La Légende de Étoile de la Seine.
“Les Étoiles de la Seine et les espions de Paris”
À la vaille de la Révolution française, Simone, une belle fille qui aété élevée comme fille d`un magasin de fleurs, s`est appelée L`Étoile de la Seine et s`est battue avec épée.
Mais je ne savais pas du tout que j`étais la soeur de la reine Marie-Antoinete.
朝6時
教会の鐘の音が響き渡ると同時に朝陽が昇った。パリに朝が来たのだ。
シテ島はそんなパリの中心部にある一番の最古の街区で、長さ五百トワーズ(約一キロ)しかない島だ。そんなシテ島にある花屋フロリステ・ド・ロランの前にロバが牽く荷馬車が着いた。手綱を握るのは少年ダントン。そして隣に座るのはこの花屋の若き美しい女主人シモーヌだ。シモーヌとダントンは中央市場レ・アルで生花や鉢物を仕入れてきたのである。
二人は荷馬車を降りると、慣れた手つきで花卉類を店に運び込む。その後シモーヌは花の根元をハサミで切って用意されていた水が入った桶に入れていく。ダントンはロバのタンタンを店の裏に連れて行き、車を片付けるが、その後彼も花の根切り、鉢花への水やりなどを行うのだ。
その頃、店の前にはゴネス(パリの北三リュー“約12キロ”にある町)のパン屋達が三日分のパンを届けに現れ、シモーヌは前掛けで手を拭いたあと、外に出た。そして道具を持って職場へ向かう職人達と挨拶を交すのだ。二階にあるシモーヌの寝室では梟のコロが寝息を立てている。そしてベッドの上には、濃紺のレオタード、青いベレー帽、裏地が赤い黒のマントが脱ぎ散らされ、床には剣と真紅の仮面が落ちていた。
朝7時
桶に入れた花々を店に並べ、一段落ついたシモーヌは路を行き交う水売りや牛乳売りに声をかけ、飲料水、牛乳を買い求める。パリには公設の給水泉があるにはあるが、数が少なくて手入れも行き届かないので、人々は川の水や水売りを頼りにするのである。水売りは二つの桶を一杯にして店の奥へと運んでくれた。
「ありがとう」
代金を払うとき、シモーヌは優しい声をかける。
牛乳売りの女は銅製の壺を頭に載せ、
「牛乳売りだよ、いかが、早くしないと売り切れるよ」
と声をあげながらシテ島をはじめ、パリの街を売り歩く牛乳売りの女達にもシモーヌは優しく話しかける。
「昨夜はまたラ・セーヌの星が暴れたらしいよ。何とかっていう徴税請負人の不正を暴いてくれた」
牛乳売りは代金を受取るとシモーヌに言った。シモーヌは頷いたが、牛乳売りは目の前に立つ花売り娘が謎の仮面の女剣士ラ・セーヌの星だとは夢にも思わないだろう。
「うれしいね。女だって何か事をなせるんだね」
伝説のラ・セーヌの星
「シモーヌの一日」
フランス大革命の前夜、花屋の娘として育てられた美少女シモーヌはラ・セーヌの星と名乗り、剣を取って戦う。
しかし、彼女は自分が王妃マリー・アントワネットの妹であることを全く知らなかった。
朝8時
朝食を終えたシモーヌとダントンがくつろいでいると、新聞記者のシュロが入ってくる。持っているのはまだインクの匂いがする新聞「真実の声」だ。彼が書いた体制批判の記事が載っているが、人気があるのは謎の仮面の女剣士ラ・セーヌの星の活躍を報じる記事だ。
今シュロが手に持つ新聞には、この五年ほどのラ・セーヌの星の闘いを要約した記事があり、挿絵も載っていた。それはラ・セーヌの星がマントを翻して抜刀しようとしている瞬間を描いていた。シュロは、彼自身ラ・セーヌの星に命を助けられたこともあり、女剣士の記事を熱心に書き続けている。
「それにしても、ラ・セーヌの星は何処の誰なんだろうかね。シモーヌはどう思う?」
「さあ、私には分らないわ」
横ではダントンが笑いをかみ殺していた。
(日曜ならば、この時間近所の教会でミサがあり、9時から朝食だろう。シモーヌは何を祈るのだろうか)
朝9時
シモーヌは店を開けた。シテ島の街路には甘草水売り、魚売り、古着売り、毛皮売りなどの物売り、荷担ぎ人足、靴磨き、煙突掃除人らの職人達の掛け声が騒々しい。シモーヌも負けじ、と声をあげる。
「花はいかが?花はいかが?」
そんなシモーヌの前を理髪師が髪ごて、カツラを抱えて走り去っていった。いつもと同じシテ島の風景である。店には花を求める客達が入り始めた。シモーヌは優しい接客でどんどん花卉を売り込んでいくのだった。勿論ダントンも頑張っている。
朝11時
店が一段落すると、シモーヌはダントンに後を任せ、駕籠に薔薇やカーネーションといった花を入れて店を出た。ポン=ヌフ橋を通り、セーヌ川を渡るシモーヌ。ポン=ヌフはたくさんの荷馬車、馬車が走り、アンリ四世の騎馬像、サマリテーヌ給水塔の間を徴兵官が行ったり来たりして新兵になりうる若者に声をかけている。
セーヌ右岸に渡り、ルーブル宮殿を左に見、しばらく歩くとサン=トノレ通りだ。財政家、政府高官が多く住むサン=トノレ界隈は両替商、投機家、地方の富商らで立錐のよちもない。シモーヌは配達先の銀行の頭取宅を後にするとシテ島に戻るのだった。そんなシモーヌの視線の先にはパリ警備隊本部の建物が見えた。シモーヌはそこにラ・セーヌの星として突入し、ある若き画家を救ったことがある。
偽のラ・セーヌの星の人形を白馬プリュネに乗せて囮とし、警備隊本部をもぬけの殻にして侵入したのだ。我ながらうまくいった作戦だが、二度とできないだろう。
正午12時
シモーヌは店に立ち、接客、花束造りなど忙しく立ちまわる。ダントンはロバのタンタンが牽く荷馬車に花を駕籠に乗せて店を出た。シテ島にはノートルダム大聖堂の他に二十近くの教会があり、市立病院、裁判所もあってそれぞれに花を配達するのだ。
それはシモーヌの養父、ポール・ロランが店を切り盛りしていた時代以来のお得意様である。
午後1時
少し暇になってきたのを見計らい、シモーヌは帳簿で売り上げ金と仕入れ金、手持ち現金の確認をする。
そんな時にいかにも地方から出てきたといった風情の青年が道を尋ねるために店に入ってきた。青年はサン=ルイ島からシテ島へと迷い込んだと言い、サン=トノレ通りにあるライオンホテルを探しているという。あまり良い評判を聞かない旅館だが、シモーヌは通りに出てサン=トノレの方向を指し示した。アルと名乗ったその青年は礼を言ってシテ島を後にした。
午後2時
ダントンが配達から戻ってきた。喉の渇きを訴える彼に水を差し出すと、シモーヌは二階へと階段を駆け上がり、寝室に入った。ベッドの上にはラ・セーヌの星の装束が脱ぎ散らかしたままとなっており、その中のレオタードを手に取った。昨夜の闘いで、敵の剣の切っ先で傷穴が何カ所もあいている。シモーヌは針と糸を取ると、ベッドに座り、裁縫を始めるのだった。止まり木の梟のコロが目を覚まして、シモーヌの作業を静かに見守っていた。
午後3時
シテ島の街路には人通りが絶える。人々の多くが昼食を取っているからだ。
シモーヌもダントンに指示して戸を閉めさせ、昼食を取った。パンや牛肉の燻製など簡素なものである。昼食が終わると二人は仮眠を取る。
日によっては少し早めの昼食を取って、シモーヌとダントンが荷馬車でパリ郊外の貴族の邸宅に配達に行き、帰りに花卉農家により、栽培してもらっている花の様子を見たり、受取って帰る時もある。
午後5時
街路には様々な馬車が走り回るようになる。
シモーヌはダントンと一緒にカフェであり、居酒屋でもあるペルチェ(止まり木という意味)へ行く。そこは仕事を終えた職人たち、お針子達で賑わっている。シモーヌも毎日という分けではないが、そこでカフェオレを飲むし、時にはワインを飲むこともある。若くて美しくそれでいて気さくなシモーヌは人気者だ。
客達は挿し絵入り新聞を手にとって、農産物の不作を憂い、それに伴う食料不足、物価の高騰等政府の失政、貴族の横暴を糾弾すべく声をあげていた。すでにこの頃は政府・体制への批判は公然と行われるようになっていた。
「黒いチューリップ、ラ・セーヌの星を我々の運動に参加させよう!」
「だが、彼らは何処の誰だか分らない。どうやって連絡を取るんだ!」
シモーヌは黙ってカフェオレを飲み、ダントンはそんなシモーヌを心配そうに見つめている。
午後7時
この季節のパリの空はまだ明るいが、ペルチェで夕食を済ませたシモーヌとダントンは家路を急ぐ。フロリステ・ド・ロランに着くと、そこには屈強な見知らぬ男達が五人ほど立っていた。
「娘さん、アルという田舎くさい男が来ていなかったか?」
「ええ、昼頃にライオンホテルへの道を尋ねて店に入って来られましたが・・」
「昼じゃない!ここ数時間の間にだ!」
彼らによるとアルはフランス南部のアノネーから出てきたライオンホテルの娼婦マルグリットを連れて逃げ出したのだという。アルはここには来ていないと言い、鈎を開けて店に入ろうとしたシモーヌを、男の一人が突き飛ばし、戸を開けて中へと入った。
一階、二階とアルが隠れていないか、探し回った男達はあきらめると謝罪もせずに外へと飛び出していった。
ダントンと目が合ったシモーヌは、急いで手紙を書くと、二階へ駆け上がり、梟のコロの脚にそれをくくりつけるや窓を開けた。コロは心得ているらしく外へと飛び立っていった。
午後8時
コロはシテ島から見て南西に約二リュー半(約10キロ)離れたところにある森に辿り着いた。そこにある白壁の小屋で手紙を受取った男は、小屋の外にある馬小屋へと向かう。そこにはラ・セーヌの星の白い愛馬プリュネがいる。
「さあ、プリュネ、お行き!あの方がお前を待っているよ」
男はそう言って白馬を自由にすると臀部を軽く叩いた。するとプリュネは嘶きをあげてパリのシテ島へ向かって駆けていくのだった。
その頃、シモーヌは寝室で一糸まとわぬ姿になると、濃紺のレオタードを着、マントを羽織ると、鏡の前に立った。そして真紅の仮面で素顔を隠すと、腰に正義の剣を吊った。彼女は正義の剣士ラ・セーヌの星になったのだ。ラ・セーヌの星は屋根裏の窓から出て、家々の屋根を駆けていった。
午後8時30分
シテ島の家々の屋根を駆けていたラ・セーヌの星は、辻で棹立ちになり嘶きをあげる白馬に向かって飛び下り、鞍上の女となった。ラ・セーヌの星が愛馬プリュネに乗って駆け出す様を、パリ警視庁配下の密偵ティミドが目撃していた。
オペラの公演を見終わった貴族達の馬車が行き交う中をラ・セーヌの星は白馬で駆ける。街のあちこちの辻では、胸をあらわにした娼婦達が頭をまっすぐ上げ、真っ赤な顔を街頭の灯が照らしていた。
そんな娼婦達もラ・セーヌの星が白馬で通り過ぎると立ち止って手を振った。以前、パリの娼婦達の連続殺人事件があり、治安当局が放置していたのをラ・セーヌの星が下手人を捕え、当局に差し出した事があった。そのことを娼婦達は忘れないし、彼女達の口から女剣士の評判が広がっていったのだ。
午後9時
パリはようやく日没となった。番号を打った角灯をぶら下げたパリ警視庁の角灯巡査達が夜の見回りを始める。チュイルリー宮殿近くにあるパリ警備隊本部では隊長ザラール大佐の訓示のあと、交代した騎馬警備隊が巡邏に出て行く。
昨夜もラ・セーヌの星がパリの市中に現れ、取り逃がしている。ザラールは決して逃してはならないと檄を飛ばしたが、その直後、密偵からラ・セーヌの星がシテ島に現れたとの報告が入っていた。
午後10時
サン=トノレ街を駆けていたラ・セーヌの星は、ライオンホテルの前に着いた。アルとマルグリットが連れ戻されていないか様子を見に来たのだ。旅館の中からは中年女(マトローヌ)とも呼ばれぬ女将が怒鳴り散らす声が聞こえた。その言葉を捉える限り、二人はここに戻っていないだろう。
中年女は売春の斡旋者を挿す。ライオンホテルの女将はマルグリッドを騙して、売春をさせていたのか、借金のかたで売り飛ばされたのかは分らない。
ラ・セーヌの星は狭い路地に入って、馬を休ませつつ思案をしているとホテルから若い娼婦が出てきた。彼女にアルとマルグリットの一件を聞くと、マルグリットは偽の借金の証文でここに連れ去られて、身体を売らされていたが、故郷アノネーから幼馴染のアルがやって来て、彼女を連れ出したらしい。ありがとう、と礼を言うとラ・セーヌの星は愛馬の胴を蹴った。
パリの家々からは晩餐を楽しむ声が聞こえ、カフェでは帰ろうとしない客を追い出し、居酒屋ではブランデーやワインがなみなみと客達に次がれている。
明かりが消えた家では夫婦達がお互いを見つめ合っているが、通りでは馬車の車輪の音が絶えない。馬車の御者達はラ・セーヌの星の登場に恐れおののくだろう。市民や農民達は女剣士の活躍に喝采をあげていたが、体制側の貴族達の多くが、彼女の剣の切っ先が自分たちに向けられるのを恐れていたからである。
午後11時
セーヌ川に架かるマリ橋を渡り、サン=ルイ島に達したところでラ・セーヌの星は警備隊の一分隊に包囲された。鞍上から降りて抜刀したラ・セーヌの星は彼らと剣を交え、急所ははずした上で倒した。再び馬上の女となったラ・セーヌの星はトウールネル橋を渡り、セーヌ左岸に達するも、警備隊の別の隊がシテ島方向から駆けてきて、左岸を南東に走り、サン=ポール港で再び包囲された。
港につなげられている平底船に逃げたラ・セーヌの星は船上で抜刀し、警備隊達を剣を交えるのだった。
午前零時
平底船の船員、船宿の主人らに助けられ、ラ・セーヌの星は単身サン=ポール港から逃げ出した。サン=ジャック街で愛馬プリュネと合流したラ・セーヌの星はリヨン街道を駆けていく。街道にはパリ郊外の農民達が馬、荷馬車に野菜、果実、花卉類を満載してパリの中央市場レ・アルへ向かっている。農民達もだが、馬もぐったりと疲労している。彼らは七~八リュー(三十キロ位)先からやってくるのだがら。
そんな彼らもラ・セーヌの星が白馬を駆る勇姿は何度も目撃しているはずだ。今日も女剣士は農民達、馬たちをかき分けてパリの郊外を走る。
午前1時
パリから十リュー(四十キロ位)駆けたところで、ラ・セーヌの星はライオンホテルが差し向けた無頼者達に捕まろうとしていたアルとマルグリットに追い付き、剣を抜いて無頼者達と対峙した。
先ほどから警備隊と剣戟をかわした疲れをものともせず、ラ・セーヌの星は無頼者達を倒した。そして程なくロバのタンタンが牽く荷馬車で追い付いてきたダントンに彼らを託すと、ラ・セーヌの星はパリへと駆け去って行った。
午前2時
サン=ジェルマン市場の前でシテ島の方向から南西の方角へ向けて鞍上に誰もいない白馬が駆けていくのが密偵ティミドが見つけた。彼はシテ島の花屋のシモーヌこそラ・セーヌの星ではないかと睨んでいる。
だが、まだ確たる証拠がないので、報告はあげていない。ティミドは煙草をくゆらすと路地裏に消えた。
朝6時
教会の鐘の音が響き渡ると同時に朝陽が昇った。パリに朝が来たのだ。
シテ島はそんなパリの中心部にある一番の最古の街区で、長さ五百トワーズ(約一キロ)しかない島だ。そんなシテ島にある花屋フロリステ・ド・ロランの二階ではベッドの上でシモーヌがうつ伏せで寝息を立てている。仮面こそとっては居るが、濃紺のレオタードは着たままで、マントを毛布代わりにしているようだ。
その頃、帰ってきたダントンは寝室の扉を叩いた。
「シモーヌ!起きてよ、朝だよ!店を開けないと!」
今日もシモーヌの一日が始まろうとしていた。
おわり
La Légende de Étoile de la Seine.
“Les 24 heures de Simone”
FIN
【参考文献】
「十八世紀パリの生活誌 ‐タブロー・ド・パリ‐」上巻下巻。
メルシエ著 原宏編訳 岩波文庫