バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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34話 ・・・それもラブ・・・これもラブ

 

 

「……5位……予選敗退」

 

 

電光掲示板に表示された無慈悲な結果。

 

敗北の悔しさと全力を出し切った充足感が混ざり合うグラウンドの隅で、難羽チームの空気は沈んでいた。

決勝進出というあと一歩が届かなかった事実は、高校生たちの心を重く押しつぶす。

 

だが難羽だけは違った。

彼は一度大きく息を吐き出すと、どこか晴れやかな表情でチームメンバーたちを見回した。

 

 

「……いや、決勝トーナメントには残れなかったが……お前ら、本当によく頑張った」

 

 

難羽はそう言うと屈んでいた蛙吹の元へ歩み寄り、無造作に、しかし慈しむようにその頭に手を置いた。

 

 

「え?」

 

「最後までよく影に徹してくれたな、完璧な仕事ぶりだった。お前の活躍シーンは私が責任を持って編集し、SNSで分かりやすく拡散してやるからな。バズること間違いなしだ」

 

 

わしゃわしゃわしゃ。

難羽は彼女の髪を少し乱暴に、しかし温かく撫で回した。

 

 

「……は、恥ずかしいわ、難羽ちゃん。子供扱いしないで」

 

 

蛙吹が頬を赤らめ、少しだけ嬉しそうに目を伏せる。

 

その横から、血の涙を流しながら抗議の声を上げる者がいた。

 

 

「おい難羽ァッ!! なに自然な流れで女の子の頭撫でてんだよ! その無自覚イケメンムーブ、オイラが一番許せない大罪だぞ!!」

 

 

峰田だ。

嫉妬の炎で身を焦がす彼に対し、難羽は苦笑しながら向き直った。

 

 

「……おっと、そうだったな。お前もだ、峰田」

 

 

難羽はさらに深く屈み込むと、峰田の頭も同じように、いや、さらに激しくわしゃわしゃと撫で回した。

 

 

「お前も最高だったぞ。特に最後のハチマキ奪取、あの動きには痺れた……今日一番カッコよかったぞ、峰田」

 

「えっ……」

 

 

峰田の動きが止まる。

今まで「変態」「キモい」と言われることはあっても、正面から「カッコいい」と称賛されたことなどなかったからだ。

 

 

「ま、マジかよ……。へへ、そ、そうかぁ? ……オイラ、やる時はやる男だろ?」

 

 

峰田は鼻の下を擦り、満更でもない表情でへらりと笑った。

 

難羽は立ち上がると、無言で寄り添っていた巨躯の障子の腕をポンと叩き、背伸びをしてその頭にも触れた。

 

 

「障子も、作戦の核として完璧な仕事を果たしてくれた。どんな攻撃にも耐えうる、最高の要塞だったよ。ありがとう、お前のおかげでここまで戦えた」

 

「……ああ。お前こそ、いい指揮だった」

 

 

障子はマスクの下で微かに目元を緩めた。

 

しばらく穏やかな笑顔で三人の頭を交互に撫で続けていた難羽。

 

だが、ふと気づく。

 

三人が自分に向ける視線がどこか困惑したような、あるいは孫を見守る祖父を見るような目になっていることに。

 

 

(……ん?)

 

 

難羽の動きが止まる。

 

今の自分の振る舞い。

高校生の同級生に対するそれではなく、完全に若者の成長に目を細める老人のそれだった。

 

 

「…………」

 

 

難羽は慌てて手を離すと咳払いをした。

 

 

「……すまん、少し童心に帰っていたようだ」

 

 

苦しい言い訳をする難羽に、蛙吹が容赦のないツッコミを入れる。

 

 

「……どちらかと言えば、孫を褒めるおじいちゃんみたいだったわよ、難羽ちゃん……なんだか、お茶とお煎餅が似合いそうな空気だったわ」

 

「…………」

 

 

鋭い指摘に、難羽は返す言葉もなく立ち尽くした。

微妙な、しかし温かい空気が流れる中、難羽たちは一旦解散し、各々昼休憩へと向かっていった。

 

難羽の背中は、心なしかいつもよりも老けて見えた。

 

 


 

 

 

 

 

 

昼休憩が終わり、スタジアムは午後のレクリエーションイベントで再び活気を取り戻していた。

 

本場アメリカから招かれたプロのチアリーダーたちが、ダイナミックなダンスで会場を盛り上げる。

 

そんな中、峰田と上鳴の「先生が言ってた」という見え透いた嘘に騙され、屈辱に震えながらチアリーダー服を着せられたA組女子たちがグラウンドに整列させられていた。

 

 

(殺す……峰田、上鳴……後で絶対に社会的に抹殺してやる……!)

 

 

八百万百が恥じらいと怒りで顔を真っ赤にし、耳郎響香がポンポンを握りつぶさんばかりに震えている。

 

だが、その羞恥にまみれた列の端に、異質な存在が一人、堂々と混じっていた。

 

見事な金髪の縦ロール。

A組のオレンジ色のチア衣装ではなく、メイド服をチアリーダー風に大胆にアレンジしたようなモノクロームの衣装。

 

 

「ワン、ツー、スリー!」

 

 

音楽が始まると同時に、彼女は誰よりも高く跳躍した。

人間離れしたバネ、重力を無視した滞空時間、そして機械的なまでに完璧なキレのある動き。

 

 

「L・O・V・E! ラブリー! 難羽様!!」

 

 

彼女は満面の笑顔で、ポンポンを激しく振る。

 

 

「ファイト、ですわ! ナ・ン・バ・様~! ……あ、それっ!」

 

 

彼女の応援には、雄英高校もクラスメイトも含まれていない。

 

ただひたすらに、ピットで休憩しているはずの主人・難羽輪太郎への偏愛だけが叫ばれていた。

 

一通り完璧なダンスを踊り終えると、彼女は肩で息をすることもなく(そもそも呼吸が必要ない)、スッと真顔に戻った。

周囲のA組女子と目を合わせることもなく颯爽と、優雅に控え室へと戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「……だれぇ!?」

 

 

アットを知らない他クラスの生徒や観客たちが、その美貌と完璧なダンスに驚愕の声を上げる。

 

 

「おい見ろよ、あの子! めっちゃレベル高くね!?」

 

「どこのクラスだ!? アイドル科か!?」

 

 

そして、観客席の隅で、峰田実が再び血の涙を流していた。

 

 

「ぐぎぎぎぎ……!! なんであいつには、あんな専属チアリーダーがいるんだよぉぉ!! マジ羨ま死ぬ……!! オイラたちへの応援は!? オイラへのラブは!?」

 

 

峰田の悲痛な叫びは、華やかなチアリーディングの歓声にかき消されていった。

 

こうして、波乱の体育祭は最終種目へと進んでいく。

 

 

 

現在句点ごとに改行していますが、通常の文章の書き方に直したほうがいいですか?

  • 段落を使った普通の文章のほうが良い
  • 今の文章の方が良い
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