あかん。あかんわ、これ。
「──から。悩みごとがあれば、なんでも相談してね。先生が絶対に力になるから」
「ないんで、遠慮しときます」
中学にあがってからの担任が、若干熱血気質のある教師なんやけど。僕が登校する度に空き教室で面談させられて、面倒くさくてしゃあない。
「たとえば、給食のご飯で苦手なものがでてくるとかでもいいから。本当に小さいことでも、何か悩んでたり困ってることはない?」
僕がこんな対応をされとるんは、不登校気味やからや。当主の役目とか、教祖としての役目とか、色々忙しいから毎日学校に来るなんて無理やろ。
それに、本当は中学校なんて通わなくてもええんや。でも、義務教育やからしゃあなしで通ってる。
「ありません」
なんて答えても意味がない。
この教師がとってる手法自体は悪くない。小さい悩みから聞いて、信頼を得て根本の悩みを引き出す。
けどなぁ、僕が今悩んでるのはこの無駄な面談や。
それもちゃんと口に出して伝えてみたんやけど、学生の言葉なんて通じへんようでなぁ。『先生は雅くんと話せて嬉しいなぁ〜』なんて見当はずれなこと言いよる。
まあでも、今日のこの時間ももうすぐ終わる。座敷ちゃんが真希ちゃんか真衣ちゃんを呼びに行っとる。
「──帰るわよ、雅」
ガラッと扉が開くと同時に真衣ちゃんと座敷ちゃんが僕たちがいる空き教室に入ってきた。ようやくか、10分は待ったんやけど。
「わざわざ探してくれたん?ありがとうなぁ。ってわけで、僕は帰らせてもらいますね」
この教師は何回同じやり取りを繰り返せば、僕との面談を諦めてくれるやろうか。はぁ。学校にしっかりと来てるのに、とんだ罰ゲームやん。
「え、えぇ。2人とも気をつけて帰るのよ」
「まったく、あんたは毎回毎回先生に呼び出されちゃって。とんだ問題児ね」
「ありがとうなぁ。いつも助かっとるよ」
真衣ちゃんは成長するにつれて口が悪くなった。昔は『雅様〜』言うとったのに、今でもご覧の有様や。まあ、僕が気楽に話していいって言ったからなんやろうけど。
気にしてないよ、別に。真依ちゃんが心の底から、本心から僕を見下しているなら話は別やけど、そういうわけではないしなぁ。
こんな口の利き方をされたとしても、僕の格は下がらん。そこまで安っぽくない。
「べ、別に。あんたは当主なんだし、困ってたら駆けつけるのは当然でしょ。いちいちお礼なんて言わなくてもいいわよ」
「それは僕が決めることや。お礼の言えない人間なんて、かっこ悪いやろ」
それに、情緒不安定になるやろ。かなり前に忙しくて冷たく接っしたことあったけど、その翌日酷かったやん。
なにかする度にへりくだってへりくだって、その上に真希ちゃんの後ろから出てこんかったし、目も合わん。話もろくにできん。
あんな状態になるくらいなら、普段からちゃんと接した方がいい。まあ、元々これが普通の接し方やから意識しとるわけではないけど。
「雅様ならお礼を言わなくても素敵よ......」
「なんて?」
「....別に。なにも言ってない。そんなことより、真希はバスケ部の助っ人に行ってるから、今日は2人で帰りましょ」
「まあ、そういうとなら早く帰ろか。学校にいてもいいことないしなぁ」
天与呪縛が一般人の運動に混ざるのは反則やろ。
うちの中学には、有名人が3人いる。
1人目が禪院真希さん。文武両道で少し無愛想なところもあるけど性格も良く、周りから頼りにされることが多い人。
2人目が禪院真依さん。多分クラスで1番モテる子で、公開告白した3年生を振った後に毒舌で泣かせるオーバーキルをした人。
3人目が禪院雅くん。月に数回しか登校してこない不登校気味の男の子。学校では基本的に真依さんか真希さんと一緒にいて、2人以外とは話しているところを見かけない。噂では、どこかの宗教に入ってるとか。
何故、私がいきなり学校の有名人を思い出しているかというと──目の前にそのうちの2人がいるからだ。
「へぇ、見えとるんや。君、弱いけど呪力あるやん」
学校から家に帰る途中、街中にたまにいる幽霊から逃げていたところ、禪院雅くんがそのお化けを蹴ったらお化けが消えた。
何を起きたのか分からない。何を話しているかもわからない。そう、分からない。
「雅が話しかけてるのに....これだから、頭の回転が遅い女は嫌いなのよ。ちょっと、こんなのに構う必要ないでしょ」
く、口が悪いっ....!?
「あ、あの、ありがとう?違うクラスの三輪霞です」
「ええよ、気にしなくて。困ってる時はお互い様やろ」
「はいはい、終わり終わり。さっさと消えなさいよ、いつまで地面に座ってんの」
やっぱり口が悪いっ!?思ってた3倍悪い.....!?
「ごめんなぁ。真依ちゃんの言うことを気にせんでええよ。ケガとかしてない?」
「うん、大丈夫。ちょっと驚いて転んだだけだから」
優しいっ。真依さんに厳しくされた直後だからか、優しさがより一層染み渡るっ!
「さっきのが何なのか。そして、どうやったら祓えるようになるのか──気になるんやったら、禪院家遊びにきたらええよ」
「ちょっと、何言ってんの。まさか、こんなのをスカウトするつもり?これをスカウトするくらいなら、猫の方がまだ役に立つわよ」
よく分からないけど酷い言われようだ.....
「真依ちゃんは少しお口チャックしとこうなぁ。暇やったら、これから来てもええけど、どうする?」
に、睨まれてる。うんって言ったら舌打ちされそうなくらい睨まれてる......!
「あ、僕は先に帰るから、真依ちゃんは三輪さんの事案内したってーや」
「なんで私がそんなことを.....」
真依さんが話している最中に、雅くんは姿を消した。え、なんで。どういう仕組み。それより、さっきまで聞いてくれてた私の意思は?え?え?
「──白狐ね。チッ。不服だけど、あんたのことを家まで案内するわ。ついてきなさい」
『冥さん。僕の通ってる中学の三輪霞の情報ある?』
『学校の人間は君に関わる可能性があるからね。一応、用意はしているさ』
『100万でええやろ?情報送ってほしいんやけど』
『ふふふ。まさか、ついに君にも色恋の話が出てきたのかな?』
『ちゃうよ。色々あんねん、僕にも」
『さて、冗談はこの辺りにしておこう。情報は君の端末に送っておいたよ』
『仕事が早くて助かるなぁ。感謝しとるよ、冥さん』
『暇があれば私の家に顔を出すといい。君が欲しそうな情報が幾つかある』
『そのうち行かせてもらうわ』
冥さんとの電話を切る。それにしても、思ったよりも身近におったなぁ。呪力の形が類似している人間が。
「──生前サボってた分、死んだあとくらい役に立ってもらわんとなぁ」
そやろ、前当主。あんたの術式はそこそこ強いんやから。
「ふんふん。学校に隠れてバイトをしていて、実家は貧乏。性格は──」
大体わかった。これやったら、説得も難しくなさそうやな。
「僕に出会ったことが幸運であったか不運であったか──この後の結果次第やろうなぁ」
「──いいのか。失敗したら壊れるんだろ」
「ええよ、壊れたらその時はその時や」
僕は自分が善人だなんて、これっぽっちも思っとらん。僕が裏でやっとることがバレたら、糾弾されてもおかしくないやろな。
「それに、失敗せんよ。実験は充分出来たし、自信もある」
僕が三輪霞に行おうとしていることは、呪具からの術式の抽出。そして、それを術師に埋め込むこと。
「お前がそういうなら俺は何も言わん」
今まで色々実験してきた。始まりは前当主と扇のおっさんを呪具にしたことやった。
「いつも通り、この地下室には誰も来んようにしてなぁ。まあ、まずは三輪霞がこの話を受けるかどうかやけど」
僕は思ったんよ。人を選んで呪具にすればいいんやないかって。流石に禪院家にいる術師や他家の術師の死体を利用するなんてしたらあかん。
「全部説明してうけさせるのか?」
でも、殺すしかない罪人たちやったらどうやろうか。そや、僕は呪詛師達を捕まえ、殺して呪具にしてきた。
「まさか。詳細なことは話さんよ。このことを知る人間を増やす訳にはいかんからなぁ」
どいつもこいつも大したことがなくて、良くて2級呪具しか作れてない。やっぱりある程度の実力がないと1級呪具にはならんかった。
ああ、話が逸れたなぁ。
そんなことを続けているうちに、死体を呪具にできるんやったら、呪具からその特性を抽出して人に埋め込むことができるんやないか──そう思った。
これは本当に難い話しやった。そもそも、呪具が生前の術師の術式を引き継ぐようなことが少ないから試せる数が限られる。
まあそれでも、僕は呪詛師を狩って実験を続けた。その結果や、2級以下の呪具では術式の抽出が出来んことがわかった。
それに気づくまでで、2級呪具を20は壊した。勿体ないことしたなぁ。まあ、呪詛師を呪具にした数の方が多いから、2級呪具はトータルプラスなんやけど。
本当に大変なのはここからやった。本当に1級呪具を実験に使わないあかんのやから、2級呪具と違ってホイホイと壊せなくて困ったわ。まあそれでも、10個くらい壊した時に大体の条件が判明した。
成功例もでてきた。その後殺したけどなぁ。やって、呪詛師に力を渡して解放してもいいことないからなぁ。始末するやろ。
話がまた逸れた。条件は3つや。
1つ目、生前の術式が呪具に引き継がれており、かつ1級以上の呪具であること。
2つ目、生前の術師と呪力の形が似ていること。
3つ目、術式を所有していない術師であること。
この条件を全て満たしていると、呪具から抽出した術式を術師に移すことができる。
つまりや、三輪霞はこの条件を全て満たした──禪院直毘人の呪具の術式を引き継げる条件を。
「──成功するとええなぁ」
失敗したら呪具が壊れるだけではなく、術師まで死んでしまうんやから。あんまり呪術師候補を殺したないよ。
まあ、あの程度の呪力量で術式がないんやったら居ても居なくても変わらんけど。やから僕も、今回の事に及ぼうとしとるんやから。
「お、大きい....!」
「当たり前でしょ。禪院家なんだから。あなたたちの家と一緒にしないで」