ドブカス(本物)のヒーローアカデミア (前作) 作:むめい。
中学に上がった頃には、もう周りの見る目が変わっとった。
「口は悪いけど...顔も良いしヒーローに向いてるよね」
「性格はアレだけどね」
教師も、同級生も、裏でそんなこと言うとるのを、俺はちゃんと知っとる。
隠れて言うてるつもりなんやろうけど、声も視線も甘い。
バレバレや。
(“口は悪いけど”やと? 余計なお世話や)
俺の口が悪いんちゃう。
周りが、鈍すぎるだけや。
ちなみに、俺の個性は「複写」。
一度成功した動きを、何度でも寸分違わず再現できる。
運動でも、回避でも、攻撃でも、姿勢でも、タイミングでも。
“うまくいった瞬間”を保存して、それを何度でも呼び出せる。
教師からしたら、
「努力家」「才能を伸ばせる個性」「ヒーロー向き」
って評価になるらしい。
(努力? ちゃうちゃう)
俺は努力が好きなんやない。
“完成形”が好きなんや。
そのために、努力を踏み台にしとるだけや。
ある日、担任に呼び出された。
「直哉、お前雄英を目指してみないか?」
雄英。
ヒーロー科がある、日本最高峰の学校。
才能の見本市みたいなとこや。
教師は続けた。
「お前は口が悪いけどな、でも個性も身体能力も、頭の回りも、全部ヒーロー向き。あそこ行ける可能性は十分にある」
俺は、少し考えた。
正義とか、使命とか、
そんなもんには興味あらへん。
ヒーローって肩書きも、別に欲しくない。
ただ一つだけ、欲しいもんがある。
(“一番上”や)
強いやつが集まる場所。
才能あるやつが集まる場所。
そこで勝てば、文句なしに“上”や。
(どこでもええ。強くなれるなら、どこでも)
俺は、即答した。
「行くわ」
教師は、ちょっと驚いた顔した。
「おぉ...もっと悩むと思ったけどな」
「悩む意味ある?強くなれるなら、それでええやん」
教師は苦笑した。
「ヒーローに向いてるのか、向いてないのか」
こうして、俺は雄英を目指すことになった。
***
それからの生活は、ほぼ修行やった。
学校。
家。
外。
表では、“複写”の練習。
裏では、術式と呪力の鍛錬。
誰にも見せへん。
誰にも教えへん。
これは“俺だけの切り札”や。
術式の練習は、主に夜。
人の気配がない、山の近くの空き地。街灯も少ない、音もない。
俺は、立って、息を整えた。
(まずは、空気や)
前世で、呪霊になった時の感覚。
あの時、俺は“物”やなくて、
“空間そのもの”に干渉しとった。
普通、術式の対象は、
自分の体、相手の体、物体、呪霊。
せやけど、あの時は違った。
“面”や。
“空間”そのものを対象にしとった。
空気は、止まってへん。
常に動いとる。
風がなくても、温度差で揺れとる。
人が動けば、乱れる。
(そこに、術式を噛ませる)
投射呪法は、動きをコマに分ける術式や。
普通は、自分や相手の動作を対象にする。
せやけど、俺は違う。
空気を“動作”として認識する。
空気の流れを、コマに区切る。
その流れに、無理やり“正解の動き”を押し付ける。
(空間ごと、加速させるんや)
意識を集中する。
胸の奥から、呪力を引き上げる。
背中、肩、腕、指先へ。
皮膚の内側に、薄い膜を張る。
投射呪法、発動。
空気の流れが、目に見える気がした。
いや、見えてへん。
せやけど、“分かる”。
流れを刻む。
一コマ。二コマ。四コマ。八コマ。
……二十四。
その“コマ”に、理想の加速を流し込む。
次の瞬間。
俺の体が、前に弾かれた。
ドン、という音が遅れて聞こえる。
地面が、後ろにズレる。
視界が一瞬、白くなる。
(……速すぎやろ)
止まる。
心臓が、ドクドクうるさい。
息が、熱い。
せやけど、成功や。
(空気を使えば、体だけやなくて、“場”ごと速くできる)
これは、個性では無理や。術式やからこそできる。この世界の誰も知らん、“速さ”。
次は、“複写”との合わせ技や。
まず、普通に全力移動。
成功した動き、タイミング、姿勢、踏み込み。
全部、複写に保存。
次に、同じ動きを“複写”で再生。
そこに、投射呪法で空気を刻む。
さらに、呪力を流し込む。
三つを重ねる。
個性=型の再現。
術式=動きの加速。
呪力=重さと殺意。
結果。
俺は、見えへんくらいの速さで、
数十メートル先の岩を殴っとった。
岩が、遅れて砕けた。
(……あほみたいな威力やな)
息を整えながら、俺は笑った。
(これ、誰も勝たれへんわ)
これを、毎晩繰り返した。
失敗もする。
空気の刻み方を間違えると、体がズレて固まる。
複写と投射のリズムが合わんと、体が無理やりその動きをしようとして頭が割れそうになる。
それでも、やめへん。
(前世で負けた俺は、“足りなかった”だけや)
今度は、足りすぎるくらいでええ。
***
昼は学校。
夜は修行。
休みの日も、ほぼ修行。
友達?
そんなん、必要ない。
群れる暇あったら、一つでも動きを完成させた方がマシや。
周りは言う。
「お前めっちゃ努力家やな」
「そんなにヒーローになりたいの?」
(ドブカス共の声なんか気にせん)
複写の精度も、どんどん上がった。
回避。踏み込み。殴り。蹴り。体勢の立て直し。
“最高の自分”を、
いつでも呼び出せるようになった。
それに、個性も進化した。
最初は、一度発動したらそっから動きは変えれんかったけど、今は途中でもキャンセルできるようになった。
無駄が減る。
消耗も減る。
制御も楽になる。
(完成に近づいとるな)
それでも、満足はせえへん。
満足した瞬間、それ以上になれんからや。
***
季節が巡って、
受験の時期が近づいた。
周りのやつらは、
緊張だの、不安だの、
夢だの、希望だの、
顔に全部出とる。
俺は、静かやった。
(試験は、ただの“通過点”や)
落ちる可能性?考える意味ない。
勝つ前提で動く。それが、俺のやり方や。
受験前夜。
俺は、最後の確認をした。
複写のデータ。
一番速い移動。
一番鋭い踏み込み。
一番重い一撃。
全部、頭と体に叩き込む。
術式。
空気の刻み方。
最適な加速のリズム。
失敗しやすい癖の修正。
呪力。
出力の上限。
持続時間。
流し込みのタイミング。
全部、問題ない。
(これでもしも落ちたら…そん時は誰か一人殺して予備枠にでも入ろかな)
布団に入っても、
すぐには眠られへんかった。
天井を見ながら、思う。
前世の自分。
真希に負けた瞬間。
あの悔しさ。
あの熱。
(あれがなかったら、今の俺はおらん)
負けたから、
ここまで来た。
せやから、感謝はせん。
せやけど、忘れもしない。
(次は、負けへん)
目を閉じる。
呼吸を整える。
明日は、雄英受験。
“才能の集まる場所”への、入口。
(ほな……見せたろか)
個性と、術式と、呪力。
三つを持った、
この世界の“異物”が、ヒーローになれるのか。
その答えは――
明日、出る。