「呪霊・呪術師と階級・呪詛師・名家と組織について。簡単な説明にはなったけど、不明点はないかな」
「ううん、全然っ!分かりやすかったよ!」
お世辞抜きで本当に分かりやすかった。同い年とは思えないくらい教え上手だ。
ただ.......
「あんたの時間をこんなのに使うとか無駄すぎるでしょ。勿体ない。馬の耳に念仏って言葉をしらないの?」
こんなの呼ばわりっ....!
禪院真依先輩の嫌味が酷いっ!雅くんが説明している最中にも、合いの手代わりに嫌味を挟んで酷かった。
「真依ちゃん、あかんよ。僕の同級生に意地悪せんといてや。僕が招待したお客さんなんやから」
「はぁ?こんなのに気を遣う必要なんて、」
「真依ちゃん。何回僕に同じこと言わせるん。言うこと聞けんのなら、部屋から出ていきいや」
黙った。雅くんが注意したら、さっきまでスラスラと嫌味を話していたのにピタッと止まった。
心做しか私のことを睨んでいる気がするけど、多分気のせい。気のせいであってほしい。
「今更黙っても遅い。庭でも散歩して頭冷やしてきぃ」
「....黙ってるから」
え、え〜〜〜〜〜〜〜〜!!可愛い。注意されてしゅんとしてる真依先輩可愛いっ!
「また、僕に同じこと言わせるん?」
き、厳しい。睨んだり声を荒らげて怒ったりしてるわけじゃないのに、空気が重たい。
「....わかったわよ」
そのまま襖を開けて真依先輩は部屋から出ていった。
「ごめんなぁ。悪い子やないんやけど、ちょっとツンツンしてるんよ」
「私は全然大丈夫だよ。むしろ、学校の有名人と話せて楽しかった部分もあるし」
こんなことでもなかったら、話す機会はなかっただろうから。怖かったけど。
「それで、呪術師になるつもりはあるん?話した通り、命の危険はあるけど、その分お金を稼ぐことはできる」
「もちろん、家族を守る力を手にすることもや。僕は君の意志を尊重するけど、何かあってから後悔しても遅いってことだけは認識しときゃ」
私の答えは決まっている。雅くんが言うように、家族が呪霊の被害にあってから後悔するなんて絶対に嫌だ。
それに、何より──お金が稼げる。今やってるバイトよりも、もっともっと沢山稼げる。
迷う理由なんてない。
「うん。私は呪術師になる。だから、これからよろしくね」
そう言いながら、雅くんに手を差し出すとその手は握られた。うっひゃーーーっ!私、学校で1番人気の雅くんと握手してるっ!
「──流石や。僕が見込んで声をかけただけのことはある。ほな、僕はちゃんと全部包み隠さずに説明したからなぁ。後悔せんといてや?」
「え、うん....?」
瞬間、首の後ろに衝撃を受けた。私はそのまま緩やかに意識を失って、目の前にいる雅くんへと身体をあずけることになった。
『人の子。寺子屋の友人を実験台にするなんて、お主も中々の悪人じゃ』
「ちゃんと説明したやん、命の危険があるって。危険なんが呪霊だけやと勘違いしたんは、この子や」
1番危険なんは、呪霊やなくて同じ人間やのに。純粋すぎたら長生きできんよ。
『くふふふっ。詭弁もいいところじゃな。ほれ、早う地下室に運ばないと勘づかれるぞ。わらわはそれでも構わぬが』
「僕が構うわ。狐ちゃん以外の呪霊にバレたら困ったことになるやろ。早く運んでや」
『稲荷寿司10個じゃ。忘れるなよ』
「何個でもええよ。目を覚まされる前に終わらせなあかんから急ごか」
真依ちゃんがおったら何も出来んから追い出したけど、後でちゃんとフォローせなアカンなぁ。
地下室に行くため、僕たちはパパの部屋に来た。パパの部屋の掛け軸の後ろに地下室の扉があんねん。僕専用の地下室や。
僕の部屋に作らなかったのは、あれや。来客が多いとバレるやろ。やから、パパの部屋がちょうどええんよ。人が訪れることはあれど、部屋に入れることはないから。
「それが、直毘人の術式を受け継ぐのか」
「物やないんやから。30分で終わらせるから、この部屋に接近禁止令だしといてーや」
パパにそれだけ伝えて、地下室への三輪ちゃんを担ぎながら地下室の階段を降りる。血の匂いがつかんように、わざわざ掃除したんやから感謝してほしいなぁ。
暴れても問題ないように手錠を手足につけてっと....これでええ。まあ、暴れるような痛いことはせんけど。念の為や。何があるか分からんし。
『ほぉ、そちにそのような趣味があったとはな』
「からかわんといてや。僕にそんな変態趣味はない」
そんなことより、早く始めよか。
「成功させてや、狐ちゃん。いつも通り始めるわ」
『──お主の身体を、妾へ捧げよ』
狐ちゃんが笑う。まあ、テンション上げてくれるんやったら、成功率もあがるし、それでええわ。ちゃんと身体返してーや。
『術式解釈拡大・呪霊操術』
ああ、入ってくるのを感じる。狐ちゃんの魂が、僕の身体に溶け込んだ。
「始めよか、狐ちゃん」
呪霊操術の解釈を拡大し、呪霊が人を操る術式でもあるとした。今の僕は口以外は、全部狐ちゃんの意思で動く操り人形や。この状態だと思考は共有される。
『──ふむ。では、希望通り始めてやろう』
三輪ちゃんの人差し指を少しだけ切って血を呪具に流す。投射呪法を引き継いだ、使い道のないひょうたん型の呪具に。
これがちゃんとした武器型の呪具やったら、あえてこんなことせんでもよかったのに。無駄に手間をかけさせられたわ、本当に。
『いける。問題なさそうだ、人の子』』
「そらよかったなぁ。なら、さっさと終わらせよか」
僕にこの作業はできん。やって、この呪具は道具であって呪霊ではないから。術式の抽出なんてできるはずがないやん。
でも、解釈の広がった呪霊操術と、僕の呪霊の協力があるなら話は別や。呪具は道具ではあるが、この呪具は元は人や。
呪霊が人を操る、それが僕の呪霊操術の一面でもある。道具であると同時に、この呪具は人や。その理屈が通じたからこそ、僕は諦めんかったんや。
『──もう少しじゃ』
もちろん、僕の身体に入れんくても作業はできる。やけど、その場合成功率が著しく下がる。やから、僕の身体に受け入れて作業してもらっとんねん。
肉体があるのとないのでは、能力に天と地ほどの差が出るからなぁ。仕方ないんよ。
『できた。終わったぞ、人の子』
「いつもありがとうなぁ、感謝しとるよ」
三輪ちゃんは目を覚まさんかったな。目を覚ましたら、縛りで記憶を消させるつもりやったから、運がいいみたいや。
「んっ.....」
「大丈夫?体調悪いん?」
狐ちゃんに協力してもらって、三輪ちゃんへの術式移行は問題なく終わったはずや。
「──ハッ!迷惑をかけてごめんなさい!」
「迷惑なんかやないよ。元気なら良かったわぁ」
勢いよくバッと起き上がって、流れるように頭を下げられた。別にええよ、謝らんくて。僕が狐ちゃんにお願いして気絶させたし。
「そやそや、三輪ちゃんが寝てる間に少し探ってみたんやけど、三輪ちゃん術式あるわ。上手く使いこなせたら、1級呪術師も目指せるんやない?」
「本当にっ!!!?」
「本当や。嘘ついてもしゃあないやろ?」
これはあれやな。金に頭が支配されとる。まあ、これが目的で金銭面についても説明したから作戦通りといえばそうなんやけど。
ちなみに給金に関しては大体こんな感じや。
3級以下は500万円~
2級(準2級含む)は1千万円~
1級(準1級含む)は5千万円~
特級は億以上。まあ、結局頑張りと成果によるんやけど。実際、2級でも1級より稼いどる術師もおるし、やる気次第やな。冥さんとかは例外中の例外やしな。
「5千万円以上、それだけあったら.....」
「気が早いなぁ。使いこなせたらな話や」
「庭にいるガタイのいい半裸のおっさんに、投射呪法について教えてほしいって話しかけたらええよ。話は通しとるから。刀も渡すよう言うとるから、受け取ってーや」
「どうして、初めて話すのにこんなによくしてくれるの?」
ああ、もっともな疑問やな。そりゃあ、この術式を使いこなしたら大きな戦力になるからに決まってるやん。
「僕が、君の力になりたいと思ったから。それやったら、あかん?」
当然そんなこと言わんよ。建前と本音が大事なんはどこでも同じやろ。
「私の力に。それって、もしかして──ううんっ!なんでもない!ごめんなさいっ!」
「....あー、そういう意味ちゃうんやけど。まあええわ。勝手に勘違いしたんやから、僕は悪くない」
さっきから勢いがすごいなぁ。部屋から飛び出していきおった。さて、やるべきことはやったし、冥さんのところ行くとしよか。
真依ちゃんへのフォローはその後でええわ。
「冥さんが呼び出すってことは相当な情報やろうし、期待しておこか」
「1つ目に、呪詛師の情報だ。行動範囲をまとめてある」
「ふぅん」
へぇ、いいやん。素材に困ったらまた狩りに行こか。けど、このくらいの情報やったら、わざわざ僕を直接呼ぶ必要はなかったんやない?
「2つ目に、五条家が、君が機構本部に死亡したと報告している呪詛師達について調べているみたいだ。私にも依頼が来たが──どうする?」
どうするって。いくら金を払うかってことやろ。どないしようか。冥さん経由でなくても、詳しく調べたらバレるはずや。
「依頼したんは、悟くんやないやろ。あそこの家を実際に舵とってるんは前当主や。ありのまま伝えたらええよ。その申告は虚偽やってな」
だとしても、問題はない。僕が呪詛師を呪具化しとるところまでは辿り着けんし、この件はどうせ悟くんに黙って探ってるんやろ。
五条悟が出張って来ないのであれば、五条家なんて怖ないわ。仮にしゃしゃってくるのであれば──その時は戦争や。まあ、今の時点でそないなことやりたないけど。
呪術師同士で大規模な殺し合いなんて、命が勿体ない。
「ああ、わかったよ。では、五条家からの依頼は受けることにしようか」
「好きにしてええよ」
一体いくら積まれてるん。そない笑みを浮かべて。
「これが最後の情報だ。君の異母兄弟が、五条家に育てられている。歳は君と同い年で、名前は伏黒恵。術式は──十種影法術。相伝の術式だ」
「──なるほどなぁ。それは、僕を呼び出して話をするわけや」
僕が悟くんと知り合ってから数年経つけど、そないな話は一回も聞いてない。
ハンッ、口では大層な綺麗事を述べておいて、結局僕のことを信用してないってことやな。
別にええよ。悪いことやないし、敵対している家同士の情報の秘匿は当然のことや。それに、禪院家の相伝術式だろうと関係ない。
禪院の名前を捨てて逃げた負け犬の子どもや。劣悪な環境を正すのではなく、逃げることを選んだ敗北者の子どもでしかない。
相伝ってだけで妬んだり、害を及ぼすんは自分に自信のない二流がやることや。まあ、それでも──知ることができてよかった。
「必要なら情報はあるが、いくら払う?」
「冥さん知っとる?今の禪院家の2つの家訓」
ああ、僕がその情報を買うと思ってるみたいやな。買わんよ、そんな情報。わざわざ禪院家に引き戻す必要も、殺す理由もないんやから。
『門を掃き、福を招け。穢れし心に──居場所なし』
『禪院家に非ずんば呪術師に非ず。呪術師に非ずんば人に非ず』
「2つ目の家訓な、これは昔から続いてるもんや。この家訓を全肯定するわけやないけど、その伏黒恵くん?が、禪院家ではなく五条家の庇護を得ている時点で──相手にする価値もない」
流石に自分が禪院家の血筋であることくらいは知っとるやろ。もし知らんのやったら禪院家に戻る機会を与えてもええけど、まあありえんやろ。
「ふふっ、そうか。調べた情報が無駄になったみたいだ」
「気持ちだけもらっとく。それよりも、僕が頼んでる件──よろしく頼むわ」
冥さんには、シン・陰流の当主を探してもらっとる。ちょっとばかし、大切な話があってなぁ。
シン・陰流を修めてる呪詛師から聞き捨てならん情報を聞いてしまったんやから、やるしかないやろ。まさか、呪術界にまだ規模の大きい腐敗した組織があるとは思ってなかったわ。
「ああ、何か分かればすぐに連絡するよ。せっかくだから少しお茶でもどうかな?」
「──はぁ。悟くんに何の目的があって冥さんにこないなことお願いしてるかは分からんけど、ええよ。少しだけなら」
冥さんが僕をお茶に誘うんは、悟くんからの依頼で、僕と30分以上お茶をしながら会話をしたら報酬が貰えるらしい。冥さんがそう言ってた。
何が目的かは分からんけど、冥さんは金が尽きない限り僕の味方や。雀の涙程の報酬渡しても、寝返らんよ。
「さて、最近の調子はどうかな?」
「そやなぁ、悪ないよ。冥さんも、すこぶる調子が良さそうやな」
「──センスがある。お前なら、投射呪法も使いこなせるようになるだろう」
「はいっ、ありがとうございます!......あ、あの、質問なんですけど」
「なんだ」
「なんで24fpsなんですか?それ以外だとダメなんですか?」
「......ダメかどうかは、自分で試せばいい」
(24fps以上は不可能だろうがな。直毘人が自身の術式を研究した結果がこの数値なのだから。まあ、あえて固定観念を植え付ける必要はない。試してみて無理だと分かれば諦めるだろ)
「......ぐすっ」
「あー、あれだ。虫の居所が悪かったんじゃねぇか?」
「きっと、私の物言いが本当に不快だったのよ......!そうじゃないなら、雅様があんなこと言うはずないもの!」
「そうか。なら、帰ってきたら謝ればいいだろ。私も一緒にいてやるから」
(他の人間と接するように接していいって言ったのは、雅のやつだ。公式な場でさえちゃんとしてたら怒ることはなかった。それが今日は注意して部屋から追い出した。なんか追い出したい理由でもあったのか......?)
「......うん。あんたも一緒に謝りなさい」
「いや、それはおかしいだろ......?」
三輪ちゃん