この作品を開いてくださりありがとうございます。そして前話に引き続きお読みくださっている方もありがとうございます。
卒業間近で忙しくてすみません……
それでは本編をお楽しみください〜…………
(新月司令長官たちが喫茶店にいる頃山口副司令たちは…………)
(山口)
こら飛龍、そんなに高いものは買えんぞ
(飛龍)
えぇ〜?いいじゃない!!
(山口)
いくらなんでも千百二十万の大型模型品など買えるものではないぞ
(飛龍)
けど〜!!私のプラモデルなのよ!?しかも100分の一!!
(山口)
そんなもの…一体どこに置くんだ…
(飛龍)
え?多聞丸の部屋に…………ね?
(山口)
…………………
(飛龍)
……………だめ?
(山口)
む、むぅ…………仕方ない…………今回だけだぞ………
(飛龍)
やった♪これで多聞丸の部屋に私の模型……すこし……嬉しいね
(山口)
………(あんな上目遣いをされたら弱いものがある………)
(模型店・レジ前で山口は腕を組んで天井を見る)
(山口)
……飛龍。
私は今、人生で最も高価な判断をしている気がする。
(飛龍)
えへへ。
でもさ、多聞丸の部屋に私の模型があるって――
なんか「一緒にいる」感じしない?
(山口)
……物理的に同居しているだけだ。
(飛龍)
細かいこと言わないの。
ほら、完成したら一緒に飾ろ?
「ここが艦橋で~」とか説明してあげるから。
(山口)
……説明は要らん。
史実は一通り頭に入っている。
(飛龍)
じゃあ感想係ね。
「よく出来てる」とか
「この角度は美しい」とか言う役。
(山口)
……それくらいなら出来る。
(店員)
お会計、こちらでよろしいでしょうか?
(山口)
……あぁ。
(カードを出しながら)
本当に今回だけだからな。
(飛龍)
はいはーい♪
“今回だけ”が増える未来が見えるけどね。
(山口)
見えなくていい未来だ。
(店を出て箱を抱えてはしゃぐ飛龍)
(山口)
こら飛龍、はしゃぎすぎだ
(飛龍)
は〜い……ちょっと重い……けど、嬉しい。
(山口)
………貸しなさい。
落としたら目も当てられん。
(飛龍)
あ、ありがと。
……ね、多聞丸。
(山口)
なんだ。
(飛龍)
こうやって一緒に買い物して、
同じ部屋に物が増えてくのってさ――
なんか家族みたいだね。
(山口)
……。
(山口、少しだけ歩調を緩めて)
(山口)
……その言い方は、反則だ。
(飛龍)
え?
今の、褒め言葉だよ?
(山口)
だから困ると言っている。
(飛龍)
ふふ。
でも多聞丸、顔ちょっと緩んでる。
(山口)
……気のせいだ。
(飛龍)
じゃあ、今日はこのあとどうする?
甘いもの?それとも公園?
(山口)
……模型を無事に部屋へ運び込むのが先だ。
その後なら……
茶くらいは、付き合おう。
(飛龍)
ほんと!?
やったー!!
じゃあさ!!ショッピングモールいこー♪
(山口)
……完全に予定を組まれているな、私は。
(飛龍)
うん。
今日だけ、でしょ?
(山口)
……あぁ。
今日だけだ。
(その頃菅野航空当直長は………)
(菅野)へぇ〜……最近の遊園地はすごいな。こんなに早い乗り物があるなんて……まぁ、紫電改二の方が早いかなぁ〜?
(榛名)な、なぜそんなに平然なんですか……………
(菅野)こんなの航空機乗りからすれば朝飯前よ
(榛名)……榛名には一生理解できないと思います………
(ジェットコースター乗り場・列の中)
(菅野、腕を組んで機体を見上げながら)
しかしまぁ……
レールの設計、加速度、遠心力のかけ方……
ちゃんと理屈で作られてる。悪くないな。
(榛名)
……い、いま
「悪くない」で済ませられる感覚が
すでに異常です……。
(菅野)
はは、そうか?
急上昇して、急降下して、左右に振られる。
要は三次元機動だろ?
(榛名)
それを
「要は」
でまとめないでください……!
(安全バーが下りる音)
(榛名)
……あの……
これ、ちゃんと固定されてますよね……?
(菅野)
大丈夫大丈夫。
ほら、二重ロックだ。
信頼性は紫電改二の脚より高いぞ。
(榛名)
そ、そういう比較が
余計に不安を煽るのですが!?!?
(そして発車直前)
(榛名、小さく深呼吸)
……榛名は戦艦です。
これくらい……耐えてみせます……。
(菅野)
お、いい心構えだ。
じゃあ俺は――
パイロット目線で楽しませてもらう。
(急発進)
(榛名)
きゃ――――っ!?
は、速い速い速いですぅぅぅっ!!
(菅野)
ははは!
この初速、なかなかだな!
零戦よりは鈍いが!
(榛名)
比較対象が
完全におかしいです―――!!!!
(急降下)
(榛名)
む、むりです無理です無理です――!!
(菅野)
おお、いい落下角だ!
視界が一気に開ける!
(榛名)
榛名の視界は
真っ白です―――!!
(停止)
(榛名)
………………。
(菅野)
お?
大丈夫か?
(榛名)
……あ、あの……
正直に申し上げますと……
(榛名、ふるふると震えながら)
……こ、怖かったです……。
(菅野)
だろうな。
(榛名)
……でも……
その……
終わったあと……
少しだけ……
楽しかった、です……。
(菅野)
ほぉ。
(榛名)
……菅野大佐が
隣にいたから……
かもしれません……。
(菅野、一瞬黙ってから)
……なるほどな。
(菅野、軽く笑って)
じゃあ次は
もう少し優しいやつにするか。
回るだけのやつとか。
(榛名)
……はい……!
それなら……
榛名、
また一緒に……。
(遠くで聞こえる民間人の声)
(民間人A)
あら、カップル………いいねぇ〜
(民間人B)
いいなぁ………
(菅野)
……聞こえたか?
(榛名)
……き、聞こえました……。
(菅野)
気にするな。
今日は遊園地だ。
楽しんだ者勝ちだろ?
(榛名)
……はい。
榛名、
そう思うことにします。
(榛名・心中)
(この胸の高鳴りは……
遠心力だけ、ではないですよね……?)
(その頃新月司令たちは……)
(新月) そういえば………山口副司令と菅野航空当直長も今日は休暇申請出してたな………何してるんだろな
(名張)
……えっ、
(新月)ん?どうした?
(名張)
い、今……なんとおっしゃいましたでありますか?
(新月)
?今日は山口副司令も菅野航空当直長も休暇申請を出していたと言ったが……
(名張)
つ、つまり………今鎮守府には………指揮官が……
(新月)
いないことになるな
(名張)
………ま、まずいでありませんか!?!?
(新月)
ん?大淀がいるし……他にも歴戦の猛者である金剛たちもいるぞ?
(名張)
だとしてであります!!何かあった際の責任問題はどうするであります!?!?
(新月)
そりゃ、大淀と俺が……
(名張)
か、帰りましょうであります!!いくらなんでも鎮守府に指揮官不在はありえないであります!
!(新月)
んなもん気にすんな、何とかなるなる
(名張)
名張です!!……って何言わせてるんでありますか!?というかなんで知ってるんであります!?
(新月)
俺は名張出身だ
(名張)
だとしてもであります!!
(名張)
や、やはり…い、いけませんであります!
副司令も航空当直長も不在、さらに艦長殿まで外出中……
指揮系統が空白になります!
(新月)
だから…空白にはならん。
当直士官はいるし、大淀は実務の鬼だ。
金剛型もいる。
即応戦力は十分だ。
(名張)
しかし最終決裁権者がいないであります!
(新月)
緊急時は事後承認で構わん。
そのための訓練だろう?
(名張)
理屈ではそうですが……!
それでも名張は落ち着かないであります!!
(新月)
真面目だな。
(名張)
艦でありますから!
(新月、少し笑う)
(新月)
だからこそ今日は外にいる。
常在戦場も結構だが、
常在緊張では身が持たん。
(名張)
ですが……もし今、敵が来襲したら……。
(新月)
来たら戻る。
ここから港まで二十分。
最悪、連絡が入れば即座に引き返す。
(名張)
……本当に、それでよろしいのですか?
(新月)
名張。
(少し真面目な声で)
(新月)
組織は「誰か一人」で回るものじゃない。
俺がいないと崩れるなら、それは俺の怠慢だ。
(名張、言葉を詰まらせる)
(新月)
今日いなくても問題ない。
それは、皆が優秀だからだ。
お前も含めてな。
(名張)
……っ。
(新月)
それとも俺は、
そこまで頼りなく見えるか?
(名張)
い、いえ!!
決してそのようなことは……!
(新月)
なら大丈夫だ。
(少し軽い調子に戻って)
(新月)
それに、だ。
(名張)
……?
(新月)
名張がそんなに慌てる様子を見ると、
ここで帰るのはもったいない気がしてきた。
(名張)
な、なぜでありますか!?
(新月)
普段は規律の塊みたいな顔をしているのに、
今は完全に作戦会議前の参謀だ。
(名張)
からかわないでくださいであります!
(新月)
からかってはいない。
観察だ。
(名張、むぅと頬を膨らませ)
(名張)
……艦長殿は余裕がありすぎであります。
(新月)
余裕は指揮官の必須装備だ。
焦りは伝染する。
(名張)
……。
(新月)
もし本当に緊急事態が起きたら、
そのときは全力で戻る。
今は――
(窓の外を見て)
(新月)
平和だ。
(名張、ゆっくり息を吐く)
(名張)
……では……
もう少しだけ、ここにおります。
(新月)
そうしろ。
(名張、小さく)
(名張)
ですが……
帰投後はすぐ状況確認でありますからね。
(新月)
了解、名張参謀殿。
(名張)
だから参謀ではないであります!
(店内の穏やかな音楽の中、
二人はようやく朝食に手をつけた)
次戦、第十三話 『其々の道、其々の恋路と無自覚2人 丁』