バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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29話 爆発ターボ

 

第二関門ザ・フォール。

 

多くの生徒が命綱一本の綱渡りに慎重さを強いられる中、先頭集団は常識を置き去りにした。

 

爆豪勝己は爆速ターボの連発によって谷を飛び越え、蛙吹梅雨は蛙の個性を活かしてロープに手が吸い付くかのような安定した動きで進んでいく。

エンジンを唸らせる飯田天哉は、滑車のようにロープの上を滑走していった。

 

その中で、難羽の動きは異彩を放っていた。

 

彼はロープを伝うのでも、ぶら下がるのでもない。

 

 

躊躇なく、その細いロープの上に足を踏み込んだのだ。

 

 

「な……!? あいつ、あの細い上を走るつもりか!」

 

 

当然、ロープは難羽の体重を受けて激しくしなり、彼の身体を宙へ放り出そうと跳ねる。

 

しかし、難羽は慌てない。

 

ロープが跳ね返るリズムをあらかじめ読み切り、次の一歩でさらに強くロープを蹴り込む。

まるで足の裏に吸着剤でも塗っているかのように、蠢くワイヤーの上を難羽が凄まじい勢いで駆け抜けていく。

 

 

「──なんちゅうバランス感覚だァ! 第一関門の踏み台ジャンプといい、まるで現代の牛若丸だぜェ!!」

 

 

実況のプレゼント・マイクの叫びが響く。

難羽は順位をわずかに落としながらも、依然としてトップ集団の背中を捉え続けていた。

 

 

 

 

 

 

雄英体育祭、第一種目の障害物競走。

その最終関門として立ちはだかったのは、広大な大地を埋め尽くす「地雷原」だった。

 

 

「最終関門はこれだァ!! 踏めばドカン! 威力は抑えてあるが、小便ちびる音と衝撃をお見舞いする地雷原だ!!」

 

 

プレゼント・マイクの絶叫と共に、コース上ではピンク色の爆煙があちこちで上がり始めていた。

トップを独走していた轟の足が、ここで初めて鈍る。

 

 

「……チッ。厄介な仕掛けだ」

 

 

轟が舌打ちする。

彼の氷結能力は強力だが、地雷の位置までは感知できない。

不用意に氷で覆えば誘爆する恐れがある。

彼は慎重に足元を見極めながら進まざるを得なかった。

 

 

「退けや半分野郎ォ!!」

 

 

その隙を突き、爆豪が爆破による空中移動で頭上を追い越す。

爆速ターボで飛ぶ爆豪にとって、このステージは単なる通り道でしかない。

 

 

「ここで先頭がかわった──!! 喜べマスメディア!! お前ら好みの展開だああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

爆豪が轟を追い越し、二人の天才が最後のリード争いを繰り広げる後方。

 

緑谷は一度足を止め、乱れた呼吸を整えていた。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

背後からは、次々と後続の生徒たちが迫ってくる。

焦燥感が背中を焼く。

 

だが緑谷は逸る気持ちを抑え込み、深く腰を落とした。

 

 

(……焦るな。思い出せ。難羽くんとの特訓を。……イメージしろ)

 

 

身体の内側を巡る、奔流。

 

 

「──ワン・フォー・オール、フルカウル……5%!!」

 

 

全身を緑色の電光が駆け巡る。

血管の一つ一つに力が充填され、身体能力が底上げされる感覚。

緑谷の瞳が、前方の地面を鋭くスキャンする。

 

 

(轟くんたちが通った跡……あそこなら、地雷はない!)

 

「うおおおおっ!!」

 

 

緑谷は地面を蹴った。

地雷の埋まっていない安全地帯だけを選び、野生動物のような大ジャンプを繰り返す。

爆豪のような派手さも、轟のような制圧力もない。

 

だが、今の彼ができる精一杯の「最適解」。

 

関門の中腹まで到達した直後、緑谷は一旦個性を解除し、荒い息を吐いた。

 

 

(……使えるようになった。でも、激しく動けばエネルギーのバランスが崩れそうになる。……まだ、これを『基本』にして戦うには時間が足りない……!)

 

 

己の未熟さと、掴みかけた可能性。

その狭間で揺れる緑谷の背後から、常識外れの影が迫っていた。

 

 

 

 

緑谷が振り返った先で、難羽が地雷原の入り口に立っていた。

彼は走るのをやめ、なぜかクルリと進行方向に対して背を向けた。

 

 

「……位置エネルギー、爆風の指向性、自身の質量……いける」

 

 

難羽は無表情で首だけ地雷原の方へ向きながらぶつぶつと呟く。

 

 

 

そして、あろうことか自ら背中から地雷の密集地帯へと身を投げ出した。

 

 

 

「ぎゃああ!? 難羽の野郎、自爆したぞ!?」

 

 

観客席から悲鳴が上がる。

誰もが彼の脱落、あるいは大怪我を確信した。

だが、ピンク色の爆煙の中から飛び出してきたのは、ボロ雑巾になった難羽ではない。

 

 

砲弾のように鋭く、ゴールのある「前方へ」と加速された黒い影だった。

 

 

「……角度よし」

 

 

難羽は爆発の瞬間、背中の角度とタイミングを完璧に合わせ、地雷の衝撃波をすべて「推進力」へと変換していたのだ。

空中で華麗に回転し姿勢を制御すると、着地点にある別の地雷をさらに足で蹴り込む。

 

再び加速。

 

地雷を踏むのではない。

カートゲームのダッシュ板のようにブーストとして利用する。

 

 

威力を抑えた衝撃だけの競技用地雷だからこそ成立する、狂気と理性の境界線上のアクロバット。

 

 

「な、なんだあの動き!? まるでゲームのロケットジャンプだァ!!」

 

 

プレゼント・マイクも、それが作戦なのか事故なのか判断がつかず、実況の声を裏返らせた。

 

 

「……おっと、あっちも大概だああ!!」

 

 

爆風を推進力に変えてぐるぐると回転しながら飛ぶ難羽と並走するように、猛烈な勢いで地面を転がりながら突き進む影があった。

 

飯田天哉だ。

 

 

「兄さん、見ていてくれ……! これが僕の、新必殺技だ!!」

 

 

彼は自慢のエンジンをフル稼働させ、身体を極限まで丸めると、地雷原を回転しながら突破していた。

地雷が爆発するよりも速く、回転の遠心力で衝撃を受け流し、強引に前へと進む力技。

 

 

「見ろ! 難羽と飯田、地雷を物ともせず突き進む! 一人は人間ロケット、もう一人はまるでサムス・アランのモーフボールだァ!!」

 

 

二つの「車輪」——後ろ向きに回転する難羽と、前へと回転する飯田——が、爆炎を撒き散らしながら、一気にトップで競り合う轟と爆豪へと肉薄する。

 

 

「なっ……!?」

 

「クソが、気持ち悪りぃんだよ!!」

 

「私もそう思う」

 

 

轟が氷壁を作り、爆豪が爆破で牽制する。

だが勢いに乗った後続集団、そして必死に食らいつく緑谷を含めた五人の塊は、もはや誰にも止められない濁流となっていた。

 

 

「ゴールは目の前だァァァ!!」

 

 

スタジアムへのゲートが見える。

轟の冷気、爆豪の爆炎、緑谷の超力、飯田のエンジン、そして難羽の演算。

五人の意地が交差し、砂煙を上げながら、最終順位を決定付ける最後の直線へと雪崩れ込んでいった。

 

 





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