バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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轟家の描写に満足して気づかなかったバタフライエフェクト。
見ろや君がエンデヴァーに遭遇せずミーム化しなくなりました。

テコ入れ特訓編です。



119話 黄金の鉄の塊タイガー

 

「……というわけで、難羽輪太郎と難羽解次先生は同一人物でした。これからは難羽輪太郎先生として扱ってくれ」

 

「えええええええッ!?」

 

 

A組の教室。

教壇の上から放たれた難羽のそのあまりにも雑で、投げやりな再紹介の言葉。

生徒たちから校舎を揺るがすほどの驚愕の絶叫が巻き起こった。

 

衝撃の正体の告白展開を何度もやった難羽は若干潜入の形で雄英に入ったことに後悔していた。

正直面倒くさい。

なお、原因はステインの挑発でマスクを外した自分が原因である。

 

難羽は彼らがこれまで老人として認識していた身体の偽装を堂々と解除した。

最早、偽る理由など何一つない。

教壇の上に立っていたのは生徒たちと同じ十代の少年。

 

難羽輪太郎の姿である。

 

大混乱に陥る教室の中で。

事情をすでに知っている緑谷と爆豪、そして担任の相澤の三人だけは全く違う反応を示していた。

 

 

(……ついに正体を明かして、直接動く段階に入ったのか)

 

 

緑谷は難羽のその宣言の裏。

オールフォーワンとの決戦が近いという事実に生唾を飲み込んだ。

 

一方の爆豪は、緑谷のその深刻そうな顔を見て奥歯を噛み締めた。

 

 

(……クソデクの野郎。てめェ、やっぱり最初から知ってやがったな……!)

 

 

 

己のことを完全に棚に上げ、爆豪は緑谷を睨みつけている。

 

そして相澤は、教壇で好き勝手にやりたい放題を宣言する難羽を睨みつけていた。

 

相澤からすれば、今この教室の状況は完全に狂っている。

国家を転覆させかねない犯罪組織のトップが堂々と教壇に立ち、自分の大切な生徒たちに教育を施そうとしているのだ。

 

だが、相澤には彼を止めることはできない。

 

以前、難羽はオールフォーワンが雄英を直接攻めてきた場合の例として、オールマイトを引き合いに出した。

もしオールマイトが敵として本気で攻めてきた場合、お前たちで抵抗できるのかと。

 

それはそのまま難羽にも当てはまる。

 

いくら彼に雄英を滅ぼすような悪意がないとはいえ、彼を公権力で追い出したところで壁をすり抜けるように何度でも戻ってくるだろう。

何より、雄英の最高責任者である根津校長が必要悪と判断し、渋々ながらも彼のこの暴挙に許可を出してしまっているのだ。

 

 

(……本当に面倒くさい存在だ)

 

 

相澤はため息と共に自身の捕縛布を握りしめ、静観を決め込むしかなかった。

 

 

「オールフォーワンというヴィランが……来年の二月から三月にかけて復活する」

 

 

難羽の宣告が生徒たちの心に突き刺さる。

 

 

「神野区でオールマイトが戦ったあの巨悪だ。今度はさらに強力な存在となって、この社会に直接手を下しにくる、お前たちがまだ子供であろうと関係ない……なぜならこの雄英には、奴の最も憎むオールマイトがいるからな」

 

 

難羽の瞳が緑谷と交差する。

難羽は真の狙いをクラスメイトの前では言わなかった。

それを仲間たちに伝えるかどうか、その決断を緑谷自身に委ねたのだ。

 

 

「……だからこそ、私は全力でお前たち全員を鍛え上げる」

 

 

難羽は教壇を拳で軽く叩いた。

 

 

「足りない戦力は私が底上げする。専用のサポートアイテムも作ってやる。訓練で大怪我をしても私が直す……そのための特別講師(ゲスト)も連れてきた」

 

 

難羽が指を鳴らすと、教室の後ろの扉が開いた。

 

そこからゾロゾロと姿を現したのは、異様な仮面を付けた謎の集団であった。

 

痩せこけた不気味な馬を模したような、気味の悪い仮面を被った五人の人間。

 

そして、その後ろに一人だけ。

 

 

頭にピンと立った兎の耳を生やし、覆面マスクを被った褐色の肌を持つ白髪の女性が腕を組んで仁王立ちしていた。

 

 

馬の仮面を被った不気味な五人組の正体も気になるが。

生徒たちの視線はその後ろに立つ、鍛え上げられた太ももを露わにした兎耳の女性の方に釘付けになっていた。

マスクを被っているだけで、顔から下の服装は見たことのあるそれだ。

 

 

「あ……あの」

 

 

緑谷が恐る恐る手を挙げて問いかける。

 

 

「その覆面の方……プロヒーローの、ミルコさんですよね……?」

 

「何を言っているんだ」

 

 

難羽が真顔で否定する。

 

 

「どう見てもプロレスヒーロー、タイガーバニーだろう」

 

「よぉっし! お前ら、ボコボコに可愛がってやるから、覚悟しろよ!!」

 

「キャラ変えるつもりないし!!」

 

 

覆面の女性が闘争心剥き出しの獰猛な笑みを浮かべて両拳を打ち合わせる。

 

前者の馬の仮面たち(ロシナンテ)は、ヴィランとの実戦経験を積ませるため。

そして後者のタイガーバニー(ミルコ)は、純粋な暴力として最高峰に強いヒーローの動きを生徒たちに体感させるために難羽が呼び寄せたものであった。

 

その昔。

難羽はオールフォーワンとの繋がりを見つけて個性の使用が許可された非合法な地下ファイトクラブに潜入していた時期があった。

 

そこにまだ学生であり、修学旅行の自由行動中だった若き日の兎山ルミ(ミルコ)が「強い奴がいそうだから」という理由だけで壁をぶち破って乱入してきた。

 

難羽はその時の彼女の暴れっぷりと後先を考えない問題行動を見ていた。

そして、学生時代のミルコが非合法イベントに参加していたという情報が流れるのを阻止した。

 

難羽は今回の特訓のために彼女を呼び出し「学生時代のやらかしをあることないこと記者に吹き込まれたくなければ特訓を手伝え」と、優しく脅迫(オファー)したのだ。

 

もちろん、ただの脅迫ではない。

彼女の戦闘スタイルに合わせた専用サポートアイテムを提供するという条件もつけている。

 

ミルコ自身も過去の弱みを握られたとはいえ、相手が雄英の有望な若手で合法的に戦える理由ができたと、むしろ喜んでこの依頼を快諾していた。

 

 

「……じゃあ、振り分けるぞ」

 

 

難羽は教室を見渡して宣告した。

 

 

「まず、爆豪。お前は私とタイマンだ」

 

 

その言葉に爆豪が凶悪な笑みを浮かべ、両拳を打ち合わせた。

 

彼が難羽の弟子となり、その地獄の教育を受けてきたのはかなり前からのことだが。

これまで難羽自身と本気でのタイマンをさせてもらったことはなかった。

 

難羽の視線と、爆豪の飢えた獣のような視線が空中で激しく交差する。

 

 

「切島、砂藤、蛙吹、尾白。お前たちはミル──タイガーバニーと戦え」

 

 

難羽も言いかけてやめたミルコと戦う面々。

切島や尾白といった、近接格闘や肉弾戦を得意とする肉体派の面々は「No.5ヒーローの胸を借りられる!」と闘志を燃やして拳を握りしめた。

 

しかし、その中で一人だけ。

ひどく困惑した顔でそっと手を挙げる生徒がいた。

 

蛙吹梅雨である。

 

 

「難羽ちゃ──難羽先生」

 

「ちゃんでいい」

 

「難羽ちゃん。水中や水辺ならまだしも……私はミルコさんのような超武闘派と正面から殴り合うようなスタイルじゃないわ」

 

 

蛙吹のその疑問に、A組の生徒の多くが頷いた。

 

蛙の個性を持つ彼女の強みはその高い跳躍力で壁に張り付き、長い舌を使って相手の死角や隙を的確に突く、サポート寄りの中距離支援・搦め手のスタイルである。

純粋な殴り合いのスペシャリストであるミルコと戦わせるのは、あまりにも相性が悪すぎるように思えた。

 

 

「実際にやってみれば分かる」

 

 

しかし、難羽はその疑問をバッサリと切り捨てた。

 

 

「私から言わせれば、梅雨ちゃんはまだ自分自身のポテンシャルを全く引き出せていない。それをミルコからよく学べ」

 

 

その有無を言わせぬ言葉で、難羽は会話を遮断した。

 

蛙吹もまだ納得しきれない疑問は残しつつも。

シンプルに強いタイプのヴィランや武闘派は彼女にとって最も苦手とする相手であるため、そこを克服するために気合を入れ直した。

 

 

「飯田、口田、焦凍、麗日。お前たちは別室だ。個別に、己の個性を磨け」

 

 

その言葉に、焦凍と麗日は真剣な顔で頷いた。

 

焦凍は以前から半冷半燃の個性の新たな可能性と、熱と冷気の同時操作による限界突破の道を探求していた。

それを完全に習得できれば、彼の戦力は爆発的に跳ね上がる。

 

麗日の場合は個性の出力がそのまま彼女の出来ることの範囲を広げる。

無重力の出力上限を引き上げ、さらに重力操作の範囲を拡大し、自身への負担を減らすための訓練となるだろうと考える。

 

 

しかし、口田はどうしていいか分からず、困惑した表情でオロオロとしていた。

動物の心を通わせ、操る個性。

己の個性を磨けと言われても、単純な声量アップや発声の特訓はすでに夏の林間合宿でやっている。

 

これ以上、何をどう鍛えればいいというのか。

 

 

飯田もまた、疑問の表情を浮かべていた。

自分はスピードを活かした蹴り技が主体であり、てっきりミルコと戦うものだとばかり思っていたからだ。

プロヒーロー、しかもトップクラスの武闘派を相手にスパーリングができる機会など、滅多にない貴重な経験になるはずだった。

 

しかし、飯田には雄英体育祭において、難羽から己の個性の癖を見抜かれた経験があった。

 

 

(……なるほど。単なる出力アップではなく。個性の使い方そのものを、全く別の角度から磨けということか)

 

 

飯田は一人、深く納得して頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……あの」

 

 

緑谷が、緊張で喉を鳴らしながら尋ねた。

 

 

「僕の相手は……誰になるんですか?」

 

 

肉体派の面々のミルコとの戦いに選ばれなかったため、おそらくあの馬の仮面組の誰かに当たるのだろうと緑谷は考える。

 

難羽がわざわざ特訓のために連れてきたのだ。

相手がヴィランの連合の生き残りであるとまでは分からなくとも、彼らがとんでもない手練れの猛者であることは容易に想像がついた。

 

 

 

 

 

「緑谷は馬仮面組の全員……それ以外の残りの奴らはサポート科の工作室に行って、完成している自分の新しいサポートアイテムを受け取りに行け」

 

「……えっ」

 

 

 

全員。

緑谷がその言葉の意味を理解するより早く。

彼の両肩に、背後から手が置かれた。

 

 

「…………」

 

 

振り返ると。

不気味な馬の仮面を被った五人の影が、緑谷を完全に包囲していた。

 

仮面で表情は全く見えないはずなのに。

緑谷の目には、五人全員が獲物を見つけた猛獣のように、ニヤリと凶悪に笑っているようにしか見えなかった。

 

 

 

「……あの……お手柔らかにお願いします」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「……あ、あの。……僕は、どうすればいいんでしょうか……」

 

 

難羽から指定されたトレーニングルームの一つ。

そこに移動した口田は部屋の中の光景を見る。

 

そこにいたのは深紅の縦ロールの髪を揺らす少女──覚上の姿があった。

 

 

(……まさか、この女の子と格闘戦をするの……?)

 

 

口田が彼女の本性に気付かず、戦慄してそう思ったが。

 

彼女の腕の中には、可愛らしい茶虎の猫が抱えられていた。

その猫は天使の羽のような飾りがついた、不釣り合いに大きな首輪をつけられている。

あくびをしてリラックスしている。

 

猫の姿を見た瞬間。

動物を愛する口田の緊張が少しだけ解け、顔が綻んだ。

 

 

「この子はうちで飼っている猫のシセルですわ」

 

 

覚上が優しく微笑みながら、腕の中のシセルを床へと放した。

そして彼女は部屋の奥に置かれていた、巨大な物体に被せられていた防塵カバーをバサリと取り払う。

 

 

「な……!?」

 

 

カバーの下から現れたのは、巨大な鋼鉄の虎であった。

背中に人を二、三人は余裕で乗せられそうなほどの凄まじい巨体を誇る、虎型の大型アンドロイド。

 

色は塗られておらず、無機質な鉄の地肌が剥き出しのまま静かに眠っている。

いや、眠っているのではない。

動力源がまだ入っておらず、起動前というところか。

 

 

「ま、まさか……僕の個性でこのロボットを、動物の声でどうにか操れって言うんですか!? む、無理ですよ、生き物じゃないんですから!」

 

 

口田が、慌てて両手を振って否定する。

 

 

「分かってますわ。……あなたが心を通わせ、従わせるのは……シセルの方ですわよ」

 

 

覚上がそう言った時、床に降り立った茶虎猫・シセルが軽やかなジャンプで虎の背中へと飛び乗った。

 

すると、信じられない現象が起きた。

 

ニャア、という鳴き声と共に。

シセルの肉体がまるで水面に沈み込むようにして、背中の装甲の中へとズルリと入っていったのだ。

 

 

「え」

 

 

直後、虎型アンドロイドに凄まじいエネルギーが奔った。

 

無機質な鉄色がまばゆい黄金の虎へと一瞬にして変色し、装甲の隙間から、まるで心臓の鼓動のように赤い光の模様が脈動し始める。

尻尾のケーブルが生き物のように二股に分かれ、鞭のように床を叩く。

 

そして、瞳に確かな生命を宿した黄金の光を放ち、ギロリと口田を見つめた。

 

 

「え……ええええええぇぇぇ!?」

 

 

数年前。

無人の巨大な路線バスに乗り移り、バスそのものを巨大な怪物に変えて街で大暴走事件を引き起こした、無機物に憑依する「化け猫」の個性を持つ猫、シセル。

 

その魂と個性が、難羽の作り上げたアンドロイドと融合を果たしたのだ。

 

 

「さあ。この気難しくて凶暴な鉄の猫ちゃんを、あなたの個性で完璧に手懐けてごらんなさいな!」

 

 

鋼の虎が口田に向かって、凄まじい咆哮を上げる。

 

 

「ヒィィィィッ!!」

 

 

口田甲司と化け猫シセルによる。

命懸けで心を通わせる、ハートフルデッドリーな特訓が幕を開けたのである。

 

 

 





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