バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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27話 開幕!雄英体育祭

 

雄英体育祭、開会式。

その幕開けは日本中を揺るがすような熱狂と、一人の少年の傲慢すぎる宣誓によって彩られた。

 

 

雲ひとつない快晴。

超満員のスタジアムから降り注ぐ歓声は、まるで物理的な圧力となってグラウンドに立つ生徒たちに降り注いでいた。

USJ襲撃という暗い影を払拭するかのように、雄英高校は例年以上の規模と警備体制でこの日を迎える。

 

 

「選手宣誓!!」

 

 

メインステージに立ったのは1年ステージの主審を務める18禁ヒーロー、ミッドナイトだ。

そのボンデージ風のコスチュームが際どいラインを描くたびに、観客席の一部からはどよめきが、生徒たちの一部(峰田)からは興奮の吐息が漏れる。

 

 

「静かにしなさい! ……選手代表! ヒーロー科1年A組、爆豪勝己!」

 

 

その名が呼ばれた瞬間、1年A組の列に緊張が走った。

 

入試首位通過者。

実力は誰もが認めるところだが、その性格は「協調性」という言葉と最も縁遠い場所にいる。

 

 

「……チッ」

 

 

爆豪はポケットに手を突っ込んだまま、ダルそうに列を離れた。

猫背気味にステージへの階段を登っていくその姿には、緊張のかけらもない。

あるのはただ不機嫌そうな、あるいは退屈そうな気配だけだ。

 

 

「……やばい予感しかしない」

 

 

切島が顔を覆い、上鳴電気が乾いた笑いを漏らす。

緑谷は、幼馴染の背中を不安げに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

マイクスタンドの前に立った爆豪は会場中の視線を一身に浴びながら、気怠げに口を開いた。

 

 

「──宣誓」

 

 

一瞬の静寂。

誰もが、優等生らしい、あるいは熱血漢らしい言葉を期待した。

あるいは、USJを乗り越えた代表としての決意を。

 

だが、爆豪勝己が放ったのは、たった一言の「事実」だった。

 

 

「俺が一位になる」

 

「「「絶対やると思ったああああああ!!!」」」

 

 

A組の生徒たちが頭を抱えて絶叫する。

同時に、他クラス——B組、普通科、サポート科、経営科——の生徒たちから、凄まじいブーイングと殺意が噴き上がった。

 

 

「ふざけんなA組ィ!!」

 

「調子に乗るなよイキり野郎!!」

 

「入試が良かったからって何だよ!」

 

「難羽様に気に入られてるからって調子こくなですわ!」

 

 

罵声の嵐。

だが、爆豪は表情一つ変えず、むしろそのブーイングを心地よいBGMであるかのように聞き流し、冷徹に続けた。

 

 

「……精々、俺が気持ちよく一位を取るための踏み台になれよ……モブ共」

 

 

言い捨てると、彼は親指を下に向ける挑発のポーズ(サムズダウン)さえもせず、ただ興味なさげに踵を返した。

その背中は語っていた。

 

『俺以外は全員、有象無象だ』と。

 

 

「……かっちゃん」

 

 

緑谷は気づいていた。

これは単なる慢心ではない。

爆豪は、自分自身をあえて全員の標的(ターゲット)に設定したのだ。

全方位からの敵意を受け止め、それを全てねじ伏せて勝つ。

 

それが彼にとっての完勝であり、自分自身に課した絶対的なハードルなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

会場のヴォルテージは、爆豪の挑発によって最高潮——というよりは、爆発寸前の臨界点に達していた。

 

 

「……いいぞ、爆豪」

 

 

その殺伐とした空気の中、ブーイングするサポート科の列に体操服を着て紛れていたアットをしばいた難羽は、一人だけ冷ややかに笑っていた。

隣ではパワーローダーが「あいつ、テレビ来てんだぞ……」と胃を抑えているが。

 

 

「虚飾にまみれた謙虚さよりよほど好感が持てる……あそこまで貫けばそれはあいつなりの誠意だ」

 

 

この宣誓によって、「入試がよかっただけ」「調子に乗っているだけ」という甘く見てもらえる点を爆豪は消した。

 

なめてないで全力でかかってこいという爆豪なりの意思表示でもあったと難羽は感じていた。

 

壇上から降りてくる爆豪と一瞬だけ難羽は視線を交わした。

 

爆豪の瞳には、以前のようなただの癇癪持ちの光はない。

難羽との訓練を経て、より研ぎ澄まされ、合理的で、それゆえに凶暴さを増した「勝利への執着」が宿っていた。

 

 

「……さァて、第一種目! 早速始めようか!」

 

 

ミッドナイトが場の空気を切り替えるように叫び、背後の巨大モニターにスロットが表示される。

 

 

「運命の第一種目は……これよ!!」

 

 

『障害物競走』

 

 

総勢11クラス全員参加のサバイバルレース。

 

ゲートがゆっくりと開き、その向こうに広がる全長4キロのコースが口を開けた。

 

 

「……行くぞ」

 

 

難羽は体操服のポケットに手を入れ、歩き出そうとする。

その背後をついてこようとした体操服のアンドロイド——アットに対し、彼は振り返らずに片手を上げて制した。

 

 

「アット。お前はピットで待機(ステイ)

 

「……お連れいただけないのですか? 荷物持ちが必要かと」

 

「これは学生の運動会だ。お前がいると青春のノイズになる」

 

 

難羽は冷淡に言い放つと、ニヤリと口角を上げた。

 

 

「大人しく紅茶でも淹れて待っていろ。……戻ってきた時に温ければ、褒めてやる」

 

「……承知いたしました。では、最高の一杯をご用意してお待ちしております……ご武運を」

 

 

アットは優雅にカーテシー(膝を折る礼)をし、その場に留まった。

 

難羽は一人、殺気に満ちたスタートラインへと歩き出した。

周囲は敵意と野心を剥き出しにした生徒たちばかり。

だが、その只中にあっても、彼はあくまで観測者としての飄々とした態度を崩さない。

 

英雄、怪物、そして異分子。

 

それぞれの野望を乗せた祝祭の幕が、今切って落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さァ準備はいいか!? この無慈悲なサバイバルレース、最初の試練はすでに始まっている!!」

 

 

スタートの合図となるピストル音が、乾いた空気を切り裂いた。

 

 

「START!!」

 

 

ミッドナイトの鞭が振り下ろされ、開始の合図が乾いた空気を切り裂いた瞬間、スタジアムは地獄の釜の蓋が開いたような狂乱に包まれた。

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「行くぞオラァァァ!!」

 

 

全11クラス、総勢数百名の生徒が一斉に駆け出す。

 

地響きのような足音が大地を揺らし、舞い上がった土煙が視界を奪う。

目指すはスタジアムの外周、全長4キロの障害物競走コースだ。

 

しかし、その圧倒的な質量に対し、最初の関門となる出口ゲートはあまりに狭すぎた。

 

 

「ぐわっ、押すな! 痛えよ!」

 

 

「詰まってる! 前に進めねえ! どけッ!」

 

 

殺到する肉体と肉体。

肘が脇腹に食い込み、誰かの肩が顎を打つ。

物理的な圧力で肺が潰されそうになるほどの過密状態。

逃げ場のない人の濁流が、狭いトンネルの中で停滞する。

 

これこそが、雄英高校が仕掛けた最初の(ふるい)だ。

 

定員オーバーの状況下で、いかにして活路を見出すか。

あるいは、このまま無名の群衆として埋もれるか。

 

その混沌と焦燥の最前線で一人、冷徹な思考を走らせている男がいた。

 

轟焦凍だ。

 

彼は密集地帯の先頭集団に位置しながら、背後で渦巻く喧騒を、まるで他人事のように冷静に計算していた。

 

 

(……こうなるよな。大人数に対して、極端に狭いゲート……なら)

 

 

轟は走りながら、息を吸い込むように右足に意識を集中させた。

 

 

(……ここで、減らしておくのが合理的だ)

 

 

「……悪いな」

 

 

轟の右足が、トンネルの床を強く踏みしめる。

刹那、スタジアムの気温が急激に低下した。

 

彼を起点として、絶対零度に近い冷気が爆発的に拡散する。

 

コンクリートの床が一瞬で白銀の氷原へと変わり、壁を這い、天井を覆い、そして後続の生徒たちの足元へと襲いかかった。

 

 

「うわっ!? 足が……動かねえ!」

 

 

「凍ってる!? なんだこれ、冷っ……!」

 

 

物理的な足止め。

数百人の生徒が、氷の彫像のようにその場に縫い付けられる。

ある者は足首まで、ある者は腰まで氷漬けにされ、身動きを封じられた。

 

轟はその光景を振り返りもせずただ一人、自らが生み出した氷の道を、滑るように優雅に駆け抜けていく。

 

 

 

 

 

 

「──甘ぇんだよ、半分野郎!!」

 

 

轟の独走を許すまいと、氷の世界に爆音が轟いた。

 

爆豪勝己だ。

 

彼は地面が凍りつく一瞬前に、その予兆——急激な気温の低下と轟の予備動作——を敏感に察知し、跳躍していた。

 

 

「死ねェ!!」

 

 

両手の掌から爆発を起こし、その推進力で空中を滑空する。

かつてなら怒りに任せた直線的な動きしかできなかった彼だが、今は違う。

氷柱を蹴り、壁を爆風で移動し、三次元的な機動で加速していく。

 

 

「この程度で俺らが止まると思ってんじゃねえぞ!!」

 

 

そして彼に続くのは、やはり1年A組の精鋭たちだった。

 

 

「あら、ごめんあそばせ!」

 

 

八百万百は自身の脇腹から創造した金属のポールを地面に突き立て、棒高跳びの要領で優雅に凍結地帯を飛び越える。

その判断に迷いはない。

 

 

「メルシー! 僕の輝きは止められないよ!」

 

 

青山優雅は自慢のネビルレーザーを後方に噴射し、その反動でキラキラと輝きながら空を舞う。

 

 

「うおおお! 男なら気合で割れぇ!!」

 

 

切島鋭児郎は硬化の個性で全身を岩のように固め、強靭な脚力で強引に氷を砕きながら突進していた。

 

彼らの動きには、想定外の事態に対する硬直がない。

なぜなら、彼らは知っているからだ。

 

USJ襲撃事件。

 

プロヒーローですら重傷を負う「本物の死」と「悪意」の現場を。

あの時の喉元に刃物を突きつけられるような恐怖に比べれば、ただ足元が凍る程度のアトラクションなど、児戯に等しい。

 

 

「遅れるな! A組についていけ!」

 

 

精鋭たちは止まらない。

彼らの瞳には、単なる競争心を超えた、生存本能に近い闘志が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷のゲートを突破し、広々としたコースへと躍り出た生徒たち。

 

だが、その安堵は一瞬にして絶望へと塗り替えられた。

 

腹の底に響く重低音と共に、進行方向の空が暗く陰った。

風が止まり、巨大な影が生徒たちを覆い尽くす。

見上げれば、そこには太陽を遮るほどの巨大な質量があった。

 

それは入試で多くの受験生を絶望させ、逃げることしか許されなかった0ポイントヴィラン──巨大仮想ヴィランの大群だった。

 

 

「……ウソだろ!? 入試の時のアレじゃねえか!」

 

「しかも、一体じゃない……! 群れだぞ!? 予算どうなってんだよ雄英!」

 

 

行く手を完全に塞ぐ、鋼鉄の壁。

無機質な緑色のカメラアイが、眼下の生徒たちを排除対象として認識し、赤く明滅する。

 

 

『ターゲット確認。排除シマス』

 

 

機械的な音声と共にビルのような巨大な腕が振り上げられ、風を切る音と共に振り下ろされる。

地面が揺れ、土煙が舞い上がる。

 

普通科や他科の生徒たちが生理的な恐怖で足を止める中、A組の生徒たちは、その圧倒的な質量の前でも瞳の光を失っていなかった。

 

 

「……邪魔だ」

 

 

先頭を走る轟が、冷たく言い放つ。

彼は足を止めるどころか、さらに加速した。

右手をかざし、その身に宿る強大な冷気を練り上げる。

 

そして、その後方。

爆豪勝己はニヤリと好戦的な、凶暴な笑みを浮かべていた。

 

 

「デカけりゃいいってもんじゃねえぞ……!!」

 

 

両手の掌を構え、火花を散らす。

彼の脳裏には、USJで見たあの男——仮面アクターが、巨大な脳無に比べて小さな身体で翻弄した光景が焼き付いていた。

 

 

(……絶対の敵じゃねえ。弱点があるはずだ)

 

 

障害物競走は、まだ始まったばかり。

絶望の巨人を前に、若きヒーローたちの牙が剥き出しになっていく。

 

 

現在句点ごとに改行していますが、通常の文章の書き方に直したほうがいいですか?

  • 段落を使った普通の文章のほうが良い
  • 今の文章の方が良い
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