ドブカス(本物)のヒーローアカデミア (前作)   作:むめい。

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7話

 

学校の門の前に人だかりができとった。

 

登校する生徒より明らかに大人の数が多い。カメラ、でかいマイク。空気がうるさい。

 

(……なんやこれ)

 

そのまま無視して通ろうとした瞬間、横からマイクが突き出された。

 

「オールマイトの授業、受けてみてどうでした!?」

 

声がでかい。距離が近い。息も暑苦しい。

 

(マスコミか。ダル)

 

足は止めへん。視線もやらん。

 

(無視一択やろ、こんなん)

 

背中に何か言われとった気もするが、聞く気もなかった。

 

***

 

教室に入るといつも通りの空気やった。

昨日の戦闘訓練の話で、あちこちがざわついとる。

 

席に座ったところで、相澤先生が前に立った。

 

「昨日の戦闘訓練、お疲れ」

 

黒板に何も書かず、淡々と続ける。

 

「Vと成績、全部見させてもらった」

 

一瞬だけ、教室の空気が締まる。

 

「そのことで……禪院」

 

呼ばれて、顔だけ上げる。

 

「ちょっと来い」

 

俺は椅子を引いて、何も言わずに立った。

教室の外へ出ると、廊下は静かやった。

 

相澤先生が壁にもたれて、こっちを見る。

 

「お前の個性は“複写”」

「自分が過去にとった行動を、もう一度再現する。だったよな?」

 

「まあ、そんな感じですわ」

 

「じゃあ聞く」

 

目が細くなる。

 

「あの超スピードはなんだ」

 

俺は一拍だけ置いた。

 

「個性の応用ですよ。なんもやましい事はあらへん」

 

相澤先生は、しばらく黙って俺を見る。

探る目や。

 

「…」

「俺は担任だ。生徒の育て方も、俺が考えてる」

「強くなりたいんじゃないのか?」

 

心の中で、鼻で笑った。

 

(馬鹿正直に言うても、なんやそれで終わるだけやろ)

 

どうせ全部話す気もない。

それっぽい答えを出して、納得させとくのが一番楽や。

 

俺は少しだけ視線を逸らしてから、言った。

 

「……俺の個性、複写は発動したら最後まで別の行動できひん」

 

相澤の眉が、わずかに動く。

 

「でも、キャンセルはできるねん」

 

続ける。

 

「一回動き出したあとでキャンセルすると、その“行動の終わり”までが一瞬で処理される」

「だから、外から見たら超スピードみたいに見えたんとちゃいます?」

 

廊下に、短い沈黙が落ちた。

 

相澤先生は、じっと俺を見ている。

信じたかどうかは、顔からは読めへん。

 

「……なるほどな」

 

それだけ言って、視線を外した。

 

「理屈は通る」

 

でも納得しきってない目や。

ああめんど...こういうやつがいっちゃん嫌いやねん。

 

「急に呼び出してすまなかった。戻るぞ」

 

それだけ言ってさっさと教室へ向かう。

俺は一歩遅れて、その背中についていった。

 

教室に戻ると空気が微妙に静かやった。

全員何も言わんけど顔に書いとる。

 

(何の話してたんやろ?)

(もしかして怒られてたり?)

(やっぱ特別扱い?)

 

そんな視線が机や肩に刺さる。

 

相澤先生は気にもせず、教卓に立った。

 

「さて、ホームルームの本題だ」

 

一拍置く。

 

「急で悪いが今日は君らに……学級委員長を決めてもらう」

 

一瞬、間があって。

 

「「「学校っぽいの来たー!!」」」

 

教室が一気に騒がしくなる。

 

「ウチやりたいっす!」

「リーダーやるやる!」

 

好き勝手に声が飛ぶ中前の方で椅子が音を立てた。

 

「静粛にしたまえ!」

 

飯田が立ち上がって眼鏡を光らせる。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だぞ!」

「やりたい者が、やれる物では無いだろう!?」

 

やたら気合いが入っとる。

 

「これは投票で決めるべき議案!」

 

そう言いながら、飯田自身も手を真っ直ぐ上げていた。

 

(言うてることと、やってることズレとるやん)

 

結局投票で決まることになった。

紙が配られて、そこに名前を書いて回収。

 

もちろん俺は自分に入れた。

 

少しして、相澤先生が黒板に正の字を書いていく。

 

禪院 五票

八百万 二票

あとは、だいたい一本ずつ。

 

結果。

 

委員長 禪院直哉

副委員長 八百万百

 

教室がざわつく。

 

「禪院、強えしな」

「まあ納得」

「八百万は推薦組だしね」

 

視線がまた俺に集まる。

 

正直驚きはない。

 

「まぁ当然の結果やね」

 

黒板の前で軽く腕を組んだ。

 

「俺がリーダーになるんは当たり前や」

 

横の方を見ると、八百万が少し戸惑った顔で立っている。

真面目そうで、育ちも良さそうな空気や。

 

俺は、軽く声をかけた。

 

「よろしく、桃ちゃん?」

 

八百万が一瞬だけ目を丸くしてから、姿勢を正す。

 

「……はい。よろしくお願いします、禪院さん」

 

(堅いな。まあええわ)

 

***

 

昼。

 

学食。

 

今日は和食を選んだ。

白飯、味噌汁、焼き魚。無難やけど安定する組み合わせ。

 

箸を取って、一口。

 

(……まあ、悪くない)

 

派手さはないけど、失敗もない味。

委員長がどうとか、副委員長がどうとか、そんな話は頭の端に追いやって俺はただ飯を食った。

 

その時、警報が食堂の天井を叩き割るみたいに鳴り響いた。

 

『ウーーー……ウーーー……』

『セキュリティレベル3が突破されました』

『生徒の皆さんは、すみやかに屋外へ避難してください』

 

一瞬、時間が止まったみたいになって――

次の瞬間食堂がひっくり返った。

 

椅子が倒れる音。

トレーが落ちる音。

叫び声と足音が、床を叩きまくる。

 

「なに!?」

「ヴィラン!?」

「早く行けって!!」

 

人が一斉に立ち上がって出口に向かって雪崩れ込む。

 

俺はと言うと、まだ箸を持ったままやった。

 

(……うるさ)

 

非常放送なんて、どうせ訓練か誤作動やろ。

そう思いながら、魚の身をもう一口。

 

その瞬間。

 

ドンッ、と背中に衝撃。

 

誰かの肩が、思い切りぶつかってきた。

トレーが跳ねて白飯と味噌汁が床にぶちまけられる。

 

「……あ?」

 

視線を落とす。

床に散らばった飯。

割れた茶碗。

汁が靴の先にまで飛んでいる。

 

頭の奥で、何かがぷつっと切れた。

 

俺は立ち上がって叫んだ。

 

「ドブカスがっ!!」

「誰やねん今ぶつかったヤツ!!名乗り出ろや!!」

 

けど、声は全部、パニックに飲み込まれた。

 

悲鳴。

怒鳴り声。

放送の残響。

 

誰も俺の方なんか見てへん。

全員、自分が助かることしか考えてない。

 

(……クソが)

 

立ち上がったせいで、俺も流れに捕まった。

人の波に押されて、出口の方へ強制的に運ばれる。

 

肩が当たる。

肘が刺さる。

背中を押される。

 

「ちょ、押すな!」

「前止まってるって!」

 

周りもからずっとそんな声が聞こえる。

人の塊がただ前へ前へと動いていく。

 

気がついたらぎゅうぎゅう詰めやった。

 

身動きが取れへん。

腕も上げられへん。

呼吸すら、少し苦しい。

 

(……最悪やな)

 

こういう状況が一番嫌いや。

理屈も、判断も、通らん。

ただの数の暴力や。

 

誰かが後ろから押す。

前のやつがよろける。

連鎖みたいに体が揺れる。

 

(このままやと、将棋倒しやぞ)

 

頭の中で、嫌な予感が走る。

 

周囲を見る余裕もない。

けど、明らかに“逃げる”って言葉だけが、全員の脳を支配しとる。

 

(……ああもう)

 

俺は小さく舌打ちした。

 

(飯は落とされるわ、潰されかけるわ)

(ほんまついてへん日やな)

 

俺は術式を使い出口と逆の方向へ抜けていく。

壁沿い、柱の影、倒れた椅子の横。

一歩ごとに“正解の位置”だけを踏む。

 

数秒で人混みの外に出た。

 

静かや。

さっきまでの地獄みたいな音が嘘みたいに遠い。

 

俺は壁にもたれて腕を組んだ。

 

「……少ししたら収まるやろ」

 

吐き捨てるように言う。

 

「それより、さっき押してきたヤツ」

「顔覚えとけば良かったわ」

 

ぶつかってきたあの感触だけはまだ肩に残っとる。

次会ったら礼くらいは“きっちり”返したる。

 

そう思っていた時。

 

出口付近、上の方からやたら通る声が響いた。

 

「皆さん!!」

 

見上げると、出口の上の方で、誰かが浮いとる。

 

……飯田や。

 

しかも、足は地面についてへん。

多分麗日が浮かしとんやろ。

 

飯田が、胸を張って叫んだ。

 

「だいじょーぶ!!!」

「ただのマスコミです!!」

 

ざわつきが、少しだけ弱まる。

 

「何も、パニックになることはありません!!」

「ここは雄英!!」

 

腕を大きく振り上げる。

 

「最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」

 

その声が、意外と効いた。

 

人の流れが、少しずつ止まる。

押し合っていた連中が、顔を見合わせる。

誰かが「……マスコミ?」と呟いた。

 

次第に、怒鳴り声が減っていく。

泣き声も、足音も、ゆっくり静まっていった。

 

俺は、その様子を壁際から眺めていた。

 

(……あいつ、案外使えるな)

 

飯田は相変わらず暑苦しい。

声もでかい。動きも大げさ。

 

けど、今みたいな“混乱”には、

ああいう分かりやすさが一番効く。

 

俺は、鼻で小さく笑った。

 

***

 

場面は変わり、教室。相澤先生が教壇でさっきのパニックについて説明してた。

 

「…さっきのはマスコミだ。以上」

 

それだけで終わらせる辺り、ほんま合理的や。

そして、黒板の前で一枚プリントをめくる。

 

「委員を決める。学級運営に必要だ」

 

教室の空気が、また“学校っぽい”方向に戻っていく。

ざわっとした声が上がりかけたところで、八百万がすっと立った。

 

「委員長。進行をお願いしますわ」

 

声が綺麗で、背筋がまっすぐや。

さっきまでの騒ぎが嘘みたいに落ち着いとる。

 

俺は椅子にもたれたまま、鼻で笑った。

 

「何言うてんの。君の仕事やろ」

 

八百万は一瞬だけ目を瞬かせて、すぐに表情を整える。

 

「いえ。進行は委員長の役目です」

「私は板書を担当しますわ」

 

「どっちも君でええやん、雑用は女の仕事やろ」

 

そう言うとクラスから野次が飛んできた。

 

「おまっ...禪院、昔の老人かよ!?」

「今の時代男尊女卑は忌避されるべきよ、禪院ちゃん」

「もしかしてコスチューム和服ってそういう?」

 

なんか色々言うてるけど、別におかしいこと言うてないで?。

 

八百万は、少し困った顔で息を吸った。

 

「禪院さん……流石にそれは、難しいですわ……」

 

教室の空気がじわっと固まる。

 

「進行が苦手でいらっしゃるなら」

「禪院さんが板書をなされますか?」

 

その言い方が、やけに丁寧で癇に障る。

 

俺は、舌打ち一歩手前で笑った。

 

「桃ちゃん、話にならへんわ」

「俺は委員長の“権限”だけ持ってたらええねん」

 

教室が、ざわっとする。

 

「雑用は全部君がやってくれへんと」

 

八百万は、さすがに一瞬言葉に詰まった。

 

「……委員長の、権限……?」

「特に、そういうものは無いと思いますが……」

 

俺は思わず聞き返した。

 

「嘘やろ?」

「委員長の命令は絶対聞かなアカンとか、無いん?」

 

その瞬間、クラス中から一斉に声が飛んだ。

 

「どこの国の話だよ!!」

「聞いたことねーぞそんな制度!!」

「封建制かよ!!」

「雄英は独裁国家ちゃうぞ!!」

 

一気に収拾がつかんくなる。

 

飯田が、机を叩いて立ち上がった。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

空気が少しだけ締まる。

 

「学級委員長とは、権力者ではない!!」

「奉仕者だ!!」

「クラスのために動く存在であって、命令する立場ではない!!」

 

俺は、そのまま適当に聞いていた。

 

(……めんど)

 

「なら、俺向いてへんな」

 

ぽつっと言っただけやのに、やけに響いた。

 

「人のために動く気もないし」

「雑用もする気無いわ」

「責任だけあって、得がない役職とか、一番いらん」

 

クラスの視線が、じわじわ俺に集まる。

 

八百万は、静かに頷いた。

 

「……それでしたら」

「禪院さんは、委員長を辞退なさいますか?」

 

「せやな」

「喜んで降りるわ」

 

その言葉で、教室がざわついた。

 

相澤先生が、黒板を軽く叩く。

 

「じゃあ、再選出だ」

「次の候補」

 

飯田が、真っ直ぐ手を挙げた。

 

「ならば自分がやらせていただきます!!」

 

さっきまでの騒ぎが嘘みたいに、今度は反対の声が少ない。

 

「まあ飯田ならいいだろ」

「真面目だしな」

「さっきの放送の時もも助かったし」

 

そのまま簡単な確認だけで決まった。

 

委員長 飯田天哉

副委員長 八百万百

 

黒板に書かれた名前を見て、俺は欠伸を噛み殺した。

 

(時間の無駄やったな)

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