ドブカス(本物)のヒーローアカデミア (前作)   作:むめい。

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2話

 

中学に上がった頃には、もう周りの見る目が変わっとった。

 

「口は悪いけど...顔も良いしヒーローに向いてるよね」

「性格はアレだけどね」

 

教師も、同級生も、裏でそんなこと言うとるのを、俺はちゃんと知っとる。

隠れて言うてるつもりなんやろうけど、声も視線も甘い。

バレバレや。

 

(“口は悪いけど”やと? 余計なお世話や)

 

俺の口が悪いんちゃう。

周りが、鈍すぎるだけや。

 

ちなみに、俺の個性は「複写」。

一度成功した動きを、何度でも寸分違わず再現できる。

運動でも、回避でも、攻撃でも、姿勢でも、タイミングでも。

“うまくいった瞬間”を保存して、それを何度でも呼び出せる。

 

教師からしたら、

「努力家」「才能を伸ばせる個性」「ヒーロー向き」

って評価になるらしい。

 

(努力? ちゃうちゃう)

 

俺は努力が好きなんやない。

“完成形”が好きなんや。

そのために、努力を踏み台にしとるだけや。

 

ある日、担任に呼び出された。

 

「直哉、お前雄英を目指してみないか?」

 

雄英。

ヒーロー科がある、日本最高峰の学校。

才能の見本市みたいなとこや。

 

教師は続けた。

 

「お前は口が悪いけどな、でも個性も身体能力も、頭の回りも、全部ヒーロー向き。あそこ行ける可能性は十分にある」

 

俺は、少し考えた。

 

正義とか、使命とか、

そんなもんには興味あらへん。

ヒーローって肩書きも、別に欲しくない。

 

ただ一つだけ、欲しいもんがある。

 

(“一番上”や)

 

強いやつが集まる場所。

才能あるやつが集まる場所。

そこで勝てば、文句なしに“上”や。

 

(どこでもええ。強くなれるなら、どこでも)

 

俺は、即答した。

 

「行くわ」

 

教師は、ちょっと驚いた顔した。

 

「おぉ...もっと悩むと思ったけどな」

 

「悩む意味ある?強くなれるなら、それでええやん」

 

教師は苦笑した。

 

「ヒーローに向いてるのか、向いてないのか」

 

こうして、俺は雄英を目指すことになった。

 

***

 

それからの生活は、ほぼ修行やった。

 

学校。

家。

外。

 

表では、“複写”の練習。

裏では、術式と呪力の鍛錬。

 

誰にも見せへん。

誰にも教えへん。

これは“俺だけの切り札”や。

 

術式の練習は、主に夜。

人の気配がない、山の近くの空き地。街灯も少ない、音もない。

 

俺は、立って、息を整えた。

 

(まずは、空気や)

 

前世で、呪霊になった時の感覚。

あの時、俺は“物”やなくて、

“空間そのもの”に干渉しとった。

 

普通、術式の対象は、

自分の体、相手の体、物体、呪霊。

せやけど、あの時は違った。

 

“面”や。

“空間”そのものを対象にしとった。

 

空気は、止まってへん。

常に動いとる。

風がなくても、温度差で揺れとる。

人が動けば、乱れる。

 

(そこに、術式を噛ませる)

 

投射呪法は、動きをコマに分ける術式や。

普通は、自分や相手の動作を対象にする。

 

せやけど、俺は違う。

 

空気を“動作”として認識する。

空気の流れを、コマに区切る。

その流れに、無理やり“正解の動き”を押し付ける。

 

(空間ごと、加速させるんや)

 

意識を集中する。

胸の奥から、呪力を引き上げる。

背中、肩、腕、指先へ。

皮膚の内側に、薄い膜を張る。

 

投射呪法、発動。

 

空気の流れが、目に見える気がした。

いや、見えてへん。

せやけど、“分かる”。

 

流れを刻む。

 

一コマ。二コマ。四コマ。八コマ。

……二十四。

 

その“コマ”に、理想の加速を流し込む。

 

次の瞬間。

 

俺の体が、前に弾かれた。

 

ドン、という音が遅れて聞こえる。

地面が、後ろにズレる。

視界が一瞬、白くなる。

 

(……速すぎやろ)

 

止まる。

心臓が、ドクドクうるさい。

息が、熱い。

 

せやけど、成功や。

 

(空気を使えば、体だけやなくて、“場”ごと速くできる)

 

これは、個性では無理や。術式やからこそできる。この世界の誰も知らん、“速さ”。

 

次は、“複写”との合わせ技や。

 

まず、普通に全力移動。

成功した動き、タイミング、姿勢、踏み込み。

全部、複写に保存。

 

次に、同じ動きを“複写”で再生。

そこに、投射呪法で空気を刻む。

さらに、呪力を流し込む。

 

三つを重ねる。

 

個性=型の再現。

術式=動きの加速。

呪力=重さと殺意。

 

結果。

 

俺は、見えへんくらいの速さで、

数十メートル先の岩を殴っとった。

 

岩が、遅れて砕けた。

 

(……あほみたいな威力やな)

 

息を整えながら、俺は笑った。

 

(これ、誰も勝たれへんわ)

 

これを、毎晩繰り返した。

失敗もする。

空気の刻み方を間違えると、体がズレて固まる。

複写と投射のリズムが合わんと、体が無理やりその動きをしようとして頭が割れそうになる。

 

それでも、やめへん。

 

(前世で負けた俺は、“足りなかった”だけや)

 

今度は、足りすぎるくらいでええ。

 

***

 

昼は学校。

夜は修行。

休みの日も、ほぼ修行。

 

友達?

そんなん、必要ない。

群れる暇あったら、一つでも動きを完成させた方がマシや。

 

周りは言う。

 

「お前めっちゃ努力家やな」

「そんなにヒーローになりたいの?」

 

(ドブカス共の声なんか気にせん)

 

複写の精度も、どんどん上がった。

回避。踏み込み。殴り。蹴り。体勢の立て直し。

 

“最高の自分”を、

いつでも呼び出せるようになった。

 

それに、個性も進化した。

 

最初は、一度発動したらそっから動きは変えれんかったけど、今は途中でもキャンセルできるようになった。

 

無駄が減る。

消耗も減る。

制御も楽になる。

 

(完成に近づいとるな)

 

それでも、満足はせえへん。

満足した瞬間、それ以上になれんからや。

 

***

 

季節が巡って、

受験の時期が近づいた。

 

周りのやつらは、

緊張だの、不安だの、

夢だの、希望だの、

顔に全部出とる。

 

俺は、静かやった。

 

(試験は、ただの“通過点”や)

 

落ちる可能性?考える意味ない。

勝つ前提で動く。それが、俺のやり方や。

 

受験前夜。

 

俺は、最後の確認をした。

 

複写のデータ。

一番速い移動。

一番鋭い踏み込み。

一番重い一撃。

 

全部、頭と体に叩き込む。

 

術式。

空気の刻み方。

最適な加速のリズム。

失敗しやすい癖の修正。

 

呪力。

出力の上限。

持続時間。

流し込みのタイミング。

 

全部、問題ない。

 

(これでもしも落ちたら…そん時は誰か一人殺して予備枠にでも入ろかな)

 

布団に入っても、

すぐには眠られへんかった。

 

天井を見ながら、思う。

 

前世の自分。

真希に負けた瞬間。

あの悔しさ。

あの熱。

 

(あれがなかったら、今の俺はおらん)

 

負けたから、

ここまで来た。

 

せやから、感謝はせん。

せやけど、忘れもしない。

 

(次は、負けへん)

 

目を閉じる。

呼吸を整える。

 

明日は、雄英受験。

“才能の集まる場所”への、入口。

 

(ほな……見せたろか)

 

個性と、術式と、呪力。

三つを持った、

この世界の“異物”が、ヒーローになれるのか。

 

その答えは――

明日、出る。

 

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