呪術総監部はアホなことしたなぁ。五条悟がおるから、辛うじて均衡がたまたれとったのに、自分から機構側に寄越すとか──脳みそついてないんか?
『カーモーくん!遊びましょー!』
呪術総監部の連中の始末はパパ率いるくくるたいと炳、灯とついでに傑くんに任せた。
できれば、加茂家側の始末を煌でやりたかったんやけど、呪霊操術と加茂家の術式は相性悪いから仕方ないやろ。
今回は僕と真依ちゃん、真希ちゃんの3人で加茂家を潰そうか。あ、僕の呪霊達を含めたら8人やったね。
「──ふざけるなっ!」
「ほらな、座敷ちゃん。僕は遊ぼう誘ったのに、向こうは顔真っ赤で怒っとるやん。しかも、この家前に座敷ちゃんが様子を見に来ただけなのに攻撃してきた家やで」
おー、なんか加茂家当主怒っとるやん。顔真っ赤にして何かあったんやろか?あ、もしかして、上層部から攻撃されてるから救援に来いとでも言われたんかな。
「御三家同士の争いなど、あってはならん!禪院家!お前たちの此度の非道な行い、私から五条家に伝えておくぞ!」
「五条家なぁ。五条悟なら出てこんよ。教育者やから、今回の件は参加出来んけど、邪魔もせんって言うてたから──。にしても、なっさけないなぁ。御三家加茂家の当主ともあろう人間が、真っ先に他家に縋るなんて」
それに、争いがなかったわけやないやん。ただ、お互いに役割が違うから潰し合いをしてなかっただけで。
五条家は元々財力が御三家の中で飛び抜けて、全体の戦闘力は禪院家が飛び抜けて、呪術界での権力を加茂家が牛耳っていた。
ただ、その均衡が崩れただけや。禪院家には実力も、財力も、今や呪術界での権力さえ持ち合わせとる。
五条家は五条悟がいる限り安泰やし、僕としても仲間内で術師を減らすのは馬鹿らしいから攻撃せん。
でもなぁ、加茂家と上層部はちゃうよな?邪魔やねん。お前らが存在していると、今後に悪影響を及ぼすんよ。なら、早いうちに消した方がええやん。
「何を睨みつけとるん。僕はただ──遊びに来ただけやで」
『赤血操術』
──動いたな。赤血操術、僕たち呪霊操術の天敵みたいな術式や。特級呪霊であったとしても、この術式で倒されうる。
『───また、虐めようとした』
僕に向けられたその鮮血の弾丸を、座敷ちゃんが手のひらで叩き落とす。
おー、助かったわ。別に自分でかわしてもよかったんやけど、お陰で座敷ちゃんのスイッチが入った。
「な、な?言うたやろ。この家の人間は人を虐めるのに快感を覚えとるって。今僕を攻撃したのが、僕と同じ立場にある当主や。当主がこれってことは、全員僕たちを虐めようとするゴミクズや」
『人の子、お前は恥というものを知らんのか?』
「自分の呪霊の気分をあげることを僕は恥とは思わんよ。まあでも、そない言うなら白狐ちゃんの機嫌取らなくてもええ?いなり寿司2度とださんけど?」
『私はわかってる。雅はいい子。狐はいなり寿司禁止でいい』
『──貴様の羽を全てむしり取ってやろうか。さすれば、人の子も誰の機嫌をとればよいか理解するだろう』
「いや、身内で争うのやめーや。好きなもん好きなだけ食べたしたるから」
狐ちゃんと烏ちゃんは仲間割れやめてぇや。
『遊ばないの?』
『ねーねー、なんの遊び?』
「鬼ごっこやな」
トイレの花子さんで1番怖い遊び、もとい実力を発揮するのは鬼ごっこや。花子さんが逃げる側やったらええけど──鬼側やったら最悪でしかない。真希ちゃんでさえ逃げることは出来んかったんやから。あの赤い手からは。
『鬼はー?』
『誰ー?』
「花子ちゃん、華子ちゃん2人に決まっとるやん。2人が1番追いかけるん上手いんやから」
『『わかった!』』
「──雅様に攻撃を、絶対に許さない」
「あんまりやる気でねーけど、はぁ。やるか」
なんか知らんけど、2人ともやる気になったみたいやし、スイッチ入れてくれてありがとうなぁ。
「──おかしい。お前の呪霊はなんだ!なぜ、私の赤血操術をくらってダメージをおっていないんだ!前も!今も!」
そやろ、不思議で仕方ないやろ?教えたろうかな、それとも知らないまま殺したろうかな?
──教えたるか。
「五条悟の術式で、術式反転『赫』ってあるやろ?本来の『蒼』と真逆の性質を持つ術式が。簡単な話、それと同じや」
飢餓状態で自身の呪力と向き合い、自身にできるありったけを込めて呪霊玉を取り込んだ。
それで取り込んだのが僕の呪霊たちや。
おかしいやろ。
縛りをいくらガチガチに結んだからといって、呪霊としての凶暴性が明らかに抑えられている状態で、なおかつ個体によっては反転術式を使うことができる。
何よりおかしいのは、個体によって様々だが『善性』のようなものを備えていること。座敷ちゃんは善性が強いタイプで、狐ちゃんは弱いタイプやね。この2人が分かりやすい。
まあ、そんで、自分の術式の疑問を放置なんてできるわけがない。僕は調べて調べて調べて──僕が天才やったことを思い出した。
「本来であれば呪霊は負の存在や。やけど、僕が取り込んで生み出した呪霊は、呪霊でありながら正の性質をもっとる──加茂家の赤血操術は負の呪霊に有効なんやろうな。やけど、正の呪霊には効果がない。それだけのことや」
恥じるなや。今まで試しようがなかったことなんやから。
ああ、やっぱり恥じとけ。お前が無能やから、これから家が潰れることになんねん。
「──次期当主だけ生かしとけば、他の連中は皆殺しで構わへんよ。遺恨は可能な限り残すなや」
「──え?母親の元で過ごしたい?別にええよ。呪術師になることが条件やけど」
『──禪院家は呪詛師組織である』
「最近あんまり悪い噂聞かないけど....?」
昨日上層部から京都高専に通達される。
『御三家加茂家、呪術総監部壊滅』
「────なにこれ?????学長....いない!?」
今日のお昼に通達が来る。いつの間にか学長がいなくなってる。
「禪院家の当主が話したいってさー」
「なんであんたが禪院家の伝言を私───」
五条家の当主である五条にそう言われて拉致される。
「いきなり呼んで悪いなぁ。悟くんから、君の話聞いて会いたい思うてたんよ」
「──何があったの!!!!!!!!!!?????」
禪院家の当主が待ち構えてた部屋に放り込まれる。意味がわからない。よく分からない。何も分からない。夢だろうか。きっと、夢なんだと思う。夢でも五条のやつはクズだった。
「え、あ、うん。元気やなぁ。お茶も用意したから、よかったら飲んでぇや」
「.........夢じゃない?」
「なんやろう。夢やなかったら、今君は禪院家の当主に対してようわからんことを叫んだんやけど、大丈夫やろか?」
「.........夢、がいい」
「いや、現実やからな。まあ、何はともあれ、おめでとうさん」
「え、何が.....ですか?」
「敬語やなくてもええよ、別に。なにがって、君の京都高専の校長就任に決まっとるやん。悟くんから聞いたんやろ?」
聞いてない。何も聞いてない。何も分からない。
「前学長は死んでもうたからなぁ。誰かええ人おらんかなぁ悩んどったんやけど、傑くんと悟くんが歌姫ちゃんは責任感あってええって推薦してくれたんよ」
「あのカスコンビ共.....」
「僕も生徒思いでええ先生って話は聞いとったから、歌姫ちゃん学長なってくれん?まあ、その場合は機構所属の呪術師になってもらうんやけどな」
「いや、私は今の立場が」
「まあまあ、よう考えた方がええよ。僕の組織は、ちゃんと見合った金銭と待遇を与えとるんよ。命かけてるのに報酬が端金なんてアホらしいやろ?」
「──給与20倍に負けた.....!」
「加茂家の次期当主──ちゃうな。現当主は五条家に押し付けれたし、加茂家と上層部の溜め込んでる資産丸ごと手に入った」
「上層部と密に関わっとった連中も排除できたし、少しくらい僕も遊んでええかな?」
「機構に所属はするけど、別に禪院家のやり方を是としているわけではないからね。呪霊の存在を公にするつもりなら、その時は僕が全力で止めるよ」
「現代最強術師が全力で止めに来るなんて、怖いなぁ」
口ではそう言いながら、僕は心の中で毒づく。
───休みをくれや。僕はここのところずっと働き詰めやったんやから。
「今回実際に顔を合わせてみて、君が悪人でないことはわかった。でも、君がやろうとしていることは性急すぎる。本気で行いたいなら、もう少しずつ──」
「うるさいなぁ。僕は説教なんて聞きたないんよ」
僕は僕の考え方を強要するつもりはない。目に余るようなことをせんかったら、理不尽な罰を与えるようなこともせん。
そもそもや。僕が嫌やと言おうが、結局僕が行動すれば呪術師も非術師も在り方を変えるしかないんや。強要するなんて、手間の無駄やろ。
「そっか。なら、よかった。それにしても、禪院家って本当に変わったんだね。この部屋に来るまで、すれ違う全員が明るい顔をしてたよ」
「──当たり前やろ。僕はちゃんと『当主』やっとんねん」
あのな、呪術師としては悟くんは最強かもしれんけど、当主としては二流....いや、三流以下やで?家の管理を全部一任して、自分はやりたいこと──教師の仕事に現を抜かす。
順番がおかしいやろ。当主の仕事を完璧にこなした上で、余った時間でやりたいことをやるんや。役割を果たせんのなら、自由なんて謳歌したらあかん。
まあ、他家のことやから口には出さんけどな。
「当主として頑張ってるのはすごいと思うけど、あんまり肩肘張らずにやりなよ。君はまだ幼いんだ。無理に大人になる必要はない」
──ああ、なるほどなぁ。
この人、教育者やわ。なんや、思ったよりちゃんと教師っぽいやん。ただの興味本位か娯楽でやってるのかと思ってたけど、ちょっと見直したわ。
でもなぁ、悟くん。
「──それを決めるのは僕や。僕がどうあるかは、全て僕が決める」
悟くんはな、五条家現当主、現代最強の呪術師である前に──『五条悟』という個の人間なんや。
僕はちゃう。
僕は禪院雅である前に、禪院家当主なんや。一人の人間である前に、僕こそが『禪院』そのものなんや。やから、無理に大人になるとか、そういう概念やない。それが僕に求められた役割で、僕が自分で定めた役目やから。
「──でも、ありがとうなぁ。悟くんが優しいんはわかった」
「っ....そっか。なら、よかったよ。もし今後、成長して高専に通う気があるなら、東京の高専に来なよ。僕が最高の青春を保証してあげるから」
「──幼くして禪院家の当主、か。しっかりしすぎてるね」
部屋を出て、廊下を歩きながら独りごちる。
彼は、確かに禪院家を変革した。けれど、その代償として自分自身の『子供時代』を捧げてしまった。
あのままだと、彼には近い未来に訪れるはずの、馬鹿らしくて輝かしい『青春』を楽しむ余裕なんて生まれないだろう。それは、教師としてあまりに悲しい。
(恵に合わせてみようか......いや、でももし万が一、相伝術式を疎むようなことになれば逆効果か)
せっかく傑も戻ってきたんだ。この歪な呪術界を、せめて彼を含めた子供たちが笑える場所に変えていかなきゃならない。
「少し、様子を見ようか」
僕は彼の──少年たちの未来を思い描きながら、賑やかになった禪院家の屋敷を後にする。