ドブカス(本物)のヒーローアカデミア (前作)   作:むめい。

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3話

 

雄英の正門をくぐった瞬間、胸の奥で小さく舌打ちした。

建物は立派やし、人も多いし、雰囲気だけは一流や。けどな、結局どんな場所でも、価値を決めるんは“外見”やのうて、そこに立つ人間の質や。箱だけ綺麗で、中身がショボかったら、ただの見せ物やろ。

 

門の前には受験生が山ほど集まっていた。

緊張で顔が引きつってるやつ、不安を誤魔化すみたいに喋り続けてるやつ、親に最後までしがみついてるやつもおる、気色悪。

どいつもこいつも「選ばれたい」って顔はしてるけど、「選ぶ側になる」って顔はしてへん。その時点で、だいたいの格は分かる。

 

少し離れたところで、妙に目につく二人組がおった。

女の方は丸い顔で目がでかくて、緊張してるはずやのにやたら元気そうに喋っている。

男の方は、緑っぽい髪にそばかすだらけの顔で、明らかにテンパっている様子や。コケたところ個性で助けてもらったんか、固まっとる。

 

(……高校の受験で、コケて人に助けてもろて、そこで固まるんか)

 

正直、見とるだけで腹立つ。

あれでヒーロー志望とか、冗談も大概にせえと言いたなる。

女の方はまだマシや。緊張しとる中でも周りを見て動いてるし、度胸もありそうや...顔はイマイチやけど。

男の方は、完全に置いていかれる側の匂いしかしない。

 

二人の会話が、少しだけ耳に入った。

 

「私の個性。ごめんね勝手に、でも転んじゃったら縁起悪いもんね」

 

男の方は固まって喋っていない。

 

俺はその二人を追い抜いて、門をくぐった。

女が一瞬こっちを見て、何か言いかけたみたいやけど、無視した。

関わる意味がない。

 

中に入ると、人の流れができていて、案内の看板とスタッフの指示に従えば、勝手に試験会場のブロックまで運ばれる仕組みになっている。

受験生は皆、周りをキョロキョロ見ながら歩いていた。

建物の大きさに驚いているやつもいれば、緊張で顔色が悪いやつもいる。

 

(観光ちゃうねんぞ)

 

歩きながら、周りの人間を観察する。

姿勢、歩き方、視線の動き、無意識の癖。

全部が、そのまま“戦い方”に出る。

重心が高いやつは吹き飛ばされたら終わりやし、視線が泳いでいるやつは、速い動きについていかれへん。

 

(こいつらホンマにやる気あるんか?)

 

歩く速さも、反応も、空気の読み方も、全部が一拍遅れている。

ああいうやつは、戦場に立つ前に、気持ちの方が折れる。

 

試験会場のブロックに着くと、番号ごとに整列させられた。

説明は簡潔やった。

模擬市街地でロボットを倒して点を稼げ。

ロボットの種類ごとに点数は違う。

制限時間内にできるだけ多く倒せ。

危険行為やルール違反は即失格。

 

要するに、「壊して、点を取れ」。

それだけや。

 

(分かりやすくて助かるわ)

 

俺は、試験前の待ち時間に、体と意識のズレがないかだけを確認した。

個性の“複写”で、今の自分の動きを頭の中に一度なぞる。

踏み込み、体のひねり、拳の角度。

全部が噛み合っているかを見るだけや。

緊張はない。ただの確認作業や。

 

「スタートぉ!」

 

合図が出される。

カウントダウンは無かった、実践と同じっちゅうわけらしい...まぁ当たり前やけど試験なんやからあってもええやろ。

 

全員が頭にはてなを浮かべている横をすり抜けるように走る。

 

ただし、最初から全力ではいかへん。

同じ試験会場におるカス共が邪魔でスピード出されへんのや。

 

ゲートをくぐり抜けると仮想ヴィラン...ロボットがいた。

最初に見えたロボットは、でかくて鈍くて、動きも単純やった。

周りの受験生が群がって、我先にと攻撃している。

奪い合いは効率が悪い。

俺は少し横にずれて、誰も狙っていないロボットを見つけた。

 

距離を測り、地面の感触と自分の重心を確かめる。

まずは普通の動きで、一度“成功”させる。

踏み込み、回転、拳を叩き込む。

ロボットの頭がひしゃげて止まった。

その瞬間の動きを、そのまま個性で保存する。

 

二体目、同じ標的には保存した動きを再生する。

さっきと同じ角度、同じ速さ、同じ力加減。

ロボットは、ほぼ同じ壊れ方をした。

失敗する理由がなくなるというのは、思っている以上に楽や。

無駄な試行錯誤が消えるだけで、動きは一気に洗練される。

 

(完成形を持っとるやつが、一番強いねん)

 

俺はその型を基準にして、次々とロボットを倒していった。

無駄に力を入れず、疲れにくい形に少しずつ調整する。

周りでは、無理な動きをして転ぶやつ、他人の攻撃に巻き込まれるやつも出てきた。

 

(ああいうのが、落ちる側や)

 

しばらく進むと、少し装甲の厚いロボットが出てきた。

さっきの型では、少し時間がかかりそうや。

そこで、踏み込みを半歩深くして、体の回転をわずかに大きくする。

その結果、拳がちょうど弱点に当たった。

 

(この動きも、保存やな)

 

状況に応じて使える型が増えるほど、戦いは楽になる。

俺は、頭の中でいくつかの“正解の動き”を並べながら、次の獲物を探した。

 

遠くで爆発音が響き、建物の一部が崩れる音がした。

派手な個性を使うやつが、まとめてロボットを吹き飛ばしているんやろうか。

確かに一気に点は入るが、消耗も激しい。

ああいう戦い方は、長くは持たん。

 

(この場に派手さは要らん)

 

俺は淡々と、一体ずつ、確実に倒していく。

複写で型を固定し、無駄を削り、疲れにくい形に寄せていく。

時間も、点も、順調やった。

 

その時、遠くから悲鳴みたいな声が聞こえた。

方向を見ると、建物の向こうで、やたらでかい影が動いている。

普通のロボットより、何倍も、明らかに大きい。

 

(……あれが、噂のデカいやつか)

 

倒しても点にならん、ただの障害物。

普通は、逃げるのが正解や。

俺も進路を変えようとしたが、少し先で、入口におったさっきの女が、瓦礫に足を取られてよろけているのが見えた。

後ろからは、あの巨大ロボットが近づいている。

 

(……あーあ)

 

助けるかどうかなんて、考えるまでもない。

あいつが遅いだけや。

位置取りが悪いだけや。

自分の判断が甘いだけ。

 

(女のくせして戦いの場に出るのが間違いやねん)

 

俺は進路を少し変えて、そいつらから離れた。

巻き込まれる方がアホらしい。

後ろで叫び声がした気もするが、振り返らん。

見る価値がない。

 

少し離れたところで、同じくさっきのそばかすの姿が見えた。

必死に走って、巨大ロボットの方へ向かっている。

 

(……何考えとるんや、あいつ)

 

次の瞬間、爆発みたいな衝撃音が響き、巨大ロボットの顔面が吹き飛んだ。

粉塵の向こうで、ロボットが大きく傾く。

 

(……は?)

 

さっきまで、どんくさいだけのガキにしか見えへんかったのに、今の一撃は明らかに質が違った。

才能とか努力とか、そういう言葉では片づけられへん、妙な“重さ”があった。

 

ロボットはバランスを崩し、そのまま地面に倒れた。

周囲にいた受験生たちが、一斉に息を呑む。

 

(……隠しとったわけか)

 

あいつは、運だけの人間やないかもしれん。

けど、だからといって、今はどうでもええ。

試験中や。

俺は俺の点を取りに行くだけ。

 

残り時間は、もうわずかやった。

俺は、近くにいるロボットを見つけては、複写で最適な型を選び、淡々と倒していく。

無駄に目立つ必要はない。

合格できるだけの結果を出せば、それで十分や。

 

周りでは、動けなくなって座り込むやつ、疲労で膝をつくやつ、もう諦めた顔で空を見ているやつもおる。

 

(……終わりが見えたな)

 

カウントダウンが、会場に響いた。

 

「残り三十秒!」

 

俺は、最後に一体だけロボットを見つけ、最短の踏み込みを選ぶ。

踏み込み、拳を入れる。

ロボットが止まり、崩れる。

 

「終了!」

 

サイレンが鳴り、全てのロボットが停止した。

会場のあちこちで、安堵の息が漏れる。

喜ぶやつ、泣くやつ、悔しそうに拳を握るやつ。

いろんな顔が並んでいる。

 

俺は、ゆっくりと息を吐いた。

疲れていないと言えば嘘になるが、倒れるほどでもない。

俺はこの試験で個性しか使っとらん、術式も呪力もこの場には相応しくない。

 

さっきの二人も見えた。

女は無事で、そばかすは地面に座り込んで息を切らしている。

 

(どっちが残るかは、分からんな)

 

でも、それはどうでもええ。

大事なのは、俺がどうやったかや。

 

俺は、無駄を削って、正解の動きを作って、それを繰り返した。

力も、頭も、使いどころは間違えてへん。

 

あとは、この学校が賢い選択をするかどうかやな。

 

(選ばれんかったら…その時はまあええわ)

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