バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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よく考えたらここまで読んでくれた人は私の文章に慣れていますよね。
とりあえず本作ではこの文章の書き方で最後までいきます。


124話 見えない鎖

 

緑谷とロシナンテの面々は、地面に腰を下ろして休息を取っていた。

 

彼らの息遣いは一様に荒い。

ロシナンテのメンバーの身体にも打撲痕が刻まれているが、緑谷の肌には刃物による裂傷が幾つも走っていた。

緑谷は痛みに顔を歪めながらも自らの手で軟膏を塗り込み、慣れた手つきで包帯を巻き付けていく。

 

彼らが行っているのは手加減の許された模擬戦などではない。

実際に彼らが殺傷能力のある武器を振るう実戦訓練である。

 

己に芽生えた三代目の発勁の蓄積時間を身体に刻み込み、四代目の危機感知を研ぎ澄ませ、五代目の黒鞭の強度を自在に操る。

六代目の煙幕の使用タイミングを学び、七代目の浮遊を高速飛行に変える。

そして、二代目の変速という切り札をどのタイミングで切るか。

 

一人の人間が個性を一つ極めるのに対し、緑谷は複数の個性を短期間で使いこなせるようになる必要がある。

安全なカリキュラムだけでは到底足りない。

だからこそ、かつてヴィランとして社会に牙を剥いた彼らの本気の殺意を特訓に組み込む必要があった。

 

 

「えっと……何か?」

 

 

そんな緑谷は、怪訝な表情で視線を上げる。

 

仮面で顔を隠したトガが、四つん這いの姿勢で至近距離まで顔を近づけていたのだ。

彼女の顔は仮面に覆われているとはいえ、年頃の少女の吐息が届くほどの距離感。

緑谷は居心地の悪さを隠せずにいる。

 

トガは瞬き一つせず、仮面の奥の瞳で緑谷の顔を執拗に見つめ続けていた。

 

その視線の先にあるのは、緑谷の頬に真新しい線を描く赤い血の痕跡。

先ほどの訓練中、彼女自身が振るった刃によって切り裂かれた傷口から滲み出したものだ。

 

トガの脳裏に、初恋の少年の面影が重なる。

血を流し、傷つきながらも必死に足掻くその姿がひどく美しく、そして愛おしく思えた。

 

彼女は無意識のうちに、その赤い滴を味わおうと舌を伸ばす。

しかし舌先が触れたのは緑谷の肌ではなく、自身が顔を覆っている仮面の裏側であった。

 

 

 

 

 

「おつかれ~。デクくん、そっちは──」

 

 

不意に軽やかな足音が近づいてきた。

 

声の主は麗日である。

彼女は自身の訓練の合間を縫って、緑谷の様子を見に訪れたのだ。

 

 

しかし、彼女の視界に飛び込んできたのは、緑谷にに顔を近づけている仮面の少女の姿であった。

 

 

「デデデデデデクくん何してるの!?」

 

 

バイブレーション麗日が、顔を赤くしながら裏返った声で絶叫する。

 

 

「え?……イヤイヤイヤ違うから!!」

 

 

激しい動揺を露わにする彼女に対し、緑谷は両腕を交差させ、必死に否定の言葉を並べ立てた。

 

トガは慌てふためく緑谷から視線を外し、立ち尽くす麗日の顔を静かに観察する。

 

麗日の表情に浮かんでいるのは、単なる気まずさや羞恥心だけではない。

自身の内に芽生えた小さな嫉妬、予想外の光景に対する焦り、得体の知れない相手への困惑、そして微かな恐怖。

 

それらすべての感情が複雑に絡み合い、彼女の顔を彩っていた。

 

 

「それよりもどうしたの麗日さん!?別のトレーニング場じゃないの!?」

 

 

緑谷が強引に話題を切り替えるように声を張り上げる。

 

その質問に我に返った麗日は、大きく深呼吸をして己の動揺を静めた。

そして恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻きながら、自身の腕に装着された新しいサポートアイテムを指差した。

 

 

「私のサポートアイテムなんだけど、個性の強化が必要になっちゃって……デクくんのノートに新しい視点が書かれてないかなって」

 

そう言いながら、彼女は腕の装置のスイッチを押し込んだ。

射出音と共に装置の先端からワイヤーロープが勢いよく飛び出す。

その機能を見た緑谷は、彼女の意図と戦術の広がりを理解した。

 

彼は少し離れた地面に置かれていた、水滴の浮かぶペットボトルへと視線を向ける。

 

緑谷の腕から黒いエネルギーの奔流が伸び、意思を持つ鞭のようにペットボトルを絡め取る。

そして、彼の手元へと引き寄せた。

まだ完全な制御には集中を要するものの、この程度の操作はすでに彼の身体に馴染み始めている。

 

 

「お揃いだ!」

 

 

麗日が満面の笑みを浮かべて歓声を上げた。

 

同じように対象を捕縛し、引き寄せるという機能。

戦場において互いの背中を預け合うことができる、共通の戦術。

 

同じ道を歩むことができる喜びに麗日の頬は熱を帯び、桜色に染まっていた。

 

 

トガはそんな二人のやり取りを、微動だにせず見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノートを受け取った麗日が、再び自身の訓練に戻ろうと廊下を歩く。

しかし、その背中に向かって、仮面を被ったトガが言葉を投げかけた。

 

麗日は足を止め、先ほどの勘違いの気まずさを引きずりながら振り返る。

 

 

「緑谷くんが好きなんですか?」

 

「ブフゥ!?」

 

 

直球の問いかけに麗日は喉の奥で空気を弾けさせ、激しくむせ返った。

 

突然何を言い出すのか。

彼女が反論の言葉を紡ごうとしたその隙を与えず、トガは静かな声音で問いを重ねる。

 

 

 

「好きってどんな気持ちなの?」

 

 

 

その言葉には一切の悪意も、からかいの意図も含まれていない。

 

ただ純粋な疑問。

 

彼女はかつて、血を流して他者を救おうとする少年に惹かれた。

彼を初恋だと認識した。

 

中学の卒業式の日、その血を啜ることで愛情を表現した。

抑えることの出来ない、己の欲求に従った結果である。

 

 

だが果たしてそれは、初恋というものであったのだろうか。

 

 

血に塗れて足掻く彼を見て心が躍った。

先ほども傷つき血を流す彼の姿に、どうしようもなく惹きつけられた。

 

しかし、自分よりも彼と親密で、好意を寄せていることが明白な少女を目の前にしても。

トガの胸の奥には、嫉妬という感情が湧き上がってこないのだ。

 

 

これは恋と呼べるものなのか。

私の心からから生まれたものなのだろうか。

 

 

多感な時期を、彼女は自身の衝動を押し殺して生きてきた。

好意を抱く相手がいても、その感情の根源を誰かと共有したことなど一度もない。

友人にも、家族にさえも。

 

 

『人間じゃない子 産んじゃった!』

 

 

自分の抱く、好きという感情は他者のそれとは決定的に異なっている。

 

自分の好きは、誰にも理解されない異端なものだと。

自分は、普通の人間とは違うのだと。

 

彼女は他者が当たり前のように抱く、好きという感情の輪郭を未だに掴めずにいる。

他者を理解できるほど、彼女は自分を誰かに曝け出したことなどなかった。

 

 

彼女は未だ、幼子のままである。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、雄英応接室。

 

難羽と青山が机越しに椅子に座って向かい合っていた。

 

重苦しい静寂の中、テーブルの中央に置かれているのは一枚のメモ用紙である。

それは青山のサポートアイテムのケースの中に忍ばせられていたものだ。

 

そこには指定された日時と場所、そして内通者という三文字だけが記されていた。

 

青山は椅子に座ったまま身体を硬直させ、視線を足元に落としている。

自身の個性を使用していないにも関わらず、極度の緊張と恐怖によって腹部の奥底が冷たい激痛を訴え続けていた。

 

難羽は小刻みに震える青山の姿を淡々と観察している。

 

 

「なるほど。私の正体については言われてないようだな」

 

 

青山は口を閉ざしたままだが、その過剰な怯えようがすべてを物語っていた。

 

内通者、青山優雅。

 

USJにヴィラン連合が襲撃を仕掛けてきたのは、彼が隔離された空間のカリキュラムを外部へ漏洩させたためである。

林間合宿の惨劇も、彼が所持していた通信端末が発信した座標が原因であろう。

 

そして今の反応。

難羽が以前雄英内に潜む内通者を捜索した際、彼は何の反応も示さなかった。

この段階になって初めて、己の罪が暴かれたことに恐怖している。

もし彼が難羽の正体について説明を受けていたとすれば、あまりにも不自然である。

 

仮面アクターという存在が雄英の教師に紛れ込んでいるという事実は、確かに世間を揺るがす爆弾となる。

しかし、それは雄英という組織の社会的な信用を失墜させるだけであり、難羽個人の目的を阻害する要因にはなり得ない。

オールフォーワンが難羽の正体を世間に公開する作戦を起こしても、正しく嫌がらせにしかならないのだ。

 

つまり、オールフォーワンは青山に対し、積極的な裏切り行為を行わせていない。

難羽が居ることで不和の爆弾が不発となったと考えるべきだろう。

 

難羽は手元のタブレット端末を操作し、机の上に置いた。

画面に映し出されたのは短いニュース映像である。

 

閑静な高級住宅街に建つ豪邸で、夫婦が何者かによって殺害されたという凄惨な報道。

金銭を目的とした、凶悪なヴィランによる強盗殺人事件として処理されている。

 

そして被害者の姓は、青山と記されていた。

 

 

「……僕も殺すんですか」

 

 

普段の彼が纏っている華やかな虚勢を剥ぎ取られ、青山は虚ろな声で呟いた。

 

その瞳からは、生きる気力すらも失われた諦観が零れ落ちている。

 

難羽は青山のその問いには答えず、ただ状況の整理を続ける。

 

青山は、難羽を口封じの刺客だと誤認しているようだった。

 

しかし、彼はオールフォーワンが雄英内部に仕込ませた唯一の駒である。

駒のレベルで言えば最高ランク。

わざわざ手間をかけて新たな駒に殺害を依頼することなどないだろう。

というかそれができるなら最初からやっている。

 

 

「青山夫妻はオールフォーワンと契約を行い、無個性だったお前に個性を与えた。幼少期には無個性と診断されていたが、その後遅れて個性が発現したということになっているな」

 

 

難羽の口から青山の抱える闇について、感情の乗らない事実として吐き出されていく。

 

 

「そしてその個性の代償として、オールフォーワンの命令に絶対服従するようになった。恩返しなどという美しいものではない。家族の命を人質に取られたからだ。雄英に入学し、内部に潜入して情報を流すための駒としてな」

 

 

その時、応接室の扉が控えめにノックされた。

静かに扉を開けて入ってきたのは、黒髪の男女であった。

 

彼らは部屋の中央でうなだれる青山の姿を認めるなり、弾かれたように駆け寄る。

そしてその身体を、きつく抱きしめた。

 

 

「……え」

 

 

青山は想定外の事態に思考が追いつかず、間の抜けた声を漏らす。

 

二人は大粒の涙を流しながら、何度も青山の名前を呼んでいた。

その顔立ちは、青山優雅という少年とひどく似通っている。

 

 

「人質は不幸にも死んだ。ヴィランが日常的に脅威となるこの社会において、不自然なことではない。そこに居るのは他人の空似だろう」

 

 

最近自身の組織にもそっくりさんが現れた部下(燈矢)がいたなと、難羽は思う。

 

難羽はかつて、ヴィランがヒーローの家族を人質に取るという盤外戦術を警戒し、生徒の家族の生活圏内に監視ロボットを配置していた。

その過程でこの二人と接触し、彼らの細胞を採取してダミーの死体を製作していたのだ。

 

そして、それを用いた殺人事件を引き起こすことで、彼らが社会的に死亡したと偽装する。

偶然助けられた彼らが戻ってきても、そういう個性として処理されるだろう。

被害者が黙っていればいいのだから。

 

 

 

青山という家族は彼らの与り知らぬところで、勝手に救済されていたのである。

青山の覚悟やこれまで抱え込んできた絶望など一切関係なく、唐突に、そして強引に。

 

 

 

青山は両親の温もりを感じながら、獣のような低い呻き声を上げた。

それは、呪縛から解放された安堵の涙ではない。

 

彼は未だに、見えない鎖で己の魂を縛り付けたままである。

 

自身が取り返しのつかない裏切り者であるという事実を、誰よりも彼自身が理解している。

 

自分の流した情報のせいで、USJでクラスメイトたちが死の危険に晒された。

自分が林間合宿の場所を伝えたせいで常闇はヴィランに連れ去られ、恐ろしい暴走を強いられた。

 

クラスメイトたちの前で、己の犯した大罪を告白したい。

そして、許しを乞いたい。

 

しかし、彼らに真実を告げる行為は何の意味も持たない自己満足に過ぎない。

 

彼らは優しすぎる。

きっと、自分を許してしまうだろう。

 

だが、実は僕が裏切り者でしたと告白することで、彼らの心に無用な猜疑心という波紋を広げてしまう。

これから過酷な戦いへ赴こうとする彼らの足並みを乱す行為だ。

 

己の命の使い道を絞り出そうと苦悩する青山。

 

意義のある、合理が故の選択ではない。

罪に対する罰の天秤を釣り合わせるための思考。

 

 

──オールフォーワンは僕の心が完全に折れたと考え、彼に逆らおうとしていることにまだ気付いていないのではないか。

 

 

罪に塗れたこんな命でも、有意義な使い道がある。

彼は涙を拭い、オールフォーワンを欺くための逆スパイを提案しようと決意を込めて顔を上げた。

 

 

「逆スパイは無理だ」

 

 

難羽は青山の決意を遮るように、冷酷に告げた。

 

 

「私がこの場にいる時点で、誰が内通者であるかは気付かれると理解しているはずだ。お前を信用する道理はない。お前が内通者だとオールフォーワン側からバラしてくることも考えたが……今のあいつらならお前の事情を聞いて、受け入れて終わりだ。爆弾にならん」

 

 

崖から身を投げ、すべてを終わらせて楽になろうとした青山を難羽は無理やり引き上げ、現実へと縛り付ける。

 

青山の心がさらに激しく軋み始める。

 

 

「やめてください!優雅は私たちのために──」

 

「そうだ、お前たちが悪い。だから、黙っていろ」

 

 

難羽は息子を庇おうと叫ぶ両親を鋭い眼光で射抜き、その言葉を暴力的に封殺した。

 

そもそも、この悲劇の元凶は青山ではない。

 

オールフォーワンという悪魔の甘言に乗り、契約を交わしたこの両親の責任である。

無個性として生まれついた青山の将来を悲観し、その誘惑に屈したのだ。

 

青山の家は裕福であり、何不自由ない生活を与えることができたはずだ。

 

彼らは息子を愛していた。

 

彼の未来を憂うあまり、悪魔と取引をするほどに深く愛していたのだ。

 

だが、なぜ。

無個性というありのままの彼を、そのまま愛してやることができなかったのか。

 

難羽は現在のこの時代に存在してはいるものの、この時代に生まれ落ちた人間ではない。

個性が存在しなかった時代の記憶を持つ彼には、彼らの抱く絶望の根源を真に理解することはできない。

そして、個性を持たないことが事実上の欠損として扱われるこの時代において、彼らの行動を完全に否定することは難しい。

 

しかし、難羽は知っている。

 

ヒーローでなくとも人を救えることを。

個性がなくとも人を救えることを。

 

 

そして、個性によって人生を狂わされてきた人々の存在を。

 

だからこそ個性を望んだ結果(末路)を見せられ、静かな怒りを覚えずにはいられなかった。

 

 

「青山優雅。クラスの奴らは事情を知れば、必ずお前を許す。しかし、それでは決して救われない……何故ならお前が、お前自身を許すことができないからだ」

 

 

難羽は両親から視線を外し、青山を真っ直ぐに見据えて言葉を紡いだ。

 

結局のところ、彼を裏切り者だと糾弾し続けているのは、他の誰でもない青山自身だ。

 

 

ただ一人、彼だけが己の罪を許せずにいる。

 

 

難羽は彼にゆっくりと右手を差し出した。

青山が顔を上げると、そこに立っていたのは見慣れた学生服姿の難羽ではなかった。

 

漆黒の飛蝗を模した異形のマスクを被り、黄色のマフラーを靡かせる暗闇の住人。

仮面アクターショッカー。

 

 

「だったら、オールフォーワンを叩きのめすくらいのことをしなければ、お前の心に刻まれた罪を塗り替えるなどできないだろう」

 

 

一瞬、青山の目に強い躊躇いの色が浮かぶ。

だが、難羽の言葉は彼の心に突き刺さり、確かな納得を与えていた。

 

自分を、そして愛する両親をここまで苦しめ、尊厳を踏みにじった巨悪に、何としても一矢報いたい。

消えかけていた正義の怒りが、彼の瞳に再び強い光を宿らせる。

 

青山は震える手を伸ばし、仮面アクターの差し出された手を力強く握り返した。

彼は自らの意思で、悪魔の手を取ったのだ。

 

 

 

「ようこそ、バベルショッカーへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタンという音が、静寂の隙間から滑り落ちた。

 

部屋の入り口、扉がある方向からだ。

青山たちが驚いてそちらに目を向けるが、そこにはただ空間が広がっているだけで誰の姿もない。

 

 

「…………」

 

 

難羽は表情を変えることなく、そこに向かって視線を据えていた。

彼には、そこに誰が立っているのかがはっきりと見えている。

 

 

葉隠である。

 

 

彼女はこの部屋に接近し、今の会話の一部始終を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

否。

 

 

難羽が、彼女にこの会話を聞かせるように仕向けていたのだ。

 

 

彼女専用のサポートアイテムを入れたケース。

それは、青山のケースと意図的に近い場所に配置されていた。

ケースを開封した際、青山の様子が明らかにおかしかったことを、彼女は必ず不審に思っていたはずだ。

そして今日、不審に思った彼女が青山の両親を見かけるように誘導した。

 

これで彼女は、青山の抱える重い真実を知ることとなった。

彼が内通者であったこと、そして、その罪に今も苦しんでいることを。

 

葉隠は決して、青山から罪の告白を受けたわけではない。

ただ偶然(・・)にも、彼が吐き出した罪の残骸に触れてしまっただけだ。

この後、葉隠は青山にこのことを問いただすだろう。

そして、彼らは秘密を共有する共犯者となる。

 

青山が暴走して命を散らそうとしても、彼女がその防波堤になる。

個性の相性から同時に動くことを考えると、彼女がその役目に適していた。

 

いつの日か、青山が己の罪を正面から受け止め、クラス全員に告白できる時が来れば。

自分の口からすべてを伝えればいい。

 

だが、今はこれで十分である。

 

 

「私がいなくなったあとを、任せたいからな」

 

 

難羽は誰の耳にも届かないほどの小さな声で、そう静かに呟いた。

 

 

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