を捨てきれないだろうね。」
―――それに気になるじゃないか。私が依存するほど愛した妹というのも。
”……それならこれ以上は止めないよ。でも危険だと思ったら介入するからね。”
それでいい。元よりこちら側は情報を持たざる者。物事の決定権においてその有無は決定権を握るに等しいものだ。……つまり最初から選択肢なんてないんだ。
最後に先生が引き下がったことで黒服は了承を得たと認識し、そのメモリーカードを自身のPCに差し込み応接間の大きなディスプレイにその画面を映す。最初こそ真っ暗だったそれだが、時間が進むごとに黒服が特級呪物を言い表したのを理解できる内容であった。
薄暗く、特に特徴的な物体もない固定されたカメラ映像。しばらくそのままだった映像はどこからか少女の泣き叫ぶ声が響き渡ってきた。それと同時、大人のものと思われる女性の声も。
その大人の女性と思われる声の主は、心底失望し、終始イラついているかのような声色でテキストを読み上げ、大きくため息をつく。
『はぁ。全く役に立たないクズばかり。予言の大天使を手に入れたかと思えば紛い物だとは。使えない。』
『…しかし、ただ捨てるのも勿体ないでしょう。ならば別の実験に…。』
『わ、私をどうするつもりですか!?帰してください!』
『…先に言っておきましょう。ピーピーと囀って私の機嫌を損なうことはお前の寿命を縮めるだけです。面倒ですから精々従順でいて欲しいですね。』
『ヒィ…!』
『まったく。すぐにでも実験をするつもりでしたのに、使い道を考える時間が必要になるとは。―――サオリ。』
『は、はい!』
『このガキの面倒を暫くあなた達で見なさい。』
『りょ、了解しました。』
『な、やめて!触らないで!帰して!やめてよ!!』
『大人しくしろ!悪いようにはしない!』
そのまま少女の抵抗と叫び声だけが響き渡るが、鈍い音と共に聞こえなくなる。映像には終始誰も映らなかったが、音声だけのものでも黒服が所有していたUSBがどういったものなのか理解できないも者はこの場にはいなかった。
勿論映像はそれだけで終わる事は無かった。最初のほぼ音声データのような物だけであれば、趣味が悪い、ただそれだけで済ます事が出来る程度のもの。真の邪悪はこれからであった。
『内容も決まったことですし、今日から記録していきましょう。』
映し出されるのは最初と変わらず薄暗い部屋。しかし最初と異なる点がひとつ。
ごてごてとした何らかの装置と思われる機械や、それに接続された手術台を彷彿とさせる人一人が横たわる事の出来る台が映っていた。
そしてそんな見るからに良い気配のしない台に、手足を拘束される人物がうめき声をあげ、必死に逃れようと抵抗する金髪の少女。それこそが失われてしまった幼少の百合園サエカその人であった。
そんな一つまみの良心でもあれば心を痛めてしまう現場に、まるで少女の抵抗を楽しんでいるかと錯覚するほど愉快そうな声で撮影を続行する。
『廃棄するでも、アリウスの雑兵に組み込むでも構いませんが、それでは
『まずは当初の予定通り、”人工天使計画”をそのまま試しましょう。保有する神秘の質や総量が影響するのか…確かめさせてもらいます。ふふ、出来るだけ耐えなさい。それがあなたの存在意義なのですから。』
画面の奥の女は暴れる少女を抑え込み、そのやせ細った腕に一本の注射を刺す。
注射された内容物の正体は不明だが、それでも良くない物であるという事は素人目でもわかるうえ、その反応は早く、さして間も置かぬうちに予想が現実のものとなる。
『あ゛ぅ!?おあああ゛ああうううう!!!』
注射を受けた少女は突如暴れ出し、苦しみに喘ぐ。その様子は明らかに生物として常軌を逸した反応であり、生命を脅かしうるものであると理解できる。
そんな少女を見て、隣に座っている先生が拳を固くして画面の奥の少女と同じように、何かを堪え律しているのが伝わってきた。
―――ここまで来てようやく私は己の過ちを悟る。
精神に作用しうるものであり、多少ショッキングな映像はあるだろうと覚悟を持って進んだつもりだった。だが現実はそんな私のちっぽけな覚悟など蹴り飛ばすかのように残酷で、非道であった。
『あああぁあ゛あぁぁああ…ぁ…う……。』
『ふん、分かってはいましたがこれほどまで脆弱だとは。一つでこれでは多少の小細工では無理ですね…百合園セイアを手に入れられなかったことが悔やまれます。』
『サオリ、いるのでしょう。言いつけを守らず覗いていたことは今回だけ不問にします。代わりにそこのゴミを片付けなさい。』
『…は、はい…。ありがとうございます…。』
装置から外されて涙や鼻水、吐瀉物といったもはや何かすら分からない液体を撒き散らした少女をサオリと呼ばれた黒髪の少女が背負い、運び出していく映像が映る。
その少女は誰の目から見てももはや生命の兆候すら見られず、文字通り
『…………ぁ……ぅ…。』
『!?お前、まだ生きて…っ!?マ、マダム!』
『おや?あれでまだ生きているとは悪運の強いゴミですね。では少しずつ濃度を上げて行けば…いえ、別のアプローチを探しましょう。サオリ、あなたへの命令も変更します。それを殺してはなりません。わかりましたね?』
『わ、分かりました…。』
それを最後に暗転する映像。恐らく録画を止めたのだろう、真っ黒な画面に反射する私達の顔は今まで見たことが無い程に酷い顔をしていた。
すると隣に座っていた先生が我慢の限界であると言わんばかりに立ち上がり、ツカツカと黒服の座るソファーへと歩き、その胸ぐらを掴み上げる。
”お前たちは命を…命を何だと思っている…?”
「落ち着いてください、先生。私達はこの録画が行われている時点では”彼女”の実験の事は一切知らされていません。」
”ならこの外道はどこにいる。”
「…それこそ少し頭を冷やすべきだ、シャーレの先生よ。彼女は我々ゲマトリアの中でもっとも直接戦闘力に秀でている存在だ。学がないとはいえ、アリウス自治区の子供たちをその身一つで制圧し、統治している…。これが何を意味するのか、分からぬほど愚かではあるまい…。」
「それにこの映像は過去のものです。今貴方が憤っても過去は変えられません。」
静かに掴んだ手を放す先生。その表情は彼の後方からは確認できなかったが、後悔と自責、そして己の力不足を呪っているように見えた。
しかしそれは先生に限った話ではなく、私―――百合園セイアも映像を、最も愛した妹の姿を見てしまったために失われた記憶取り戻しつつある故に、静かに、ゆっくりとその精神に異常をきたす。
「あれが…私の妹…で…私が本来負う筈であった…苦痛だと…そう、言うのか…!?」
「…ええ。画面の奥に映る少女は正真正銘、貴女の妹である■■■■■■さんです。」
私は心が折れそうになる。まるで「次はお前の番だ」、そう世界に告げられているような気がして恐怖と罪悪感に押しつぶされそうになって。
だが世界は心が折れても許さないとばかりに、容赦なく絶望を私に押し付ける。それを罪から逃れた罰だと言わんばかりに。
映像はなおも止まらず再生を続け、暗転した画面は再度薄暗い光を放ち、動画の進行を意味するシークバーだけが動き続ける。それを私達は次にどのような絶望を脳に焼き付けるのか、罪悪感故に目をそらせずにいた。そして始まる命の尊厳など紙くず程の価値しかないとばかりに嘲笑う、邪悪そのものの真実の過去が。
『今度はアプローチを変えてみます。お前が器として未成熟なのであれば、その器を此方で補強してから進めましょう。幸い、”材料”には困っていませんから。』
『うー!!!ううー!!!』
『むぐー!!んー!!』
『んー!!んうぅー!!!』
画面の奥で円を描くように配置された自由のない少女たち。そんな彼女たちは皆一様に大きな怪我をしており、苦しそうにしながらも必死に抗っていた。
だが命を弄ぶ邪悪はそんな様子も意に介さず、只々何らかの準備を進めており、そこにこれから起こる惨劇も、結果として齎される己の成果も己の目的のための踏み台にすぎず、何の感情も見せずに進める。
最後に配置の微調整と様々な確認を済まし、中央に意識のない狐耳の少女―――私の妹を安置し、何らかの機構を作動させた。
『あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!??』
『ん゛ん゛ん゛ー!!??』
『いぎあ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛!!??』
円を描くように光が少女たちの身体を駆けると同時、尋常ではない苦しみ方をし、その身を捩り、あらん限りの悲鳴を上げる。
そんな耳に残る悲鳴を聞くこと数十秒。次々に事切れたかのようにぐったりと大人しくなり、最後の一人が静かになると同時、今度は中央の妹が苦しみだした。
『あ゛あ゛っ!?うぐ…あ゛…あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』
苦しみ、絶叫を上げながらその場でのたうち回る少女に、声も上がらない。
少女の身体はやがて赤いスパークを発し始め、その口からは吐血をする。次々と起こる出血や身体の破壊。それらを身体から発せられるスパークが治し、また破壊を繰り返す。
正しく破壊と再生を繰り返す少女は、この世のものと思えないほどの憎しみと怨嗟の籠った表情で此方を見ていた気がした。
まるでこちらを責めているかのように、溢れる負の感情をぶつけられている錯覚に陥り思わず目を背けるが、地獄の業火はそんな生ぬるい逃避を許しはしない。
『…うるさいですね、まったく。百合園セイア、あれさえ手に入れればこのような面倒は無かったというのに。……本当に忌々しい。』
『あ゛あ゛あ゛!お、ね゛ぇ゛ち゛ゃ゛っ!!た゛、すけ、い゛い゛い゛い゛!!!い゛た゛いいい!!ゆるし゛って゛くた゛っ!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』
「………!!!」
突如画面の奥から呼ばれる悲痛な叫びに、思わず背けていた視線を戻してしまう。
そこに映し出されていたのは、もはや人としての原形の留めない肉の塊。それが此方に必死に手を伸ばし、「たすけて、お姉ちゃん、たすけて。」そう叫び苦しそうにもがく姿があった。
―――私はこの記憶を一生、死ぬまで忘れる事は無いだろう。
いや、死して尚も忘れないであろう強烈な憎しみの感情。それを自覚した瞬間、あらゆる記憶が脳内を駆け巡り、さらに憎しみの怨嗟を加速させ―――大事な何かにヒビが入る。
「…む、これは……黒服!」
「ええ、分かっています!!先生、危ないので下がってください!」
”ぐっ…!!”
突如去来するは怨恨と喪失感。こんな大事な事を何故忘れていたのだという自己否定と、こんな理不尽を強いる世界への怒り。
己を焦がさんばかりの復讐の炎が、大天使の翼を黒く染め上げ反転していく。
―――この感覚は覚えがある。私の妹がトリニティに来て、私の部屋でお泊りした日。
あの日も己の罪悪感から現れた破滅願望と消魂の念から同じ感覚を味わった。
その時はどうしただろうか。そうだ、愛しの妹が大事を阻止してくれたのだったね。
だけど今は―――。
外部から聞こえる声を私は意識の外側へ追い出し、己の殻へ籠る事で全てを投げ出す。そうすれば楽になる、そう思ったから。
だが
「ピィー!!!」
突如浮遊感と鈍痛が体を襲う。それが体当たりを食らって倒れたのだと理解するのは時間がかかった。そんな倒れた私の額の上でけたたましく鳴く小さな影。花籠 沙華という私の妹と共生していた少女の成れの果て、黒のシマエナガだった。
彼女はその小さい身体でピィピィと叫び、飛び上がっては額めがけて自由落下を繰り返し何かを訴えている。ダメージ自体はまるでない平時であれば微笑ましい行動は、私の意識を現実に戻すのには十分であり、負の感情の意識が削がれていく。
「おお…、おお!何と美しい!まさかそのような姿で根源もなく力を行使するとは…!素晴らしい、称賛の意を示そう…!」
「まさかこのような事が可能だとは…クク…クックック…!!これも全て掌、ということでしょうか?」
”セイアッ!!”
何やら騒がしい外野に目を白黒させていると急に先生が私を抱き起し、そのまま強く抱きしめる。
”もういいっ…!もう苦しまないでほしい…!!もう、やめよう…。”
その様子から私を慮っての事だと理解する。だが私は…私は思い出した。全てを。
そして受け止めねばならない。己の罪を。
「………すべて、思い出したよ…先生。」
”………!!”
「私は大罪人さ。3年も必死に探し回って、いざ戻ってきたら束の間の幸せを噛みしめ、失われた3年の事を理解しようともせずにどこかで避けていた。実に臆病で馬鹿らしい。」
私は俯いたまま、彼の顔を見ることなく続ける。
「私の妹の名前は百合園サエカ。私の罪であり、向き合わねばならない相手の名前でもある。」
不意に頬へ伝う感触がする。しかしそれを流す権利など今の私にはないだろう。それでも私の感情は抑制が効かず、オーバーフローを起こし溢れた。
「…ごめんなさい……、サエカ…。」
先生役立たず♡
今回はここまでですが3年の間にもっと吐き気を催す邪悪を味わってます。それは気が向けば何れ。