……えー、投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
仕事のほうが落ち着いてきたので再開します。
あと今回慣らしで少し短いです。
トガ達が社会の影と直面していたその時間。
魔王の行進は四日目を迎えていた。
社会の秩序が崩壊し、混沌が日本全体を覆い尽くそうとする中、オールフォーワンを頂点とした凶悪なヴィランの波が蠢いている。
彼らが次なる標的として辿り着いたのは、│満堂《まんどう》刑務所であった。
無数のヴィランたちが己の暴虐を満たすため、強固な門を個性によって溶解し、あるいは粉砕して敷地内へと雪崩れ込む。
侵入者を報せる警報音がまるで彼らを歓迎するかのように響き渡った。
しかし、オールフォーワンは違和感を覚えていた。
迎撃に現れるのは警備ロボットのみなのだ。
圧倒的な戦力差。
無駄な犠牲を避けるという判断は妥当だ。
だが、不可解なのはそこではない。
逃げ惑う職員の気配や解放を求めて檻を叩く囚人たちの熱狂。
そういったものが感じられないのだ。
そんなことも考えずに暴れるヴィラン達を背に、オールフォーワンは己の直感を信じた。
そして施設の外へと歩みを進めた瞬間。
強烈な閃光が闇を切り裂き、彼の顔面を焼き払った。
「……なるほど」
オールフォーワンの口から感心したような呟きが漏れる。
光線による意に介さない。
超常の肉体は焼かれた皮膚を即座に再生させていく。
顔面を焼かれて視界を奪われた彼は、かつて奪い取ったサーチの個性を用いて狙撃手の位置を特定した。
青山優雅である。
彼を縛り付けていた人質は死亡したと報告を受けたが、それも仕組まれた策だったのだろう。
反逆自体は予想の範疇である。
だが、クラスメイトに己の罪を打ち明けることもできず、孤独な反逆者として単機で挑んできたのだとすれば。
あまりにも滑稽だ。
オールフォーワンは嘲笑を浮かべ、掌を狙撃手の方角へと向けた。
神野の激闘を遥かに凌駕する威力の衝撃波が、空間を歪ませながら青山を飲み込む。
反応は消失。
これで終わったと確信した直後、彼の後頭部を別の光線が貫いた。
「…………」
無言のまま、オールフォーワンは背後へと意識を向ける。
漆黒の靄が彼の周囲を包み込んでいた。
放たれた光線は空間に開いた闇の門を通り抜け、別の門から射出されることで不可解な軌道を描く。
光と闇が交錯し、彼を閉じ込める幾何学的な光の檻が形成されていく。
さらに視覚を補うためのサーチが、刑務所内から無数の生体反応を拾い上げ始めた。
それは先ほどまで存在しなかった、凄まじい速度で膨れ上がる戦力の波である。
「……昔の部下も反逆。そして、これは罠か」
「元主よ。あなたは支配者であって──私の仲間ではなかった」
「叔父さま……僕は今日、貴方の支配から卒業する!!」
静寂を破り、刑務所の建造物から爆発と衝撃が連鎖的に巻き起こる。
元々この場にいた職員や囚人たち。
彼らは黒霧の個性によって、既に壊滅させられた別の刑務所へと避難を完了していたのだ。
すでに改修が行われたそこで、多くのダツゴク達も捕まっている。
ヒーローだけが戦っているわけではない。
資材の用意や即席の刑務所の改築。
多くの一般市民もまた正義を胸に戦っているのだ。
闇の霞が希望を次々と呼び出す。
送り込まれたのは大勢のプロヒーロー、緑谷たち雄英高校生徒。
さらにトガ達を除いたロシナンテの構成員。
ホークス達バベルショッカーのメンバー。
すべての戦力が、魔王を討つために集結していた。
そして、遅れるように。
闇の門から轟音を響かせ、装甲を纏った大型二輪が飛び出す。
「今回は全力で戦えますわ!!」
深紅の縦ロールを揺らし、覚上が男の背中にしがみつきながら高らかに叫ぶ。
彼女を乗せてバイクを操るのは、バベルショッカーの首領。
仮面アクターショッカー。
改造人間専用の駆動機関の唸りを掻き消すほどの声量で、彼は仇敵へと宣告する。
「さぁ、エンドゲームだ……オールフォーワンッ!!」
世界の命運を懸けた、最後の総力戦が幕を開けた。
このような状況となることは今後二度とないだろう。
刑務所を中心として、全国から集結した精鋭のヒーローたちと悪意を煮詰めたダツゴクの軍勢が激突する。
しかし、魔王オールフォーワンは自ら手を下すことなく、見張り台の頂点からその光景を見下ろしていた。
戦いに参加せず、まさに君臨といった姿である。
これは彼の余裕の表れであるが、そもそも彼にも戦わない理由があった。
今の彼がその強大すぎる力を振るえば、ヒーローもろとも己の駒であるヴィランたちすら消し飛んでしまうのだ。
それでは娯楽として成立しない。
死線を越えて辿り着いた│勇者《ヒーロー》たちを、│絶望《オールフォーワン》が踏みにじる。
それこそが、この盤面を最も味わい尽くす方法であると彼は考えたのだ。
眼下で繰り広げられる死闘。
己の首を狙って突き進む者たちを、彼は取るに足らない羽虫として眺めている。
「フッ!!」
息を鋭く吐き出し、緑谷が己の盾をヴィランの群れへと投擲した。
防御用のサポートアイテムと考えていたヴィランの油断を突き、鋼の円盤が容赦なく激突する。
だが、その一撃は始まりに過ぎない。
密集した敵陣の中で、盾は物理法則を無視するかのように跳弾を繰り返す。
次々とヴィランの頭部や腹部を打ち据え、陣形を崩していく。
固まったヴィランの塊の中で盾が暴れ回っていた。
「ヘヘッ、来るってわかってればこんなもん……!」
肉体強化の個性を持つ大柄のヴィランが盾の前に立ちふさがる。
そして笑みを浮かべて強引に盾を掴み取った。
あくまで跳ね返っていただけの盾である。
何度もぶつかれば勢いは落ち、目で追える速度となれば問題ない。
ヴィランは盾を破壊するか投げ返すか考え、手元の盾を見る。
しかしそこで、盾に何か黒いものが繋がっていることに気付く。
そして、その正体を理解するよりも早く、彼自身が盾ごと宙へと引き上げられた。
「うりゃああああッ!!!」
緑谷は咆哮を上げ、黒鞭を接続した盾をハンマー投げのように振り回す。
盾を掴んだヴィランごと遠心力で振り回し、緑谷を中心とした鋼の竜巻が戦場を蹂躙した。
周囲の敵を薙ぎ払った後、彼は回転の勢いを抑えながらクルリと一回りし、手元に戻ってきた盾を左腕の装具へと固定する。
スクリーンの向こう側に見た、英雄たちの戦技。
それはワンフォーオールの肉体強化と融合し、完成された戦闘術へと昇華されていた。
「雑魚キャラどもがッ!」
その声に緑谷が上空へ目を向ける。
己の幼馴染の声だ。
爆豪が掌から爆炎を噴射し、推進力を得てヴィランの密集地帯へと急降下する。
「くっ……!」
彼の顔を見たヴィランたちは警戒を強めた。
体育祭やこれまでの報道で、彼の個性が爆破であることは広く知れ渡っている。
空からの爆撃に備え、彼らは両腕を頭上に掲げて防御姿勢を取った。
「……フン」
だが、爆豪の戦い方は、その粗暴な振る舞いとは裏腹にクレバーだ。
難羽との訓練を経て、彼の戦術はより冷酷な次元へと到達していた。
爆破という個性は、戦闘においてこれ以上ないほど強力な矛である。
だが、純粋な破壊の規模だけで比較すれば、緑谷や轟の最大出力には及ばない。
だからこそ彼は戦い方、己の個性について学び続けている。
爆豪は空中で腕を大きく振り被り、防御を固めるヴィランたちへ向けて攻撃を放つ。
しかし、彼らを襲ったのは灼熱ではなかった。
「……水?」
突然の感触に、ヴィランたちの意識がわずかに散った。
その疑問が解消される前に、爆豪は小さな火種となる爆破を放つ。
ヴィラン達や彼らの足元に付着・浸透した│爆薬《あせ》に火がつく。
「│爆薬機雷《ディールブレイカー》!!」
堅牢な防御をすり抜け、内側からの爆発がヴィランたちを吹き飛ばす。
爆豪はあえて爆破ではなく汗をそのまま放つことでタイミングをずらしたのだ。
だが、威力自体はそれほど高くない。
吹き飛ばされたヴィランたちは空中で体勢を立て直し、落下しながらも爆豪の姿を捜し求めた。
しかし、彼らの視界が捉える。
爆破による回転・加速を行う爆豪の姿を。
「ハウザーインパクト・クラスター!!」
凝縮された爆発の嵐が、宙を舞うヴィランたちを飲み込んだ。
熱と鼓膜を破るような轟音に、周囲で戦っていた他のヴィランたちも思わず動きを止める。
そして分厚い爆煙を引き裂いて現れた爆豪は、ヴィランの一人の上に容赦なく着地。
そのまま男の頭部を地面に叩きつけ、至近距離からの爆破で見事に沈める。
「──さぁ、次はどいつだぁ?」
獰猛な笑みを浮かべた狩人は、次なる獲物を求めて戦場を睥睨した。
別の区画でも激しい戦闘が繰り広げられている。
「オラァッ!」
転弧は徒手空拳でヴィランたちを圧倒していた。
崩壊の個性を用いるまでもなく、その肉体は改造人間、マスターピース。
己の倍以上ある体躯の男でさえ、鋭い蹴りの一閃が容易く吹き飛ばした。
そのまま吹き飛んだヴィランが肉の砲弾となって他のヴィランを巻き込もうとする。
しかし、直撃する直前。
そのヴィランが右手で飛来する巨躯に触れると、その肉体は音もなく崩れ去り、ただの塵となって消滅した。
微かな血の匂いだけを残して消え去った人間の残骸を、男は不快そうに見下ろしている。
転弧の視線が、その男の姿を捉えた。
「……お前」
どこかの可能性の歴史。
死柄木弔は、護送中のその男から両腕を奪い取った。
彼が築き上げた未来を崩壊させ、戯言を繰り返すだけの生きる屍へと変え果てさせた。
だが、この世界においては違う。
彼の両腕は健在であり、その瞳には失われていない野望の炎が燃え盛っている。
後悔や諦観などない、冷酷な支配者の顔。
「……オーバーホール」
対象を分解し、再構築する力。
崩壊の個性のオリジナルとも呼べる力を持つ男。
ダツゴクの中でもトップ近い存在が、この戦場に姿を現したのだ。
「……来い!」
転弧が短く叫ぶ。
その声に呼応するように、戦場の暗がりから機械仕掛けの異形が這い出てきた。
蜘蛛の多脚と蟻の顎を組み合わせたような不気味なフォルムを持つ自律型兵器、チェーンザムザである。
それは転弧の左手首へと跳躍し、鋭い脚を絡みつかせて固定される。
金属の脚が複雑に折り畳まれ、分厚い腕輪へと姿を変えた。
転弧は流れるように、チェーンザムザの胴体に配置された起動ボタンを押し込む。
『
金属音と共にロックが解除され、腕輪の上部で異形の胴体が斜めへと傾く。
静寂を切り裂くような荘厳な鐘の音と低い電子音声が響き渡った。
『0……X……0……X……0……X』
転弧はチェーンザムザの胴体部分を右手で掴み、力強く一回転させる。
蜘蛛の腹部を模したパーツが、拳の先へ向けて鋭い槍のように展開した。
そしてそのまま左腕を自身の顔の前に掲げ、構えを取る。
「……変身」
『HENSHIN』
腕輪背面部から放たれた赤いレーザーの光が、転弧の顔を正確にスキャンする。
その赤い光の走る様は、まるで改造手術の痕跡を暗闇に浮かび上がらせるかのようであった。
『ZAMZA……』
黒い粒子が収束し、転弧の全身を覆い尽くす。
昆虫の外骨格を思わせる装甲。
頭上には天輪のように浮遊し、回転する糸車。
背中からは四本の禍々しい脚が展開している。
糸車から紡ぎ出された繊維が蜘蛛糸のローブを生成し、漆黒の身体を包み込んだ。
「……これが新しい俺、仮面ライダーザムザだ」
「──最初から着て来いよ」
「…………難羽爺ちゃんなら乗ってくれるのになぁ」
心底呆れたような言葉に、転弧は少しだけ残念そうに肩をすくめる。
冷めきった目でヒーローの変身シーンを見届けたオーバーホール。
彼と転弧の戦いが始まった。