バグのヒーローアルカディア   作:胡麻蝉あぶら

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75話 暗躍による負担が相澤先生に向かっている

 

夏休み。

 

うだるような暑さの中、A組の生徒たちを乗せた大型バスは都心から遠く離れた山間部へと続く一本道をひた走っていた。

 

 

「よっしゃあああ!! 林間合宿だァァァッ!!」

 

「イェーイ! 肝試し! カレー作り! 温泉!」

 

「おいおいお前ら、修学旅行じゃねえんだぞ……まあ、楽しみなのは分かるけどよ」

 

 

バスの車内はウキウキとした旅行のノリに包まれていた。

期末テストという大きな壁を乗り越え、ようやく訪れた夏休みのビッグイベント。

彼らが浮かれるのも無理はない。

 

そんな喧騒を最前列の座席から気怠げに眺めていた担任の相澤は、深く息を吐きながら小さく安堵していた。

 

 

(……どうやら、ここまで尾行や怪しい動きはないな)

 

 

今回の林間合宿は本来予定されていた行き先を直前になって急遽変更し、当日の朝まで生徒たちにも目的地を伝えないという完全秘匿状態で行われていた。

 

全てはUSJ襲撃事件から燻り続けている「雄英内部の内通者疑惑」への対策である。

情報が漏れる隙を一切与えず、生徒たちを安全な隔離環境へと運び込むこと。

それが教師陣の最優先事項だった。

 

そして、相澤が安堵しているもう一つの理由。

それは数日前に赴任してきた最恐の特別臨時講師——難羽解次を事務手続きの不備という建前で、学校に「お留守番」させてきたことだ。

 

 

(内通者と繋がっている、あるいは内通者そのものである可能性が極めて高い、あの得体の知れない老人……あの男をこの合宿から物理的に切り離せただけでも、今回の情報統制は成功したと言っていい)

 

 

相澤は生徒たちの安全が守られたことに静かに肩の荷を下ろし、山道を登っていくバスの揺れに身を任せた。

 

 

その安堵がわずか数時間後に木端微塵に打ち砕かれることになるとは、この時の相澤は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

やがてバスは鬱蒼とした森を抜け、不自然に開けた広大な崖の上の広場に停車した。

 

 

「到着だ。一旦降りろ」

 

 

相澤の号令に、生徒たちは「着いたー!」「ようやく伸びができる!」と口々に言いながらバスから降りていく。

峰田はトイレを探していた。

 

だが、バスの外へ出た彼らは目の前に広がる光景を見て首を傾げた。

 

 

「……あれ、何もない?」

 

 

緑谷が周囲を見渡す。

そこは見晴らしの良い崖の上であり、眼下にはどこまでも続く広大な深い森が広がっているだけだった。

とてもここで数十人の生徒が寝泊まりして合宿を行えるようには思えない。

 

 

「ちょっと相澤先生、ここで合宿するんスか……?」

 

 

上鳴が不安そうに尋ねた、その時だった。

 

 

「きらめく眼差しでロック・オン!!」

 

 

生徒たちの前に、ド派手なポーズを決めながら二人の女性が飛び出してきた。

 

 

「キュートにキャットに、スティンガー!!」

 

「ワイルド、ワイルド・プッシーキャッツ!!」

 

 

猫耳のついたヘッドギアに肉球を模した巨大なグローブ、そして色鮮やかなフリルのついた猫のコスチューム。

彼女たちは山岳救助や特殊環境での活動を得意とする4人組ヒーローチーム、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。

その中の2人、マンダレイとピクシーボブだった。

 

 

「おおお! プッシーキャッツだ!」

 

 

緑谷がヒーローオタクの知識を全開にして目を輝かせる。

結成12年目のベテランと言おうとしたところで、ピクシーボブから猫パンチを喰らっていた。

 

 

「ご挨拶どうも」

 

 

相澤は軽く頭を下げると、ポカンとしている生徒たちに向かって振り返った。

 

 

「彼女たちは今回の合宿でお前たちがお世話になるプロヒーローだ……さて」

 

 

相澤は眼下に広がる広大な森を指差した。

 

その森の遥か彼方、山の麓にポツンと小さな建物が見える。

 

 

「俺たちの宿泊施設はあの山の麓にあるマタタビ荘だ」

 

「……え?」

 

「あの……ここから、あそこまで、どうやって行くんですか?」

 

 

麗日が嫌な汗を流しながら尋ねる。

 

 

「現在時刻は午前9時半……早ければ12時前後かしらん」

 

 

マンダレイが猫のような悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

 

 

「……いや、待てよ」

 

「これ、もしかして……」

 

「バスに戻れ!! 早く!!」

 

 

嫌な予感を察知した切島や瀬呂たちが、血相を変えて乗ってきたバスの方へ走ろうとする。

 

だが、相澤は冷酷に宣告した。

 

 

「……遅い。もう合宿は始まってるぞ」

 

「子猫ちゃんたち……たっぷりと可愛がってあげるわぁ!!」

 

 

ピクシーボブが両手を地面に突き立てた。

彼女の個性「土流」が発動する。

 

 

「うわああああああああっ!!?」

 

 

生徒たちが立っていた崖の地面がまるで巨大な波のようにうねり、一気に崩落を始めた。

足場を失ったA組の生徒たちは悲鳴を上げながら、眼下に広がる鬱蒼とした森の中へと真っ逆さまに突き落とされていく。

 

土砂と共に森の入り口へと叩き落とされた生徒たちがゲホゲホと咳き込みながら起き上がると、上空の崖からマンダレイの個性「テレパシー」による声が直接脳内に響いてきた。

 

 

『ここは私たちの私有地、魔獣の森よ! あなたたちにはこれから自分の足でこの森を抜けて、宿泊施設まで来てもらうわ。今から3時間! 自分の足で施設までおいでませ!』

 

「マジかよ……初日からいきなりサバイバルかよ!」

 

 

上鳴が頭を抱える。

 

 

「文句言ってる暇はねェ! さっさと進むぞ!」

 

 

爆豪が掌から爆破を起こし、真っ先に森の奥へと駆け出そうとした。

峰田は膀胱を開放するため、真っ先に木の影へと駆け出そうとした。

 

だが彼らの行く手を阻むように、森の奥から巨大な怪物がズシン、ズシンと重い足音を立てて現れた。

それはピクシーボブの個性によって生み出された、全高5メートルを超える巨大な土塊の魔獣だった。

 

峰田の固く閉めていた蛇口が緩んだ。

 

 

「グルルルルッ!!」

 

 

魔獣が巨大な腕を振り下ろし、木々をなぎ倒しながら生徒たちに襲いかかる。

 

 

「なんだこいつ!?」

 

「ひるむな! ぶっ壊して進むしかない!」

 

 

緑谷がワン・フォー・オールを発動させ、魔獣の顔面に強烈な蹴りを叩き込む。

轟が氷結で魔獣の足を止め、爆豪が爆破で胴体を粉砕する。

 

だが倒しても倒しても、森の奥からは次から次へと新たな土の魔獣が湧き出してくる。

 

ここから先は己の個性を限界まで使い続け、理不尽な障害を突破し続けるしかないサバイバル。

A組の生徒たちは悲鳴を上げながらも確かな連携を見せ、魔獣の群れへと立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」

 

 

太陽が完全に傾き、空が茜色に染まり始めた頃。

A組の生徒たちは泥だらけになり、制服をボロボロに引き裂かれながらも、ようやく山の麓にある宿泊施設前の広場へと辿り着いていた。

 

 

「……着い、た……」

 

「もう、一歩も……動けねぇ……」

 

 

正午などとうに過ぎている。

結局、彼らが広大な魔獣の森を抜け切るまでにかかった時間は8時間である。

満身創痍の生徒たちは広場に到着するなり、次々と地面に倒れ込んで荒い息を吐いた。

 

 

「何が3時間ですか……」

 

「ねこねこねこ……でも正直もっとかかると思ってた」

 

 

広場には崖から車で先回りしていた相澤とマンダレイ、ピクシーボブの姿があった。

そしてプッシーキャッツの傍らには、角の生えた帽子を被ったツンツン頭の少年——マンダレイの甥である洸汰(こうた)が、不機嫌そうな顔をして彼らを睨みつけている。

 

 

「……お疲れ。まあ、よくやった方だ」

 

 

相澤が珍しく労いの言葉をかける。

だが生徒たちの視線は、相澤やプッシーキャッツの面々には向いていなかった。

 

彼らの疲労困憊の瞳は広場の入り口、木造の宿泊施設の玄関前に立っている一人の人物に釘付けになっていたのだ。

 

 

「……えっ?」

 

 

緑谷が信じられないものを見るように目を瞬かせる。

そこにいたのはこの大自然の森の中においてあまりにも場違いで、あまりにも異質な存在。

 

美しい金髪の縦ロール。

どこか誇り高く、それでいて溌剌とした雰囲気。

そして何より山奥の合宿所には絶対にあり得ない、フリルのついた完璧なメイド服。

 

 

「……お疲れ様ですわ、皆様! よくここまで辿り着きましたわね」

 

 

両手でスカートの裾をつまみ、優雅に一礼をした可憐な少女。

 

 

「……アット、さん……!?」

 

 

それは、かつて難羽輪太郎に常に付き従い、難波の行方不明後に姿を消したあのアンドロイド——アットだった。

なぜ行き先を完全に秘匿されていたはずのこの合宿所に、彼女がいるのか。

 

 

「……おい」

 

 

生徒たちが驚愕に固まる中。

背後に立っていた相澤は血走った目でそのメイド服の少女を睨みつけながら、隣のマンダレイに向かって腹の底から絞り出すようなマジのトーンで呟いた。

 

 

「やっぱあのジジイ……公安に通報したほうが良くないか?」

 

「えっ、あの子知り合いなの? 随分と気合いの入ったコスプレだけど……ケータリングの業者か何かかしら?」

 

 

マンダレイが不思議そうに首を傾げる。

無理もない。

プッシーキャッツの面々はアットの正体はおろか、彼女が雄英高校に潜む内通者疑惑の最有力候補の秘書であることなど知る由もないのだから。

 

 

(……業者なわけがあるか。よりにもよって、一番ここに来させちゃいけない奴の手先だぞ)

 

 

相澤はギリッと奥歯を噛み締めた。

 

今回の林間合宿はUSJでの情報漏洩の反省を踏まえ、当日の朝まで行き先を完全に秘匿していたはずだった。

生徒はもちろん、一部の教師陣にすら正確な場所は知らされていなかったのだ。

 

それなのに彼女はここにいる。

 

この広大な山奥の誰にも見つからない秘密の箱庭に、難羽の懐刀であるアンドロイドが当たり前のような顔をして先回りしているのだ。

 

これでは行き先を直前まで隠した意味が全くない。

いやそれどころか、彼女が堂々とここに姿を現したということは、難羽側からの明確なメッセージであり挑発だった。

 

いつでもお前たちの懐に潜り込めるぞという、圧倒的な情報収集能力の誇示。

正体を隠すどころか、むしろ自分は全てを把握していると雄英側に突きつけてきているのだ。

 

 

「……お前、どうやってここを嗅ぎつけた? なぜここにいる」

 

 

相澤は生徒たちに聞こえないよう声を潜め、殺気を帯びた目でアットを睨みつけた。

いつでも捕縛布を射出できるよう、首元の布に手をかける。

 

だがアットは相澤の殺気を涼しい顔で受け流し、小首を傾げて可愛らしく微笑んだ。

 

 

「奇遇ですわね、相澤先生。私は難羽様から、休暇を取っておいでと言われたので、ピクニックに来ただけですのよ? ……まさか、こんな泥だらけの皆様とお会いするなんて、偶然とは恐ろしいものですわね」

 

 

白々しい、あまりにも白々しい嘘だった。

こんな山奥にメイド服でピクニックに来る人間などいるはずがない。

 

 

「アンドロイドならいますわ」

 

 

だが、彼女は偶然ですと言い張る構えだ。

こんな存在がそこら辺に何台も量産されているわけがない、

世界にただ一体の超絶オーパーツのアンドロイドがシラを切っている。

 

 

(……ここでこいつを拘束して問い詰めるのは下策か)

 

 

相澤は苛立ちと共に手を下ろした。

もしここでアットを敵と見なして戦闘になれば、疲労困憊の生徒たちをパニックに陥れるだけでなく、プッシーキャッツにも雄英の裏事情に巻き込むことになる。

証拠がない以上、彼女をここで排除することはできない。

 

 

「……余計な真似をしたら、即座にスクラップにするからな」

 

「ご安心を。私はただのメイドですから、この身体を傷つけるようなことは致しません」

 

 

アットは相澤の警告に優雅にウインクを返すと、倒れ込んでいる生徒たちの方へとクルリと向き直った。

 

 

「さあ皆様! ボロボロになってお腹もペコペコでしょう? 私が腕によりをかけて偶然作り過ぎた夕食が余っていますわ!」

 

 

アットがパンパンと手を叩くと、宿泊施設の食堂から信じられないほど食欲をそそる暴力的な匂いが漂ってきた。

 

 

「うおおおおおっ!! 飯だぁぁぁぁっ!!」

 

「肉の匂いがする!!」

 

 

限界を迎えていたA組の生徒たちは、アットが何者であるか、なぜここに難羽の秘書がいるのかという疑問すら飢餓感の前に吹き飛び、ゾンビのように立ち上がって食堂へと雪崩れ込んでいった。

食堂の長机には、山奥の合宿所とは思えないほど豪華で栄養満点の料理が所狭しと並べられていた。

 

大盛りのスタミナ焼肉、疲労回復に特化した特製の香草スープ、山盛りのサラダに、輝くような白米。

プッシーキャッツ達は自分達が作るはずだった料理が事前に調理されていたため、彼女のことを完全に合宿所に呼ばれたスタッフだと勘違いしていた。

 

 

「う、うめぇぇぇぇッ!! なんだこれ、涙が出るほど美味い!!」

 

「アットさん、ご飯のおかわり!!」

 

「はいはい、たくさんありますから慌てずに召し上がってくださいませね」

 

 

切島や上鳴たちが泣きながら肉を頬張り、アットは完璧なメイドの所作で次々と空になった皿に料理を追加していく。

 

「……あの子、すっごい手際ね。私たち、完全に料理番の仕事取られちゃったわよ」

 

 

ピクシーボブが呆気にとられた顔でその様子を眺めていた。

 

一方食堂の隅でゼリー飲料を啜っていた相澤は、その光景を見つめながら、さらに深く眉間を寄せていた。

 

 

 

(……あいつ、本当にただの機械なのか?)

 

 

相澤の視線の先。

生徒たちへの配膳をあらかた終えたアットが、厨房の隅の小さなテーブルに腰掛け、自分用のプレートに盛り付けたハンバーグとライスを、実に美味しそうに食べていた。

 

 

「ん〜やはり私のお手製ソースは完璧ですわ!」

 

 

アットは頬に手を当てて幸せそうに咀嚼している。

 

相澤は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

アンドロイドが食事をする。

動力源として有機物をバイオマス変換しているのか、あるいは味覚センサーのテストをしているのか。

理屈はどうあれ、その姿はあまりにも人間のそれだ。

 

喜怒哀楽の激しい感情表現、相澤の殺気に対する生物的な反応、そして食事という生命維持の行為。

 

相澤がこれまで見てきた、あるいは戦ってきたどんなテクノロジーとも違う。

彼女はアンドロイドですの一言で済まされるような、単純な無機物の存在ではない。

あの難羽という男は、一体どれほどの深淵の技術に足を踏み入れているというのか。

 

そして、仮にあの生徒の難羽と同一人物であった場合。

 

あそこまで合理性の欠いた存在を彼が造るだろうか? 

 

難羽が作ったサポートアイテムを緑谷と爆豪から見せてもらったことがあるが、かなり実用性を重視した代物だった。

行方不明後に確認した、入試の際に披露したステルス迷彩の技術にしてもそうだ。

 

 

相澤には彼女だけが難羽の合理的、効率的な視点から外れているような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極上の夕食で完全に体力を回復した生徒たちは泥と汗を洗い流すために、マタタビ荘に併設された広大な露天風呂へと向かった。

 

男湯と女湯は高い木の板の塀で仕切られている。

女湯では芦戸や麗日、八百万といった女子生徒たちが、広い温泉に浸かって一日の疲れを癒していた。

 

 

「あ〜……生き返るぅ……」

 

「ピクシーボブさんの個性、容赦なかったね……」

 

 

そんな女子たちの輪の中になぜか当たり前のように、頭にタオルを乗せたアットが混ざって温泉に浸かっていた。

 

「ふぅ……やはり日本の夏は温泉に限りますわね」

 

 

アットは、豊満な胸元までお湯に浸かりながら、気持ちよさそうに息を吐いた。

 

 

「あっ、アットさん! ご飯、すっごく美味しかったです!」

 

 

麗日が目を輝かせてお礼を言う。

 

 

「でも、アットさんって、サポート科の難羽くんの専属秘書だったわよね? 体育祭の時も一緒にいたし……どうしてここにいるの?」

 

 

蛙吹がケロリとした表情で核心を突く質問を投げかけた。

 

 

女子生徒たちも、流石に彼女がこの合宿所にいることの不自然さには気付いていた。

 

 

「ええ、そうですわ。……実は難羽様が行方不明になってしまい、私は一時的にお仕事が無くなりまして……こうして気ままな一人旅を楽しんでいるのですわ」

 

 

アットは相澤に語った偶然のピクニックという設定をここでも貫き通し、全く悪びれることなく女子たちからの質問責めをヒラリヒラリと躱していく。

 

 

「へー! 難羽くんって、やっぱりどこかの御曹司とかなのかな?」

 

「アットさんのお肌、すっごいスベスベ! どこの化粧水使ってるの!? オイル!?」

 

「ふふっ、これは企業秘密ですわ」

 

 

芦戸や葉隠たちが興味津々で群がり、アットは楽しそうにガールズトークに花を咲かせる。

 

その様子には雄英の生徒たちを監視したり情報を探り出そうとしたりするような、スパイ特有の冷たさや計算高さは微塵も感じられなかった。

彼女はただ純粋に、歳の近い少女たちとの温泉での語らいを楽しんでいるようにしか見えないのだ。

 

 

(本当に……ただの精巧なアンドロイド、なのかしら……?)

 

 

八百万はアットの人間以上に人間らしい柔らかな表情を見つめながら、相澤と同じような底知れぬ疑問を抱いていた。

彼女は相澤から、自身の目から離れる女湯で変な動きがないか見てくれと頼まれていた。

 

そしてその言葉通りアットを見ていた彼女は、あることに気付く。

 

 

(何処かで見たことがある……?)

 

 

雄英に入学するその前から、八百万は彼女の顔を何処かで見たことがあるような気がした。

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

男湯と女湯を隔てる高い板塀の向こう側では、雄英の日常とも言えるくだらない攻防が繰り広げられていた。

 

 

「ウォォォォッ!! あの壁の向こうに! 八百万の! 芦戸の! 葉隠の! そして、あの謎の金髪巨乳メイドの裸体がァァァッ!!」

 

 

峰田が鼻息を荒くしながら、自身の個性で作った粘着ボールを壁に貼り付け、それを足場にして女湯の壁をよじ登ろうとしていた。

 

 

「やめろ峰田君! それはヒーローとして、いや人として恥ずべき行為だぞ!!」

 

 

飯田が下から叫んで止めようとするが、煩悩の塊と化した峰田の耳には届かない。

 

 

「もう少しだ! あと少しで、俺のパラダイスが……ッ!!」

 

 

峰田の顔が、ついに塀の最上段から女湯の景色を覗き込もうとした、まさにその瞬間だった。

 

 

「……キモい」

 

 

塀の上にマンダレイの甥である洸汰が立っていた。

 

ヒーローを嫌悪し冷めた目をした洸汰は、塀をよじ登ってきた峰田の顔面を容赦なく手で払い落とした。

 

 

「ブベェッ!?」

 

「峰田くぅぅぅぅんッ!?」

 

 

峰田は無惨な悲鳴を上げながら、男湯の湯船へと真っ逆さまに落下し、盛大な水飛沫を上げた。

 

 

「……あの子、ナイスね」

 

 

女湯からその音を聞いていた耳郎が親指を立てて呟く。

アットも「あらあら、元気な殿方ですこと」とクスクス笑っていた。

 

黄金の影がチラつき、規格外のアンドロイドが合宿所に侵入しているという異常事態。

しかし、生徒たちの根本的な日常と若さは、そんな裏の事情などどこ吹く風で、いつも通りのドタバタ劇を繰り広げていた。

 

その恐ろしくも賑やかな1日目は、相澤消太の胃に多大な負担をかけながらも、静かに、そして確かに夜の帳を下ろしていったのである。

 

 





峰田に影響されたのかAI君がアットを巨乳にしたので、これから彼女は巨乳という設定にします。

現在句点ごとに改行していますが、通常の文章の書き方に直したほうがいいですか?

  • 段落を使った普通の文章のほうが良い
  • 今の文章の方が良い
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