「潰しちゃいますか」
『おっかないなぁおい』
「私の睡眠を妨げた罪は重い」
『罪状、睡眠妨害。判決、死刑』
「撲殺。執行猶予は与えない。5分以内に刑を執行する」
バリアジャケットを纏った私は包帯で包まれた拳を握りしめてそう宣言する。
リュウがデバイスとして性能を発現させたことで私も今まで持て余していた魔力を扱うことが出来るようになった。今はまだバリアジャケットの展開と魔力を使った身体強化しか使えないが筋肉程度の相手なら問題ない。身体強化は強化前の素の身体能力が高ければ高いほど発揮できる効果が大きくなる。つまり私が使うことで通常の魔導師が使う身体強化とは比べもののないほどの効果を発揮させることができるということだ。
今の私なら何でもできる、誰にも負けない、
「・・・・・私、もう何も怖くない」
『やめて!それは死亡フラグよ!』
冗談ですよ冗談。そもそも筋肉程度べつに怖くはないし。
筋肉の方を見てみると私の変化に戸惑って攻撃をためらっている。ここで突撃しないところを見ると意外と知能は高いっぽい。ジュエルシードの侵食率がまだあまり高くないのだろう。ここでへんな暴走でも起こされる前にさっさとけりをつけた方が良さそうだ。
なによりも私の安眠のために!明日も学校はあるんだ!
「じゃあいこうか。いけるねリュウ?」
『ああ。いつでもいけるぜ』
「オッケー。レディー、ゴー!」
私は筋肉に向かって全力で走る。先ほどまでとは比べものにならない速度だ。自分でも想像以上の速度が出たことに驚いた。それはもう速くて・・・・・・筋肉を通り過ぎちゃた。
「おおぉー、とっとー!?・・・ぐふぅっ!」
『・・・・・・なにやってんだよご主人ちゃん』
筋肉を通り過ぎた私は勢いを殺しきれずその先にあった金網のフェンスに突撃してしまった。直前でブレーキをかけようとしたせいで体が前方につんのめり、もろに顔面からダイブすることになった。その結果、ぶつかったフェンスが大きくひしゃげてしまった。仮にも軍のフェンスなのだから相当頑丈なはずなんだけど・・・・・思ってたより身体強化って凄いんだなあ。ぶつかった顔もちょっとヒリヒリするだけだし。
私は身体強化に感心しながらヒリヒリ痛む顔面をさすりながら筋肉の方に向き直る。すると筋肉が私のことを、何をしたかったんだ?みたいな顔で見ていた。恥ずかしい。
「うぅぅ、力加減間違えたぁ、恥かちぃ・・・・・」
『いきなり実戦で使うのはまずかったか?』
「大丈夫。今ので大体分かったから。同んなじ失敗はもうしない」
《無限の可能性》で習得した適性には出力調整というものがあるので一度魔法を使ってみれば自分の意思で自在に調節できるのだ。スキルがなくても時間さえかければ誰でも出来る技術なので習得は簡単だった。
私は脚力にかかった強化を数段階下げる。もともと速度では筋肉に勝っていたので問題はない。
「それじゃ気を取り直して、ゴー!」
出力調整を使っているので先ほどのような失敗はない。
こんどこそちゃんと自分のイメージ通りの速度で筋肉に肉迫する。それを見た筋肉は私を迎え撃とうとするが私は一瞬だけギアを上げることで筋肉の背後に回り込み、拳を突き出した体勢の隙だらけな脇腹にフックを叩き込む。呻き声をあげた筋肉の体が横向きのくの字に曲がる。
おお、すごっ!ちょと浮いたよ。
「どんどんいくよー!」
『フルボッコだどん』
「ううゔうゔゔっっ!!」
体勢を立て直し反撃を仕掛けようとする筋肉。だが残念、速さが足りない(ドヤ)
筋肉の攻撃は私を捉えることなく空を切り、私の攻撃がゴスゴスと筋肉に入る。私はボクシングの適性も習得してあるので最小限の動きで最大限のダメージを与えるパンチを放つことが出来る。これを習得するために一ヶ月もボクシングジムに通った。あの時初めてジムを訪れた時私がトレーナーにボクシングを教えてほしいと言ったらとても驚かれた。最初は止められたけど一ヶ月たって私がジムを去る時には、私が男だったらと惜しんでいたっけ。
まあ何が言いたいのかと言うと私のボクシングの腕は性別を惜しまれる程だということだ。さらに今は身体強化がかかっている。今なら世界チャンピオンだってワンパン出来る。
「はっ、ほっ、でやっ!」
『脇を閉じてえぐりこむようにっ』
「打つべし!」
結構ノリノリな私たち。
血生臭い戦いはあんまり好きじゃないけどスポーツとしてやる分には嫌いじゃないんだよね。身体能力が上がってから体動かすのは結構好きだし。相手がジュエルシードの暴走体とはいえ人型だからいまいち気分は良くなかったけど、こうやって殴ってるとなんだがちょっと楽しくなってきたかも。・・・・・これはちょっと危ない?
いやぁ、的が大きいから面白いように入るんだよね。もはや筋肉はサンドバックです。
「あはっ☆ハンバーグにしてやんよ」
『ご主人ちゃーん、戻ってこーい。その笑顔でそのセリフは怖いぜ』
おっと危ない危ない。危うく危ない人になるとこだった。
自分で思ってたよりも私はストレスが溜まっていたようだ。まぁ体が幼児で精神が大人というのは何かとストレスが溜まる場面が多いので仕方ないかも。
でも肉を打つ感覚って、ちょっと・・・・・
「はあはあ、・・・・・快感」
『だめだ、こいつ早く何とかしないと』
「ゔゔゔぅぅぅ」
ふふっ、これからはずっと私のターン。ワンサイドゲームだよ。
「ゔゔゔぅゔゔぅゔ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
反撃をする力を失った筋肉にここぞとばかりにラッシュを叩き込む。そしてついに限界がきたようで筋肉が膝を着く。
お、ちょうどいいところに顎が。
「歯ぁ」
『食いしばれや!』
「ゔゔぅっ!・・・・・ぅぅ」
私のとどめと言わんばかりに全力を込めたアッパーが虚ろな目で項垂れている筋肉の顎にクリーンヒット。筋肉は白目を剥いて仰向けに倒れる。顎を撃ち抜いた時私の拳に何か硬いものが砕ける感触が伝わってきた。どうやら骨を砕いたみたいだ。・・・・・あれ?これって素体になってる見回りのお兄さん大丈夫なのかな?筋肉相手ならどうということはないけど、見回りのお兄さんにまで怪我させたとなると流石に申しわけない。彼はただの被害者なのに。
「と、そういうことは後で考えるとして・・・・・これどうしよっか?」
『まあジュエルシードの封印?』
まあそうなるよね、ノックアウトしたとはいえまだ見回りのお兄さんは取り込まれたままだし。
「それで?解析したデータには封印魔法の術式入ってた?」
『入っちゃいたけど、ご主人ちゃんには使えないっぽいな。技術的面じゃなくて魔力量の問題で』
「はぁ、魔力かぁ。それは今すぐどうにか出来るような問題じゃないね」
いくらチートみたいなスキルを持っていてもこれはどうしようもない。リュウの話によると封印魔法は封印する対象の保有している魔力量によって必要な魔力の量が変わるらしい。今回のジュエルシードは言ってしまえば魔力の塊、それを封印しようとするならばそれに対抗、抑え込むことができるだけの魔力を使わなければいけない。リュウ曰くミソッカス魔力の私ではジュエルシードを完全に封印することは難しい。それ考えるとやっぱなのはちゃんぱない。
封印が不可能となればもう残った選択肢は一つしかない。
「ジュエルシードの破壊、か」
『それが妥当だな。多分ご主人ちゃんの魔力全部使えば可能なはずだぜ。いざとなれば奥の手を使えばいい』
「はぁ、しょうがないか。これの落とし主、えーと、ユーノ君だったっけ?彼には悪いけどそれしか方法はないしね。リュウ、全魔力を私の右手に回して。バリアジャケットの維持に使ってる分も含めて全部」
『あいよ』
私の指示にリュウが答えるとバリアジャケットが光の粒子となって消えた。その粒子が私の右手に集まり魔力光の光が輝きを増す。これで私の全魔力が右手に集中したことになる。だけど集めて見て改めて思ったけど、私の魔力って本当少ない。これだけ集めてもなのはちゃんの砲撃一発分の魔力にもとどいてない。・・・・・・いやなのはちゃんを引き合いに出すのがいけないんだ。ユーノ君も大層驚いてたし、地球出身なら私くらいあれば十分なはず。ほとんどの人がリンカーコアすら持っていないわけだしね。
「じゃ、まずは見回りのお兄さんとジュエルシードを切り離さないとね。どうすればいいリュウ?」
『全力全開の魔力攻撃で排出されるはずだ。一応非殺傷設定になってっけどあれは物理的なもんには効果がないからな、やり過ぎんなよご主人ちゃん』
「分かってる分かってる。そんじゃいっちょ、闘魂注入しますか」
私は倒れて動かない筋肉の上に馬乗りになって魔力が収束した右手を筋肉の顔を狙って構える。
拳はグーではなくパー。つまり張り手の型。今私がやろうとしているのはあの伝説の赤タオルが得意とする伝家の宝刀!い○きさん、私に力をっ!
「元気があればなんでも出来るー(しゃくれ)」
『1,2,3』
「だー!」
闘・魂・注・入
気合の掛け声もともに右手を振り下ろす。
私の全力全開のビンタがバシィィィッという音を響かせ筋肉の頬に炸裂する。普通の人がくられば首がエクソシストごっこしたみたいになる威力が篭った一撃は筋肉の頬に真っ赤な紅葉を咲かせ、込められた魔力が体内のジュエルシードを外に弾き出させる。
ジュエルシードが排出されたことで筋肉との繋がりが絶たれ、その姿がムキムキマッチョメンからジュエルシードに取り込まれる前の見回りのお兄さんに変わる。・・・・・よかったぁ、顎砕けてなくて。紅葉は咲いてるけど。
私は見回りのお兄さんの無事を確認してホッとした後、筋肉から飛び出したジュエルシードをビンタに使った右手で掴んで握りしめる。その際魔力を右手全体からジュエルシードを包むようなかたちに変える。ジュエルシードから溢れ出す魔力を外に漏らさないためだ。
ぐっ、思ってたより抵抗が強いしっ、てか手のひら凄く痛いんですけど!?
「いたたたたたたたたっ!裂けてる、これ絶対裂けてるん!」
『諦めるなご主人ちゃん!諦めたら、そこで試合終了ですよ』
「離して試合終了できるんだったらしたいよ!うぐぅ、ちくしょう、何で私がこんなことしなきゃいけないんだ!いでででで」
うわぁ、指の隙間から血が出てるしっ、私治癒魔法とか使えないのに。私の身体はちょっと特別製だから自然治癒力も普通の人より高い。これくらいだったら多分2日もあれば完治すると思う。だが痛いものは痛い!
スポーツとか格闘技で多少の怪我はつきものだったけど、この痛みは慣れるタイプの痛みはじゃない!魔力がこもってるからなんか内側の方にもダメージがいってるし!
てかこのままだと痛みで手の感覚が鈍りそう。
「くぅ、嘆いててもどうしようもないか。すぅ・・・・・ふんっ!」
私は手の突き刺さるような痛みを振り切って一瞬に全力をこめる。無茶苦茶痛かったけど無理したかいがあってジュエルシードにピシッとヒビが入った。よしっこれならいけるってヤバッ!?
「ちょっ!?なんか抵抗が増したんですけど!?あだだだだただた!」
洒落なんない、これはちょっと洒落なんないから!
さっきまで手の出血、ポタポタってかんじだったけど、今ダラダラーってなってる!
これ今手離したら絶賛ヤバイ、ここいら全部吹っ飛ぶ!無論私の家もっ!
今家には絶賛大人の運動会中のパパンとママンがっ。そんな状態で両親を死なせるわけにはいかない!
「くっそぉ、いい加減に、潰れろぉぉぉぉおお!!」
ーーーーーーーパリンッ
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・やっと、終わった」
『お疲れさん、ご主人ちゃん』
リュウが労いの言葉をかけてくれたけどそれを返す余裕は今の私にはない。全魔力と体力を根こそぎ持っていかれたから正直立っているのもキツイ。手も痛いし。持ち前の治療能力で血は止まってはいるみたいだけど。
その手を見てみると粉々に砕けたジュエルシードが握られている。先ほどまで溢れ出していた膨大な魔力も今は落ち着いている。ジュエルシードの破片にはまだ結構な魔力が残っているのでそこらへんに捨てることは出来ないので、私が保管するしかないだろう。まあこの状態なら暴走することはないだろうから大丈夫なはず。てか私の血で濡れてちょっと不気味なんだけど。手の治療しなきゃなぁ。
『まあお疲れのところ悪いけどご主人ちゃん。まだやること残ってるぜ』
「あぁー、しんど。早く帰って寝たいのにぃ」
やることって見回りのお兄さんのことだよね。確かにこのままにしておくわけにはいかないか。
一応たいした怪我はないみたいだから目立たないところに寝かせとけばいいかな。てかこの人のことはこれでいいとしてこのボコボコの地面とか歪んだフェンスとかどうしたらいいんだろう。下手したらテロかなんかだと思われるんじゃないだろうから。仮にも軍施設だし。
「・・・・・・・うん逃げよう」
『この状況で見つかったらいくらご主人ちゃんでもただじゃ帰してくれないだろうな。最悪スパイ容疑であんなことやこんなこと・・・・・』
「あの同人誌みたいに?」
ネタで言っただけで読んだことはないけどね。
ま、というわけで逃げるように帰宅する私たち。帰ってみると両親は今だに運動会の真っ最中だった・・・・・・・そろそろクライマックスかなー。私がこんなに苦労してる中で二人だけお楽しみだと考えたらなんかちょっとイラっとした。だからわざと音を立てて部屋の前を歩いてやった。中からテンパってる気配を感じで少しだけスッキリする私だった。
それじゃ、おやすみなさい。どうせ作るなら私は妹を所望します。
・・・・・・・・あ、怪我のことなんて言おう