女王陛下の愛し方   作:頭オーロラ

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第6話

 

 

 

 

 

 ノウム・カルデアの管制室は、朝から騒然としていた。

 

 モニターには各種データが流れ、通信機器が絶え間なく情報を吐き出している。だが、今この場にいる者たちの関心は、そんなものには向いていなかった。

 

 

 

「城を建てろって……どこに!?」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、頭を抱えていた。

 

 

 

「ノウム・カルデアの構造上、そんなスペースないんだけど! というか、城って何? どのくらいの規模を想定してるの? 天守閣? 西洋城郭? まさかキャメロット規模とか言わないよね!?」

 

「お、落ち着きたまえよ、技術顧問」

 

 

 

 ゴルドルフ新所長が、自らも落ち着かない様子で言った。

 

 

 

「しかし、これは由々しき事態だ。バーサーカーを解雇だと? しかも、彼女以外の全員をか?」

 

「ヘラクレスさん、ランスロットさん、クー・フーリン・オルタさん、土方歳三さん……」

 

 

 

 マシュが、指を折りながら数えた。

 

 

 

「カルデアには、多くのバーサーカークラスのサーヴァントがいます。みなさんを全員解雇するなんて……」

 

「戦力が大幅に低下するではないか!」

 

 

 

 ゴルドルフ新所長が、いつもの青ざめた顔を見せた。

 

 

 

「冷静に分析しますと」

 

 

 

 シオンが、淡々と告げた。

 

 

 

「これらの要求は、物理的にも運営的にも不可能です。城の建設には資材、労力、そして何より空間が必要ですが、ノウム・カルデアにはそのいずれも余裕がありません。バーサーカーの解雇に至っては、彼ら自身の意思を無視した一方的な命令であり、サーヴァントとマスターの契約関係を根本から否定するものです」

 

 

 

 シオンは、モニターに表示されたデータを指さした。

 

 

 

「そして三つ目の要求――『彼女の法律がカルデアのいかなる規則よりも優先される』。これを認めれば、カルデアの指揮系統は崩壊します。組織として機能しなくなるでしょう」

 

「つまり、全部却下するしかないわけだ」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、ため息をついた。

 

 

 

「でも、召喚されたばかりのサーヴァントにいきなり『全部ダメ』って言うのも……関係が悪化しそうで怖いんだよね」

 

「「「……」」」

 

 

 

 沈黙。

 

 あまりの無茶ぶりに、職員一同も困惑するしかない。

 

 

 

「彼女は本気だろうね」

 

 

 

 沈黙を破ったのは、ホームズだった。

 

 彼はパイプを手に、窓際に佇んでいた。その視線は、どこか遠くを見ているようだった。

 

 

 

「本気?」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、眉をひそめた。

 

 

 

「あれが本気だって言うのかい? 城を建てろとか、バーサーカー解雇とか」

 

「そうだとも。彼女にとっては、あれが『普通』なのだろう」

 

 

 

 ホームズは、静かに説明を始めた。

 

 

 

「モルガンは、妖精國ブリテンを2000年にわたり統治してきた。絶対君主として、すべての権力を掌握し、すべての決定を下してきた。彼女の法は、國のすべてに優先された。それが、彼女にとっての『当たり前』ということだよ」

 

「2000年……」

 

 

 

 マシュが、小さく呟いた。

 

 

 

「トネリコさん……いえ、モルガンさんはそれだけの間、女王として君臨してきたのですね」

 

「そう。だからこそ、彼女はカルデアでも同じことを要求する。自分の法が最優先されるのは、彼女にとって自然なことだ。むしろ、そうでなければ不自然なのだろう」

 

 

 

 ホームズは、パイプを口元に運んだ。

 

 

 

「問題は、彼女がそれを『試している』可能性があるということだ」

 

「試している?」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、目を瞬かせた。

 

 

 

「どういうこと?」

 

「昨日の召喚を思い出してほしい。彼女は藤丸くんを『夫』と呼んだ。あれも、一種の試金石だったはずだ」

 

 

 

 ホームズの目が、鋭く光った。

 

 

 

「自分の無茶な要求に、藤丸くんがどう対応するか。逃げるのか、怒るのか、無視するのか。それとも――」

 

「……向き合うのか、ですか」

 

 

 

 マシュが、静かに言った。

 

 

 

「その通り」

 

 

 

 ホームズは頷いた。

 

 

 

「彼女は、藤丸くんという人間を見定めようとしている。信頼に足る人物なのか、それとも他の者たちと同じなのか。2000年の間、彼女は無数の裏切りを経験してきた。だからこそ、簡単には信用しない。試して、確かめて、それでようやく判断を下す」

 

「では、今回の要求も……」

 

「テストだ。藤丸くんが、どう反応するかを見ているのだろう」

 

 

 

 管制室に、沈黙が降りた。

 

 藤丸立香は、その間ずっと黙っていた。

 

 ホームズの分析を聞きながら、何かを考え込んでいる様子だった。

 

 

 

「藤丸くん」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、声をかけた。

 

 

 

「どうする? さすがにこれは、断るしかないと思うんだけど……」

 

 

 

 藤丸は、少し考えてから口を開いた。

 

 

 

「……俺が話してくるよ」

 

「先輩……」

 

 

 

 マシュが、心配そうな顔をした。

 

 

 

「断るにしても、ちゃんと向き合って話さないと」

 

 

 

 藤丸は、真っ直ぐ前を見ていた。

 

 

 

「一方的に拒否したら、それこそ関係が悪くなる。モルガンには、モルガンなりの理由があるはずだから」

 

「しかし、あの女王相手に交渉など……」

 

 

 

 ゴルドルフ新所長が、不安げに言った。

 

 

 

「2000年の統治者だぞ? そう簡単に意見を曲げるとは思えん」

 

「曲げさせようとは思ってません」

 

 

 

 藤丸は、小さく笑った。

 

 

 

「ただ、話を聞きたいんです。モルガンが何を考えてるのか、何を求めてるのか。それを知らないと、何も始まらないから」

 

「藤丸くん……」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、複雑な表情を浮かべた。

 

 

 

「本当に大丈夫なのかい? あの女王様、かなり手強そうだけど」

 

「大丈夫。たぶん」

 

「また『たぶん』って……」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、頭を抱えた。

 

 

 

「昨日も同じこと言ってたよね。それで結局、『夫』って呼ばれることになったんだけど」

 

「あはは、まあ、それはそれで」

 

 

 

 藤丸は、照れたように頬を掻いた。

 

 

 

「悪くなかった、かな」

 

「悪くなかったって、まったく君は……」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、もはや何も言えなかった。

 

 

 

「一つ、助言をしておこう」

 

 

 

 ホームズが、藤丸に向かって言った。

 

 

 

「彼女は、嘘を見抜く目を持っている。妖精眼は機能していないようだが、2000年の間、無数の陰謀と裏切りを経験してきた女王だ。表面だけの言葉では、彼女の心には届かない」

 

「うん」

 

 

 

 藤丸は、頷いた。

 

 

 

「嘘はつかないよ。できることはできる、できないことはできないって、正直に言う」

 

「それが一番だろうね。彼女が求めているのは、おそらく『誠実さ』だ。自分と真摯に向き合ってくれる存在。裏表なく、正面から接してくれる人間」

 

 

 

 ホームズは、窓の外を見た。

 

 

 

「妖精國では、誰もそうしてくれなかったのだろう。だからこそ、彼女は試す。本当に信頼できるのか、何度も何度も確かめようとする」

 

「……分かった」

 

 

 

 藤丸は、深呼吸をした。

 

 

 

「行ってくる」

 

「先輩」

 

 

 

 マシュが、一歩前に出た。

 

 

 

「私も一緒に――」

 

「ううん、一人で行くよ」

 

 

 

 藤丸は、首を横に振った。

 

 

 

「モルガンと、二人で話したいんだ」

 

「でも……」

 

「大丈夫。信じて」

 

 

 

 藤丸は、マシュに向かって笑った。

 

 その笑顔には、不思議な自信があった。

 

 根拠のない自信ではない。彼なりの確信に基づいた、静かな自信。

 

 マシュは、その笑顔を見て、口を閉じた。

 

 

 

「……分かりました。気をつけてください、先輩」

 

「うん。行ってくる」

 

 

 

 藤丸は、管制室を後にした。

 

 その背中を見送りながら、ダ・ヴィンチちゃんは呟いた。

 

 

 

「本当に、大丈夫かな……」

 

「大丈夫だろう」

 

 

 

 ホームズが、静かに答えた。

 

 

 

「彼には、人の心を開く才能がある。それは、どんな魔術よりも強力な武器だ」

 

「武器、ねぇ……」

 

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、ため息をついた。

 

 

 

「まあ、信じるしかないか。藤丸くんのこと」

 

「はい」

 

 

 

 マシュが、頷いた。

 

 

 

「先輩なら、きっと……」

 

 

 

 その言葉の先は、誰にも聞こえなかった。

 

 だが、マシュの目には、確かな信頼の光が宿っていた。

 

 

 

 

 

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