サブタイトル考えんの下手くそすぎ
輝石の国 ロサス州はいつも明るい。
港には色とりどりの帆船が並び、宝石商や
取締官たちの声が交錯する。
陽光を受けた街路は輝き、民の願いと欲望が
行き交う場所。
──繁栄の街。
同時に、“願い”が最も集まる街でもあった。
「坊っちゃま、足元にお気をつけください」
幼いマグニは、老執事の声に小さく頷いた。
柔らかな手に導かれながら、石畳を歩く。
(……眩しいな)
前世の記憶を持つ彼にとって、この街はあまり
にも鮮やかだった。
日本の都市の整然とした光とは違う、
生き物のような色彩。
「どうして、みんなこんなに楽しそうなんだ?」
ふと零れた言葉に、執事は微笑む。
「ここはロサス州ですから」
「答えになってない」
「願いを叶えに来る者が多い街、という意味で
ございます」
マグニは足を止め、商人たちを見た。
値段を吊り上げる者、交渉する者、夢を語る者。
───魂が抜けたかのようにただ一点を見つめる
路地裏の人間
「願いって……叶うと終わってしまうのか?」
「さあ」
老執事は曖昧に答えた。
「終わるものもあれば、新しく生まれるものも
ございます」
その言葉に、マグニは納得しなかった。
──願いは終わらないだろう。
何故なら、実際自分は死の間際まで願いを
手放さなかったから。
ロサス州には、古くからの風習がある。
十八歳の誕生日。
自分の人生で最も美しいと思ったものを、
祭壇に捧げる。
宝石、絵画、服飾、初恋の手紙、家族の肖像。
人によって“美しさ”は違う。
ある日の夕暮れ、屋敷の回廊で。
マグニは執事と並んで、沈む太陽を見ていた。
「ねえ」
「はい、坊っちゃま」
「人は、どうやって“一番美しいもの”を
決めるんだ?」
執事は少し考え、穏やかに答える。
「悩むこと自体が、その人の人生を映すの
でしょう」
「ふうん……」
マグニは目を細めた。
「じゃあ、お前は…フィデーは何を捧げたんだ?」
執事は、驚いたように瞬きをした後、
静かに笑った。
「私は妹の写真を捧げました。
村一番の美少女でしてね、ふふ。
坊っちゃまはまだ幼いですが、しっかり
していらっしゃる。捧げるものに目処はついて
おりますか?」
「……俺は」
マグニは言葉を探す。
「捧げるその日まで、フィデーには内緒に
しておくよ」
願いも、美しさも。すべて。
老執事はさらに笑みを深め、ゆっくりと告げる。
「それはそれは――」
「坊っちゃまが将来、何を捧げられるのか。
それをこのフィデー、とても楽しみにしておりますよ」
「……」
マグニは視線を逸らした。
「…あまり期待しないでほしいけれど」
「おや、とっくに期待には慣れたものかと」
「ふ、白々しいな」
マグニそう言って、夕陽に向き直る。
老執事のフィデーは、その背中を見つめながら
思う。
――もしももう一度捧げなければならないのならば。
それはきっと、“貴方様”になるでしょうね。
フィデーの名前はラテン語で「忠誠」という意味の
語句をもじって付けました
マグニの由来は完全にマグニフィコから。あと
ラテン語で「大きい」という意味のマグニからも。
なので彼はこれからとても身長が伸びます。