サポート科開発室。
そこにA組の面々が次々と足を踏み入れていた。
室内には彼らの個性や戦闘スタイルを基に作られた、真新しいサポートアイテムが並べられていた。
生徒たちはそれぞれ指定されたブースで自身のアイテムを受け取っていく。
なお、これらの装備は難羽自身が直接製造したものではない。
難羽が設計図とコンセプトをまとめ、それを基にして発目をはじめとする雄英高校サポート科の生徒たちが総力を挙げて形にした、技術の結晶である。
難羽彼が突如として教室に現れ、クラスメイトだった難羽と同一人物であったと明かしたことには、サポート科生徒たちにも衝撃だった。
しかし、彼がI・アイランドの伝説的サポートアイテム開発者と同一人物であったという事実の方がサポート科の生徒たちにとっては重要であり、尊敬と畏怖の入り交じった眼差しで彼を見ていた。
特に発目は驚愕こそしたものの、元々彼の異常なまでの技術力には注目していたため、その真実を素直に受け入れていた。
「いやぁ、まさか歴史の偉人から講義を受けられて、ベイビーを作れるなんて光栄です! ……でも!!」
発目は難羽に顔を近づけて、これだけは言っておかなければ気が済まないというように叫んだ。
「あのロッカーに残していったセキュリティは趣味が悪いと思います!! 」
彼女は伝説の発明家への敬意よりも、かつて難羽が失踪する際に残していったトラップを根に持っていた。
後日、難羽は謝罪としてサポート科にアンドロイドの製造方法について記載したUSBを送る。
なお、それを渡されたのはサポート科担任のパワーローダーであり、その行動のめちゃくちゃさで同一人物だと彼は確信した。
そんなサポート科の
八百万の背後には、奇妙な物体がフワフワと静かに浮遊しながら追従している。
球体のボディに、器用な動きをする二本のアームが付いた小型のドローンロボットだ。
八百万の創造の個性は、自身の脂質を消費して、この世のありとあらゆる非生物を生成することができる強力な能力である。
しかし、大砲や巨大な盾のような大質量のものを生成した場合。
それを運搬するための台車や車輪までもをその都度生成しなければならず、無駄な脂質の消費を強要される。
さらに、咄嗟の機動力や生成のテンポが著しく落ちるという明確な弱点があった。
そんな彼女のために作られたこのロボットに、戦闘能力は一切搭載されていない。
ただひたすらに彼女の背後に追従し、生成した物をアームで掴んで保持し、運ぶという機能にのみ特化して設計されている。
これさえあれば、あらかじめ生成しておいた複数の道具をロボットに持たせておき、戦況に応じて即座に道具を交換しながら戦うといった戦術が可能になるのだ。
彼女の個性は準備の時間がそのまま強さに繋がるため、運搬を任せることができるだけで大きく戦力がアップする。
そして、球体の正面には表情を映し出す小型モニターが設置されている。
立派な髭にモノクルをかけ、首元には赤い蝶ネクタイを結んだ、デフォルメされた英国老紳士の顔。
彼女の由緒正しい家柄に合わせた、執事ロボットということである。
名前はセバスチャン。
「……とても便利で、素晴らしい発明ですわ。……ですが」
八百万は後ろをついてくるセバスチャンのモニター顔を見つめ、困ったような笑顔を浮かべた。
その反応にセバスチャンが首を傾ける。
実際には首がないため頭を横にしているだけだが。
「この愛らしいセバスを戦いの場に連れて行くというのは……少し、胸が痛むというか、複雑な気持ちになりますわね……」
忘れがちではあるが、難羽はおもちゃ会社であるムゲンバンダイの元社長である。
子供たちの心を掴むデザインには自信があったが、それが結果として彼女にペットのような印象を与えることになっていた。
別のエリアでは発射音が響いていた。
撃ち合いの訓練を行っているのは、芦戸三と瀬呂だ。
芦戸の両腕には、小型タンクとチューブで接続された流線型のシューターが取り付けられていた。
彼女が腕を振り上げ、天井の鉄骨から自身のテープを射出してスイング移動している瀬呂の軌道の少し上に向かって、シューターの狙いをつける。
「いっけぇー!」
芦戸が人差し指と小指を角のように突き出し、折り曲げた中指と薬指で掌のスイッチを押し込んだ瞬間。
強力な水鉄砲の要領で装置の内部で高圧がかけられた彼女の酸が、レーザーのように一直線に射出される。
高圧の酸の束が瀬呂のテープを的確に溶かし切った。
このアシッドシューターは、アシッドショットの射程を伸ばしつつ弾速を上げ、遠距離からの精密射撃を可能にするサポートアイテムである。
「うおぉっ! マジかよ!?」
テープを失い、空中から落下していく瀬呂。
しかし、彼もただやられるだけの存在ではない。
落下しながら空中で体勢を立て直し、自身の両手首のバンドに装着された新装備を起動した。
手首の射出口からカプセルが膨らむように形成される。
彼はそれを、芦戸の足元の地面に向かって力強く投げつけた。
芦戸は警戒してバックステップで回避行動をとったが、球体は地面に激突した瞬間に音を立てて破裂する。
破裂した球体の内部から無数のテープが四方八方へと放射状に広がり、回避しきれなかった芦戸の左脚を、壁に縫い付けるようにして絡め取った。
「名付けて……テープグレネード!! ……トムホ版のやつだ!!」
瀬呂が地面に着地しながら興奮気味に叫んだ。
テープを加工してギミックを追加する機構を作成したのはサポート科だが、このデザインを指定したのは難羽である。
難羽が自身と同じスパイダーマン好きの瀬呂に合わせて、意図的に機能を模倣して搭載させたのだ。
瀬呂の顔には、憧れのヒーローのガジェットを使えるという隠しきれない喜びが溢れていた。
さらに別のトレーニング場からは重低音を響かせるベースと、甲高いエレキギターのメロディが複雑に絡み合う音が聞こえてきた。
音の発信源は、上鳴と耳郎の二人だ。
しかし彼らが行っているのは、文化祭で見せたような楽しい音楽のセッションではない。
上鳴が手にしているのは、稲妻の鋭い意匠が施されたエレキギター型のサポートアイテムだ。
彼はそのギターを構え、自身の体から電気を発生させている。
しかし、それは彼がこれまで多用してきた、全方位への放電ではない。
手元のギター型デバイスの内部に向かって、ジリジリと継続的に放電を行っているのだ。
彼の目の前には、右腕のシューターからあらかじめ射出しておいた、円盤状のポインターが壁に貼り付いている。
これまで、彼の放電に指向性を持たせるために使っていた照準器だ。
だが、今回彼が行うのは、肉体からの直接の放電ではない。
上鳴が、力を込めてギターの弦を激しくかき鳴らした。
ギターから放たれたのは、痺れるようなロックのメロディだけではない。
音色と同時に、ギターの
射出と同時に、六本ある弦。
否、エネルギーゲージのメモリが一本分だけ光を失う。
これは単なるギターではない。
これは全力放電時に脳に過度な負荷がかかり、思考が鈍化してしまうという上鳴の致命的な弱点を克服するために開発されたアイテムだ。
戦闘前に電流を流し込んで溜め込むことができ、その蓄積した電力を、彼自身に負荷をかけずに強力な電撃として分割して放出できる蓄電器。
その名も、
その隣で耳郎が持っているのは、彼女の髪色と同じ深い紫のカラーリングが施された、ベース型の音響装置だ。
彼女はコスチュームからスピーカーとなる音響増幅装置を取り外し、耳たぶのイヤホンプラグをその装置に直接突き刺して持ち上げた。
ターゲットとして用意された分厚いコンクリートブロックに向かって、爆音が放たれる。
それと同時に、耳郎は手元のベースの弦を激しく弾き鳴らした。
彼女が身につけているこのベースは、心臓の鼓動の振動を読み取って認識する特殊な生体連動デバイスである。
ベースは彼女の心音のデータを解析し、彼女がプラグから放っている爆音と全く同じ周波数の音を、ベース側のスピーカーから寸分違わず発生させていく。
二つの同じ周波数の波の山が空中で重なり合い、増幅する。
これまでの彼女単独では出せなかった、コンクリートを粉砕するほどの高威力の爆音となって対象を打ち砕いた。
この共鳴による破壊力アップは、シンプルだが強力な仕様だ。
しかし、このサポートアイテムの真骨頂は破壊力ではなく、対人戦にある。
ベースから放つ音の周波数を調整し、自身の放つ音の周波数からわずかに意図的にズラして放つ。
そうすることで、空間にうなりを発生させ、敵の三半規管や平衡感覚などを音で狂わせ、行動不能に陥らせることができるのだ。
戦場を支配する音波増幅装置。
その名も、トドロキ
さらに、別のトレーニング場。
拘束タイプの能力を持つ二人が、自身の限界に挑むように汗を流していた。
峰田は、これまで使っていたミネタビーズ用の新たなグリップパーツを手に入れていた。
峰田は頭に生えているもぎもぎの球体に新しいパーツを深く差し込んだ。
見た目は以前と変わっていない。
そのグリップを両手でしっかりと握りしめ、前方の仮想敵に向かって力強く振るう。
差し込んだグリップ部分が特殊な繊維状に長く伸び、鞭のようにしなって、先端のもぎもぎが仮想敵を捕縛する。
新アイテムの機能はここからだ。
峰田が鞭を振るった状態で、グリップの根元にある赤いスイッチを強く押し込む。
その瞬間、長く伸びた鞭の内側からまるでブドウの房のような杭が内側から一斉に突き出し、先端のもぎもぎを内部から破裂させた。
破裂音と共に、もぎもぎが小さな粘着質の破片となって四方八方へと広範囲に飛び散る。
周囲の空間と壁、そして仮想敵の全身を逃げ場のないほどの粘着の網で覆い尽くし、拘束する。
もぎもぎの絶対的な粘着力を、一点から面へと拡張する広範囲制圧武装。
決してちぎれることのない魔の紐で悪狼フェンリルを捕縛した神の鞭の名を模した、峰田の新たな必殺技。
その名も、グレープニルである。
「…………なんで私だけ個性の基礎特訓なの!? みんなみたいにかっこよくパワーアップしてる感じでいいじゃん!!」
麗日は叫んだ。
彼女も新しいサポートアイテムを確かに受け取っていた。
しかし現在の彼女に課せられているのは、新しいアイテムを使った華麗な戦闘訓練ではなく、個性の概念を広げるための反復特訓であった。
「……しょうがないでしょう。麗日様のサポートアイテムのスペックを引き出すためには、何よりもまず、ご自身の個性の概念の拡張と習熟に大きく影響されますので」
麗日の不満に対して丁寧な声で対応するのは、壊理と同じくらいの年齢に見える少女であった。
首元には武骨でヘッドホンを装着し、金色のさらりとしたショートヘアーの頭には、メイドカチューシャの代わりに大人用のサングラスが乗せられている。
服装はクラシックで上品なメイド服。
胸の膨らみも、背丈も、
難羽の秘書AI、アットである。
以前からアットが活動するための新しい専用ボディの製造は進められていたのだが、最終的に覚上が要望した姿となった。
そんなアットの口調は覚上の影響によるお嬢様言葉ではなく、秘書としての丁寧な口調に戻っている。
元々は男性的な人格を持つAIであったという事実からは、アット自身を含めた全員が目を背けていた。
そんなアットから特訓メニューを受け取り、麗日が現在行っているのは。
ロープをくっつけた風船を自身の個性で浮かせるという、一見すると子供の遊びのような特訓であった。
だが、これはただ単に物を浮かすだけの訓練ではない。
彼女の無重力という概念系の個性を、一段階上へと拡張させるための思考訓練なのだ。
麗日の個性である
風船に繋がれた紐に彼女が触れて個性を使えば、風船はフワリと浮き上がる。
それは風船の紐に触れているという認識だからだ。
しかし、風船に後から別のロープをくっつけ、そのロープの端に麗日が触れて個性を使ったとしても、その風船が浮くことはない。
彼女の認識では、風船とロープは別々のものであるため、風船を遠隔で浮かせることはできないのだ。
彼女に渡された新しいサポートアイテムは、両腕に取り付けることができる、先端に特殊な粘着パーツが付いたワイヤー射出装置であった。
浮かせた敵に射出して、ワイヤーで引き寄せて投げ飛ばしたり。
自身の体を無重力にしてから壁に射出することで、ワイヤーを巻き取って立体的な高速移動ができる。
サポートアイテムを見た麗日は、そういう使い方をするものだと考えた。
だが、難羽が彼女に行わせている特訓は、彼女の想像よりもさらに一歩先を行くものだった。
もし、麗日が射出したロープ伝いに、無重力の力を伝播させることが出来れば。
直接相手に触れるリスクを冒さずとも、ロープの先端を相手にくっつけるだけで相手の重力を奪い、動きを完全に制限できるのだ。
実際USJの襲撃の際、死柄木は己の崩壊を射出したワイヤーに伝播させている。
つまり、実例はあるのだ。
しかし、これが難しい。
元から繋がっている一つの物体に触れて無重力にする感覚と、後からくっつけた別の物体を通じて、接合部の先にある対象まで無重力を延長して伝播させる感覚。
それは、彼女の認識の壁を打ち壊さなければならない作業だった。
何度やっても、接合部分の結び目で力が途切れてしまうような感覚に陥り、ロープだけがフワリと浮いて、肝心の風船は重力に従って床に転がったままとなる。
(……どう違うのかって言われたら、自分でも上手く説明できないんよ……!)
概念系の個性を持つ者がぶつかる、能力の理解とイメージの壁。
麗日は頭から湯気を出しながら、風船とロープに向かって必死に思考を巡らせていた。
しかしこの日、麗日のように特訓に頭を抱える者たちの中で。
ただ一人、手渡されたサポートアイテムを受け取り、完全に我が世の春を謳歌している者がいた。
常闇踏陰である。
「フ……フハハハハハハハハハッ!!」
トレーニングルームの中心で。
常闇は底知れぬ高笑いを上げていた。
彼は腰のベルトに携えていた、漆黒の意匠が施された大仰な短剣の柄に手をかけ、一気にそれを鞘から引き抜いた。
小気味良い音が鳴る。
すると、引き抜かれた短い刀身の鍔の部分が展開し、短かった刀身の先端から、風船が膨らむようにして黒い刃が急速に伸びていき、身の丈ほどの巨大な大剣へと変貌した。
刀身が膨らんで伸びた理由。
それは刃の部分が金属ではなく、黒いゴムで作られた中空のハリボテだからである。
しかし、常闇がこの玩具を使うことで、これはただのハリボテから凶器へと姿を変える。
「……いでよ、
常闇の影から出現した黒影が、刀身の根元に開けられた小さな穴から刃の内部へとズルリと潜り込む。
光の入らない、暗闇の密閉空間。
闇の中で黒影の破壊の力が爆発的に増大し、凶暴化する。
その暴走する黒い力が刀身を満たし、強靭な破壊の刃へと変質させた。
「……
常闇が黒影の力で満たされた大剣を、前方の巨大なコンクリートブロックに向かって振り下ろした。
ターゲットのブロックが引き裂かれ、粉々に破壊される。
そしてその破壊の衝撃に耐えきれず、外側のゴムの刃が破裂した。
刀身が破裂したことで、内部の黒影にトレーニングルームの照明の光が直接当たる。
光を浴びた黒影は暴走を停止し、常闇の影へと帰還した。
「瞬間的に黒影の力を極限まで増幅し、一撃必殺の斬撃として放つギミック……完璧だ」
常闇はゴムの刃が破裂して失われ、柄と鍔だけになった短剣を、スッと手元の鞘へと収めた。
鞘に収めることで内部に仕込まれたゴムが自動的に柄にセットされ、リロードが完了する仕組みになっている。
「……フッ」
常闇はマントを翻した。
「……フッ」
そして、彼がおまけのように左手に見せびらかしている光る指輪。
それは親指でスイッチを押し込むことで強い閃光を放つだけの、単純な構造のアイテムである。
だがこれがあれば、夜間や暗所で暴走してしまった黒影に光を当て、暴走を抑え込むことが出来る。
常闇にとっての安全装置なのだ。
難羽には、林間合宿の際に常闇が誘拐されてしまったのは、自分が彼の救出よりもオールフォーワンの追跡を優先したことが原因の一つであるという負い目があった。
だからこそ難羽は、常闇が喜ぶであろうデザインを考案した。
『闇の力に狂う相棒を、指輪の放つ小さな希望の光が正気に戻す』
中二病の心を刺激する古文書風にデザインされた取扱説明書まで自作して、彼に渡したのだ。
左手に指輪を付けた闇の騎士が大剣を構えているパッケージまでわざわざ製作していた。
『光る!斬る!DXツクヨミセット』である。
「……フハハハハハハハハハッ!!」
常闇は闇の剣士としての武装を手に入れ。
トレーニングルームで一人、心の底からご満悦の笑い声を上げ続けていたのであった。
ナガン「ボス……言いたくはないが、もしかして覚上は幼い子」
難羽 「それ以上言うな」
現在句点ごとに改行していますが、通常の文章の書き方に直したほうがいいですか?
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段落を使った普通の文章のほうが良い
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今の文章の方が良い