魔法科高校の魔法勇士〜科学魔法の常識をガチ魔法でぶん殴る!〜 作:ヴィルヘルム星の大魔王
午前のオリエンテーションが終了し、昼休憩に差し掛かる。魔法科高校では、食堂や学内カフェといった設備が充実しており、利用する者が多い。
「腹減ったなぁ、学食に行ってみるか」
お昼時、維吹は学校食堂のエリアに足を踏み入れる。そして、券売機前の行列を見つけ、最後尾へと並ぶ。維吹の順番となり、彼が選択したメニューは、焼肉定食だった。購入した食券を配膳機に入れる。配膳機の内部AIが食券を読み取り、取り出し口から焼肉定食セットが排出された。
第三次世界大戦下、戦争の影響で牛や豚の数が減少し、世界総人口の内、約半分の人間は肉を満足に食べられなかった。しかし、戦後間近に養殖技術が発達し、第三次世界大戦前と同じ供給量の肉類を確保することができるようになったのだ。
「焼肉定食が300円で食べれるとはな。学生料金様様だぜ」
無事に、昼食を受け取り、空席を探す。オリエンテーション初日ということもあり、どこも満席である。席探しで歩いている内に、維吹は見知った顔を見つけた。
「達也たちだ。できれば混ぜて貰いたいな」
ダメもとで達也の席へと向かう維吹。しかし、クラスメイトと席を囲んでいる姿を目撃する。野暮はいけないと感じ、偶然空いた一席に座る。飯を食べ始めてから、数分後、達也たちの元に、複数の生徒がやって来た。
「おい、キミたち。悪いが、ここの席を譲ってくれないか」
達也がいる席周辺の空気が凍る。その男子は、お構いなしに言葉を続けた。
「二科は一科の『ただの補欠』だ。授業でも食堂でも一科生が使いたいといえば、席を譲るのが当然だろう?まぁ、実力行使をしてもいいんだが、学内ではCADの使用が禁じられているからな」
茶髪男子の礼節に欠けた発言に、維吹は心の中でドン引きする。一高は差別が激しいという噂を聞いていたが、入学して間もない一年生の間でも差別が浸透していることを再認識した。昨日知り合ったばかりだが、達也たちは悪い奴ではない。そこからの維吹の行動は早かった。
「よお、食堂の席は先に座った人が使う権利を持っているのは常識だよな?この栗頭君の言葉は気にすんな。一科生の俺が言おう。達也たちは席を譲らなくていい」
不憫に思った維吹は、助け船を出すが、森崎は維吹を窘めるような態度で接する。
「小津、お前も一科生としての立場を弁えろ。雑草と仲良しごっこしているお前の品格が疑われるぞ」
「えっと?誰?俺、君の名前知らないんだよね…毬栗君かな?」
「ぷふっ…あ、やば」
維吹にとって、名前も知らない同学年である。維吹の反応も無理はない。維吹の森崎に対する発言に、エリカは顔を背けて笑いを堪えた。それを見た森崎は。羞恥心で顔を真っ赤にするも咳払いで誤魔化す。
「うぐっ、同じクラスの森崎駿だ!クラスメイトの名前くらい覚えておけ!」
「クラスメイトだったのか。よろしくな!森林!」
「森林じゃない森崎だ!呑気かお前は!」
森崎ことモブ崎駿は、この短時間で選ばれし一科生であるにも関わらず、達也たち二科生と絡んでいる維吹を疎ましい存在、憧れの深雪の前で恥を掻かせた存在として評価を改めた。
「まぁ、いい。そこの二科生君たち、さっさと席を開けたまえ」
「なによぉ、さっきから偉そうに」
「そうだ。この席は、先に俺達が利用していたんだ」
モブ崎の発言に、食って掛かるエリカとレオ。ヒートアップする二人に、達也は落ち着かせようと言葉を掛ける。
「二人とも、事を荒立てるとかえって目立つ。ここは我慢するんだ」
「でもよぉ、達也」
「そうよ、言われっぱなしで悔しくないの?」
「仕方ないんだ。彼らは一科生で、俺達は二科生。それは紛れもない事実だ」
レオとエリカの言葉に、達也は平然と答えた。彼の心にあるのは、妹の深雪がクラスメイトと関係性に溝を深めてしまうこと。妹に少しでも学校生活を謳歌させたい達也にとって、自分が何を言われようとも痛くも痒くもないのだ。
「俺はもう終わったから行くよ」
「あ、おい達也!」
達也は、空になったトレーを持ち、返却棚へと向かう準備を始めた。レオは、達也を止めようと声を上げた。
「フッ、いい心がけだ。他の三人も見習ってほしいものだ。さ、司波さん空きましたよ」
「い、いえ、私は」
「ちょっと!食堂は皆のものでしょ!?一科生とか二科生とか関係ないじゃない!」
エリカの正論に反抗するのは、森崎の取り巻き。二科生であるエリカの言葉に、幼稚な彼らは、怒りを露わにした。
「雑草がしゃしゃり出ないでよ!」
「そうだ!自重しろよウィードが!」
「僕たちは親睦を深めないといけないんだ!」
「おい」
『—ッ!?』
一科生の横柄な態度に我慢の限界を迎える。地獄の底から凍り付くような低い声が、森崎達の耳に届く。寒気を感じた森崎らは、声の発生源へと振り向いた。
「二度も騒ぐな⋯静かにしろ。ここは、食堂だ。落ち着いて飯が食えねえだろうが…お前たちは幼稚園児でも分かることさえ、出来ねえのか?」
維吹は、猛禽類の如く、森崎を睨み付けた。苛立つ彼の背後には、鋭い眼光で翼を広げた鷲の幻視が浮かび上がる。ほのかは、ガタガタと維吹の圧に怖気づき、雫も無表情だが、顔が少し蒼褪めている。維吹による言葉の圧を皮切りに、食堂中の空気が静まり返った。先ほど、騒動の中心だった一科生の殆どが。ガタガタと怯えるように歯を鳴らす。周囲の反応に、維吹は冷静さを取り戻す。そして、ふぅーと溜息を吐き、椅子に座り直した。
「すまねぇ、思わず口が悪くなった。聴きながら飯食ってたら苛々しちまった」
「小津、助太刀してくれて感謝する。もう大丈夫さ。深雪、また後でな」
「あ、お兄様」
達也が、返却棚に向かったことで、食堂の一件は有耶無耶となる。維吹の学食デビューは、一科生と二科生の大きな禍根を残したまま、終わりを告げる。
放課後、雫から下校を誘われた維吹は、彼女の親友である光井ほのかと三人で校門へと向かう。道中、ほのかは、新入生総代の深雪について熱く語っていた。
「雫!司波さんは本当に可憐だよね!私、入試の実技試験で見た司波さんの綺麗な魔法に見惚れてしまったの!本当にスゴかったんだから!」
「光井さんは、司波さんに憧れているんだな」
「ほのか、入学式前から何回も同じ話をしている」
「それだけ印象に残っているんだな。憧れを持つことは、良い事だ」
三人で校内の大通りに差し掛かると、女子の怒声が聴こえてきた。
「いい加減にしてください!深雪さんはお兄さんと帰るって言ってるんです!なんの権利があって、二人の仲を引き裂こうっていうんですか!」
「み、美月ったら、一体何をっ勘違いしているの」
「何故、お前が焦る?深雪」
「えっ!?あ、焦ってなんかいませんよ!」
「そして、何故に疑問系だ?」
深雪と達也の兄妹漫才を余所に、森崎は美月に反論する。
「これは1-Aの問題だ!他のクラス…ましてや、ウィード如きが!僕たちブルームに口出しするな!」
「そんな!同じ新入生なのに、今の時点でどれだけ優れてるって言うんですか!」
「司波さんは、ブルーム。お前たちはウィードだ。僕らより劣っているお前らが司波さんといるのは相応しくない!」
「それが一科生の総意なのですか!」
「そうだ!」
売り言葉に買い言葉、森崎の発言に激昂する美月。満足げな態度を見せる森崎。
達也は、ヒートアップする状況に面倒臭さを感じた。それは、維吹も大概ではない。
「知りたければ教えてやるさ!」
「おもしれえ!だったら、教えてもらおうじゃねえか!」
森崎は、銃型CADの高速抜銃技術クイックドロウを発動する。だがしかし、エリカの牽制が一足早かった。
「この間合いなら、身体を動かした方が早いのよね」
エリカは、森崎の拳銃型CADを特殊警棒型の武器で叩き落す。ついでに、レオが突き出した拳に掠りそうになる。レオは、反射的に手を抑えた。そして、エリカを睨み、文句を飛ばす。
「…お前、今、俺の手ごとぶっ叩くつもりだったろ。気を付けろよ、ガサツ女」
「あら、なんのこと?起動中のCADを素手で触ろうとするどっかのおバカさんを助けてあげたのに、感謝してよね。オホホ」
レオとエリカは、森崎達そっちのけで口喧嘩を始めた。呆気に取られる一科生集団だが、カッとしやすい短気なお年頃。彼らは、二人の漫才を一科生への挑発と受け取り、CADを起動させ、魔法式を展開し始めた。
(仕方ない。この手は余り使いたくなかったが、『破魔の魔眼』)
維吹は、魔眼を発動させ、集団の魔法を無力化させた。この魔眼は、維吹が所有する固有能力の一つであり、その能力は、改変事象の中和。つまり、魔法を無効化させる力を持つ、名前と矛盾した性能を誇る魔眼だ。
「えっ!?嘘でしょ!?」
「魔法が発動しない?!」
「はぁ、マジカ」
「マジか?」
維吹は、すかさず、『マジカ』と唱えた。近くにいた雫は、維吹の言葉に首を傾げる。魔眼を発動させたまま、彼らの動きを封じる。森崎たちは、金縛り状態となり、微動だに出来ぬほどに体の自由を奪われる。しかし、背後に隠れていた一科生の魔法が残存していた。それに気付いたほのかは、場を収めようと必死になる。
「だ、だめー!皆、止めてー!」
ほのかの感情の昂りにより、彼女の魔法が暴走し、制御困難となる。ほのかは、維吹の後方にいた為、魔眼による術中の範囲内から逃れていた。
(しまった!?光井さんが魔法式を展開するなんて、くそっ間に合わない!)
想定外な状況に焦る維吹。魔眼を再度発動させながら、急いでほのかの方へと振り向こうとする。危機的状況から一変、草陰から飛び出してきたサイオン弾により、彼女の魔法は不発に終わる。
「そこまでよ!全員そこを動かないで!」
その場にいた全員が、声のする方向に目を向けた。そこには、七草真由美と渡辺富貴摩利が颯爽と現れる。摩利は、ほのかを見る。
「そこの1-A女子」
「は、はいっ!」
摩利からの呼び出しに、ほのかの背中がピンと立つ。彼女の胸中は、不安でグルグルとなった。
「最後に攻撃魔法を発動しようとしていたな?魔法による対陣攻撃は、校則違反以前に犯罪だぞ」
彼女の言葉に、ほのかの顔が蒼褪める。皆を止めるため、無意識に放った魔法が校則に触れた。気が弱い彼女からすれば、自分の未来が真っ暗闇に染まりそうになる。
「キミには特に詳しく話を聞きたい。風紀委員室に出頭してもらえるかな」
「え?そんな…」
「…ほのか」
「私は…私はただ…」
「待ってください。風紀委員長」
ぺたんと地面に膝を突くほのか。そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは、達也だった。
「あれは、ただの閃光魔法でした。攻撃の意思はなかったと思います」
「ほう?君は起動式が読み取れるとでも?」
「分析は得意ですので」
「嘘か誠かわからないが、それは別にいい。では、尋ねよう。何故、このような騒動になったのかね?」
「はい。森崎家のクイックドロウは有名ですから、後学の為に、彼に教示を願ったところ、こちらが熱くなりすぎてしまった為に、彼らの感情が高ぶり、無意識に魔法が発動してしまったようです。それを、彼女が止めるべく、閃光魔法を発動させていました」
「…成程、誤魔化すのも得意と見える」
達也と摩利の視線が交差する。達也のおべんちゃらな発言を疑う摩利の眼光に、達也は一縷の望みを掛ける。
「そうか、キミの所属クラスと名前を答えてくれるか?」
「1-Eの司波達也です」
「摩利、もういいじゃない」
「真由美!?」
七草は、二人の間に乱入し、場の空気を変えさせた。真由美は、達也の方に向き、ウインクを披露しながら、一言呟いた。
「本当にただの見学だったのよね?」
「…はい」
真由美からの援助に達也は、素直に応じた。そのやり取りを見た摩利は、咳払いで場を律し、お情けを出した。
「コホン、会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問とします。以後、気を付けるように」
「借りだなんて思ってないからな」
「思ってないから安心しろよ
「僕は、森崎駿。お前が見抜いた通り森崎家に連なる者だ。司波達也、僕はお前を認めない。司波さんは、花冠。雑草の中ではいずれ枯れてしまう。彼女は僕らといるべきなんだ」
そう捨て台詞を吐いた森崎は、取り巻きを連れて、その場から消えた。
まだ残っていた維吹・雫・ほのかを見つけた達也たちは警戒するが、ほのかと雫の御礼と謝罪により、一つのわだかまりが消えた。
「同じクラスの奴らが悪かったな。代わりに謝る。同じ一科生としてすまなかった」
「別に、お前たちは悪くねえぜ」
「そうよ、コイツの言う通り、小津君たちが気にする必要なんてないわ」
「お詫びといっては、何だが、俺のおススメの店で懇親を深めないか?一科生や二科生とか関係ない。同じ学校の同級生としての親睦を作りたいんだ」
維吹は、放課後騒動の謝罪の意として、お気に入りの喫茶店に連れていく事を述べた。本当は、維吹がその喫茶店名物を食べたいだけなのだが、言わぬが花である。
その喫茶店は、八王子市の隣にある紫蘇町に店を構えている。店の名は、『恐竜や』。
この和風喫茶店は、店主が大の恐竜好きであり、外装から内装まで恐竜尽くしにする程だ。また、名物メニューの恐竜カレーは、ポークカレーをベースに野菜の旨味が溶け込んだルー、恐竜の卵をイメージしたウズラの卵、そして、ジューシーな手羽元唐揚げといったトッピングが施されており、値段もお手頃価格である。
巨大な恐竜の装飾が施された看板に、一同は目を見開く。今の時代、ここまでユニークな飲食店は余りない。
「ここまでインパクトある外装の店は、見たことないな」
「おお、なんかいい匂いすんぞ!」
「なんだか、お腹が空いてきましたね」
店外に漂ってくる料理の匂いに、レオを始めとするメンバーの心が落ち着いていく。
「早く店に入ろう!すいませーん!」
「ベルベル~いらっしゃいませ~」
「きゃあああ!?ワニー!?」
一番槍で入店したエリカを出迎えたのは、ダイヤル式電話の頭をした二足歩行の喋るワニ。謎の生命体を目撃したエリカは、女の子らしい悲鳴を上げた。ワニの視線から逃れるように維吹の背中へ身を隠す。だが、維吹は何事もなかったかのように普通に接していた。
「ヤツデンワニ、八名なんだけど席空いてる?」
「奥の和室なら空いてるぞ~。八名様、ご案内~」
ワニ型の異形と親し気に話す維吹の姿に、普段冷静な達也も困惑した表情を浮かべる。日本の正月に登場する獅子舞の方が、まだ可愛げがあるものだ。通された和室に座る八人。維吹以外は、ヤツデンワニと呼ばれる異形体の存在に落ち着きが治まらない。
やがて、お冷を乗せたお盆を運んできたヤツデンワニ。丁寧に、お冷をテーブルに置いていく。
「はいはい、お冷や八つね」
「維吹、そのワニみたいな化物は一体全体何なんだ」
「あぁ⋯コイツは、ヤツデンワニ。この恐竜やの二代目店主だ」
維吹から紹介を受けたヤツデンワニは、お盆を持ちながら達也たちに自己紹介を始める。
「どうもどうも、ヤツデ・デンワ・ワニの三単語から生み出されたヤツデンワニでございます〜!では、ご注文はお決まりですか?」
「俺は、ブラックコーヒーで」
「お、俺は恐竜カレー」
「…私もカレーで」
「わ、私はチーズケーキをお願いします」
「私は、レモンタルトとダージリンティーのセット」
「私は、餡蜜を一つ」
「わ、わたしも餡蜜を!」
「はいはい、ブラックコーヒーが一つに、恐竜カレーが三つ、チーズケーキが一つでレモンタルトとダージリンティーのセットが一つ、餡蜜が二つベルね~。ご注文は以上ベルかね?」
彼?の言葉に、全員は静かに頷く。達也は、ブラックコーヒー。維吹、レオ、エリカは恐竜カレー。美月は、チーズケーキ。雫は、レモンタルトと紅茶のセット。深雪とほのかは、餡蜜を注文した。メモ帳に記入し、最終確認を終えたヤツデンワニは、厨房の奥へと消えていった。
「維吹、あのワニは何処の研究所が造り出した実験生物だ?」
「実験生物と言われれば、実験生物だが基本的に害はない。まぁ、世の中不思議なこともあるさ。魔法師じゃない人からすれば、現代魔法が存在する位だし」
(実際は、エヴォリアンとかいう地球を滅ぼそうとした悪の組織に所属するトリノイドとか呼ばれる怪人ということは秘密にしとこう。ぶっちゃけ、説明が面倒くさい)
「…アレは現代魔法よりも異端」
雫が、達也たちの心情を代弁した。はぐらかす維吹の態度に納得いかない七人は、モヤモヤを抱えるが、カレーやスイーツの味に舌鼓を打ち、そのモヤモヤも晴れていった。
親睦会から数時間後、人々が寝静まり、深い闇が地上を包む。地下の奥深くに存在する地底冥府インフェルシアでは、総責任者のスフィンクスが政務を執っていた。彼女は、元冥府神十柱の一角であり、三賢神として名を轟かせていた。スフィンクスは、マジレンジャーとの戦いの末、小津家の勇気に魅せられ、部下のバンキュリアと共に離反する。
マジレンジャーが、絶対神ン・マとの最終決戦に勝利した後は、新生インフェルシアの統率者として帝国再建に尽力している。そんなスフィンクスは、凝り固まった眉間の疲れを解しながら、確認し終えた資料を机場に置く。
「ふぅ、少し休みましょう。過度な残業は勤労の天敵ですからね。はて、こんな時間に来客ですか?」
コツコツと杖を突く音、暗闇の奥から一体の冥獣人がスフィンクスの元へと来訪する。スフィンクスは、眼鏡のズレを直し、身なりを正す。
「おや、貴方は…何故、このような場所に」
訝しむスフィンクスと対面する黒い影は、彼女を一瞥し、ニヤリと嗤う。ン・マ時代の膿が、新生インフェルシアに牙を剥く。黒い影がもたらした行動に、スフィンクスの眼鏡が地面に落ちて、罅割れた。
その頃、インフェルシアの最下層へと続く階段では、人間と同じ風貌をした二人の女性がクルクルと髪を回しながら下りていた。彼女らの名前は、ナイとメア。元は、バンキュリアと呼ばれる一体の冥獣人であり、幾度となくマジレンジャーを妨害してきた。
今では、アイドルユニット『バン☆キュリア』として、人間界とインフェルシアを繋ぐ親善大使として活動している。
「親善大使の仕事も大変だ~」
「大変だ~」
「もう、真似すんな! 」
「てへっ!」
じゃれ合うナイとメア。スフィンクスに用のある二人は、彼女がいる執務室へと向かう。ナイとメアは、椅子から転げ落ち、うつ伏せで倒れているスフィンクスを目撃する。
「スフィンクス様!」
「一体、誰にやられたの!?」
スフィンクスの両肩を支え、上半身を起き上がらせる。スフィンクスは、二人に対して、緊急事態を告げた。
「はぁはぁ、至急、小津家に向かうのです!急がねば、インフェルシアだけでなく、地上界も混沌に包まれてしまう。迂闊でした、今まで大人しかった奴らは静かに牙を研いでいたのです」
スフィンクスが、彼女らに告げる敵の正体。それは、地上界を含む破滅を呼び起こす者だった。
インフェルシアにある中間層の広大な土地に大きな城が建っていた。その城内にて、一体の冥獣人が虎視眈々と用意を進めていた。
「冥府神といえど、案外大した事は無かったな。だが、生温い…生温いぞ!」
杖を持った老齢の冥獣人サー・ロクネ。彼は、杖の先端を地面に強く叩く。今のインフェルシアの体制に大きな不満を抱えているようだ。
「今のインフェルシアは、ぬるま湯に浸かり過ぎている。かつてのような、実力による弱肉強食こそが、インフェルシアの本能!私の元に集まった貴殿らも同意見であろう?」
「この私、アンデッド族首長サー・ロクネの望みは、地上界の掌握だ!人間どもを滅ぼし、インフェルシアと地上界を手に入れる!」
「好きに暴れられるなら、俺はアンタに従うぜ」
胡坐を搔きながら、ロクネに付き従う冥獣人は、バーサーカー族のグレイル・ド・ブライドン。かつて、マジレッドに敗れたグルーム・ド・ブライドンの弟である。
「更なる敵を追い求めることに、我が刀が疼きおる」
「くふふ、デーモン族も総意を上げて、ロクネ様に従います」
サムライ族の冥獣人ハチジュウロー、デーモン族の冥獣人ベルゼブもグレイルの声に続く。三体の言葉を聞いたロクネは、力強く頷き、声高らかに宣言した。
「さあ、始めようか!我等、ヘルグレイブの侵略を!」
人間同士の戦争で疲弊した地上界に、新たな魔の手が迫っていた。
魔法勇士の裏話① 現在の小津兄弟と小津勇
小津魁…存命。山崎由佳と結婚し、家庭を築く。サラリーマンとして勤務する傍ら、インフェルシアと地上界を繋ぐ地上界側の親善大使として長年活動していた。定年退職後は、老後生活を送りながら、親善大使を続投する。
小津蒔人…存命。巨大農園アニキファームの会長となる。長年の夢だったブラジルにアニキファームブラジル支部を設置。会社権限を息子の社長に譲り、隠居生活を送る。
小津翼…存命。元日本チャンピオンの戦績を持つ元プロボクサー。現在は、ボクサーを引退し、隠居生活を送る。
小津麗…存命。ヒカルと幸せな夫婦生活を送っている。
小津芳香…存命。元モデル兼タレント。月に三回、麗とショッピングを楽しんでいる。
小津っ子きょうだい会…小津家五人兄弟の集まり。五人で旅行や食事を楽しむことにより、きょうだいの絆を深める。一か月に一回と定期的に開催されている。
小津勇…天空聖者ブレイジェルにして、小津家兄弟の父親。天空聖者の為、寿命が長い。小津家の最年長として、小津一族を見守っている。収入源は、冒険小説の執筆。