女王陛下の愛し方 作:頭オーロラ
第10話
ノウム・カルデアの管制室は、朝特有の緊張感に包まれていた。
巨大なモニターには北欧の地図が表示され、赤い点が点滅している。特異点を示すマーカーだ。
「今回の任務は、北欧に発生した特異点の修復だよ」
ダ・ヴィンチちゃんが、モニターを指さしながら説明を始めた。
「昨日から、この地域で微小特異点が観測されている。今の所は放置しても問題ないレベルなんだけど、南米の異聞帯に到着するまで時間もあるからね。この際だから、新戦力の腕試しついでに修復してしまおう」
藤丸立香は、真剣な表情で説明を聞いていた。
隣には、マシュ・キリエライト。いつものように盾を携え、出撃に備えている。
そして、少し離れた場所に――
モルガンが立っていた。
腕を組み、無言でダ・ヴィンチちゃんの説明を聞いている。その表情からは、何を考えているか読み取れない。白銀の髪が、管制室の照明を受けてかすかに輝いていた。
「この年代の北欧は魔獣が多いかもしれない。単体ではそこまで脅威じゃないだろうけど、数が集まると厄介になりそうだ」
ダ・ヴィンチちゃんは、モルガンの方を見た。
「でも、モルガンがいれば問題なく対処できるはずだよ。彼女の魔術は、範囲殲滅に向いてるからね」
モルガンは、わずかに頷いただけだった。
「了解」
藤丸は、一度深呼吸をした。
初めての、モルガンとの任務。
昨日の約束通り、彼女を一番に頼る。
「マシュ、準備は?」
「はい、いつでも大丈夫です」
マシュが、力強く答えた。
その声を聞いて、モルガンがちらりとマシュの方を見た。
「マシュも来るのですか」
その声には、微かな――何かが混じっていた。
不満、だろうか。
それとも、別の感情か。
「うん。マシュは俺のパートナーだから」
藤丸は、当然のことのように答えた。
マシュとは、これまで何度も死線をくぐり抜けてきた。彼女がいてくれることで、どれだけ心強いか分からない。
「……そうですか」
モルガンは、短く答えた。
その声は、表面上は平静だった。
だが、藤丸には分かった。
彼女が、何か言いたげにしていることが。
「モルガン、何か問題があるのかい?」
ダ・ヴィンチちゃんが、察したように尋ねた。
「いいえ」
モルガンは、首を横に振った。
「ただ、私がいれば護衛など不要だと思っただけです」
その言葉には、自信が滲んでいた。
2000年、妖精國を守り続けた女王。
その力は、本物だ。
「私があなたを守ります」
モルガンは、藤丸を真っ直ぐに見つめた。
「それが、サーヴァントの務めですから」
その目には、決意が宿っていた。
昨日、彼女は言った。「重要な任務には必ず私を同行させろ」と。
そして今、こう言っている。「私があなたを守る」と。
その言葉の重みを、藤丸は感じ取った。
「……ありがとう」
素直に、礼を言った。
モルガンは、わずかに目を逸らした。
その頬が、ほんの少しだけ赤くなったように見えたのは――気のせいだろうか。
「ま、マシュもモルガンも、どっちも頼りにしてるってことで」
ダ・ヴィンチちゃんが、場を和ませるように言った。
「二人とも優秀なサーヴァントだからね。藤丸くんは恵まれてるよ」
「そうだね」
藤丸は、笑った。
「二人とも、よろしく」
「はい、先輩!」
マシュが、元気よく答える。
モルガンは――
「……ええ」
短く、だが確かに頷いた。
その瞳の奥に、かすかな光が宿っていた。
「じゃあ、準備ができたらレイシフト開始だ」
ダ・ヴィンチちゃんが、コンソールを操作し始めた。
「北欧の雪原に転送する。防寒対策は万全にしておいてね」
「了解」
藤丸は、レイシフト用のポッドに向かった。
マシュが隣を歩き、モルガンが少し後ろを歩く。
ふと、藤丸は振り返った。
「モルガン」
「何ですか」
「初めての任務、一緒に頑張ろう」
その言葉に、モルガンは一瞬、目を瞬かせた。
そして――
「……当然です」
小さく、だが確かに答えた。
「私を一番頼りにしているのでしょう? 期待には応えます」
その声には、微かな誇りが混じっていた。
藤丸は、笑顔で頷いた。
「うん。頼りにしてる」
モルガンは、何も言わなかった。
だが、その歩みが、少しだけ軽くなったように見えた。
レイシフトの光が、三人を包み込む。
北欧の雪原へ。
藤丸とモルガンの、初めての共闘が始まろうとしていた。