「―――ん、銀行を襲う。」
時間は半日ほどほどさかのぼる。
「先日襲撃をしてきた便利屋68なるグループの調査結果がまとまりましたので共有したいと思います。」
「まず、便利屋68は構成員のすべてがゲヘナ学園の生徒で、そのグループ名からもわかる通りどのような事でも金さえ払えば何でもやる、といったグループのようでした。」
「また、リーダーは赤髪の生徒、陸八魔アルという生徒で自称社長と名乗っているようです。」
「ゲヘナ学園では在校中の起業が原則禁止されており、それを行ったためゲヘナ学園においては要注意団体として指名手配されています。」
「これが簡単に調べられる範囲での素性のようです。」
「うーん、ゲヘナの生徒さんですよねー…仕事とは言っていましたけど、依頼主を教えてもらうことってできないんでしょうかー?」
「まーた黒幕がいるってやつなのね。ほんとその黒幕の目的が読めないわね。」
「ずいぶんとうちの学校潰すことに執着してるよねー。お金も沢山使ってさー。」
「そーいえばカタカタヘルメット団の装備、チンピラとは思えないほどいいもの使ってたよね、あれも黒幕が供与したものだったりするのかなー?」
「一応調べてはみたんですが、正規の流通、製造元を調べても情報なしでして…。」
「うへぇー、そうなると…」
「ブラックマーケットしかない。」
「なんでシロコ先輩ちょっと嬉しそうなのよ…。」
「じゃあもう少しで集金の時間だし、ついでにちょっと行って調べてみよっか。」
side先生
私の給料の何十ヵ月分という大金を乗せた車が走り去っていく。
ガチャ何回分になるんだろう…なんて俗なことを頭の隅に追いやる。
「あぁー行っちゃったねー。毎月のこととはいえきついよー。」
「でも振り込みでもよさそうなのに、どうして毎回現金のみでの対応なんでしょうね?」
「ん、考えてもわからない。早くブラックマーケットに行こう。」
”先生としてはあまり踏み入れてほしくないなぁ…”
アヤネにはサポートオペレーターとして校舎に残ってもらい、わくわく顔で先頭を歩くシロコに置いて行かれないようブラックマーケットに向かう。
「なんかだんだん治安の悪そうな雰囲気の街並みになってきたわね…。」
「それでも結構にぎわってる。小さな商店街だと思っていたけど、こんなに発展してるなんて。」
皆初めて来たのか、物珍しさに絶えず視線を彷徨わせる。
情報としては知っていたけど、正直ここまでの規模とは思っていなかった。連邦生徒会の管轄外の闇市場。違法なものからプレミア品まで。ここでは無い物をを探すほうが難しいかもしれないと錯覚してしまう。
ありとあらゆる人の欲が集った場所。それゆえに後ろ暗いものが多く危険な場所だ。
「ホシノ先輩はきたことある?」
「うんにゃ、初めてかなー。普段アビドスにばかりいるから、おじさんも学区外の事はへんちくりんなものが沢山あるって噂程度にしか知らないよー。」
「なんでもほかの場所にはアクアリウム?とかいうお魚が沢山見れる場所もあるんだとかー。いいよねお魚、刺身とか絶品だよー。」
”アクアリウムのお魚さんをそんな目で見ないで上げて…。”
早速情報収集のために武器屋を探そうと歩を進めたその時―――そう遠くない場所で銃声が聞こえた。
「やっぱここもあんまり治安良くないねー。どこの抗争かわからないし目を付けられないよう端に寄っていよっか?」
皆異論はないようで通路の端に寄ろうとする。が、それよりも早く―――
「う、うわああ、困ります!ついてこないでくださいー!」
「まてこら!にがすなー!」
いかにもな人たちから追いかけられている、少女が細い路地から飛び出し、こちらに突っ込んできた。
「わわっ、そこどいてくださいー!」
「えっちょっと!?」
うまくこちらの隙間を通り抜けることができずに少女はセリカとぶつかり互いに尻もちをつく。
そのため路地裏から出てきたスケバンに追いつかれ、巻き込まれが確定して対策委員会メンバーは何とも言えない表情をしていた…。
「おうおう、そいつの仲間かぁ?何処の奴らかは知らねぇが、そこのトリニティの制服着やつ。そいつをこっち寄越したら見逃してやるぜ?」
”この子が何かしてしまったのかな?よければ事情を教えてほしい。”
追われている経緯が不明なため、どちらか一方の味方をすることはできないと現状の説明を求めるが返ってきたのは私利私欲の言葉だった。
「あぁ?なんだてめーは…まぁいい、そいつはトリニティの制服を着ている。あそこは金持ちばかりのお嬢様学校だ。
おっと…その言葉はアビドス組にとって現在地雷だ。そんなこちらの内情を知らないスケバン達は高笑いをする。
「攫う?今、攫うって言った?」
「セリカちゃんステイ、ステイ。」
案の定…特にセリカが過剰反応を見せる。ホシノも形だけは止めているが、形だけだ。
ここまで来たら後の展開なんて決まっているようなものだろう。
「セリカちゃん、今だいけっゴーゴーゴー!」
「いわれなくても!ボコボコにしてやるから覚悟しなさい!!」
こうしてなし崩しに戦闘に入ったが結果は圧勝。あっけなくスケバンは制圧され道端に転がされた。セリカの一仕事終えた顔が妙にまぶしく感じる。途中から犬のように扱われていたのにそれでいいのかセリカさんや。
「あ、ありがとうございます!学園に迷惑がかかると、その、困るので助かりました…なんてお礼を言ったらいいか…。」
「学校を抜け出して無断でブラックマーケットに来ていた、なんて知られたら…想像しただけでも…あうぅ…。」
「あ、失礼しました。私はトリニティ総合学園の阿慈谷ヒフミっていいます!私は少し探し物をしにここに来ましたけど、皆さんも、何か探しものですか?」
「探し物、といえば探し物かもしれないけど…。」
「はっ!?まさか皆さんもペロロ様を!?ここにきてライバル出現ですか!?うう、でも助けてもらいましたし…いやでも…。」
「ペロロサマ?」
「はい!ペロロ様です!今回、100個限定でコラボ生産したグッツがここ、ブラックマーケットで取引されていると聞きました。えっと、ペロロ様というのは私のバックにある、可愛らしくもカッコいい鳥のマスコットキャラクターのことで―――」
突如爆発したように凄まじい早口で説明しだすヒフミ。ノノミは元々作品について知っていたのか途中途中で相打ちを入れている。一度見たら忘れないであろうデザインのマスコットは、どの角度から見てもなぜか目が合ってしまう錯覚に陥る。
他のアビドス組も話についていけず、皆困惑顔だ。
「そのペロロ様がラストシーンで―――ってあれ?ペロロ様を知らないってことは私の早とちりでしたか?」
「ん、そう。私達の探し物は情報。ヒフミはブラックマーケットは、はじめて?」
「い、いえ、何回かは…。」
「んー、じゃーさっき助けたお礼ってことで、ここの案内頼んじゃおっかなー?」
「えっええ!?うう、助けてもらったのは事実ですし…よろしくお願いします!」
「まずはここから離れましょう!マーケットガードが騒ぎに気付いて来るかもしれませんし!」
「(さっき話してる間に動けばよかったんじゃ…)」
シロコ、それ以上いけない。
「うへぇ、結構歩いたねー…おじさん膝がもう笑ってるよー。」
「おじさん…?何歳なのですか…?」
「ほぼ同年代よ…。」
あれからさらにブラックマーケットを半日歩き回る。ホシノの言葉は私の心情を代弁していた。
アビドスで遭難した時もそうだったけど私も体力が衰えたなぁ…年を取るっていやだね(泣)
「にしても…ここまで皆さんの求める情報がないのは少し引っかかりますね。」
「ここまで裏の情報がここまで出てこないとなると、誰かが意図的に隠ぺいしてる…そんな気がします。」
”というと?”
「はい。ここ、ブラックマーケットは普段市場に出回らないものから非合法なものまで、ありとあらゆるものが集まります。そしてそれは形あるものだけではなく情報も含まれます。」
「その表に出ないものを態々隠す場所でもないんです。むしろ違法な物でも堂々と取引することで”後ろめたいことはない”というある種の身の潔白を証明できる特殊な場所なんですよね。」
「なるほどですー!そうなってくるとその相手は”世間的に後ろめたいことをしているとバレたくない”組織、または個人に絞られていくかもってことですね!」
「そうなってくると敵は社会的立場があるってことね…。」
ますます陰謀みたいなのを感じる。理解不能の技術を使用し、それを使用する武力や人員、そしてそれを可能にする資金力、そのうえで情報戦にも長けているときた。それだけのリソースをアビドスに?メリットは何だ?敵もわからないうえ目的も不明。その脅威に晒され続けるのは今はまだ青春を謳歌するべき彼女たちには酷というもの。それは私のような大人がやるべきことだ。
彼女たちは好きに生き、学び、時に失敗し、それを糧にする。大人はその道を示して、時に叱り、その責任を取るのだ。
「なんだか歩き疲れちゃいましたし、そこのたい焼き屋さんで少し甘い物でも食べて休憩しませんか?」
「ん、賛成。」
「うへ、おじさん若くないけど確かに甘いものを身体が欲していたんだよー、アヤネちゃんの分はちゃんと買っていくからごめんねー?」
『い、いえ、私は私でお菓子をつまみながら通信してるので…』
「んー?先生どれ買うか悩んでるのー?おじさんが選んであげよっか?」
”ああ、うん、いやね、メニューに見たことないチョイスが多くて悩んでたんだ。王道を行こうか、冒険しようかで。”
「ん、じゃあ私はこんな機会めったにないし、冒険するね。チョコミントモンブラン一つ。」
”じゃあ私も冒険しようかな…梅干しおかかを一つお願いします”
「やめておきなさいよ…。」
それぞれ一つずつ購入し近くのベンチで休憩しながら一口。
「”おっふ”」
そこには冒険に失敗した哀れな人間が二人いた。
「だから言ったのに…。」
”なんていうか…おにぎりだけどおにぎりじゃない…お米が欲しいのにそのお米がいない…やたら甘いおにぎり食べてる気分。”
「んふっ、甘ったるいのにそうじゃないさわやかさの矛盾…たい焼きだと思って食べなければ…。」
2人そろって矛盾と物足りなさに苦しみ周りからはかわいそうな目で見られる。
子供たちよ、これが失敗から学ぶということだ…。
『みなさん!小規模ですが武装したグループの接近を確認しました!』
”巻き込まれないよう少し離れていよっか。”
私達はたい焼きを咥えながら物陰から観察する。武装したグループと一緒に数台の車が現れ銀行の駐車場で止まる。
「んにゃ?あれって…今朝の現金輸送車と受け取りに来る奴じゃない?」
「いわれてみれば…たしかに…。でもなぜカイザーローンの車がブラックマーケットの銀行に?」
「んっふ、んぐ。確かヒフミの話ではブラックマーケットの銀行は、犯罪を助長させる犯罪組織のようなもの。って話だったよね。」
「じゃあ毎回現金だけでの支払いを指定されていたのって私たちが返済していたお金は、すべて犯罪資金に回されてるってこと!?」
『まだそうハッキリと決まったわけではありませんし…証拠も足りません…。』
しばらくみな沈黙し沈痛な面持ちを浮かべる。それはそうだ。自分たちが汗水たらして稼いでいたお金がよりにもよって犯罪に使われているかもしれないなんて可能性が出てきたのだ。
見方によっては犯罪に加担していた。そう解釈することもできるのだ。
「証拠…さっきサインしていた書類とか手に入ればそれが証拠になりそうですけど…すでに銀行の中ですしどうにもなりませんよね…あの中はブラックマーケットの中でも特に警備が厳しいところですし。」
「―――うん。他に方法はないよ、ここは例の方法しか。」
「うへぇ、あれかー、あれしかないのかー。」
「まさか…。」
「え?冗談よね?」
シロコの顔が生き生きとして輝いている。まるで夢にまで見たチャンス、そう顔に書いてある。
恐らくだが彼女のやろうとしていることは本来、先生として以前に大人として、人として止めるべきだろう。だがここは連邦生徒会の管轄外。つまりは治外法権だ。それに重要な手掛かりになりうるものは銀行の中で、それを要求したところで出してはくれないだろう。
困った。彼女を止める理由がちょっと弱い。道徳的な話でしか止められない。
導き出される結論は―――
「あ、あのう…話が全く見えないんですけど、あの方法って何のことでしょう…?」
「残された道はたった一つ。」
「―――ん、銀行を襲う。」
「えっ。」
「だよね―、それしかないよねー。」
「ええ?」
「悪い奴らをやっつけちゃいましょう!」
「ちょちょちょっと、まってくださいいい!?」
「やるしかないのね…ならとことんやってやるわ!」
ちょちょちょ。成り行きというか状況的にその発想に至るのはすごい分かる。他に代替案なんてすぐ出せないし実行出来たら楽なんだけどなぁ。なんて子供を教え導く職に就いているものとして、あってはならない考えがよぎったは確かだからだ。
だが!バックの中にすでに目出し帽があるってのはどうゆうことだー!?しかも全員!
JKの荷物の中に絶対入ってないであろう物がメンバー全員のバックから出てくる。計画してたのか!?圧倒的確信犯!
「ごめん、ヒフミ。あなたの分の目出し帽がない。」
「うへー、これはバレたらトリニティのせいだって言うしかないねー?」
「ええっ!?そ、そんな!?」
「さすがにそれはヒフミさんが可哀そうなのでこちらを差し上げますね☆」
ヒフミの頭に先ほど買ったたい焼きの袋がかぶせられ5番の番号が書かれていく。
そして完成する圧倒的不審者グループ。私も何か被るべきだろうか。
「わ、私もいっしょにやるんですか!?」
「旅は道ずれ、世は情けって言うじゃない。それにあっちが悪いからやっつけるの!」
「うぅ…生徒会の皆さんに合わせる顔がありません…。」
「それじゃ先生、指揮をお願い。」
”じゃあ…銀行を襲うよ!”