バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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46話 旧型の古い人間

 

スタジアムは、一戦ごとにその温度を上げ続けていた。

先の「難羽 vs 緑谷」という名の特別講義を経て、観客たちはもはやただの試合を期待してはいない。

次に何が起きるのかを渇望するような熱気が支配していた。

 

そんな狂騒の観客席の片隅に、周囲が思わず距離を置くほどの、異様な密度を持つ一角があった。

 

 

「……確かに、かっちゃんの爆破なら盾で防げるけど、爆煙が消えるわけじゃない。それに盾で視界が塞がれるし、かっちゃんなら盾をそのまま掴んで顔を狙ってきそうだ。そもそも盾は攻撃にも転用できるんだから、それをさらに……」

 

「……根津校長の個性も希少だが、あの常闇の個性も興味深い。個性因子には持ち主の記憶が宿るというが、あれは明確に別の人格が宿っている。他の個性因子を混ぜ合わせたわけでもなく、これほどの自律性を保つ構造は……」

 

 

ブツブツと、呪文のように言葉を紡ぎ続ける二人の男。

 

 

一人はボロボロの指を気に留めずメモを走らせる緑谷出久。

 

もう一人はサングラスの奥で常闇の個性を「生体設計図」として解体する難羽輪太郎だ。

 

 

「あ……あの、二人とも。ちょっと怖いよ……?」

 

 

隣に座る麗日が、引きつった笑みを浮かべて声をかける。

しかし、解析の深淵に潜る二人の耳には届かない。

 

 

 

 

 

リング上では、爆豪の猛攻に常闇踏陰が防戦を強いられていた。

縦横無尽に飛び回る「黒影(ダークシャドウ)」が爆豪を阻むが、爆炎が上がるたびにその動きが鈍る。

 

 

「常闇くんの弱点が、爆豪くんにバレていなければ……まだ勝機はあるかな」

 

 

麗日の不安げな呟きに、難羽が「フン」と鼻を鳴らした。

 

 

「弱点? ……光だろ」

 

「えっ!? なんでわかったの、難羽くん!」

 

 

驚愕する緑谷と麗日に、難羽は逆に心底呆れたような視線を向けた。

 

 

「個性の名前が黒影(ダークシャドウ)だぞ。影の性質を持ち、爆豪の爆発という光源に押されている現状を見れば光による減衰があることくらい、エンジニアじゃなくてもわかる。というか、名前に答えが書いてあるだろうが」

 

「あ、それは、そうだけど……」

 

「まあ、あいつも、もう気づいている頃だろうな……ほら、見ろ」

 

 

難羽が顎でリングを指す。

そこには常闇を追い詰め、不敵な笑みを浮かべる爆豪の姿があった。

 

 

 

 

 

 

爆豪は右手のひらを常闇に向けて大きく広げた。

それは爆破の予備動作ではない。

 

 

「……ッ、これは……!」

 

 

常闇が危険を察知した瞬間、爆豪の手の中からリングのすべてを白く塗りつぶす強烈な閃光が放たれた。

 

 

「──閃光弾(スタングレネード)!!」

 

 

障子との戦いで難羽に見せつけられ、そして自らも模倣したあの光。

 

強烈な輝きを浴びた黒影は断末魔のような声を上げて縮み上がり、常闇の体内へと霧散していく。

 

 

「影が、消えた……!?」

 

 

無防備になった常闇の懐へ爆豪が爆音と共に突っ込む。

勝負は一瞬だった。

 

 

「……そこまで! 勝者、爆豪勝己!!」

 

 

ミッドナイトの宣告が響き渡る。

爆豪は難羽たちが座る観客席を一度だけ鋭く睨みつけると、荒々しく背を向けた。

 

 

「……さて、そろそろ控え室に向かうか」

 

 

難羽は静かに席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

スタジアムの喧騒は、決勝戦を前にして一種異様な「凪」の状態にあった。

数万人の観衆が息を潜め、次なる頂上決戦の開幕を待ちわびている。

 

その重苦しいプレッシャーはコンクリートの壁を浸透し、選手控え室の空気をピリピリと震わせていた。

 

──はずだった。

 

 

「……茶葉はアールグレイか。ベルガモットの香りが少し強いが、悪くない」

 

「恐れ入ります、難羽様。決勝前の緊張を緩和するには、柑橘系の香気が最適かと計算いたしましたので」

 

 

第3控え室。

殺伐とした空気など微塵もないその空間には、優雅な紅茶の香りが漂っていた。

パイプ椅子に座り、磁器のカップを傾ける難羽輪太郎。

そしてその傍らには、メイド服を現代風にアレンジしたような装いの美少女——アットが、ポットを抱えて恭しく控えていた。

 

「難羽様、次の試合……爆豪様は恐らく、最初からフルスロットルで来ますわ。前回の常闇戦で見せた学習能力と略奪の速さ……侮れません」

 

アットの発言を聞き、難羽はカップをソーサーに戻してサングラスの位置を直した。

 

爆豪勝己。

身体能力、戦闘センス、個性の出力、そして勝利への執着。

どれをとっても「怪物」と呼ぶに相応しい相手だ。

 

 

「さて、そろそろ行くか」

 

 

難羽が立ち上がろうとした、その時だった。

 

ドォンッ!!!!

 

ノックではない。

蹴りで扉が開かれる。

 

 

「…………あ?」

 

 

犯人は爆豪だ。

 

彼は決勝を前にイラついていた。

早く暴れたい。

早くあの生意気なクソギークをぶっ潰したい。

 

その一心で控え室に向かっていたのだが──どうやら、

あまりの殺気で方向感覚が狂ったらしい。

 

 

「…………」

 

 

しかし入ってきた当の本人が、一番に呆けた声を上げた。

 

爆豪の視界に入ってきたのは、戦闘前の緊迫感とは無縁の優雅なティータイム。

鼻腔をくすぐる上品なベルガモットの香り。

そして難羽の隣でポットを持つ、見慣れぬ美少女の姿。

 

あまりの場違いな光景に、爆豪は毒気を抜かれたように立ち尽くした。

 

 

「……あら。野蛮な方が迷い込んでこられましたわね」

 

 

沈黙を破ったのはアットの涼やかな声だった。

彼女は爆風で乱れた前髪を指先で直し、心底軽蔑するような、しかし優雅な視線を爆豪に向けた。

 

 

「ドアも開けられないなんて……難羽様、やはり雄英のヒーロー科は、礼儀作法よりもドアノブの使い方を教えるべきですわ」

 

「──あァん!?」

 

 

その一言で、爆豪の思考回路が再接続された。

額に青筋が浮かぶ。

 

 

「おいテメェ、誰に向かって言ってやがる……! つーか、誰だそいつは!! 雄英の生徒じゃねえだろ!!」

 

 

爆豪がアットを指差して怒鳴る。

部外者の立ち入りは禁止されているはずだ。

難羽は紅茶を一口啜り、さも当然のように淡々と答えた。

 

 

「……私の娘だ」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

爆豪の絶叫が廊下に響き渡った。

ギョッとして難羽とアットを交互に見比べる。

 

 

「テメェ、隠し子がいんのかよクソギーク!! つーか計算が合わねェだろ!! お前何歳だよ!!」

 

「……内緒だ」

 

「殺すぞッ!!!」

 

 

爆豪が掌で小規模な爆発を起こす。

だが即座にアットが一歩前に出て、難羽を庇うように立ち塞がった。

 

 

「……嘘ですわ。この方のユーモアセンスは壊滅的ですので、真に受けないでくださいまし」

 

「あぁ!? じゃあ何なんだよテメェは!」

 

 

アットはスカートの裾をつまみ、カーテシー(膝を折る礼)をしてみせた。

 

 

「私は娘ではなく、この方の『母』です……今日は体育祭。保護者が応援に来るのは、至極真っ当なことでしょう?」

 

「…………は?」

 

 

爆豪の思考が再び停止した。

 

 

母。

 

マザー。

 

お袋。

 

 

目の前の、どう見ても自分と同年代か、下手すれば年下に見える美少女が?

 

 

「絶対嘘だろォォォッ!! どう見てもテメェと同じくらいじゃねーか!! 脳みそ沸いてんのかコラァ!!」

 

「あら。私の肌のツヤが良すぎて実年齢が見えませんでしたか? ……お可哀想に。眼科の受診をお勧めしますわ」

 

「テメェ……!! ナメてんのか!!」

 

 

アットの表情は能面のように美しいまま、言葉の端々に強烈な棘を含ませて爆豪を煽る。

初対面にして、爆豪勝己がアットの玩具として認定された瞬間だった。

 

難羽は我関せずといった様子で、紅茶を飲み干した。

 

その様子を見て落ち着いたのか、爆豪はフンと鼻を鳴らし、その場の空気を断ち切るように乱暴に椅子を引き寄せた。

ガタッと大きな音を立てて、難羽の正面にドカッと座り込む。

 

 

「……チッ。今はテメェらのおままごとに付き合ってる暇はねェ」

 

 

爆豪の赤い瞳から先ほどまでのコミカルな色が消え失せ、冷徹な戦士の光が宿る。

 

彼は難羽の右腕──今はまだ素の状態である腕を、値踏みするように睨みつけた。

 

 

「……おい。あの飯田をブッ飛ばした爆破のガントレット……アレ、俺のために作ったのか」

 

 

単刀直入な問い。

先ほどの準々決勝で、難羽は「爆破」を再現してみせた。

爆豪は最初、自身の個性をコピーしたのだと考えていた。

 

しかし冷静になってみると、思い当たるものがあった。

あれはコピーではない。

 

あれは──

 

 

 

「……ようやく気づいたか」

 

 

 

難羽はアットに目配せをする。

彼女は心得たように頷き、部屋の隅にあるケースから整備されたばかりのガントレットを取り出した。

 

 

「そうだ。あのガントレット内部には私が調合した衝撃起爆式の特殊燃料を装填していた。威力は申し分ないが……最大の欠点は燃料の『残弾数(リソース)』だ」

 

 

難羽はアットからガントレットを受け取り、そのメカニカルな構造を愛おしむように撫でた。

 

 

「あのサイズに積める燃料には限りがある。飯田戦のように一撃必殺を狙うならいいが、長期戦には向かない……だが、もしお前があれを装備すれば、話は変わる」

 

「あ?」

 

「リロードが不要になるからだ」

 

 

難羽の言葉に、爆豪の眉が動く。

 

 

「お前の爆破の源は、掌から分泌されるニトロのような汗だ……つまり、お前自身が歩く燃料タンクだ」

 

 

難羽はガントレットの掌部分にある微細な吸気口を指差した。

 

 

「このガントレットは装着者の汗を効率的に収集・圧縮し、燃料である汗を利用したギミックを複数搭載している」

 

「……ギミック、だと?」

 

「今の爆破は屋外用だ。広範囲を吹き飛ばすのには向いているが、精密射撃には向かない……だがこれを通せば、その爆破の性質を変えて新たな戦闘スタイルを確立できる」

 

 

難羽は熱っぽく語る。

それは爆豪勝己という原石を、科学の力で加工し兵器へと研磨するためのプレゼンテーションだった。

 

 

「お前の戦闘の選択肢(オプション)を、理論上は三倍以上に跳ね上げるためのパーツだ。……どうだ? 悪くない話だろう」

 

 

爆豪は黙っていた。

 

だがその瞳に宿る光は嫌悪感ではなく、純粋な強さへの渇望と、自分の可能性を正確に理解されたことへの奇妙な納得感だった。

 

自分の個性をただの才能としてではなく、一つのシステムとして解析し、拡張しようとする難羽の思想。

 

それは爆豪がこれまで感覚で行ってきた戦闘を、論理的な新たな技術へと昇華させるものだった。

 

 

「……なるほどな」

 

 

爆豪はニヤリと嗤った。

 

 

「俺の汗を使って、テメェのオモチャを動かせってか……上等じゃねえか」

 

「勘違いするな、主導権はお前にある。これはあくまで補助輪だ」

 

 

難羽は立ち上がり、右腕にガントレットを装着した。

サーボモーターが唸り、鋼鉄の拳が難羽の腕と一体化する。

 

 

「……どんな機能がついてやがる」

 

 

爆豪が身を乗り出す。

 

 

「それを今ここで説明しても、つまらんだろう?」

 

 

難羽は悪戯っぽく笑うと、アットが差し出した「二つ目」のガントレットを、空いている左腕に装着した。

 

 

「……は?」

 

 

爆豪が目を見開く。

飯田戦では右腕だけだったはずだ。

だが今難羽の両腕は、重厚な鋼鉄の装甲に覆われていた。

 

左腕に装着された二つ目のガントレット。

それは右腕のものと全く同じ規格、同じ性能を持つ「爆破式ガントレット」だった。

 

 

「これで条件は整った」

 

 

難羽は両の拳を軽く打ち合わせる。

カォン、と重い金属音が響き、両腕のガントレットから陽炎のような排熱と、不気味な駆動音が漏れ出した。

 

 

「おい……まさかテメェ」

 

 

爆豪が何かを察したように眉を寄せる。

難羽はサングラスの奥でニヤリと笑った。

 

 

「そのまさかだ。片腕だけでは『砲台』にしかならんが、両腕にあれば『翼』になる」

 

 

難羽は空中で構えを取るイメージを描くように、両腕を広げた。

 

 

「推進力を生む噴射口が二つあれば、姿勢制御と推力偏向が可能になる……つまり、お前の十八番である爆速ターボによる三次元機動も、理論上は再現可能だ」

 

「……ハッ。俺の動きを、その鉄屑でトレースしようってか」

 

「ついでに、先ほどお前が常闇に見舞った閃光弾(スタングレネード)の機能も、一時的に拡張しておいた。……回路が焼き切れるから一発限りだがな」

 

火力、機動力、そして目くらまし。

爆豪勝己という「完成された兵器」に対抗するため、難羽は手持ちのカードを全てこの二つの鉄塊に詰め込んだのだ。

 

 

「……至れり尽くせりじゃねえか」

 

 

爆豪は口角を吊り上げる。

自分の全てをコピーし、その上で挑んでくる姿勢。

それは彼にとって最大級の挑発であり、そして自身が認められていることの証明だった。

 

 

「で? そこまでやって、勝てると思ってんのか? あァ?」

 

 

爆豪の問いに難羽は即答しなかった。

彼は手元のガントレットに目を落とし、あまりに冷静すぎる声で答えた。

 

 

「……いや、私の勝率は『引き分け』か『負け』だ」

 

「……あ?」

 

 

予想外の弱気な発言に、爆豪の笑顔が凍りつく。

だが難羽の表情に悲壮感はない。

難羽はガントレットの側面にある、小さなタンクを指差した。

 

 

「このガントレットは、あくまで『爆豪勝己専用』として設計されている。お前が装備する場合、お前は戦闘中に汗をかき続ける限り、半永久的に燃料を現地調達(チャージ)できる……だからこそ、ガントレット側の燃料タンクは動きを阻害しないよう、必要最小限の小型サイズに設計できる」

 

 

難羽は自嘲気味に肩をすくめる。

 

 

「だが、今の私は予備燃料を積んでいるに過ぎない……戦闘中に給油はできない。タンクが空になれば、この鉄塊はただの重りになる。長期戦になれば、ガス欠で私の負けだ」

 

「……チッ。燃費の問題かよ」

 

「いや、それだけじゃない」

 

 

難羽はサングラスを外し、その素顔を爆豪に向けた。

その瞳には諦めではなく、科学者としての羨望とため息が混じっていた。

 

 

 

「最大の問題は燃料切れではなく……肉体そのものにある」

 

「……肉体だと?」

 

 

 

爆豪が怪訝そうに眉を寄せる。

難羽は自身の右腕──鋼鉄のガントレットに包まれた、その下にある生身の腕を意識しながら淡々と語り始めた。

 

 

「ああ。……爆豪。お前は個性因子というものを、単なる『特殊能力を与えるスイッチ』だと思っていないか?」

 

「……あァ? 何の話だ」

 

「それは半分正解で、半分間違いだ。個性因子はその能力を行使させるために、宿主の肉体そのものを最適化する」

 

 

難羽は爆豪の逞しい腕を指差した。

 

 

「お前は掌で爆発を起こす……常人が同じことをすれば、爆風で手首は砕け、熱で皮膚は爛れ、衝撃で肩が外れるだろう。だが、お前はそうならない」

 

 

それは爆豪にとっては当たり前のことだった。

爆破しても手は痛くない。

反動はあるが、耐えられる。

 

だがそれは彼が「耐えられるように進化している」からだ。

 

 

「お前の皮膚は、爆熱や衝撃に耐えうる強靭な角質層を持っている。お前の骨格は、爆風の反動を逃がすためのサスペンション構造をしている……お前は爆破という機能を使うために、全身が『対爆仕様』に進化(デザイン)された新人類(ニュータイプ)なんだよ」

 

私からすれば発動型も大体は異形だと難羽は呟く。

 

 

「だが、私は違う……私のこの身体は、個性などない『旧人類(オールドタイプ)』の規格のままだ」

 

 

難羽はガントレットを顔の前に掲げた。

 

 

「このガントレットは、お前の火力を再現できる……だが、反動までは消せない。内部のダンパーで軽減はしているが、それでも爆速ターボのような急激なGや、ゼロ距離射撃の衝撃を完全に殺すことはできない」

 

 

ガントレットが火を噴くたび、難羽の関節には多大な負荷がかかる。

爆豪が平然と行っている空中機動も、難羽が行えば遠心力で全身の毛細血管が切れ、頸椎を痛めるリスクと隣り合わせだ。

 

勿論難羽は自身が使うために拡張装備で調節しているが、それもあくまで無理に使っているに過ぎない。

 

 

「燃料は有限。そしてそれを使う器である私の体は、お前のように頑丈じゃない……私が最大出力で暴れ続ければ相手を倒す前に自壊する」

 

 

難羽は深く、重い溜息をついた。

 

 

「……これだから、古い人間の肉体は弱くて困る。素体としても使えん」

 

 

それは嫉妬でも諦めでもなく、エンジニアとして素材の限界を嘆く、純粋な技術的評価だった。

どれだけ優れた知能と装備を用意しても、それを動かす土台が脆弱であれば、性能は発揮しきれない。

 

静寂が降りた。

 

爆豪は目の前の「弱者」を見下ろしていた。

だが、その目に侮蔑の色はない。

 

自分の強さが単なる才能だけでなく、肉体の進化という恩恵の上に成り立っていることをこの科学者は論理的に説明した。

 

その上で、その「脆弱な体」で、自分に挑もうとしている。

 

 

「……ハン」

 

 

爆豪は口の端を吊り上げ、凶悪に笑った。

 

 

「御託は終わったかよ、能書き野郎」

 

「……あぁ、問題ない」

 

「だったら話は早ェ……壊れるのが怖くて、アクセル踏めるかよ」

 

 

爆豪は難羽の胸ぐらを掴み上げるのではなく、あえてその鋼鉄のガントレットに自分の拳をコツンとぶつけた。

 

 

「テメェの体がバラバラになるのが先か、俺がその鉄屑ごとテメェをへし折るのが先か……チキンレースだ。逃げんじゃねえぞ」

 

 

それは、爆豪勝己なりの最大級の敬意。

 

 

「弱いから手加減してやる」ではない。

 

「壊れるまで殴り合ってやる」という、対等な敵への宣告。

 

難羽はサングラスの奥で、微かに目を見開いた。

そして、ニヤリと笑い返した。

 

 

「……フン。望むところだ。私の頭脳で、お前を倒す」

 

「へッ! 言い切りやがったな!」

 

 

爆豪は満足げに背を向け、破壊されたドアを跨いで廊下へと出て行った。

 

 

「アット、行ってくる」

 

「いってらっしゃいませ、難羽様」

 

 

難羽もまた、両腕の重みを感じながら歩き出す。

 

 

「……見せてやるさ、爆豪。古い人間が描く、最新の未来図を」

 

 

スタジアムの歓声が爆発音のように轟く。

 

雄英体育祭、決勝戦。

 

 

進化の頂点に立つ少年と、知恵で進化を模倣する少年。

 

 

二つの異なる「最強」が、今、激突する。

 

 

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