バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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原作の描写から作中の時代を23世紀と仮定して作成しています。
文章の作成にAIを利用しています。ご了承ください


プロローグ
空想は現実に勝てないのか


 

光る赤子が中国の軽慶市で発見されたのは、今から約2世紀前──西暦2014年頃のことだと言われている。

 

それがすべての始まりだった。

それから世界中で『超常』が報告され、原因不明のまま『個性』として定着していった。

 

世界は混乱し、法は崩壊し、人権は力によって塗り替えられた。

いわゆる超常黎明期の始まりだ。

 

学生たちが歴史の授業で習うのは、その混乱の悲惨さだけじゃない。

当時、爆発的に増え続けた超常の被害者たち……持たざる者たちが、その怒りをどこへ向けたのか。

 

かつて、この世界にはヒーローという言葉が溢れていたらしい。

 

漫画、映画、特撮──人々が夢想した空想の英雄たち。

でも、現実の超常が世界を壊し始めたとき、それらの物語は欺瞞として激しい憎悪の対象になった。

 

 

『空想のヒーローは、僕たちが苦しんでいるときに助けてくれなかった』

 

 

『あれは、力を持たない者が描いたただのなぐさめに過ぎない』

 

 

 

激昂した群衆によって、世界中のコミックや映像データは焼かれた。

21世紀初頭まで続いていた華やかなエンターテインメントの歴史は、黎明期の動乱の中で組織的に消去されていった。

 

だから23世紀の現代において、20世紀のヒーロー作品を知っている人なんてほとんどいない。

 

今やヒーローは国が認可し、法律に則って「仕事」をする実在の公務員を指す言葉だ。 空想(フィクション)ではなく、制度(ルール)としての正義。

 

けれど、僕は、それでも。

誰も覚えていない昔の物語の中にあったような、純粋な憧れを抱かずにはいられないんだ。

 

 

 

 

……たとえ、僕が無個性という、この社会の落とし子だったとしても。

 


 

 

 

 

西暦22XX年、春。

折寺中学校の教室の窓ガラス越しに広がるのは、無機質な美しさを湛えた未来都市のパノラマだった。

 

透明なチューブの中を整然と滑走するリニアポッドの群れ。

摩天楼の壁面に投影されるプロヒーローたちの極彩色のホログラム広告。

空には治安維持用の自律型ドローンが、渡り鳥のように規則正しい編隊を組んで旋回している。

 

それは個性という超常が完全に社会の歯車として、そして商品として組み込まれた時代の象徴的な風景だった。

 

だがその管理された窓外の景色とは対照的に、教室の中は原始的な熱狂に包まれようとしていた。

 

 

「……ま、おまえら大体ヒーロー科志望なんだろうけどな!」

 

 

担任教師が、手に持った進路希望調査のプリントの束を、まるで不要な紙屑か何かのように景気良く空へ放り投げた。

紙吹雪のように舞い散るプリント。

 

それを合図に、教室内の秩序は一瞬で崩壊した。

 

 

「ウェイ!!」

 

「俺の個性を見ろよ先生!」

 

 

三十人近い生徒たちが、一斉に自慢の個性を解放する。

 

指先から火花を散らす者、岩のように硬化した皮膚を見せつける者、口から煙を吐き出し、眼球を飛び出させる者。

 

教室内の湿度が上がり、異臭と騒音が混じり合う。

それは授業というよりも、動物園の檻が開かれた瞬間に近かった。

 

その喧騒の只中で、一人の少年だけが静寂を保っていた。

 

教室の窓際、最後列に近い席。

茶髪のウルフカットに、サングラスから覗く長い下まつ毛と鋭い銀色の瞳。

 

名を難羽《なんば》 輪太郎《りんたろう》という。

 

 

(……義務教育の現場で、教師が率先して個性の不法使用を煽るとは)

 

 

難羽は頬杖をつき、舞い落ちるプリントを冷めた目で見つめていた。

公的な場での資格なき個性使用は、原則として禁止されているはずだ。

 

だがこの社会ではヒーロー志望という免罪符があれば、多少の逸脱は若さゆえの特権として黙認される。

 

法よりも情緒が優先される社会。

難羽の口から漏れた声は、周囲の熱狂を冷ますような気怠さを帯びていた。

 

 

「……ヒーローは人気だな」

 

「おい、難羽! おまえもどうせ雄英だろ?」

 

 

前の席に座る男子生徒が、岩石のように変化させた腕を自慢げに掲げながら振り返った。ニヤニヤとした、下卑た笑みを浮かべている。

 

 

「おまえの『ハイブレイン』なら、学科はどこでも余裕だよな。天才発明家様!」

 

「……まぁな。高校受験程度なら、なんの問題もない」

 

 

難羽は短く答えた。

彼の個性登録証には『ハイブレイン:脳の演算速度および記憶容量の飛躍的向上』と記されている。

 

だが、それは半分が真実で、半分は彼がこの社会を欺くためについた嘘だ。

 

彼の実体は所謂「転生者」である。

遥か昔、超常など存在しなかった時代に生まれ、死に、また生まれ変わり、今はたまたま中学生の肉体になっているに過ぎない。

彼の持つ天才的な頭脳や知識は個性による変異ではなく、幾度もの人生で積み重ねた経験則だ。

 

 

(虚偽の申請がこうも容易く通る……相変わらず、この社会は穴だらけだ)

 

 

難羽は小さく溜息をついた。

この世界は、薄氷の上に煌びやかな城を建てているに過ぎない。

その脆さに気づいているのは自分一人だけだという事実に、彼は微かな孤独とそれ以上の使命感を覚えていた。

 

 

「先生! 雑魚をひとまとめにすんなよ。俺は他の有象無象とは違うんだ」

 

 

気怠げな空気を一撃で吹き飛ばす、爆発音のような大声が響いた。

教室の中心。机の上に革靴のまま足を乗せ、ふんぞり返る少年——爆豪勝己。

ギザギザの金髪に、常に怒りを孕んだ吊り上がった目。

その全身からは周囲を威圧する強烈なエゴが発散されている。

 

 

「あァ!? 勝己、テメー!」

 

「一緒にすんなってんだよ!」

 

 

クラスメイトたちのブーイングを、爆豪は鼻で笑い飛ばした。

 

 

「うっせーなモブども! 俺はお前らとは出来が違うんだよ!」

 

 

難羽はその傲慢な背中を静かに観察した。

 

爆豪勝己。

 

彼はこの社会が生み出した、ある種の完成品だ。

強大な力を持ち、誰よりも勝利に執着し、自らを絶対的な勝者であると疑わない。

 

 

「俺は雄英高校に合格し! あのオールマイトをも超えてトップヒーローと成り!! 必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!!」

 

 

机の上で仁王立ちになり、天井に向けて拳を突き上げる爆豪。

「高額納税者」という、中学生にしてはあまりに世俗的で具体的な目標設定。

 

難羽は思わず苦笑した。

この少年にとってヒーローとは正義の体現者である以前に、社会的成功の頂点なのだ。

 

 

「あー、そういえば爆豪は雄英志望だったな……そういやぁ、緑谷も雄英志望だったな」

 

 

担任教師が、思い出したように付け加えた一言。

その瞬間、爆豪を中心とした熱狂の渦がピタリと止まった。

 

教室に、真空のような静寂が落ちる。 次の瞬間。

 

 

「プッ……」

 

「ハハハハハハッ!!!」

 

 

爆発的な嘲笑の嵐が巻き起こった。

三十人の視線が、一斉に教室の隅に向けられる。

そこで震えながら縮こまっていたのは、緑谷出久。

 

 

「緑谷ぁ!? ムリっしょ!!」

 

「勉強できるだけじゃヒーロー科は入れねんだぞー!」

 

「そもそもお前、無個性じゃねえか!」

 

 

机を叩き、腹を抱えて笑う生徒たち。

教師すらも、それを咎めるどころか、一緒になって薄ら笑いを浮かべている。

 

 

「そっ……そんな規定ないよ! 前例がないだけで……」

 

 

緑谷が顔を真っ赤にして立ち上がり、蚊の鳴くような声で反論しようとする。

だが、その言葉は暴力によって遮断された。

 

 

「没個性どころか"無個性"のテメェがぁ! 何で俺と同じ土俵に立てると思ってんだ!?」

 

 

爆豪が机を爆破し、緑谷を壁際まで吹き飛ばした。

尻餅をつき怯える緑谷を見下ろす爆豪の目には、獲物を狩る獣のような残忍な光が宿っている。

 

難羽はペン回しを止め、その光景を冷ややかに見つめた。

 

自信と暴力に満ちた爆豪。

呪いのような執着にしがみつく緑谷。

 

そして、一人の生徒が生贄にされる様を娯楽として消費するクラスメイトと教師。

 

 

(……これはこの社会の縮図だ)

 

 

超常黎明期から数十年。

たったそれだけしか経っていない。

一度崩壊した文明の上に築かれたこの超人社会は、平和と呼ぶにはあまりに幼く、未成熟だ。

 

個性(ちから)を持つ者が正義であり、持たざる者は人権すら軽視される。

難羽は心の中で、この教室全体に不合格の判定を下した。

 

 

 

 

 

 

 

放課後のチャイムが鳴り、生徒たちが三々五々と教室を出て行く。

難羽は進路希望調査票にペンを走らせていた。

 

『第一志望:雄英高校』

 

学科の欄には、迷うことなく『サポート科』と記入する。

 

 

「……難羽くん」

 

 

おずおずとした声が掛かった。

 

顔を上げると、そこにはノートを抱えた緑谷出久が立っていた。

瞳には不安と、そして縋るような微かな期待が混じっている。

彼はおそらく、クラスで唯一自分を嘲笑わなかった難羽に何らかの共感を求めているのだろう。

 

 

「君も、雄英かい?」

 

 

難羽はペンを置き、サングラス越しに緑谷を見上げた。

 

緑谷出久。

無個性でありながらヒーローを目指すという、この社会における最大の矛盾。

 

難羽は彼のような「持たざる者の足掻き」を嫌いではない。

だが、今の彼にかけるべきは安易な慰めではないと知っていた。

 

 

「……さあな。どの学科に属していようと私がやることは変わらない」

 

 

難羽は冷淡に答えた。

そして鞄を持って立ち上がると、すれ違いざまに低く囁いた。

 

 

「……緑谷。お前もせいぜい、その憧れに自分自身を焼き殺されないよう気をつけるんだな」

 

「え……?」

 

 

緑谷が息を呑む気配がした。

難羽はそれ以上、言葉を重ねることはしなかった。

 

憧れは人を突き動かす燃料だが、同時に理性を焼き尽くす猛火でもある。

今の緑谷は、燃料タンクを抱えて火の中に飛び込もうとしているようにしか見えない。

 

 

「じゃあな」

 

 

難羽は教室を出て、長い廊下を歩き出した。

背後から聞こえる緑谷の困惑の息遣いを、遥か遠い過去のノイズとして処理しながら。

 

窓の外では、23世紀の夕日が都市を赤く染め上げていた。

 

華やかなヒーロー社会。

 

その巨大なシステムの影で難羽輪太郎という異分子による、世界の再構築が静かに始まろうとしていた。

 

 

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