ドブカス(本物)のヒーローアカデミア (前作)   作:むめい。

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6話

 

午前中の普通の授業が終わった。

板書と小テストと自己紹介の延長みたいな時間。雄英でも、こういう退屈は避けられんらしい。

 

昼になって食堂へ流れる。俺は弁当を用意する気が最初からない。朝からそんな勤勉さを発揮するくらいなら寝とる方がマシや。

食券を買って、適当にトレーに乗せる。座って一口。

 

(……まあまあやな)

 

期待してなかった分、悪くない。味は合格。効率も合格。わざわざ自分で用意する必要はない。

周りはやたら賑やかで、笑い声と椅子の音が混ざって、食堂の空気は落ち着かん。けど、そんなもんは背景や

 

***

 

午後の授業。教室に戻って、椅子に腰を下ろしたところで。

ドアの向こうから、聞き覚えのある暑苦しい声が突き刺さった。

 

「わーたーしーがー!!」

 

次の瞬間、普通にドアから入ってきた。

クラスがざわつく。

 

「普通にドアから来た!」

 

入ってきたのは、あの筋肉の塊。

俺は、反射で眉が動いた。

 

(またあんたか)

 

けど、目は勝手に観察しとる。

体格、立ち姿、空気の圧。笑顔の裏の余裕。録画の時よりも“生”の方が濃い。近くで見ると、あれはただの派手な人間やない。鍛え方が違う。纏ってるオーラが、鈍い照明みたいに周囲を押し上げる。

 

(……結構やるな)

 

オールマイトは教卓の前で大きく腕を振り上げた。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!!」

 

声がでかい。教室が揺れる。

そして畳みかけるように、

 

「早速だが今日はこれ!戦闘訓練!!」

 

クラスが一段うるさくなる。

オールマイトは教室の左側へ移動した。わざとらしいくらい芝居がかった動きで、壁の方を指差す。

 

「そしてそいつに伴ってこちら!」

 

壁が開く。機械の音がして、箱がずらっと出てきた。

箱にはクラス全員分の番号が刻まれている。

 

「入学前に送ってもらった個性届けと要望に沿ってあつらえた!」

「コスチューム!!」

 

一瞬、空気が跳ねた。

俺は腕を組んで眺める。こういう“盛り上げ装置”は嫌いじゃない。嫌いじゃないが、はしゃぐ気にもならん。

 

「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」

 

***

 

場面が切り替わる。グラウンドβ。

更衣室を出た瞬間、視界が派手に染まった。全員、色も形も主張が強すぎる。

 

俺は、思わず口が出た。

 

「みんな派手やね。そんな目立ちたいん?」

 

オールマイトが笑う。

 

「ヒーローは目立ってナンボさ!禪院少年も目立ってるぜ!?」

 

俺のコスチュームは、和服。

前世でも着ていた形に近い。腕の動きが邪魔されない。足運びも狂わない。肌に馴染む。

結局これが一番しっくりくる。余計な装飾で自分を誤魔化す趣味もない。

 

その横で、そばかすがもぞもぞしている。

緑谷のコスチュームは、正直、視界に引っかかる。

 

俺は、普通に言った。

 

「それにしても緑谷君やったっけ。君のコスチューム、ダサすぎやろ。もっとマシなんなかったん?」

 

緑谷が固まる。言い返すより先に、隣の丸顔が口を挟んだ。

 

「なんでそんな事言うん。デク君かっこいいよ?地に足着いたって感じで」

 

俺はお茶子に視線を向ける。

確かに、この子は似合ってる。体の線も動きやすさもちゃんと考えた感じがする。ピッチピチや。

 

「君は逆に似合ってるわ。ええ乳しとる」

 

言った瞬間、空気が一回ひっくり返った。

お茶子の顔が真っ赤になる。

 

「急なセクハラ発言!?」

 

俺は特に悪びれない。事実を述べただけや。

 

オールマイトが手を叩いて、場を戻す。

 

「いいか諸君!これから行うのは屋内での対人戦闘訓練!」

「2対2の屋内戦だ!」

 

細かい説明が続く気配がしたけど、俺は要点だけ拾う。

コンビ相手と相手チームはランダム。屋内で戦う。勝利条件がある。

要するに、頭も使えってことや。

 

そして組み合わせが決まった。

 

俺の相方は緑谷。

相手は、爆豪と飯田天哉。

 

(……よりによって)

 

爆豪は火薬みたいな目でこっちを見ている。飯田は真面目そうに背筋を伸ばしている。

緑谷はと言うと、緊張で顔が硬い。

 

俺は、軽く釘を刺した。

 

「足引っ張らんといてな。まあ言うても変わらんけど」

 

緑谷が慌てて頷く。

 

「う、うん。頑張るよ」

 

(頑張る、ね)

 

頑張りで勝てるなら、世の中もっと楽や。

けど、こいつはたまに変な爆発をする。入試で見た、あの一撃。

使い方さえ間違えなければ、かなり強い。問題は、間違える確率が高いことや。

 

俺は一度だけ深く息を吸う。

和服の袖が、風を少し含んで揺れた。

 

(ほな、見せてもらおか。雄英の“戦闘訓練”ってやつを)

 

数階建てのビルに入る。

内部はコンクリと鉄骨むき出しの、いかにも“壊していい”造りやった。

合図と同時に戦闘開始。

 

俺は、周囲を軽く見回す。

音、反響、床の感触、空気の流れ。

だいたい分かったところでふっと考えが浮かんだ。

 

(適当にやってもええけど……正直、力隠す必要あるんかって思うてきたわ)

 

強くなるために来た。

勝つためだけやなく、上に行くために。

使わん力は腐るだけや。

 

(使わんかったら、成長もクソも無いやろ)

 

俺は歩きながらぽつっと言った。

 

「ガキ相手に本気出すんは癪や。軽めに行くで」

 

後ろで緑谷が、素っ頓狂な声を出す。

 

「同い年なのに!?」

 

俺は振り返らん。

 

「年の話ちゃう。質の話や、バカなん?」

 

そのまま、体の奥に意識を落とす。

呪力は、使わん。

あれは“重さ”が違いすぎる。

並の人間に当てたら、骨どころか中身まで潰れる。

教師も見とる中で、そんなもん出したら面倒が増えるだけや。

 

(今日は、術式だけで十分や)

 

投射呪法。

自らの視界を画角として「1秒間の動きを24の瞬間に分割したイメージ」を予め頭の中で作り、その後それを実際に自身の体で後追い(トレース)する術。

 

全部を一コマずつに区切る。

次に来る“正解の動き”を、無理やり未来から引っ張ってくる。

 

(まずは、加速や)

 

床を蹴る。

次の瞬間、体が“跳んだ”感覚になる。

速く動いたんやない。

“速く動く動作”を、強制再生しただけや。

 

風が、遅れて背中を叩く。

壁が、横に流れる。

 

緑谷の声が、後ろからワンテンポ遅れて届いた。

 

「え、な、なに今の!?」

 

俺は走りながら答える。

 

「軽め言うたやろ。まだ遊びや」

 

もう聞こえてへんやろけど。

 

視界の奥に、爆豪の気配。

荒い足音。

怒りの熱。

あいつは、隠す気がない。分かりやすい。

 

(ほな、まずはあっちやな)

 

角を曲がる。

投射のコマを、もう一段細かく刻む。

二十四分割。

一つ一つに、“最短で相手の懐に入る動き”を流し込む。

 

爆豪が、火花を散らしかけた瞬間。

俺は、もう目の前におった。

 

「……は?」

 

爆豪の目が見開かれる。

拳を振り抜く前に、俺はその“振り出す直前の姿勢”だけを見て、理解した。

 

(その動き、大雑把やな)

 

体を半歩ずらす。

ただそれだけで、爆豪の爆風は空を切った。

熱だけが、頬をかすめる。

 

俺は、軽く拳を当てる。

殴る、というより“置く”。

 

それだけで、爆豪の体は壁に叩きつけられた。

 

「がっ……!」

 

壁が少しへこむ。

骨は折れてへん。

呪力を使ってないからな。

 

(ほら。軽めやろ)

 

俺は倒れた爆豪を一瞥してから、後ろを振り向いた。

 

ちょうど緑谷が息を切らしながら追いついてくる。

 

「そいつ、捕獲しといて」

 

一瞬だけ目を合わせる。

 

「……それくらいは、できるやろ?」

 

緑谷は一拍遅れて、慌てて頷いた。

 

「う、うん! やってみる!」

 

返事を聞く前に、俺はもう走り出していた。

目的は一つ。

仮の“核爆弾”が置かれているフロア。

 

階段を駆け上がる。

投射のコマを維持したまま、無駄のない角度で曲がる。

息も乱れない。体も重くならない。

 

フロアに出た瞬間、正面に一人立っていた。

 

飯田天哉。

背筋を伸ばして通路の中央に陣取っている。

 

俺は足を止めずに口だけ動かした。

 

「君も移動系の個性らしいけど」

 

視線を流す。

 

「完全に俺の劣化やな。足だけ速うても、仕方ないわ」

 

飯田の眉が跳ね上がる。

 

「口が悪いぞ!? 君!」

 

その声を聞きながら、俺は少しだけ笑った。

 

「ほな、終わらせよか」

 

同時に視線を天井と壁に走らせる。

監視カメラの位置。

角度。

一番カメラ映りがいい場所。

 

(……あそこか)

 

投射のコマを、一気に“攻撃用”に切り替える。

 

踏み込む。

床が、また少しだけ沈んだ気がした。

 

飯田が動き出すより、ほんの一瞬だけ早く。

俺はもう、懐に入っていた。

 

拳を振る。

一発。

四発。

八発。

──二十四発。

 

速さと正確さを兼ね備えた動き。

殴りながら、カメラ目線でゆっくり髪をかき上げる。

 

飯田は、反撃する暇もなく、壁に叩きつけられた。

 

「ぐっ……!」

 

俺は、そのまま彼の前を通り過ぎる。

 

飯田は、もう立ち上がれなかった。

壁にもたれたまま、ずるずると座り込む。

 

俺は歩く速さを落として、部屋の中央へ向かう。

そこに置かれていたのが、仮の“核爆弾”。

 

触れる。

ただ、それだけ。

 

次の瞬間、スピーカーからオールマイトの声が響いた。

 

「ヒーローチーム、WIN!!」

 

館内に、終了の合図が流れる。

 

俺は爆弾から手を離して、軽く首を回した。

 

(……まあ、こんなもんやな)

 

***

 

モニタールームに戻った瞬間、空気が弾けた。

 

「禪院お前スゴすぎだろ!!」

「一瞬で二人とも無力化しちまったし!」

「てか最後のカメラ目線なに!?」

 

声が四方八方から飛んでくる。

うるさい。とにかくうるさい。

 

俺は耳を軽く掻きながら、だるそうに言った。

 

「あーあー、やかましいわ……」

 

一息ついて肩をすくめる。

 

「カメラ目線? ファンサやファンサ」

 

一瞬、ぽかんとした空気が流れて次の瞬間、また笑いと騒ぎが広がった。

 

オールマイトが腕を組んで大きく頷く。

 

「今戦のベストは、禪院少年だな!」

 

声が部屋に響く。

 

「理由は明白!核と建物に一切被害を与えず、ヴィラン二名を即無力化!」

「さらに、市民へのサービスも忘れない!」

「素晴らしい戦いだった!!」

 

それを聞いたクラスの連中が、ざわざわし始める。

 

「あれ、そういう意味だったんだ……!」

「流石だぜ禪院!」

「もうヒーローの心得があんのかよ!」

 

俺は内心で首を傾げた。

 

(いやそんなつもり、ミリも無かったんやけどな……)

 

カメラ目線は、ただの気まぐれ。

サービス精神でも何でもない。

単に「映るなら、ちゃんと映っとくか」くらいのノリや。

 

けど。

 

(まあ、評価上がるなら何でもええわ)

 

誤解でも、演出でも、結果が良けりゃ文句はない。

どう思われようが、俺の位置が上がるならそれで十分や。

 

その後も、戦闘訓練は続いた。

 

氷の個性のやつが、建物ごと凍らせて勝ったり。

物体を生み出す個性のやつもおったな...顔も乳もええ女やったわ。

他には頭使わず突っ込んで、普通に負けるやつもおった。

 

正直。

 

(あとのやつ、しょぼすぎて覚えてへん)

 

派手なだけで雑。

力はあるけど、使い方が雑。

考える前に動いて、結果だけ見て喜んでる。

 

見てて思ったのは、一つだけ。

 

(……ヒーローごっこ、ほんまにご苦労さんやな)

 

この中で、

誰が“残る側”で、

誰が“消える側”か。

 

答えは、もうだいたい見えてきとった。

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