今回短いです。
外界の喧騒から完全に隔離された、難羽のラボ。
無機質な金属の床と空間の中央に聳え立つ大樹が異様な雰囲気を醸し出すその場所で、難羽は一人の男の前に立っていた。
男の名は佐々木未来。
先日までプロヒーロー「サー・ナイトアイ」として活動し、死の淵から難羽の手によって蘇生させられた存在である。
記憶を完全に失っている彼に対し、難羽は未来視の個性の使い方だけを教え込んでいた。
目的は、一ヶ月後に控えた雄英高校の文化祭当日の未来を視ること。
難羽が当日の警備に参加する。
もし未来の自分が何者かと戦闘を行っていれば、それは雄英に対する新たな襲撃が計画されているということとなる。
「……何が見える」
難羽の短い問いかけに対し、佐々木は中指で自身の眼鏡のブリッジをスッと押し上げ、口を開いた。
「よく分からない」
佐々木は未来のビジョンに目を凝らしながら、淡々とした口調で答えた。
「断片的な映像は流れていた。しかし、今の私にはその背景を読み解くための知識が欠落している。彼らが何者でどのような状況にあるのか、判断を下す材料がない」
記憶を失っている彼にとって、そこに映る人物が善良な市民なのか、凶悪なヴィランなのかを判別する術はない。
それは当然のことであった。
「見た目だけ教えてくれ」
難羽が要求の確度を変えると、佐々木は自身が見た光景を言語化し始めた。
「……英国紳士風の衣服を纏った髭の男に対し、奇妙な面を被った別の男。物理的な打撃による戦闘を仕掛けている」
「……私の未来だよな? そのマスクのデザインを教えてくれ」
佐々木は視覚情報をそのまま描写する。
「右半分が緑色で、左半分が黒色のデザイン。目の部分は赤く、額には銀色のアンテナのような意匠が確認できた。プラスチック製のお面で、後ろはゴム紐で留めるタイプだ」
「私だ」
右が緑で左が黒。
赤い複眼に銀のアンテナ。
現代の超人社会において、ヴィランとの戦闘の最中に仮面ライダーダブルのお面を被って戦う男。
そんな狂人は、この日本広しといえども難羽以外に存在し得ない。
難羽はその未来の光景から逆算していく。
なぜ未来の自分は雄英への侵入者と戦う際に、わざわざ仮面アクターとして対処するのではなく、お面を被っているのか。
逆に言えば、フル装備でなくとも対処できる相手であるということだが。
何はともあれ、今回も間違いなく何かしらの襲撃が用意されている。
「……そいつの身元を調べないとな……」
難羽が今回未来視を使ってまで確認をしたのは、彼なりに当たって欲しくない未来が見えたからだ。
例えば、USJと林間合宿はヴィラン連合及びオールフォーワンの思惑による襲撃であった。
しかし、I・アイランドの襲撃にA組生徒が遭遇したのは偶然である。
そして、先日難羽がナインと戦った那歩島。
現在、公安の方で生徒のみで実施するヒーロー活動演習の計画が立てられている。
もしナインの襲撃タイミングがずれていた場合、偶然にもA組生徒が島民を守るために戦うこととなっただろう。
見えざる運命のお約束が今回も完全に合致してしまったことに、難羽は心底うんざりとした長いため息をついた。
未来視の数日前に遡る。
雄英高校の校長室に、黒い背広に身を包んだヒーロー公安委員会の高官たちが訪れていた。
彼らがわざわざ足を運んできた要件は、一ヶ月後に予定されている雄英文化祭の中止勧告である。
USJの襲撃。
林間合宿の襲撃、そしてそれに伴う常闇の誘拐。
さらにはオールマイトの事実上の引退。
国家の屋台骨が揺らぐほどの重大事件が立て続けに起きているにもかかわらず、当の雄英がお祭り騒ぎにうつつを抜かすなど間違っている。
今は自粛し、後進育成にのみ全力を注ぐべきだという進言であった。
今回の文化祭は関係者のみに絞った内部開催であり、警備もこれまでの比ではないほど厳重にする手はずを整えていた。
しかし、ヴィランの動きが地下で活発化し、社会全体が不安定に揺れ動いている現状において。
公安は、ヴィランに少しでも付け入る隙となるような蜜を与えるべきではないと切り捨てた。
だが、根津は公安の高官たちに向かって深々と頭を下げた。
「こんな今だからこそ、生徒たちに必要なイベントなのです。これ以上、生徒たちに暗い未来を指し示すわけにはいきません」
それは教育者としての決して譲れない矜持であった。
根津のその覚悟を前に、公安側も強硬な態度を貫き通すことができず、最終的に一つの条件を提示した。
セキュリティの更なる厳重化。
そして、たとえ誤報であったとしても警報が一度でも鳴った場合、その瞬間に文化祭は即時中止。
全生徒を直ちに避難させること。
この条件を飲むことで、ようやく許可が下りたのだ。
数日後、難羽が警備のシフトについた上で未来視を使ってまで確認していたのは、これが理由である。
そして未来の難羽がなぜあのような行動をしているのか。
それは、侵入してきた不審者を速やかに無力化しつつ、「雄英とは全く無関係の変質者同士が、偶然学校の近くで喧嘩をしているだけ」という構図に偽装し、文化祭の中止を回避しようと画策していたのである。
息の詰まるような会談を終え、重い扉を開けて校長室から廊下へと出てきた公安の役人たち。
彼らの足は、扉のすぐ横でピタリと縫い止められた。
壁に背中を預け、腕を組んで立っていた男。
教職員、難羽解次であった。
「……何のつもりだ。仮面アクター」
公安の男が周囲に生徒の目がないことを確認し、低く威嚇するような声を絞り出した。
公安はナガンとホークスの件で、ガイツと仮面アクターが同一人物であり、彼が仮面アクターの正体であることを把握していた。
しかし、難羽がすでに公安の
仮に彼らが正しく正義のために動き、立場を無視して逮捕するのならば、難羽も少しは見直しただろう。
「何も。校長の指示に、私は従う」
難羽は彼らの威嚇に対し、淡々と返した。
公安の男たちはそれ以上何も言うことができず、ただ苦々しい顔で難羽を睨みつけると、足早に廊下の奥へと歩き去っていった。
だが、その時である。
静まり返っていた学校の廊下の前方から、猛烈な大気を切り裂くような足音が急速に迫ってきた。
難羽の視界に飛び込んできたのは、深紅の豊かな縦ロールのお嬢様ヘアーを荒々しく振り乱し、金色の瞳を爛々と輝かせた、一人の少女の姿であった。
彼女の美しい顔立ちの眉間には深いシワが寄り、怒りの形相で鋭いサメの歯を食いしばっている。
はち切れんばかりの大きな胸を窮屈そうに抑え込んでいるのは、雄英高校の指定女子制服。
そしてその華奢な肩には、武骨な機械の塊のようなヘッドホン。
「あ、やべ」
疾風の如き速度で公安の男たちの正面へと迫った少女は、すれ違いざまに先頭を歩いていた男の頬へと平手打ちを叩き込んだ。
まるで格ゲーの横コマンドのようなスライド攻撃が見事に決まり、男が床にもんどり打って倒れる。
少女は躊躇うことなくその男の上に馬乗りになり、残像が見えるほどの速度でビンタを嵐のように連打し始めた。
「なに偉そうにしていますの! 治安維持はそもそもお前らの仕事でしょうが、このバチカンがぁ!」
「バカチンな……まどか、やめろ、やめてくれ」
難羽が激しく往復する彼女の手首を背後から掴んで制止に入る。
彼女の肩に掛けられた武骨なヘッドホンから、冷徹で電子的な女性の声が響いた。
『お嬢様。その人もメッセンジャーで上の命令に逆らえません。どうかその辺で……』
言うことを聞く気配の全くない少女は難羽に襟首を掴まれると、まるで猫のように難羽の腕にぶら下がった。
彼女の名は、覚上まどか。
超常黎明期を共に戦った難羽の相棒であり、一度完全に命を落とした
そして、秘書アンドロイド「アット」のオリジナルとでもいうべき少女である。
難羽はすべてが片付いてから彼女を蘇らせるつもりだったが、彼女は完全に目覚めてしまった。
そのため難羽は彼女の肉体を戻し、アットのシステムと人格をヘッドホン型インターフェイスへと移動させたのである。
しかし、秘書としてのアットの人格がベースだった以前とは違い、今の彼女は「彼女100パーセント」の状態である。
超常黎明期から暴れん坊であり、己の信じた道を直進する女王。
難羽でさえ、元気いっぱいの犬の飼い主のように引きずられている始末だ。
結果がこれである。
難羽の制止を振り切り、覚上は二人目の公安の男へと目を付けた。
腕を組み、完全な仁王立ちの姿勢で彼を冷酷に見下ろす。
「なに正義のためみたいな面してんですの! 元々公安が暗──」
「それ以上言っちゃダメ…………かじっちゃダメ」
難羽が背後から彼女の口を両手で強く塞ぎ、動きを止める。
言葉を封じられた彼女が、難羽の手をどかそうとその鋭い歯で難羽の手袋を噛み始めたのを注意しながら、難羽は公安の二人を足早に行かせる。
男たちは公務執行の妨害だと毒づきながら逃げ去っていった。
今の彼女が何者なのか彼らには一切わからないのだから、手出しなどできるはずがないが。
嵐が去る。
廊下で難羽は深くため息をつき、ようやく彼女の口から手を離した。
「まどか。君はひどく曖昧な立場だ。こういうことはやめてくれ……何か言うことは?」
難羽の呆れた問いかけに対し。
覚上は口元を拭いながら、悪びれる様子もなく堂々と答えた。
「手袋越しじゃなくて直でしゃぶらせてほしいですわ」
「…………」
相棒の復活は、難羽にとって喜ばしいことである。
はずである。
しかし制服を用意し、文化祭に参加するつもり満々の彼女の姿を見て。
難羽は天を仰ぐことしかできなかった、
現在句点ごとに改行していますが、通常の文章の書き方に直したほうがいいですか?
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段落を使った普通の文章のほうが良い
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今の文章の方が良い