side先生
「セリカちゃん退院おめでとー。」
「おかえり。」
「寂しかったですよー☆」
「おかえりなさい!無理しちゃだめですからね!」
「た、ただいま……それと、ありがと。」
拉致襲撃事件より2日、軽症であったセリカは検査入院という形で入院していた。
無理をしたという足にはまだ痛々しい包帯がまかれているが、傷口はもう殆ど塞がっているらしい。
個人的にはJKの奇麗な足に傷が入ってしまったというのは遺憾である。セリカの足はアビドス天然遺産なのだ。傷が残らないことを祈ろう。
”セリカ、お帰り。心配したから無事でよかったよ。それと、ありがとうね。”
「べつに…借りを借りっぱなしなのは嫌だっただけよ…むしろ私の方が大きく助けられちゃったからまだ返しきれてないっていうか…。」
この2日間サエカの意識は戻っていない。命の危機からは脱したようだがいつ意識が戻るのかは本人次第とのことだった。
セリカは毎日自分の病室から抜け出し、サエカのベットの横で看てくれていた。
事情を聴くにサエカはセリカを突き飛ばしロケランの奇襲から身を挺して守ってくれたそう。
その結果があれなので酷く落ち込んでいた。どこかで折り合いをつけてくれればと思うがサエカが起きるまでは難しいだろう。思いつめすぎて倒れないとよいのだが。
”大丈夫だよ。サエカは強い子だからね。そのうちへらへらとした顔で出てくるよ。”
”それに、そんな時暗い顔していたら、サエカも気にしてしまうと思うからあまり思いつめないようにね。”
「そうね…そうよね。なら戻ってきたときに楽しみにしていた紫関ラーメン!浴びるほど食べさせてやるんだから!」
サービスサービスゥ♪と言いたげなセリカに対し、そういえば私が飯テロしたせいで後でお仕置するようなこと言ってたなぁ。あれ時効にならないかな?大将がすべてを忘れさせるくらいの絶品ラーメンを作ってくれることに賭けよう。
”じゃあセリカも来たことだし事件の報告を始めるね”
”今回の襲撃は不可解なことが幾つかある。まず一つ目だけどセリカ、というよりアビドスの生徒を攫うよう指示した何者かがいるということ。”
”二つ目。襲撃時に直接手を下したヘルメット団…に似たグループについて。救出作戦の時に全員ヴァルキューレが捕縛し、事後処理と取り調べをしたんだけど全員実行犯のヘルメット団が誰なのかわからないそうなんだ。口裏を合わせたかのように同じ証言をしているようでね。”
”そして三つ目。これには特に警戒してほしい。セリカの証言で実行犯は1発しかないと発言していた、サエカを一撃で行動不能にしたロケットランチャー。これの弾頭の残骸を解析したところ、キヴォトスにある既存の技術ではない、どこか全く別の解析不能な造りをしていたそうなんだ。”
”一体だれが何のために、どこで作ったのか、ほかの武機種もあるのか、量産が可能なのか。何もわかっていない。”
”これを踏まえ頑丈なキヴォトスの生徒に一撃で致命傷、ないしは殺害が可能である武器が存在するとして、事態を重く見た連邦生徒会はヴァルキューレと共同で注意喚起、流通の確認をする運びとなった。”
”尚、この件について他学園、特に3大校は協力は惜しまないそうだ。それだけ今回使われた正体不明の武器の脅威度が高いとわかる。”
”とりあえず現状浮き彫りになった不明点はこんなところかな。ここまでで何か気になったこととかあるかな?”
「うーん、気になるっていうか、少し引っかかるのは、殺意の有無があったかどうかがおじさん的には違和感を思えるかなー。」
”参考までにどうしてそう思ったのか教えてくれるかな?”
「だってそうじゃーん?身代金目的にせよ、脅迫するにせよ、さ。生きていて初めて効果があるものだし。そんじょそこらのチンピラでしかないヘルメット団に、殺人なんていう禁忌を犯せる度胸があるとも思えないしねー。」
「つまりさ、こんなこと言うのもなんだけど
「危害を加えなかったのなら、なんで最初にそんな物騒なものを使ったの?って考えちゃってさー。だから使用者はもしかしたらよく知らないで撃ったんじゃないかな?だからって許せるわけではないけどねー?」
「たしかに…そう言われるとまったく意図が読めませんね……。」
「そういえば、今思い出したんだけど…あいつ等”マダムに何されるかわからない”みたいなこと言っていたわね…。」
”マダム?それがどんな人かはわからないけど、何か知ってるのは間違いなさそうだね。”
「頭がパンクしそう…。」
「シロコちゃんの頭から煙が出てますー!」
「うーん、確かに難しいよねー。おじさんも頭こんがらがってきちゃったよー。」
”そうだね。とりあえず一旦ここまでにして甘いものでも食べながら休憩しよっか。”
休憩を促し甘いお菓子を並べていく。甘いものに目がないJKが頭から煙が出るほど考えたのだ。糖分は必須だろう。私のお財布は少し軽くなったが許容範囲、次のガチャを我慢…気持ちちょっと我慢すればいいのだ!
「いやぁー、ちょっと悪ふざけが過ぎちゃっただけだから、怒らないでよーアヤネちゃーん。」
「怒ってませんから…」
小休憩後、いつもの対策委員会恒例会議が勃発。そして各々やれ銀行強盗やらマルチ商法やらでまともな意見が出ず、遂に進行役をかって出ていたアヤネが爆発…。
セリカのバイトに合わせて紫関ラーメンで遅めの昼食となった。
「あ…あのぅ……」
皆がおいしそうに麺を啜っている中、小さな声が入り口から聞こえる。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
「こ、このお店で一番安いメニューはおいくら、ですか…?」
「一番安いのは…580円の看板メニュー、紫関ラーメンです!おいしいですよ!」
「あ、ありがとうございます!」
そう、礼だけ述べて店を出―――3人新たに増え戻ってきた。
「やった!やっと見つかったね、600円以下のメニュー!」
「ふふっ、これも想定内よ。」
「はぁ……。」
「4名様ですね、席へご案内します。」
「あー大丈夫だよ、どうせ一杯しか頼まないからさ。あ、それと箸は4膳でよろしくね!」
一杯に対し4膳?鍋よろしく仲良くつつくのだろうか?微笑ましい―――と思ったらどうやら違うようだ。まだまだ育ち盛りの学生がお腹を空かせている。どうしたものかと頭をひねる。
あまり褒められたことではないが先生として聞き耳を立てると、今は仕事前でその準備に使ってしまっただけだという。本当にヤバそうなら助けようかと思ったが今は見守ろう。
「お待たせしました!紫関ラーメンです!熱いのでお気を付けください!」
どん!!
ラーメン一杯にしてはあまりにも重い音。明らかに1人前ではないラーメンの塔がそこにあった。
「こ、これ、10人前くらいあるように見えるけど…。」
「お、オーダーミスしてしまったでしょうか…!?払えるお金がありませんよぅ…!」
「あぁ、わりぃな。ちょっとばかし手元が狂って量が増えちまったが、気にしないでくれ。」
厨房の奥から顔をのぞかせ快活な声で笑う。”手元が狂った”なんてかっこよすぎる。あらやだ、同じ男なのに惚れそう。
4人ともその圧倒的な量と大将の人の良さに圧倒されながらも、せっかくの厚意を無駄にしないため口に運び三者三様に破顔する。そうそう。子供は笑ってなくちゃね。
「わ、すごいおいしい。」
「なかなかイケるねー!このクオリティにはなかなか出会えないよねー!」
「そうなんですよ~、ここのラーメンとってもおいしいので知ってもらえてうれしいです☆」
「あら?あなたたちは隣の席の…そうね、色々なものを今まで食べてきたけどここまでのものはなかなかお目にかかれない絶品よ!」
「(連中の制服…これは教えるべき?」
「(…おもしろいから放っておこ?)」
地元愛ゆえなのか、堪らず突撃して大将のラーメンを誉め殺す対策委員会の生徒たち。
なんていうか青春だね!目の保養にもなる。ごちそうさまです!*1
「おいしかったわ!あなたたちも学校の立て直し、頑張ってね!」
すっかり仲良くなった彼女たちと別れを惜しみながら今日は現地解散で帰路に就く。
今日はサエカのお見舞いに行った後、少し仕事を進めておこう。彼女が起きた時にやることが溜まっていたら悲しむだろうし、ここは大人パワーを見せつけ最近ダメダメなところばかり見せているからこういったところで、ポイントを稼いでおこう、なんて浅ましい考えをしつつ病院へと向かった。
翌日―――対策委員会の部室でいつものように会議をしていると索敵レーダーがアラートを鳴らす。
「っ!またあいつら!性懲りもなく!」
「いえ!今回はいつものカタカタヘルメット団ではありません!これは…傭兵?」
「傭兵?あれ結構高いはずだけどなー。ま、なんでもいいや。皆、いこっか。」
校舎の入り口前まで来るとテキパキと傭兵の子たちが襲撃の準備を整えていた。そしてその奥にはなんだか最近見たような気がする顔ぶれが見える。
「あ、あれれー、ラーメンの時の…」
「なんでよっ!無料で特盛にしたっていうのに、この恩知らず!」
「あっはは!その件はありがとね!おいしかったよ!でもそれはそれ、これはこれ。私達も仕事でね?」
「もう!学生ならもっと健全なアルバイトとかないんですか!それなのに便利屋だなんて!」
「あっアルバイトじゃないわ!これはれっきとしたビジネス!仕事なの!肩書だってしっかりあるんだから!」
そう言って肩書を並べていく。なんていうかその。ほぼ全員に企業で使うような肩書がつけられていたけど…うーん。
「…誰の差し金?裏に誰か…答えるわけないか。力づくで口を割らせたほうが早いか。」
「ふふふ、それは企業秘密、よ。総員!攻撃開始!!」
sideカヨコ
アビドスの連中に発砲を始める傭兵たち。数の差は圧倒的にこちらが有利だけどアドバンテージは圧倒的にアビドス側にあるとみていいだろう。
社長は今回の仕事を張り切っていたのに、アビドス側の事情を軽く知ってしまった。
恩を受けてそれに対し仇で返す。悪ぶってはいるけど根は善良で心を痛めているのはわかる。
いまだに踏ん切りがついていないのか指示も正確さに欠けるし速度も遅い。
対してあちら側は最近噂の”先生”がいる。その戦術指揮は異次元の高さで、圧倒的な数的不利を跳ね返していく。
…正直現状社長のモチベーション回復は期待できないだろう。社長には悪いけど、思考を襲撃から消耗をどれだけ少なく、被害を抑えて撤退するかに切り替える。
何よりアビドスの連中の闘志が少しおかしい。大切な校舎を守るためというのは勿論あるんだろうけどそれにしても、だ。虫の居所が悪いというかなんというか引っかかる。
特に黒髪の先日ラーメン屋でバイトをしていた生徒。確か名前は黒見セリカ。
彼女からは殺気のようなものまで感じる。実力的には戦況を動かすほどの脅威度はないけど、何かヤバい。ムツキもその殺気のようなものを感じ取っているらしく、戦いながらも必ず視界に入れるようにしてる。ハルカと社長はおそらく気が付いていない。ハルカは前線で戦っているとはいえ、恐ろしく頑丈な子だ。すぐにどうこうはならないだろう。だけど社長は打たれ強いわけじゃない。
ましてや今は精神的にも揺れている。
傭兵が一人、また一人と倒れていく。何かいい撤退の口実はないか。考えていると。
―――キーンコーンカーンコーン―――
「あ、定時だ。確かこの時間までだったよね。」
「撤収ー、私達はここまでの約束だからあとは頑張ってね。」
「帰りにそばでも食べてくー?」
―――しめた。これで撤退の口実ができる。
「なっ、ちょ、ちょっとまちなさい!」
「社長、今回は引こう。数的有利もなくなったし補給の関係でこっちが不利だと思う。」
「うっ、ぐぐ…今回はここまでにしてあげる!これで終わったと思わないことね!」
「あはは、アルちゃんそれ完全に3流のセリフじゃん、それ!」
「う、うるさいわね!……ハルカ!逃げ…撤退するわよ!!」
「あっちょっと待ちなさいよ!にげるなー!!」
後ろから怒声が聞こえるが情けないことに逃げに徹した私たちは中々しぶとい自信がある。
なんとかうまく撤退できそうだ。
あのアビドスのやけに高い士気は少し気になる。社長が今回の仕事を諦めてくれればそれが一番いいんだけど、恐らくそうもいかない。またどこかで関わることになるだろうという予感がある。
情報は多いに越したことはないからもう少しアビドスのことを調べよう。
そんなことを考えながら事務所まで逃げるのだった。