バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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30話 デンジャラスヌード

 

スタジアムに響き渡る爆風の余韻。

 

 

砂煙を切り裂き、最も早く白線を越えたのは、手の平から絶え間なく爆炎を噴射し続けた爆豪勝己だった。

 

 

第一種目:障害物競走、決着

 

 

「1位! 爆豪勝己!!」

 

「2位! 轟焦凍!」

 

「3位! 緑谷出久!」

 

 

実況の声が高らかに響く中、上位陣が次々とゴールへ雪崩れ込む。

4位 飯田天哉、5位 常闇踏陰──そして少し遅れて8位に入ったのは、紺色の体操服を煤と埃で真っ黒にした難羽だった。

 

 

「……ハァ……ッ、ハァ……!」

 

 

難羽はゴールラインを越えた途端、膝に手をついて激しく肩で息をした。

肺が焼け付くような熱を帯び、心臓が早鐘を打っている。

 

難羽は上位陣とデッドヒートを繰り広げていたがスタミナ切れ。

失速して背後を走っていた者達に追い越されていた。

 

 

「……流石は新人類……まじでキッツイ、この身体で運動は無理だ……! 一般高校生の、運動量ではない!」

 

 

難羽は悪態をつく。

 

今の彼の肉体は一般人よりは鍛えられているとはいえ、個性による身体強化を持たないただの人間だ。

改造されていない彼の身体スペックは平均ほどである。

それを凄まじい思考速度でゴリ押し、誤魔化しているに過ぎない。

 

 

「お疲れ様ですわ、難羽様。水分補給を」

 

 

いつの間にかピットから移動していた体操服姿のアットが、涼しい顔でスポーツボトルを差し出した。

 

 

「……ありがとう。喉がカラカラだ」

 

 

難羽は礼を言いボトルを引ったくると、乾き切った喉を潤すべく勢いよく中身を煽った。

 

 

次の瞬間、難羽は盛大に中身を噴き出した。

 

 

気管が焼けるような熱さと、鼻に抜ける高貴な香り。

 

 

「……!? ……ッ、ゲホッゲホッ!!」

 

「ダージリンのセカンドフラッシュでございます。……レース前に『最高の一杯を用意しておけ』と仰ったのは難羽様でしょう? ボトルなら保温性も抜群ですので」

 

 

アットは悪びれる様子もなく、小首をかしげた。

 

 

「今じゃない……!」

 

「あら、猫舌でしたか? では次は氷を入れてアイスティーにして差し上げますわ」

 

 

そんなコントのようなやり取りをする二人を、八百万の背中(というか尻)に文字通りしがみついてゴールした峰田実が、血の涙を流しながら睨みつけていた。

 

 

「……ッ!! なんで、なんでサポート科の地味男がメイド服の女の子に尽くされてんだよぉぉ!! ……いや待て、熱いお茶攻め……? そういう高度なプレイなのか!? 羨ま死ぬ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩を挟み、予選を通過した42名に次の種目内容が告げられる。

 

 

「第二種目は……騎馬戦よ!!」

 

 

ミッドナイトが鞭を鳴らす。

 

ルールはシンプル。

2〜4人でチームを組み、騎手となる一人が鉢巻を巻く。

ポイントは予選の順位に応じて割り振られ、その合計がチームの持ち点となる。

 

そして、第一種目1位の爆豪勝己に与えられたポイントは──

 

 

「……一千万ポイント!!」

 

 

その言葉が落ちた瞬間スタジアムの空気が凍りつき、そして熱を帯びた。

 

41人の獲物と、たった1人の「王」。

 

先ほどまで賞賛を浴びていた爆豪は次の瞬間、スタジアムにいる全員から「狩り」の対象としてロックオンされたのだ。

 

 

 

「……ハッ。上等じゃねえか」

 

 

 

爆豪は不敵に笑ってみせた。

 

もとより爆豪は全てが敵。

そして全てに勝ってこそ強者だと考えている。

この種目でも一位をとって完全優勝を狙うつもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「15分間のチーム決めタイム、スタート!」

 

 

カウントダウンと共に、生徒たちが慌ただしく交渉を始める。

 

しかし1位の爆豪の周りには、人が集まらない。

 

理由は明白だ。

あまりに高いポイントゆえに、組んだ瞬間に全チームから集中攻撃を浴びる「自殺行為」に近いリスク。

そして何より爆豪自身の苛烈な性格と、選手宣誓での傲慢なビッグマウス。

 

「勝機がない」「あいつとは組みたくない」と判断した生徒たちは、次々と彼から目を逸らしていった。

 

 

 

「…………!?」

 

 

 

逆に爆豪は困惑していた。

確かに全員が敵だと言ったが、こういう戦いは想定していない。

 

そもそも彼自身が競争心と自尊心の塊。

逆境に立ち向かう彼は、逆境を避けたい気持ちを理解出来ていなかった。

 

そして、もう一人。

会場の隅で完全に孤立している人間がいた。

 

難羽輪太郎である。

 

 

「……当たり前だが、誰も声をかけてこないな」

 

 

サポート科という「個性が直接戦闘に向かない」という先入観。

そして第一種目で見せた、あまりに効率的すぎて奇行ともとれる動き。

 

高い判断力は認められていても、この競技において使える個性を1枠失ってでも難羽を騎馬に組み込もうとする物好きはいなかった。

 

だが、当の難羽は自分がハブられていることなど気にも留めていなかった。

彼の視線はある一点に固定され、その表情は驚愕と──純粋な憤怒に染まっていた。

 

 

「……おい……おい、ちょっと待て」

 

 

難羽の目の前にいたのは、A組の葉隠透。

透明化の個性を持つ彼女は、騎馬戦のために「戦闘用」の準備を終えた姿であった。

つまり、上半身が透明()の状態だ。

 

 

「……このコスチュームを作ったのは誰だぁっ!!」

 

 

スタジアムの喧騒を切り裂き、難羽の絶叫が響き渡る。

 

難原雄山(なんばらゆうざん)は怒りを抑えることが出来なかった。

 

近くにいた生徒たちがビクッと振り返る。

 

 

「じゃあ戦闘訓練の時は手袋とブーツだけ!? それをコスチュームとして提出したのか!? 作れないなら作れないと言え!! 女の子になんて格好させている……!!」

 

 

難羽は頭を抱え、ブツブツと呪詛を吐き出した。

 

 

「透明だから見えない? そういう問題じゃない! 爆風、破片、摩擦熱!! 死ぬぞシンプルに!! それにセンシティブ過ぎて商業的にもダメだ、18禁どころの話ではない!! 10代、20代、30代……年齢が上がるとさらに危険だ!!」

 

「え、ええ!? なんで私が怒られてるの!?」

 

 

透明な少女が慌てて身を縮こまらせる。

周りの生徒は彼女の本当の姿は見えていない。

 

しかし難羽の改造された脳と眼は彼女の姿を捉えることが出来る。出来てしまう。

 

難羽は羞恥心よりも先にサポートエンジニアとしての矜持を爆発させていた。

その異様な剣幕に、周囲の生徒たちはさらに彼から距離を取る。

 

結果として、難羽の周囲には完全な空白地帯が形成されていた。

 

 

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