バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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ミルコは雄英出身じゃないことを忘れてました。
修正いたしました。

あと今回短いです。


122話 かえるぴょこぴょこ

 

トレーニングルームの中央に設営されたリングの上で、濃密な熱気が渦を巻いている。

 

切島、砂藤、蛙吹、尾白。

四人の生徒たちは、息を荒らげながら一つの目標を取り囲むように駆けていた。

 

彼らの視線の先。

リングの中心で不敵に立ち塞がっているのは、虎を模した覆面で顔を隠したプロヒーローの姿である。

 

彼女は正体を隠すつもりはないが、仮に隠していたとしてもわかるであろう。

鍛え上げられた太ももや野性の獣を思わせる獰猛な気迫、そして何よりその圧倒的な蹴りの威力。

それらが彼女が誰であるかを雄弁に物語っていた。

 

ミルコが床を蹴り飛ばし、四人へ向けて突進を開始した。

 

 

「ウラァッ!!」

 

 

肉眼で捉えることすら困難な速度で放たれた蹴りが、尾白へと迫る。

尾白は咄嗟に自身の尻尾を盾として前面に突き出し、防御の姿勢を取った。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

強烈な衝撃が尻尾から全身へと伝播する。

防ぎ切ったと確信したのも束の間、彼は後方へと大きく押し流されていた。

 

次いで前に出たのは、全身の皮膚を岩石のように硬化させた切島である。

 

彼は自身の誇る防御力を全面に押し出し、ミルコの連続蹴りを受け止める。

硬化した肉体が砕け散ることはない。

 

 

「うぉっ……!?」

 

 

しかし、防御力とは無関係に襲い来る運動エネルギーを殺し切ることはできず、彼は身体ごと力強く弾き飛ばされて床を転がった。

 

三番目の標的となったのは蛙吹である。

 

彼女は持ち前の俊敏さと柔軟性を活かし、ミルコの初撃を紙一重で回避することに成功した。

 

だが、ミルコの動きはそこからさらに加速する。

蛙吹が体勢を立て直すよりも早く、彼女は死角となる背後へと回り込んでいた。

 

 

「うぐっ……!」

 

 

見えない角度から迫る無慈悲な蹴撃。

蛙吹もまた床へと吹き飛ばされる。

 

圧倒的な力と速度の差。

 

誰もがミルコの暴力の前に屈するかと思われたその時、劇的な変化を見せた者がいた。

 

砂藤である。

 

彼は個性を発動させるための起爆剤、砂糖の入った容器を傾けた。

これまでであれば、糖分を摂取した瞬間に全身の筋肉を肥大化させて敵に突撃していたはずだ。

 

しかし、今の彼は違う。

 

筋肉を膨張させることなく、静寂を保ったまま。

迫り来るミルコの姿を真っ直ぐに見据えて迎撃の構えを取ったのだ。

 

ミルコが地を滑るように接近し、砂藤の腹部へと重い蹴りを突き立てる。

防御は間に合わない。

無防備な腹筋に足がめり込む。

 

 

「おいおい……渋い技使うなぁ!!」

 

 

否。

砂藤の防御は、たった今完了した。

 

ミルコの蹴りが腹部に到達し、強烈な打撃が内臓を揺るがそうとしたその刹那。

砂藤の肉体が、爆発的な膨張を遂げた。

無防備であったはずの腹筋が、一瞬にして大木の幹を思わせる分厚く強靭な鎧へと変貌を遂げる。

 

ミルコの放った絶大な威力を誇る蹴りは砂藤の腹部を貫くことなく、極限まで硬化した筋肉の壁に阻まれた。

砂藤は押し込まれることなく、その衝撃を真正面から受け止める。

 

そして、自身の腹部に突き刺さったままのミルコの足を両腕で力強く抱え込み、そのまま自身の巨体を鋭く捻る。

 

 

「フッ!!」

 

 

回転エネルギーをミルコの身体へと伝達させる。

遠心力と己の筋力を乗せた豪快な投げ技が、ミルコをリングの床面へと激しく叩きつけた。

関節を極めながら相手を回転させて投げる大技、ドラゴンスクリューである。

 

技を決めた砂藤は追撃を試みることなく即座に後方へと跳躍し、距離を取る。

同時に残心を保ったまま、発動させていた個性のスイッチを静かに切った。

 

これこそが、砂藤が新たに見出した戦術の形であった。

 

過去の彼は糖分を摂取して力を得た後、その効力が切れるまでの間、ひたすらに筋肉を肥大化させた状態で戦い続けていた。

個性の反動によって脳の思考能力が低下するという弱点を抱えながらも、思考を止めても戦えるバーサーカースタイルであればいいと。

 

彼は心のどこかで、自らの力に限界を感じていた。

 

同じクラスには、緑谷という自身の上位互換とも呼べる圧倒的な力を持つ存在がいるからだ。

しかし、緑谷との対話が彼の認識を根底から覆した。

 

ヒーローが直面する戦場は、常に何もない平野での単純な殴り合いではない。

 

もし、崩壊寸前の脆い建造物の中で戦闘が行われていたらどうなるか。

もし、背後に守らなければならない傷ついた民間人が倒れていたとしたら。

 

自身の思考を奪い、周囲の状況判断を不可能にする力の暴走は、救うべき命を危機に晒す弱点となる。

活動の限界時間を無駄に消費している余裕など、どこにもないのだ。

 

緑谷の助言を咀嚼し、彼が導き出した答え。

 

それは、必要な瞬間にのみ個性を点火し、極限まで圧縮した時間を戦いに用いる一撃必殺のカウンタースタイル。

相手の攻撃を誘い込み、最小限の動作で関節を捉えて破壊する。

 

彼は自らの肉体を、相手を拘束して仕留める巨大な罠へと昇華させたのだ。

 

 

 

難羽はそんな思考の転換を成し遂げた砂藤の姿を見て、キン肉マンの全巻セットを貸し与えていた。

 

 

 

砂藤の研ぎ澄まされた動きと、見事に決まった一撃。

 

それが起爆剤となり、打ち倒されていた三人の生徒たちの闘志が再び燃え上がる。

 

尾白が床を蹴り、回転の勢いを乗せてミルコへ向けて突進する。

 

彼の最大の武器である太い尻尾が、鞭のようにしなりながらミルコの側面へと迫る。

 

ミルコは姿勢を床すれすれまで低く落とし、頭上を通過する尻尾の打撃を躱した。

そして姿勢を低く保ったまま、尾白の軸足を刈り取るようなカウンターの蹴りを放つ。

 

尾白は跳躍してその蹴りを回避。

ミルコは尾白が空中に逃げたと判断し、追撃を加えるために筋肉を収縮させる。

 

 

「まだだ!!」

 

 

しかし、尾白は攻撃から逃れるために跳躍したのではなかった。

 

空中で身体を丸め、ミルコの懐深くへと飛び込むための準備を整えている。

互いの息遣いが聞こえるほどの超近距離。

 

尾白は両足をミルコの胸元へ向けて突き出す、ドロップキックの姿勢であった。

 

通常、十分な助走や落下のエネルギーを持たない至近距離からの蹴りなど、相手に脅威を与えることはできない。

 

しかし、尾白には地面を蹴り出すための第三の足(・・・・)が存在する。

 

彼は空中で身体を捻り、自身の尻尾を真っ直ぐにリングの床へと突き立てた。

強烈な筋力を持つ尻尾がバネのように収縮し、床を弾き飛ばす。

その反発力が尾白の肉体を前方へと撃ち出し、突き出された両足に破壊的な加速を与える。

 

強靭な尻尾を支点にして放たれる、規格外の推進力を伴った両足蹴り。

 

 

「食らえ!!」

 

 

尾白が放ったカンガルーキックが、ミルコの身体を大きく後方へと弾き飛ばした。

 

 

「面白ぇ……!」

 

 

空中で体勢を崩したミルコへ向けて、今度は切島が猛然と迫る。

 

これまでの切島は自身の硬化能力を盾、あるいは敵の攻撃を耐え凌ぐための鎧としてのみ認識していた。

 

しかし、格闘技において使用が禁じられるほどの危険な部位、すなわち関節の硬度を高めれば、それは恐るべき凶器へと変貌する。

 

彼は自身の両肘と両膝の硬度を、岩を通り越して鋼の領域にまで引き上げた。

空中に浮いたミルコの胴体を、鋭利な刃物と化した四つの関節で挟み潰そうと跳躍する。

 

ミルコは幻視する。

肉を食いちぎらんとする、猛獣の牙を。

 

ミルコの内に眠る兎の本能が死の危険を感じ取り、背筋に悪寒を走らせた。

 

彼女は空中で無理やり身体を捻り、切島の挟撃の軌道から間一髪で逃れる。

 

切島の動きそのものは、純粋な身体強化の個性を持つ者たちと比較すれば決して素早いものではない。

 

しかし、もしその一撃が決まれば、一撃で戦闘不能に陥りかねない絶対的な脅威がそこには存在していた。

 

 

「ん……?」

 

 

着地と同時に体勢を立て直したミルコの耳が、空間を微かに震わせる異音を捉えた。

 

彼女は鋭い視線を巡らせ、周囲の状況を警戒する。

リングの上には、切島、砂藤、尾白の三人の姿しかない。

 

蛙吹の姿が、どこにも存在していないのだ。

 

 

つまり──

 

 

ミルコは躊躇うことなく、何もない虚空、自身の背後へ向けて強烈な回し蹴りを放った。

 

短い苦悶の声が響き渡る。

 

何かが床に激しく叩きつけられる鈍い音が響き、空間の歪みが解けていく。

 

黒と深緑の迷彩模様が徐々に輪郭を取り戻し、姿を現したのは蛙吹であった。

彼女が着用しているのは、難羽から贈られた環境に溶け込む防護スーツである。

 

蛙吹は、他の三人のように正面からの打撃戦を強みとしていない。

だからこそ乱戦の最中に身を隠し、気配を殺して隙を突こうと試みたのだ。

 

 

「そうじゃねぇだろ、もったいねぇ!!」

 

 

だが、ミルコはその戦法を真っ向から否定する。

 

難羽が蛙吹に見出していた、まだ開花していない真の力。

それは蛙吹自身がこれまでの搦め手を基本とした戦闘スタイルに固執するあまり、見逃していた可能性である。

 

動物の個性を持つミルコだからこそ、同じ動物の特性を持つ蛙吹の肉体に秘められたポテンシャルを直感的に理解していた。

 

 

「お前も蹴ってこいよッ!!」

 

 

ミルコの野生に満ちた叫びが響き渡る。

同時に彼女の脚が空気を切り裂き、蛙吹へ向けて容赦のない蹴りが放たれる。

 

 

蹴ってこい。

 

 

その短い言葉の意味を、蛙吹は死神の鎌のような蹴りが迫り来る一瞬の思考の中で理解した。

 

 

自身の個性、蛙の特性を最も活かせる戦い方。

 

 

蛙吹は覚悟を決め、姿勢を低く落とすことでミルコの横蹴りを頭上で躱す。

 

舌を伸ばしてミルコの身体を拘束するか。

それともこの場から離脱するか。

 

 

彼女は立ち向かう道を選んだ。

 

 

両腕をしっかりと床に突き、足裏を天に向けて両脚の関節を深く折り曲げる。

それは、逃げるための構えではない。

 

標的を上方に据えた、跳躍前の姿勢。

 

ミルコの蹴りが空を切り、腹部が無防備に晒されたその瞬間。

蛙吹は地面へ向けて跳躍するかのように、折り曲げていた両脚を一気にミルコの腹部へと蹴り出した。

 

空気が破裂するような、凄まじい打撃音がリングに響き渡る。

 

ミルコの身体が巨大な杭で打ち上げられたかのように、上空へ向けて一直線に跳ね飛ばされた。

 

その常軌を逸した威力に、生徒三人は目を見開いた。

 

 

 

兎という生物は、自身の体長の数倍もの高さを跳躍することができる。

 

人間に換算すれば、助走を全く行わずに数メートルの高さを飛び越えるほどの驚異的な脚力である。

そして水平方向への跳躍であれば、大型のバスすらも縦に飛び越えることが可能だ。

 

それに対して、蛙の足は駆け抜けるという動作においては兎に遠く及ばない。

 

しかし、純粋な跳躍力という一点においては、兎を凌駕しているのだ。

 

体長の十倍以上という距離を、一瞬にして跳躍する力。

人間に換算すれば、立ち幅跳びの動作だけでビル数棟分もの距離を飛び越える計算となる。

 

蛙吹の脚は、ミルコのように敵を連続で蹴り倒すためのものでも、戦場を縦横無尽に駆け回るためのものでもない。

 

ゆっくりと時間をかけて脚を折りたたみ、筋肉と腱に限界まで弾性エネルギーを蓄積させる。

そして、極限まで引き絞られた弓から矢を放つように、その莫大なエネルギーをただ一撃に乗せて対象へと叩き込む。

 

これこそが、蛙吹梅雨という少女の内に眠っていた真の可能性。

全身の力を一瞬の解放に懸ける、一撃必殺のカタパルトキックである。

 

天井付近まで吹き飛ばされたミルコは空中でくるりと体勢を立て直し、着地を決める。

 

彼女は打撃を受けた自身の腹部を微かに手で押さえながらも、その顔には獰猛で歓喜に満ちた笑みが浮かんでいた。

 

 

「面白くなってきた……!!」

 

 

彼女の瞳は自身の期待を遥かに超える生徒たちを見据え、さらなる闘争の炎を燃やし始めていた。

 

 

 





この梅雨ちゃんは将来デカケツになると思います。

現在句点ごとに改行していますが、通常の文章の書き方に直したほうがいいですか?

  • 段落を使った普通の文章のほうが良い
  • 今の文章の方が良い
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