ドブカス(本物)のヒーローアカデミア (前作) 作:むめい。
雄英の正門をくぐった瞬間、胸の奥で小さく舌打ちした。
建物は立派やし、人も多いし、雰囲気だけは一流や。けどな、結局どんな場所でも、価値を決めるんは“外見”やのうて、そこに立つ人間の質や。箱だけ綺麗で、中身がショボかったら、ただの見せ物やろ。
門の前には受験生が山ほど集まっていた。
緊張で顔が引きつってるやつ、不安を誤魔化すみたいに喋り続けてるやつ、親に最後までしがみついてるやつもおる、気色悪。
どいつもこいつも「選ばれたい」って顔はしてるけど、「選ぶ側になる」って顔はしてへん。その時点で、だいたいの格は分かる。
少し離れたところで、妙に目につく二人組がおった。
女の方は丸い顔で目がでかくて、緊張してるはずやのにやたら元気そうに喋っている。
男の方は、緑っぽい髪にそばかすだらけの顔で、明らかにテンパっている様子や。コケたところ個性で助けてもらったんか、固まっとる。
(……高校の受験で、コケて人に助けてもろて、そこで固まるんか)
正直、見とるだけで腹立つ。
あれでヒーロー志望とか、冗談も大概にせえと言いたなる。
女の方はまだマシや。緊張しとる中でも周りを見て動いてるし、度胸もありそうや...顔はイマイチやけど。
男の方は、完全に置いていかれる側の匂いしかしない。
二人の会話が、少しだけ耳に入った。
「私の個性。ごめんね勝手に、でも転んじゃったら縁起悪いもんね」
男の方は固まって喋っていない。
俺はその二人を追い抜いて、門をくぐった。
女が一瞬こっちを見て、何か言いかけたみたいやけど、無視した。
関わる意味がない。
中に入ると、人の流れができていて、案内の看板とスタッフの指示に従えば、勝手に試験会場のブロックまで運ばれる仕組みになっている。
受験生は皆、周りをキョロキョロ見ながら歩いていた。
建物の大きさに驚いているやつもいれば、緊張で顔色が悪いやつもいる。
(観光ちゃうねんぞ)
歩きながら、周りの人間を観察する。
姿勢、歩き方、視線の動き、無意識の癖。
全部が、そのまま“戦い方”に出る。
重心が高いやつは吹き飛ばされたら終わりやし、視線が泳いでいるやつは、速い動きについていかれへん。
(こいつらホンマにやる気あるんか?)
歩く速さも、反応も、空気の読み方も、全部が一拍遅れている。
ああいうやつは、戦場に立つ前に、気持ちの方が折れる。
試験会場のブロックに着くと、番号ごとに整列させられた。
説明は簡潔やった。
模擬市街地でロボットを倒して点を稼げ。
ロボットの種類ごとに点数は違う。
制限時間内にできるだけ多く倒せ。
危険行為やルール違反は即失格。
要するに、「壊して、点を取れ」。
それだけや。
(分かりやすくて助かるわ)
俺は、試験前の待ち時間に、体と意識のズレがないかだけを確認した。
個性の“複写”で、今の自分の動きを頭の中に一度なぞる。
踏み込み、体のひねり、拳の角度。
全部が噛み合っているかを見るだけや。
緊張はない。ただの確認作業や。
「スタートぉ!」
合図が出される。
カウントダウンは無かった、実践と同じっちゅうわけらしい...まぁ当たり前やけど試験なんやからあってもええやろ。
全員が頭にはてなを浮かべている横をすり抜けるように走る。
ただし、最初から全力ではいかへん。
同じ試験会場におるカス共が邪魔でスピード出されへんのや。
ゲートをくぐり抜けると仮想ヴィラン...ロボットがいた。
最初に見えたロボットは、でかくて鈍くて、動きも単純やった。
周りの受験生が群がって、我先にと攻撃している。
奪い合いは効率が悪い。
俺は少し横にずれて、誰も狙っていないロボットを見つけた。
距離を測り、地面の感触と自分の重心を確かめる。
まずは普通の動きで、一度“成功”させる。
踏み込み、回転、拳を叩き込む。
ロボットの頭がひしゃげて止まった。
その瞬間の動きを、そのまま個性で保存する。
二体目、同じ標的には保存した動きを再生する。
さっきと同じ角度、同じ速さ、同じ力加減。
ロボットは、ほぼ同じ壊れ方をした。
失敗する理由がなくなるというのは、思っている以上に楽や。
無駄な試行錯誤が消えるだけで、動きは一気に洗練される。
(完成形を持っとるやつが、一番強いねん)
俺はその型を基準にして、次々とロボットを倒していった。
無駄に力を入れず、疲れにくい形に少しずつ調整する。
周りでは、無理な動きをして転ぶやつ、他人の攻撃に巻き込まれるやつも出てきた。
(ああいうのが、落ちる側や)
しばらく進むと、少し装甲の厚いロボットが出てきた。
さっきの型では、少し時間がかかりそうや。
そこで、踏み込みを半歩深くして、体の回転をわずかに大きくする。
その結果、拳がちょうど弱点に当たった。
(この動きも、保存やな)
状況に応じて使える型が増えるほど、戦いは楽になる。
俺は、頭の中でいくつかの“正解の動き”を並べながら、次の獲物を探した。
遠くで爆発音が響き、建物の一部が崩れる音がした。
派手な個性を使うやつが、まとめてロボットを吹き飛ばしているんやろうか。
確かに一気に点は入るが、消耗も激しい。
ああいう戦い方は、長くは持たん。
(この場に派手さは要らん)
俺は淡々と、一体ずつ、確実に倒していく。
複写で型を固定し、無駄を削り、疲れにくい形に寄せていく。
時間も、点も、順調やった。
その時、遠くから悲鳴みたいな声が聞こえた。
方向を見ると、建物の向こうで、やたらでかい影が動いている。
普通のロボットより、何倍も、明らかに大きい。
(……あれが、噂のデカいやつか)
倒しても点にならん、ただの障害物。
普通は、逃げるのが正解や。
俺も進路を変えようとしたが、少し先で、入口におったさっきの女が、瓦礫に足を取られてよろけているのが見えた。
後ろからは、あの巨大ロボットが近づいている。
(……あーあ)
助けるかどうかなんて、考えるまでもない。
あいつが遅いだけや。
位置取りが悪いだけや。
自分の判断が甘いだけ。
(女のくせして戦いの場に出るのが間違いやねん)
俺は進路を少し変えて、そいつらから離れた。
巻き込まれる方がアホらしい。
後ろで叫び声がした気もするが、振り返らん。
見る価値がない。
少し離れたところで、同じくさっきのそばかすの姿が見えた。
必死に走って、巨大ロボットの方へ向かっている。
(……何考えとるんや、あいつ)
次の瞬間、爆発みたいな衝撃音が響き、巨大ロボットの顔面が吹き飛んだ。
粉塵の向こうで、ロボットが大きく傾く。
(……は?)
さっきまで、どんくさいだけのガキにしか見えへんかったのに、今の一撃は明らかに質が違った。
才能とか努力とか、そういう言葉では片づけられへん、妙な“重さ”があった。
ロボットはバランスを崩し、そのまま地面に倒れた。
周囲にいた受験生たちが、一斉に息を呑む。
(……隠しとったわけか)
あいつは、運だけの人間やないかもしれん。
けど、だからといって、今はどうでもええ。
試験中や。
俺は俺の点を取りに行くだけ。
残り時間は、もうわずかやった。
俺は、近くにいるロボットを見つけては、複写で最適な型を選び、淡々と倒していく。
無駄に目立つ必要はない。
合格できるだけの結果を出せば、それで十分や。
周りでは、動けなくなって座り込むやつ、疲労で膝をつくやつ、もう諦めた顔で空を見ているやつもおる。
(……終わりが見えたな)
カウントダウンが、会場に響いた。
「残り三十秒!」
俺は、最後に一体だけロボットを見つけ、最短の踏み込みを選ぶ。
踏み込み、拳を入れる。
ロボットが止まり、崩れる。
「終了!」
サイレンが鳴り、全てのロボットが停止した。
会場のあちこちで、安堵の息が漏れる。
喜ぶやつ、泣くやつ、悔しそうに拳を握るやつ。
いろんな顔が並んでいる。
俺は、ゆっくりと息を吐いた。
疲れていないと言えば嘘になるが、倒れるほどでもない。
俺はこの試験で個性しか使っとらん、術式も呪力もこの場には相応しくない。
さっきの二人も見えた。
女は無事で、そばかすは地面に座り込んで息を切らしている。
(どっちが残るかは、分からんな)
でも、それはどうでもええ。
大事なのは、俺がどうやったかや。
俺は、無駄を削って、正解の動きを作って、それを繰り返した。
力も、頭も、使いどころは間違えてへん。
あとは、この学校が賢い選択をするかどうかやな。
(選ばれんかったら…その時はまあええわ)