バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

29 / 134
28話 死んだら再走です

 

巨大な0ポイントヴィランが咆哮を上げ、そのビルのような鋼鉄の腕が空を裂く。

 

地面が震え、逃げ惑う生徒たちの悲鳴が響く中、難羽の瞳だけは鏡のように冷ややかに戦場を映し出していた。

 

実況席のプレゼント・マイクが、マイクを叩き割らんばかりに絶叫する。

 

 

「信じられねえ! サポート科の難羽、あいつマジで生身で突っ込んでるぜ! 個性『ハイブレイン』の演算能力だけで、あの巨大ロボの猛攻を読み切ってるってのかァ!?」

 

 

会場がどよめく。

だがその実況を聞きながら、難羽は小さく口角を上げた。

 

 

(……個性、か。便利な言葉だな)

 

 

表向きに申請している難羽の個性ハイブレインは、今の社会に馴染むための隠れ蓑に過ぎない。

周囲が「脳の処理速度が異常に速い」と解釈しているその動きの真の源泉は、数多の死線を潜り抜けてきた経験則にある。

 

概念系の個性の場合、虚偽申請が簡単なのは問題だなと走りながら難羽は考える。

 

難羽は隣り合う二体の巨大ロボが倒れ込み、互いの腕を干渉させた瞬間を見逃さなかった。

数千トンの質量同士がぶつかり合い、わずかに駆動が止まる「コンマ数秒の硬直」。

 

 

「……そこか」

 

 

難羽は一歩、鋭く踏み込む。

巨躯を支える巨大なボルトの隙間。

 

並の人間なら、挟まれれば即死するという恐怖で足がすくむような鋼鉄のプレス機の間。

 

 

そこを難羽はぬるりと、まるで実体のない影のように通り抜けていく。

 

 

「な……!? バカな、下手すりゃ肉塊だぞ!」

 

「そんなもの体育祭に使うな」

 

 

後方でそれを見ていた他クラスの生徒が、戦慄に声を震わせる。

その声を聞いた難羽はボソリと呟く。

 

解説席の相澤は身を乗り出すようにしてモニターを凝視していた。

 

 

「……合理的だ。だが、あれはマイクの言うような単なる頭の回転の早さだけで片付けられる代物じゃない」

 

「どういうことだよ、イレイザー?」

 

「……計算が完璧でも、肉体がそれに追いつかなければ意味がない。あいつの動きには一切の迷いがない。一撃でも当たれば終わりという状況で、あのトップスピードを維持できるのは……勇気などという言葉では説明がつかない。自身の肉体、あるいは自身の技術に対する絶対的な信頼だ」

 

 

相澤の分析が終わる頃には難羽は最後の一体の足元を潜り抜け、光の差す方へと駆け抜けていた。

背後では難羽の真似をして隙間に飛び込もうとした生徒たちが、ロボットの不規則な振動に弾き飛ばされ脱落していく。

 

 

「抜けたぁぁぁ! 第一関門、ロボ・インフェルノを突破したのは、トップ集団の轟、爆豪、そして──サポート科のダークホース、難羽輪太郎だァ!!」

 

 

難羽は止まらない。

前方を走る轟の背中は、すでに次の障害物へと向かっている。

難羽は表情を変えず、静かに次のフェーズへの移行を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鋼鉄の残骸が散らばり、黒煙が立ち込める第一関門。

トップを独走する轟と爆豪、そして異質の最適解で突き抜けた難羽。

その三人の背中を射程に捉えつつ、足を止めて腰を落とした姿勢の生徒がいた。

 

 

「──ワン・フォー・オール、フルカウル……5%……!!」

 

 

緑谷出久の全身を、細かな緑色の電光が縦横無尽に駆け巡る。

 

かつてのように指先や腕に力を込めるのではない。

難羽から手渡された漫画のように溢れ出る奔流を堰き止めるのではなく、全身の回路へ円を描くように循環させる。

 

その瞬間、緑谷の視界は劇的に変化した。

 

筋肉の収縮、重心の移動、地面から伝わる反発力──

 

 

それらすべてが、全身を巡るエネルギーによって爆発的な推進力へと変換される。

 

 

「うおおおおおっ!!」

 

 

轟が凍結させた残骸の壁を、緑谷は蹴り飛ばすように跳躍した。

腕を壊すことも、足を砕くこともなく、彼は「力」そのものを衣のように纏って加速する。

 

未だ憧れのヒーローの全力を引き出すには程遠い。 

だが彼は今この瞬間、オールマイトの背中へと続く果てしない道を確実に一歩、踏み締めていた。

 

 

「……デク、テメェ……!!」

 

 

巨大ヴィランの装甲を這うように爆破を繰り返して進む爆豪が、背後から迫る緑の閃光に気付き形相を変えた。

かつての「無個性」が、自分たちと遜色ない速度で戦場を駆け抜けている。

しかも、いつものように自壊していない。

その事実に、爆豪の自尊心と競争心が激しく逆立つ。

 

 

「俺の後ろについてきてんじゃねええ!!」

 

 

一方、難羽は前転の勢いそのままに走りながら、並走する形となった緑谷を横目で一瞥した。

 

 

(……5%か。やはり飲み込みが早い。循環のイメージを掴んだだけでこれだ)

 

 

難羽は緑谷の生体数値を冷徹に弾き出す。

 

 

(……だが、維持できるのはせいぜい数十秒といったところか。エンジンの出力にフレームが軋んでいる……ペース配分を間違えれば自滅するぞ、緑谷)

 

「……緑谷。ここからが本当の地獄だぞ」

 

 

難羽の呟きに合わせるように、先頭の轟が足を止めた。

 

彼らの眼前に現れたのは、唐突に地面が消滅したかのような、底の見えない巨大な断崖絶壁だった。

 

円柱状の岩柱が点在し、その間には頼りない細いロープだけが渡されている。

実況のマイクが叫ぶ。

 

 

「さァ第一関門を抜けたと思ったらこれだ! 足を滑らせれば真っ逆さま! 這って渡るか? 走って渡るか? 第二関門、ザ・フォール!!」

 

 

一歩間違えれば谷底へ消える死の綱渡り。

 

ヒーローたちの卵を待ち構える第2の壁が、口を開けて現れた。

 

 

 

現在句点ごとに改行していますが、通常の文章の書き方に直したほうがいいですか?

  • 段落を使った普通の文章のほうが良い
  • 今の文章の方が良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。