USJ中央広場。
そこは今、お膳立てされた処刑場と化していた。
プロヒーローイレイザーヘッドは捕縛布を両手に構え、眼前のリーダー格——死柄木弔と対峙していた。
周囲では相澤に倒されたヴィランたちが呻き声を上げているが、そんな雑音は彼の耳には届かない。
彼の全身の神経は、ただ一点、目の前の異質な男の挙動のみに注がれていた。
(……この襲撃、あまりに手際が良すぎる)
相澤の脳内で、プロとしての冷徹な演算が火花を散らす。
襲撃の主目的は「平和の象徴」オールマイトの殺害。
黒霧による空間分断で生徒たちの戦力を削ぎ、USJ内の通信センサーも完全に沈黙させている。
奇襲のタイミング、本校舎から離れた閉鎖空間の選択——すべてが周到に計算された、完璧な奇襲だ。
ただのチンピラの暴走ではない。
明確な戦術眼を持った指揮官がいる。
そして死柄木の後方に控える、異様に巨大な黒い人型。
脳無。
微動だにせず、ただ主人の命令だけを待つその巨体からは、生物的な気配が一切感じられない。
あれこそが対オールマイト用に用意された、このゲームの勝敗を決する隠し玉である可能性が高い。
だが相澤の警戒心を最も逆撫でしたのは脳無ではなく、目の前の死柄木だった。
(……それより何だ、こいつの動きは)
相澤の視線の先で、死柄木がガシャリと重い音を立てて腕の金属製ガントレットをスライドさせた。
それは個性を増幅するためでも、見せびらかすためでもない。
まるで安全装置を解除するような冷徹な機械的操作。
死柄木の手が露出し、その指がしなやかな動作で地面に触れる。
「……ッ!」
次の瞬間、コンクリートの床を蛇のようなひび割れが走り、相澤の足元へと真っ直ぐに伸びた。
相澤が回避しようと跳躍の予備動作に入った、その刹那。
足元の地面が、崩壊の伝播によってピンポイントに消失した。
広範囲を破壊するのではない。
相澤の足のサイズに合わせて特定の空間だけを砂に変え、深さ数十センチの穴を穿つ精密な破壊。
踏み込もうとした相澤の右足は突如出現した虚空にすっぽりと埋まり、その機動力を完全に封じられた。
「逃げんなよ、イレイザーヘッド……ゲームはまだ終わってないだろ?」
回避不能のタイミング。
死柄木は低い姿勢から地を蹴った。
その動きには、ヴィラン特有の粗暴さがない。
重心を低く保ち、最小限の力で最大の衝撃を生む、洗練された体術。
突き上げられた飛び膝蹴りが、無防備になった相澤の顔面へと叩き込まれた。
「ぐ、ぅ……ッ!」
鈍い衝撃音が脳を揺らす。
相澤は咄嗟に首を捻って直撃を避けたものの、視界が激しく歪み、平衡感覚が狂わされた。
強引に足を穴から引き抜き、バックステップで距離を取ろうとする。
だが、死柄木の追撃は止まらない。
彼はガントレットの手甲を展開し、そこからワイヤーを射出した。
そのワイヤーは、相澤の背後の床に突き刺さる。
(外したのか……?)
相澤がそう判断したコンマ一秒後、二本目のワイヤーが全く同じ場所へ向けて発射されたことで、その思考は否定された。
死柄木が一本目のワイヤーを導線として、指先の崩壊を流し込んだのだ。
ひび割れる音。
ワイヤーがくっついた先に向かって崩壊を続けていく。
ワイヤーが付着した床が崩壊によって周囲から切り離され、綺麗な立方体のコンクリートブロックへと加工された。
そこへ遅れて到達していた二本目のワイヤーが絡みつき、そのブロックをしっかりと捕らえた。
「……なっ!?」
「オオオッッ!!」
死柄木は遠心力を利用し、先端にコンクリートの塊がついたワイヤーを豪快に振り回した。
数十キロはある塊が、唸りを上げてハンマーのように相澤の側頭部へ迫る。
「が、はっ……!!」
防御の上からでも骨が軋むほどの衝撃。
相澤の体はボールのように吹き飛ばされ、地面を転がった。
薄れゆく意識の淵で相澤はある強烈な、そして戦慄すべき違和感を捉えていた。
(……この感覚。どこかで……)
個性の出力を最小限に抑え、環境を利用し、それを格闘術の
それはヴィランの野生的、独学による暴力ではない。
誰かによって体系化され、訓練された「技術」だ。
そしてその動きは、数日前の戦闘訓練で——難羽輪太郎の調整を受けた爆豪勝己が見せた戦い方と、驚くほど酷似していた。
爆豪の「爆破」を推進力に変える連撃。
死柄木の「崩壊」を足止めの罠と武器生成に変える一撃。
一方は未来のヒーロー、一方は最悪のヴィラン。
対極に位置するはずの二人の少年に、同じ指導者の影がちらつく。
(……難羽。……まさか、お前なのか……?)
霞む視界の先。
奇怪なマスクの奥で冷ややかに自分を見下ろす死柄木の背後に、相澤はあの不敵に笑うサポート科の少年の幻影を見た気がした。