バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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33話 ハイエナの牙

 

「──そうだ、そのまま範囲ギリギリに構えろ」

 

 

B組チームを粉砕し、最初のポイントを稼いだ難羽達。

 

その指示を受け、鉄壁の要塞は次の獲物を追う──かと思いきや、そのまま鮮やかに反転し、グラウンドの端へと全速力で撤退を開始した。

 

 

「えっ、引くの!? 難羽、もっとポイント稼ごうぜ!」

 

 

峰田が欲深そうに叫ぶが、難羽は冷たく首を振った。

 

 

「最初に説明しただろ。今は深追いする必要はない。我々は最初のポイント獲得者であり、最も目立つ初動を見せた。全チームがこちらの『手』を警戒している」

 

 

このチームの戦術は明確だ。

 

障子の多腕による全方位防御(シェルター)と、難羽・峰田の粘着弾による拘束、そして蛙吹の「影」としての隠密奪取。

 

一つのチームを相手にする分には無類だが、乱戦で複数の方向から狙われれば防御の要である障子が機能不全に陥り、蛙吹のステルスも気づかれてしまう。

特に砂塵が舞う乱戦となった場合、蛙吹のシルエットが浮かび上がる危険性もあった。

 

 

「漁夫の利を狙う。主役たちが潰し合い、疲弊したところを美味しくいただく。基本はヒットアンドアウェイだ」

 

 

他のチームが鼻息荒くハチマキを取り合い、戦場が混沌に染まっていく。

その中心部で、轟が率いるチームが動き出した。

 

 

「いいよ、わかってる! ……しっかり防げよ!」

 

 

轟の合図と共に、上鳴電気が咆哮する。

 

 

 

「──無差別放電、130万ボルト!!」

 

 

 

周囲一帯を包み込む、閃光と雷鳴。

 

 

轟を狙っていた者、乱戦の最中にいた者、その全員の身体に凄まじい稲妻が走り、痙攣して動きを止める。

 

だが、離れた位置でこれを見ていた難羽たちは予測済みだったこともあり、最小限の防御でダメージを抑えていた。

 

 

「よし。上鳴は放電を一度も使っていない最初が危険だ。しかし今全力で個性を使い、周囲のチームも麻痺している……逆に言えば、使った直後が一番の好機だ」

 

 

ヒーローらしさ皆無、徹底したハイエナ戦法。

ここからさらに畳み掛けようとした、その時だった。

 

 

「──おい」

 

 

背後から、低く、ねっとりとした声がかけられた。

 

 

「ん……?」

 

 

難羽、峰田、障子の三人が、反射的に振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っ!!」

 

 

こめかみを走る鋭い痛みで、難羽は現実へと引き戻された。

脳内のナノマシンが肉体の異常に反応し、自動で稼働したことによる痛みだ。

 

 

「……はっ!!」

 

 

我に返った時、難羽は自分の置かれた状況に戦慄した。

 

鉄壁だったはずの障子の触腕はいつの間にか無防備に展開され、隣に座る峰田の頭からハチマキが消えている。

峰田に声をかけるが、彼は涎を垂らし、虚ろな目で一点を見つめたまま反応しない。

 

 

「……いつの間に!?」

 

「精神干渉系の個性よ、難羽ちゃん」

 

 

足元から冷静な声が響いた。

蛙吹だ。

 

 

「あの子に話しかけられて返事をした瞬間、あなたたちは意識を失っていたわ……でも、私は返事をしなかった」

 

 

彼女の手には奪われたはずの自分たちのバンダナと、さらに一本の白いバンダナが握られていた。

彼女は障子の影として隠密行動に徹していたため、心操の「洗脳」の対象外となり、逆に油断した相手の騎手からバンダナを奪い返していたのだ。

 

 

「ナイスだ、梅雨ちゃん! 助かった!」

 

 

難羽は障子の背中を叩いて再起動させると同時に、まだ呆けている峰田の頬を往復ビンタして意識を引き戻した。

 

 

「ぶべっ!? ……あれ、オイラ何して……」

 

「寝ぼけてる暇はないぞ! 今のハチマキを合わせても、このままだと暫定6位だ。予選通過には届かん!」

 

 

難羽は歯噛みした。

 

初見殺しにも程がある。

二度とは食らわないが、意識を失っていた数分のロスは致命的だ。

残り時間が絶望的に足りない。

 

 

「作戦Bで行くぞ! 峰田、もぎもぎ用意! 障子、触腕は展開したまま! 残り一分のタイミングが鍵だ、全力でいくぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

残り一分。

スタジアムの熱気が爆発する。

 

これまでの要塞とは一転、障子が腕を六本全て展開した状態で、猛然と突撃を開始した。

 

背に乗るのは騎手の峰田のみ。

難羽は障子の腰に手を添え、まるでケンタウロスのように突撃していく。

 

 

「──なんだありゃあ!? サポート科の難羽、馬から降りて走ってるぞ! ヤケクソかぁ!?」

 

 

プレゼント・マイクの絶叫を無視し、難羽が狙いを定めたのはB組の鉄哲徹鐵のチームだ。

 

 

「オラァ! 真正面から来るとはいい度胸だ!」

 

 

鉄哲が「スクラムでも組むつもりか!」と、突っ込んできた障子の手を力任せに握り返し、押し返そうとする。

 

金属化の個性による、圧倒的な膂力。

 

 

「なっ……!? なんだこれ!?」

 

 

鉄哲の手のひらに、グニリとした不気味な感触が伝わる。

 

 

障子の手の中には、あらかじめ峰田のもぎもぎが仕込まれていた。

一度握れば最後、押しても引いても手がくっついたまま、身動きが取れなくなる。

 

 

「今だ、峰田ァ!!」

 

 

難羽の咆哮が飛ぶ。

峰田が障子の腕の上を伝って走り、身動きの取れない鉄哲の額からハチマキをひったくった。

すぐさま峰田が障子の手のもぎもぎを剥がし、強制離脱する。

 

 

「ふざけんな! 逃がすか、まだ時間は──」

 

 

鉄哲が叫んで追おうとするが、彼らの騎馬は一歩も動けなかった。

 

 

馬役のメンバーが足元を見ると、さらに別のもぎもぎが地面にびっしりと張り付いていたのだ。

 

 

鉄哲たちが峰田の動きに目を奪われている一瞬、難羽が自身の背に張り付け隠し持っていた粘着弾を使用。

足元にばらまき、彼らの退路を完全に断っていた。

 

 

「次だ! まだ止まるな!!」

 

 

難羽たちはそのまま、別の騎馬へと走り出す。

 

プレゼント・マイクが十秒のカウントダウンを開始した。

 

 

「10! 9! 8……!」

 

 

障子と難羽は全速力で、先ほど自分たちをハメた心操人使のチームの横を通り過ぎる。

突撃していく先は一千万ポイントを死守している爆豪のチーム。

狙うは一発逆転のチャンス。

 

 

 

「……残りあと5秒、安心しただろう?」

 

 

 

心操が「逃げ切った」と安堵した、まさにその一瞬。

 

 

 

障子の影から伸びた蛙吹の舌が、心操が持っていたハチマキを一つ音もなく回収した。

 

 

 

 

「その油断を狙ったのよ。ケロ」

 

 

 

 

『タイムアップ!!』

 

 

プレゼント・マイクの叫びが響き渡り、第二種目、騎馬戦が終了した。

 

グラウンドには荒い息遣いと、やり切った者、そして絶望した者の沈黙が混ざり合う。

 

 

「さあさあ、さっそく上位4チームを見てみようか!」

 

 

大型モニターに順位が映し出される。

 

 

「1位、轟チーム!!」

 

 

「2位、爆豪チーム!!」

 

 

「3位、緑谷チーム!!」

 

 

スタジアムが揺れるほどの歓声。

そして、決勝トーナメントに進める最後の枠が告げられる。

 

 

「4位……心操チーム!!」

 

「あれ……?」

 

 

息を整え掲示板を仰ぎ見た難羽は、言葉を失った。

 

心操チーム。

 

最後に一本奪い取ったはずだったが、彼らは他にも多くのポイントを稼いでおり、ポイント計算の結果、わずかな差で彼らの方が上回っていたのだ。

 

 

「5位……峰田チーム」

 

 

難羽たちのチームは、予選敗退ラインの5位。

「漁夫の利」を狙いすぎたゆえの、そして洗脳による空白の時間を取り戻せなかったことによる敗北だった。

 

 





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