ドブカス(本物)のヒーローアカデミア (前作)   作:むめい。

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4話

 

試験が終わってから、数日が経った。

 

家に戻ってからも、特に何も変わらん。

朝起きて、飯食って、軽く体動かして、あとはぼんやり結果を待つだけや。

不安か言われたら、正直ほとんどない。落ちる可能性もゼロやないけど、あれで落とされたら、それは雄英の方が見る目ないだけやと思っとる。

 

昼過ぎ、玄関の方で音がした。

ポストに何か入ったらしい。家のもんが取ったのか机の上に置いてあった。

 

封筒は一枚だけ。

思ったより分厚い。

 

(合否通知って、もっと薄いもんちゃうんか)

 

封を切ると、中には紙やなくて、丸い機械が入っとった。

直径は六センチくらい。金属っぽい質感で、表面はつるつるしている。

 

(……なんやこれ)

 

試しに机の上に乗せた瞬間、円盤の中心が淡く光った。

空中に、映像みたいなもんが浮かび上がる。

 

そこに映ったのは、やたら筋肉ムキムキの男やった。

笑顔がでかくて、顔もでかくて、存在感がうるさい。

 

「私が〜、投影されたーーー!!」

 

(……誰やねんこいつ)

 

正直、第一印象はそれだけや。

知らんおっさんが、いきなり空中から出てきて名乗るとか、意味が分からん。

 

俺は少し首を傾げながら、画面を見た。

 

「さてと、君の雄英高校ヒーロー科、入学試験の結果を──」

 

そこで、ようやく分かった。

こいつ、合否を伝える役か。

 

(会って確かめんと分からんけど……多分。バケモンや)

 

雰囲気。

それだけで察せられるほどの異常な強さ。

自分を“見せる側”の人間や。

選ばれる側やなくて、選ぶ側に立っとる匂いがする。

 

オールマイトは、試験内容を軽く振り返りながら、俺の名前を呼んだ。

点数、撃破数、動きの安定性、無駄のなさ。

淡々と評価を並べていく。

 

「君は、非常に効率的な戦い方をしていた」

 

(せやろな)

 

「無駄な動きが少なく、状況判断も早い。戦闘センスは高いと言える」

 

(それも、分かっとる)

 

最後に、合否が告げられた。

 

「──君は、合格だ」

 

画面の中の男が、でかい歯を見せて笑う。

俺は、特に驚きもせず、ただ一言だけ返した。

 

「まあ、せやろな」

 

けど、オールマイトはそこで終わらんかった。

 

「さて、次に話したいのは“レスキューポイント”についてだ」

 

レスキューポイント。

人を助けた行動に与えられる点数やと言う。

 

俺の成績が表示された。

戦闘ポイントは十分。

でも、レスキューポイントの欄は――

 

0。

 

「君は、人を助ける行動を一切取らなかった」

 

オールマイトの声は、さっきより少しだけ低くなった。

 

「合理的な判断も、時には重要だ。無理に突っ込んで全滅するより、引く判断が正しい場面もある」

 

(ほらな。分かっとるやん)

 

「だが──ヒーローの本質は、そこじゃない」

 

画面の向こうで、オールマイトは真っ直ぐこちらを見ていた。

 

「人を助けること。人を救うこと。それが、ヒーローだ」

 

正直、あんまりピンと来なかった。

助けるかどうかは、状況次第やろ。

自分が損する選択を、わざわざ取る意味が分からん。

まあ、ヒーローがそういう役割なんはわかるけど。

 

オールマイトは続けた。

 

「君は、確かに強い。だが、今のままでは“戦える人間”であって、“ヒーロー”ではない」

 

少しだけ、ムッとした。

 

「オールマイトやっけ?。助けん判断が、常に間違いやとは思わへんで」

 

画面に向かって、はっきり言った。

 

「遅いもんが悪い。判断ミスしたもんが悪い。そこを全部拾うのが正解や言うなら、それは“甘やかし”やろ」

 

オールマイトは、何も言わない。

恐らく録画。意味のない問答やったわ。

 

オールマイトは少し間を置いてから、静かに言った。

 

「実はね、君を不合格にする案も出た。しかしだ、それでも私は君を助ける側に立つ人間を育てたい」

 

そして、最後にこう言った。

 

「君が“ヒーロー”になれるよう、来るだろ? 雄英!」

 

画面が消え、円盤はただの機械に戻った。

 

俺はそれを机に置いて、少し考えた。

 

(ヒーローの本質、ね)

 

正直、まだ納得はしてへん。

せやけど、合格したのは事実や。

文句言われる筋合いもない。

 

「まあ……行くけどな」

 

強くなれる場所や。

上に行ける場所や。

理由は、それだけで十分やった。

 

***

 

それから少しして、高校生活の初日が来た。

 

雄英の校舎は、試験の時に見たよりも、やたら“日常”っぽく見えた。

人が通って、笑って、喋って、普通に学校しとる。

あんな試験やっといて、中は案外、普通の高校や。

 

教室を探して歩いていると、扉の前で立ち止まっている男がいた。

緑っぽい髪。

そばかすだらけの顔。

見覚えがある。

 

(……ああ、あのどんくさいやつか。まあ試験の時は驚いたけど)

 

そいつは、扉に手をかけたまま、なぜか固まっている。

深呼吸したり、拳を握ったり、また緩めたり。

入るだけやろ。何をそんなに悩むんや。

 

俺は後ろから近づいて、少しだけ声をかけた。

 

「邪魔なんやけど」

 

男はびくっとして、慌てて振り返った。

 

「えっ、あっ、す、すみません……!」

 

その顔を見て、思わず口が出た。

 

「そんな自信ないんやったら、もう帰った方がいいんちゃう?」

 

試験会場で見た時と同じ、どこか頼りない顔。

 

俺はそのまま、男を押しのけるようにして、勢いよく扉を開けた。

 

中では、すでにほぼ全員集まっていて、その中の二人が、やたらでかい声で言い合っていた。

 

一人は、背筋をぴんと伸ばした、真面目そうなメガネの男。

もう一人は、目つきが悪くて、机に足をかけてふんぞり返っている男や。

 

メガネの男が、怒ったように叫んでいる。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や、机の製作者の方々に申し訳ないと思わないのか!」

 

すると、目つきの悪い男が、鼻で笑いながら言い返した。

 

「思わねーよ、テメー。どこ中だよ!」

 

そのやり取りを見ながら、俺は小さく息を吐いた。

 

「……品性がないわ」

 

そう呟きながら、俺は二人の方へ、ゆっくり近づいていった。

 

ゆっくり近づいていった俺に、二人とも気づく。

 

メガネの方は、こっちを見て一瞬だけ言葉に詰まった。

目つきの悪い方は、最初から不機嫌そうな顔で睨んできよる。

 

俺は、二人の間に視線を流しながら、淡々と口を開いた。

 

「君ら、ヒーローになりに来たんちゃうん?」

 

二人とも、黙った。

 

「助けに来たヒーローがな、目の前で言い争いしとったら、助けられる側はどう思うやろな?」

 

言葉を投げた瞬間、教室の空気が少しだけ止まった。

メガネの男は、はっとした顔で口を閉じ、姿勢を正した。

 

「……確かに、その通りだ。僕も感情的になりすぎていた」

 

そう言って、机に足をかけていた男の方を見た。

 

目つきの悪い方は、舌打ちして俺を睨みつける。

 

「なんだテメエ!? 俺はそんなこと、どうだっていいんだよ!」

 

声はでかい。態度もでかい。

けど、中身は単純そうや。

 

俺は肩をすくめて、軽く笑った。

 

「俺も、どっちか言うたらどうでもいい派やわ」

 

そう言ってから、少しだけ間を置く。

 

「ま、せやけどな。ここにおる間くらいは、“いい子”にしといた方が得やろ」

 

誰かに好かれたいわけやない。

ただ、無駄に目をつけられるのは面倒やからや。

 

目つきの悪い男は、まだ不満そうにしていたが、机から足は下ろした。

メガネの男は、何度か深くうなずいている。

 

(話、通る方と通らん方、はっきりしとるな)

 

それ以上、二人と関わる気はなかった。

俺はそのまま視線を切って、教室の中を見回した。

 

空いている席は、後ろの方に一つ。

窓側で、外の様子も見やすい。

 

(多分ここやろ)

 

俺はそこまで歩いていって、椅子を引き、座った。

カバンを足元に置いて、軽く背もたれにもたれる。

 

教室の中は、まだ少しざわついている。

自己紹介が始まる前の、妙に落ち着かん空気。

 

さっき扉の前で固まっていた、そばかすの男も入ってきて、キョロキョロしながら席を探していた。

 

(……あいつ、ここでも落ち着きないな)

 

まあ、どうでもええ。

同じクラスになっただけで、仲間になったわけやない。

 

ここは、競争する場所や。

並ぶ場所やなくて、抜く場所。

 

俺は窓の外を見ながら、心の中で一つだけ決めた。

 

この教室にいる間は、

“ヒーロー”の顔も、

“生徒”の顔も、

必要な分だけ使う。

 

せやけど最後に立つ場所は、最初から決まっとる。

──上や。

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