魔法科高校の魔法勇士〜科学魔法の常識をガチ魔法でぶん殴る!〜   作:ヴィルヘルム星の大魔王

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stage.2 独立魔装大隊の尾行~マージ・マジーロ~

 とある土曜日、小津維吹は土呂市を離れ、リニア式のキャビネットで葛飾へ遊びに来ていた。公共交通機関などのインフラが発展した現代では、在宅勤務の完全化が主流となり、利用者が少ない。その為、個別式の車両で運行されている。謂わば、観覧車のスペースが車両として運用されたようなものだ。その影響で電車の時刻表は廃れ、本格的な電車は都道府県の各地にある鉄道博物館でしか見れない。ただし、未だに百年前の電車を流用している県も存在する。

 

 「快適だったな~。婆ちゃんが昔話で話していた満員電車がないのは、個人的に楽だな」

 一人乗りキャビネットから下車した維吹は、改札を通って葛飾駅南口に出る。

 葛飾の特徴は、科学技術の発展により利便性に優れた現代と違い、一昔前の街並みを残していた。下町と呼ばれる地域の生活文化は、日本の文化的価値があり、歴史を誇る住人等が頑なに拒むのもあって、日本重要無形文化財として名を残している。

 「流石は葛飾柴又!寅さんや両さんが住んでいる町だ。風情があっていいな」

 維吹は、百年前の人気作品に登場する主人公の名前を呟き、葛飾柴又を練り歩く。柴又帝釈天のある神社を参拝し、名物の草団子を堪能する。そして、柴又駅から浅草行のキャビネットに乗り込み、浅草寺を目指す。浅草寺は、第三次世界大戦の戦火を免れ、今もなお現存している。歴史のある観光スポットとして人気を誇っていた。

 「雷門の提灯でっけー!あ、仁王門の仁王像だ!っかー!迫力あるな~!」

 仁王門の左右に立ち並ぶ金剛力士像は、迫力のある顔つきで睨みを利かせている。仏を守護する神の名に相応しい魅力を放っていた。呑気に浅草観光を楽しむ維吹から少し離れた所から、一人の女性が耳に装着した無線機で通信先の人物に報告している。一束に纏めた黒髪が特徴的な美女は、地上の獲物を狙う鷹のように維吹の姿を凝視する。

 「こちら藤林、ターゲットの姿を捕捉。ターゲットは観光を楽しんでいる様子。此方に気付いている様子はない。風間隊長、応答願います」

 〈こちら風間、彼は魔法師ではないが、上位魔法師に引けを取らないレベルのサイオン量を保有している。是非とも勧誘したい。鬼が出るか蛇が出るか。藤林、対象の確認を怠るなよ〉

 「了解。対象の尾行を続行します」

 通信先の男から藤林と呼ばれた女性は、無線を切り、動き出した維吹に合わせて動き出す。彼女の正体は、国防軍一〇一旅団独立魔装大隊に所属する女性軍人だった。

藤林は、仲間の男二人組に無線を送り、指示を出す。

 「こちら藤林。茂部岡、阿寒。貴方達は、先回りして彼の行動を見張って」

 〈茂部岡、了解〉

 〈阿寒、了解〉

 茂部岡と阿寒と呼ばれる隊員は、藤林の指示に従い、行動を開始した。茂部岡は、維吹の左前方のベンチに座り、阿寒は維吹の右前にある柱の陰から様子を窺う。

 藤林の無線先である独立魔装大隊の本部では、大画面に映る映像で維吹を観察する一人の男がいた。男の名は、風間玄信。独立魔装大隊の隊長として、国防軍所属の魔法師として、国防の任に就いている。その隣では、部下の柳連が

 「ふむ、油断大敵だな」

 「大佐。この作戦、本当に上手くいくのですかね?いくらサイオン量が凄まじいとはいえ、彼は一般人でしょう?」

 「ううむ」

 部下である柳連の言葉に、風間は声を唸らせる。風間としては、上司である佐伯の指令に従事しているに過ぎない。本人としては、年端もいかない少年である維吹を尾行することに大人として自責の念を感じている。古式・現代の魔法師で構成された部隊とはいえ、推定一般人を尾行するのは性に合わない。そういう仕事は、公安警察の専門分野である。

 

 「確かに、一般人ではあるが、取り寄せた資料によれば、この少年は並みの魔法師に勝る程の魔法適性を持っている。先の戦争で魔法師は人手不足なのだ」

 「へえ…それで近い将来、軍に所属してもらう為、唾付けとこうという訳ですかい?」

 柳の言葉に、風間の眉間の皺が深くなる。腕を組み直し、目を瞑って思案している様子だ。

 「無論、出来るならば独立魔装大隊に勧誘したいが、いきなり勧誘したところで怪しまれるのがオチだ。ここは、藤林を主力に、数名の隊員で彼を監視する方針にした」

 「仮に藤林が対象と接触し、交戦状態になったらどういたします?殺しますか?」

 部下からの意地悪気な質問に、風間は肩をすくめて苦笑する。子供に対し大人気ない態度を見せる性格ではない。それは、部下である柳も知っている。

 「彼は犯罪を犯した魔法師でも、国防軍に所属している軍人でもない未成年だ。事を荒立てるつもりはない。なるべく穏便に済ませたいが、その時はその時だ」

 苦笑していた風間の表情は硬くなり、眼光は鋭くなる。時には冷徹さを求められる将官としての立場もあり、止むを得ない場合は冷酷な判断を下すのが軍人の性だ。それを聞いた柳は、風間が仲間に見せる厳しくも優しい顔、任務に徹する際の冷酷な顔を知っているからこそ、上司である風間のストレスを和らげるのが部下の務めだと悟る。

 「ふぅ、了解。俺はお茶でも淹れてきますよ。緑茶でいいですか?」

 「ああ、済まない。濃い目で頼む」

 お茶汲みへ行く部下に礼を言い、風間は椅子の背もたれに身を委ねる。彼の心には、無関係の人間を国家の都合で巻き込むという罪悪感と彼への興味心が複雑に混ざり合っていた。

 「嵐が…来るかもしれないな」

 その一方で、藤林は食べ歩き中の維吹を追跡していた。周囲から怪しまれない様にタコ煎餅を食べながら、ちゃっかりと買い食いを楽しんでいる。普段からダイエットを志している彼女は、任務中の今だけ食の誘惑に負けた。

 脳内のミニ藤林は、明日からまたダイエットをやる!だから、今日だけは誘惑に甘えてもいいよね!是非もないよね!という感じで食の理性が崩れていた。

 (彼は純粋に観光を楽しんでいるだけのようね。私も任務で尾行しているけど、本当に彼は一般人よね?パリッ!タコ煎餅うまっ)

 藤林は、時折タコ煎餅を齧りつつも、視線は維吹を捉え続ける。彼女の視線の先にいる維吹は、みたらし団子を頬張りながらも藤林の気配を感じ取り、警戒していた。スパイのような尾行術に正直感心している。

 (後ろに女が一人。前方の左右から視線を感じる。どちらも気配を最小限に抑え、フードで顔を隠しながら、俺の方をチラ見している。一旦、様子見るか)

 藤林と風間の思惑も虚しく、維吹からとっくにバレていた。それもその筈、ヒカルによる気配察知を鍛える箱庭授業で厳しく指導された彼からすれば、隠密の気配探知もお茶の子さいさいであった。本人としては、恨みを作った覚えのないがご愁傷様ですとしか言えない。

 維吹は、付き纏う者達の正体を探るべく、密かに『マージ・ジルマ・ジジル*1』の呪文をタッチ式のテンキー操作で発動する。そして、近くにいた鳩を見つめ、念話で会話をする。偶然にも、維吹のいる付近は、鳩の餌やり場として人気のスポットであり、彼にとって好都合だった。

 (鳩さん鳩さん、俺を尾行している人間を撒きたい。近くにいる仲間を呼んでくれないか?報酬は、そこの販売機にある餌だ)

 〈お安い御用ッポー〉〈てやんでぃべらぼうめ、江戸鳩に任せんしゃいッポー〉〈餌をクルックー〉

 

翻訳された鳩の声に、維吹は契約成立だなと口角を上げる。人間に興味のない協力鳥の鳩達は、維吹から貰う餌のことで頭が一杯だった。維吹は、わざとらしく声を上げ、餌の販売機へと向かう。

 「へぇ~、鳩の餌やりができるのか。鯉の餌やりもだけど意外と楽しいんだよなコレが」

 鳩の餌やり用自販機に向かった維吹は、あえて二袋購入する。そして、鳩に餌を与えるふりを装い、『マジーロ・マジカ*2』を小声で詠唱する。これにより、五感が鋭敏化した維吹は、身体の枠に沿って赤色に覆われた藤林を視認する。藤林の頭上には、彼女の名前や個人情報が簡易表示された。

 

 (赤い色、要注意人物だな。女の名前は藤林響子か。何々、国防軍の独立魔装大隊の隊員だって?何故、軍が俺を追跡しているんだ?折角の観光日和だっていうのに、急転直下で気分最悪だぜ。そっちがその気なら、イタズラしてやる)

 観光を邪魔され、少し機嫌の悪い維吹は、誰にも迷惑を掛けないイタズラを考え付いた。維吹は、二袋目の餌袋を開けた。この時、藤林が予想だにしなかった驚きの行動を取る。餌袋を持った維吹は、円を描くように鳩の餌全てをばら撒いた。餌が地に落ちた瞬間、三十羽以上の鳩が彼の元に集まり、全方位を覆うような壁を形成した。

 何も知らない通行人は、鳩の壁に吃驚する。藤林も不思議な光景に動きを止めた。鳩の群れが地面で餌を啄んでいる。しかし、件の少年の姿は何処にも見当たらない。

 「き、消えた?」

 

 先程いた少年が消えている事に、通行人の殆どが気にしていない。無数の鳩が集まる光景に夢中となり、維吹の存在は視界の範疇になかった。餌を食べ終えた鳩達は、次の餌を求めて、大空へと羽ばたく。鳥の大群が空に消えた事により、先程までの喧騒は終わりを迎え、静かになった。

常識を覆すような珍事件が起きたが、そこは軍人。冷静さを取り戻した藤林は、風間に報告しようとした瞬間、他の場所に居た隊員からの通信が届く。

 

〈こちら偵察班より藤林少尉へ報告、屋上から監視していましたが、対象の反応が突如として消失しました〉

 

知覚系の熱探知魔法で監視していた偵察役の隊員から無線が入る。集合してきた茂部岡と阿寒も、わけがわからないよ。とばかりに困惑している。

 

「分かった。今から本部に報告するわ。ご苦労様」

 間髪入れずに風間へ報告をする藤林。すぐに報連相を行う社会人としての姿勢を見せた。

 「こちら藤林、小津維吹の反応が消失。逃げられました」

 藤林は、ビルの屋上から監視していた隊員からの報告を交え、苦虫を噛む思いで本部に現状を報告した。報告を受けた風間からの指示は、作戦中止の命令だった。

 「はぁ、何なのよ本当に…」

 「まぁまぁ、報告が終わったらパーッと飲みに行きましょうよ。少尉」

 「近くに行きつけの居酒屋があるので、仕事終わりに皆で行きましょう」

 藤林を宥める茂部岡と阿寒は、今では古い飲みにケーションで上司の御機嫌取りをする。軍人としてのプライドを傷つけられた藤林は、この悔しさを酒で流すしかなかった。

 「うぅ~分かったわ!焼き鳥、枝豆、ビール!今日は飲みまくるわよ!」

 「「よっしゃ!」」

 独立魔装大隊の飲み会兼反省会が決定した頃、一羽の鳩が羽ばたく鳩の群れから抜け出した。銀色の瞳が特徴的な鳩は、人気の無い裏路地へと侵入する。周囲に、猫といった天敵がいないことを見計らい、地面に降り立った。

 「ホーホーポッポー《上手く撒けたか。ここら辺でいいだろう》。クルックー《マジーネ》」

 変身呪文『マージ・マジーロ*3』で鳩に変身した維吹は、餌に群がる鳩に紛れ、藤林等三人の目を欺いた。解除呪文の『マジーネ』で鳩の変身を解き、人間態に戻る。羽として動かしていた腕の筋肉を解すように、ストレッチしながら路地裏を出た。烏や猫に襲われなかったのは幸いである。

 「名付けて、ポッポ・イリュージョンってね」

 ネーミングセンスの悪い技を呟きながら、維吹は魔法のイタズラが成功した事に得意げに笑みを浮かべる。路地裏が浅草駅近くということも幸いし、そのまま、駅から電車で帰宅した。帰宅後、お土産に買った浅草名物【雷おこし】を家族皆で楽しんだ。

 その夜、浅草の横丁通りにある居酒屋では、団体客専用のとある個室部屋が賑わいを見せていた。

 「んぐっんぐっ!ぷはぁ~!すいまひぇ~ん!生ビールおかわり~」

 「藤林さん、飲みすぎっすよ。乾杯の音頭してからもう三杯目じゃないっすか」

 「お水飲んでください。飲み過ぎは毒です。すいません、お冷を二杯ほど追加で」

 任務のストレスを解消するかのように飲みまくる藤林。彼女を落ち着かせる茂部岡。冷静にお冷を注文する阿寒。柳は、真田繁留のコップにお酌していた。

 「何なんですかアイツ。子供の癖にプロから逃げ切るなんて」

 「まぁまぁ、柳。戦闘にならなくて良かったじゃないか。誰も血を流さずに済んだんだから、ねえ風間さん」

 上座の席で大ジョッキビールを飲んでいた風間は、真田からの同意に応えるべくジョッキを置き、映像越しに見ていた維吹の行動を思い出し笑う。

 「そうだな、真田。どうやら我々は一杯食わされたようだ。ふっ、面白いじゃないか」

 

 風間は、諸君と声を上げ、幹部と隊員全員の視線を自分に集中させる。

 「今日は俺の奢りだ。好きなだけ頼むといい。酔い潰れない程度にな」

 『御馳走になります!』

 風間は、部下への労いを兼ねて、太っ腹な態度を見せる。給料払いの良い国防軍に勤務しているからこそ、懐が寒くならない程度には稼いでいる。部下とのコミュニケーションを取る上司としての威厳を発揮したのだった。

 

 

*1
マジグリーンの得意魔法ジルマ・ジジルを応用し、動物との会話を可能にする魔法

*2
五感を鋭敏化させる魔法。使用者の身体に特殊な効果を与える

*3
マジピンクが得意な変身魔法




独立魔装大隊のオリキャラ紹介

・茂部岡 仁 (もぶおか ひとし)
 独立魔装大隊の隊員。階級は軍曹。モブ。

・阿寒 兵衛介 (あかん へえすけ)

 北海道出身の魔法師。階級は、曹長。名前の由来は、あっかんべー。

 物語次第では、作品に登場するかもしれない。
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