バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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31話 危ない人に話しかけてはいけない

 

 

「……透明ならセーフと判断した製作会社の意図が、あまりに不透明すぎるぞ……!!」

 

 

去りゆく浮游するバンダナ──つまり、恐怖してその場を離れる葉隠透の背中(があったであろう虚空)に向かって、難羽輪太郎は魂の叫びをぶつけていた。

 

彼の怒りは、決してスケベ心からくるものではない。

 

サポートアイテム、そしてヒーローコスチュームとは戦場に立つヒーローの命を守る最後の砦であり、彼らが救える人の数を増やすための力であるはずだ。

 

 

「火災現場なら? 極寒地なら? 薬品工場なら? 生身の皮膚など紙切れ同然だぞ!」

 

 

それをあろうことか、何の効果もないグローブと靴だけを「コスチューム」として提出し、承認させた製作会社。

その怠慢と安全管理への意識の欠如に、難羽の中で明確な殺意が湧いていたのだ。

あんな葉隠の姿を見たくない(見えない)。

 

 

彼は、技術者としてある決意をする。

 

 

そんな難羽の背後、もとい、脛のあたりを激しく叩く者がいた。

 

 

「──おい、地味野郎……お前、見えてんだなぁ!?」

 

 

そこにいたのは、再び両目から滝のような血の涙を流している峰田だった。

 

その形相は鬼気迫るものがあり、難羽のズボンの裾を掴む手は怒りと嫉妬で小刻みに震えている。

 

 

「誤魔化しても無駄だぞ! さっきの葉隠を見る時の顔の角度……あれは何もない空間を見る目じゃなかった! 明確に『質量のある物体』を捉えている目だった……! お前、今、葉隠っぱいを確実に凝視していただろうがぁ!!」

 

「……あぁ、見ていたとも! だからこそ、私はこれほど怒っているんだ!!」

 

 

難羽は悪びれもせず、かけていたサングラスを中指でクイッと押し上げた。

 

そのスモークがかったレンズの奥には銀色の瞳、否、眼球型カメラデバイスが組み込まれている。

 

サーモグラフィー機能を用いれば、可視光線を透過する彼女の肉体も、放射される体温分布によってその輪郭を鮮明に映し出すのだ。

 

 

「ふざけやがって……! てめぇ、個性は透視か!? それとも超感覚か!? 答えろ、どのくらいの大きさだったんだよ!! 形は!? 色は!?」

 

 

激しく詰め寄る峰田のどす黒い情熱を前にして、難羽はふと、熱くなっていた頭が急速に冷却されていくのを感じた。

自分より遥かにヤバいベクトルで突き抜けている人間を見ると、人は冷静になれるものである。

 

難羽は改めて、足元の小さな少年を観察した。

 

小柄な体躯。

USJで見せた、一度くっついたら剥がれない強力な粘着個性。

そして何より、欲望のためなら恥も外聞も捨てられる執念。

 

 

(………………)

 

 

難羽の脳内で、新たな設計図が組み上がった。

具体的にはヘッドパーツが決定した。

 

 

「……よし。峰田と言ったか。二つ、私の言うことを聞いてくれるなら、全てを教えてやろう」

 

「マジかよ!? オイラ、なんでも聞くぜ! たとえ火の中、女子更衣室の中だ!!」

 

 

興奮で鼻息を荒くする峰田に対し、難羽はスッと指を一本立てた。

 

 

「一つ。私とチームを組め。お前が騎手だ」

 

「えっ、いいのか!? オイラ、背が低いから誰も馬をやってくれなかったんだ……! お前、意外といい奴じゃねえか!」

 

 

峰田の顔がぱあっと輝く。

騎手になれば、それだけ目立つ。

女子からの注目度も上がるかもしれない。

 

 

「そして、もう一つだ」

 

 

難羽の声のトーンが一段、低くなる。

サングラスの奥の光が消えたように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……後で本人に許可を取った上で、葉隠の血液か髪の毛のサンプルを貰ってこい」

 

 

 

「………………は?」

 

 

一瞬前までの狂乱が、嘘のように静まった。

 

峰田は絶句し、背筋を凍らせるような寒気を感じていた。

「女子の裸の話を聞いてハァハァしたい」という自分の欲望が、なんだかとても健康的で可愛らしいものに思えてくるほどだ。

 

目の前の男が放つマッドサイエンティストの波動は、純粋で救いようがなく、そして深淵を覗き込むような度し難い恐怖があった。

 

 

「……透明化の因子構造を解析したい。最近開発したスーツでは彼女の個性と噛み合わない。やはり彼女の個性因子を組み込んだ専用スーツを作り上げる必要がある」

 

 

難羽はブツブツと独り言を呟き始めた。

 

自分よりヤバい奴を見ると、逆に落ち着くものである。

 

峰田はそっと難羽から一歩距離を置きながらも、逃げ場のない契約に飲み込まれていく自分を感じていた。

 

 

「……わ、わかったよ……。やるよ……やればいいんだろ……」

 

 

こうして、雄英体育祭史上最も歪で、最も危険な動機を持つチームが結成された。

 

 

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