僕は強くない。でも、僕は強い。   作:Mr.♟️

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あかん。これ、あかんわ。

 

冷や汗が止まらん。心臓が早鐘を打っとる。目の前にいるのは、昨日まで泥水啜ってたガキと──規格外の化け物や。

 

「随分と遅かったやん、直哉くん。まあでも──会いに来てくれて嬉しいなぁ」

 

雅が笑うとる。なに俺の前で笑ってんねん。

 

「...久しぶりやな。少しみんうちに随分変わったやん」

 

平静を装う。声が震えそうになるのを必死で抑える。なんやねん、その化物。どないなっとんねん。

 

これのどこが1級やねん。お前、どんなクソふざけた縛り結びよった。1級が特級に、それもこのレベルに昇格するなんてありえへんやろ。

 

「どうしたん。今日は随分と行儀いいやん。前は『同じ空間で呼吸すんなや』とかいってボコしてくれたのに」

 

「昔のことやん。水に流しいや」

 

....殺れるか。雅本体は敵やない。栄養失調で痩せ細った貧相なガキや。一撃で殺せる。

 

問題は後ろのアレや。術師が死んだ時の呪霊の挙動は『消滅』か『暴走』。

 

あんなんが暴走したら禪院家は終わる。悟君か甚爾君くらいしか止められへん。

 

──まあ、ええわ。そんなん、殺した後に考えたらええ。

 

誰か来る前に殺さな。この状況を見たら、雅を当主に持ち上げようとするカス共が出てくるやろ。

 

殺せるかどうかやない。殺さなあかん。今ここで、確実に。

 

「──僕なぁ、直哉くん嫌いやねん。直哉くんだけやない。この家で偉そうにしてる人間全員嫌いやねん」

 

雅が淡々と語り出す。

 

「力がなければ考える頭もない偉そうなカスの集まり。それが禪院家や」

 

「ハッ、まんまお前に当てはまるやん。力がないから倉庫に追いやられて、考える頭がないから俺に歯向かう。そのくせ、態度と言葉だけは一丁前やな」

 

挑発に乗るなや。冷静になれ。いつ仕掛けるかや。

 

呼吸を整えろ。画角を決めろ。タイミングさえ間違えなかったら──殺せる

 

「同じにせんといてや。強者相手にはしっぽを振る負け犬たちと、誰が相手でも態度を変えへん僕。全然違うやろ」

 

雅が一歩、前に出た。

 

「──特に直哉くんなんて、典型的な負け犬やん。僕の呪霊が強いから、普段みたいに偉そうにして僕を攻撃できてない。普段やったら、もう腕の1本でも折ってる頃やろ?」

 

2本とも折っとるに決まってるやろ。調子のんなや、ドブカスが。

 

「そんなんやから特級になれないんよ。所詮直哉くんは、弱者に威張り散らすのが限界の──小物やから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ブチッ。

 

 

何かが切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

調子のんなや、お前。いつでも殺せんねんぞ。ただ俺は後ろの化け物を警戒してるだけで、お前を認めてるわけでもビビってるわけでもちゃうわ!

 

思考が加速する。視界をフレームに分割する。

 

投射呪法発動。狙うは雅の首。最短距離で──

『虐めようとした』

 

──は?唐突に聞こえる鈴を転がすような、幼い、不気味な声。

 

雅の背後にいた呪霊がいつの間にか消えて....俺の前におる。

 

「ッ、ガ、は....ッ!?」

 

首が、締まる。

 

息が、出来ん。

 

視界が歪む。

 

いつ、いつ動いたんや。何も見えんかった。俺の術式発動より速い?動きを作る隙さえなかった。

 

なんやねん、何やねんお前らは....!

 

術式を発動しようとした瞬間、首に加わる力が強くなる。クソがッ....!お前近づいてこいや!なに自分だけ安全圏の距離とっとんねん!

 

「直哉くんって凡人よな。弱者をいじめて、下らない伝統を是として、強くなるために代償を払うこともせん。ほんま、甘ちゃんや」

 

「っ、ドブ、カスが.....!なに、偉そうに、上から──」

「自分で靴も履けん赤ちゃんより上やろ」

 

──舐めとんか。女なんて男に従うくらいしか脳ないやろ。女は男の3歩後ろを歩いてればええねん。

 

履けんのやない、履かせて名誉を与えてやったんねん!!

 

「僕な、直哉くんのこと嫌いやけど殺したくないねん。やけど、ケジメは必要やろ?」

 

「『今まで僕みたいな雑魚が見下してごめんなさい』言うたら見逃したってもええよ」

 

───死ねや、ドブカス。

 

誰がお前なんかに謝るんや。縛りや。縛りを結んだる。今ここでこいつを殺せるなら、多少不便でもしゃあない。

 

『動きを作る時に失敗した際の硬直時間を2秒に』

『戦闘において武器を使うことを禁止する』

 

殺したる。もうええ。お前だけは殺したるからな。フレームを作れ。最高速で、心臓を抉る──!!

 

「投射呪法──」

 

思考の中で世界が止まる。勝った。

 

 

 

 

 

『──なんで、虐めるの?』

 

 

 

 

 

 

 

「アホやな。蛮勇と勇気は別もんや──ありがとうなぁ、座敷ちゃん」

 

『私、偉い?』

 

「偉いも何も最高やん。僕、最後の直哉君の動き見えんかったし。座敷ちゃんおらんかったら死んでたわ」

 

『約束破ったらダメだよ』

 

「好きなだけおはぎでも大福でも用意したるよ。まあ、諸々終わらせたあとやけど。行こか、本邸に。僕が当主になるために」

 


 

「──パパ。最初に仕掛けてこんと、後悔することになるで」

 

俺は震えた。恐怖ではない。歓喜だ。ここまで、ここまで成長したか。

 

雅が持っていたのは1級の呪霊玉が一つだけ。お世辞にも強い呪霊ではなかった。だが、それをこうまで昇華させたのか。

 

背後に佇む童の姿をした特級呪霊。その実力は、あの五条悟にも引けをとらんだろう。雰囲気がまったくもって別物だ。

 

「何見とんねん。なんや、見捨てたガキに殺されるんが怖いん?なっさけないなぁ」

 

「死ぬのなど怖くない」

 

ああ、怖くない。ただ妻の元に逝くだけだ。

 

この最高傑作に──息子の手で殺されるのなら、それも悪くない。

 

「やったら、かかってきたらどうや。先手は譲ったる言うとんねん。直哉くんも扇の爺さんも、当主の直毘人でさえ先手で攻撃しよったで?」

 

「断る」

 

なぜ俺が攻撃する必要がある。

 

その口ぶりから推察するに、お前はすでに次期当主筆頭の直哉を殺し、プライドだけは一丁前の扇を殺し──更には速の直毘人まで手にかけた。

 

少し見ぬ間に、これほどまでに化けた息子。

 

俺を殺せば、お前が名実ともに禪院家当主だ。他に継げる者はいない。

 

「話が通じんなぁ。かかってこい言うとんねん。それともなんや、今更父親風でも吹かせよう言うん?気色わるいなぁ」

 

「ああ、そうだ。父親風を吹かせている....あの劣悪な環境でお前は生き残り、強大な力を手に入れた。『禪院家に非ずんば呪術師に非ず 呪術師に非ずんば人に非ず』だ」

 

俺は雅を見据える。

 

「呪霊操術を使えぬお前は呪術師ではなかった。呪術師でないお前は人ではなかった。だが、今の──その特級を使役するお前は、これ以上ない最高の呪術師だ」

 

才がある。脳がある。そして何より、底辺の『飢え』を知っている。

 

「──舐めとるん。そんな下らないクソみたいな考えのせいで、僕を見捨てて倉庫に追いやったんか?」

 

「お前を次代の当主にするためだ。お前が成長した時に苦労しないためだ。身をもって味わったはずだ、差別というものを、理不尽というものを」

 

自らが泥水を啜り、底辺を這いずった人間がトップになった時、組織は強くなる。

 

温室育ちの直哉では無理だった。プライドだけの扇には希望さえなかった。だが、お前なら、禪院家を間違いなく他の家よりも高みへ連れて行ける。

 

これが、俺なりの英才教育だ。

 

「.....そら、随分とイカれた教育方針やな。吐き気がするわ」

 

雅の顔が冷徹に歪む。だが、俺に悔いはない。

 

「俺はこの方法しか知らん──久しぶりの息子との会話も楽しめた。さあ、殺れ」

 

俺は目を閉じ、抵抗の意がないことを示す。介錯を待つ武人のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....」

 

しかし、いつまで経っても衝撃は来ない。

 

「──あかんなぁ。パパにはもっと苦しんでもらわなあかん」

 

目を開けると、雅が俺を見下ろしていた。

 

「楽に死ねる思うたらあかんやろ。死んで逃げるなんて許さへん」

 

「.....なんだと?」

 

「これから僕が当主になる禪院家を支えるんや。奴隷のように働き、犬のように僕に従うんや」

 

雅は、ニタリと笑った。俺の息子は、こんな風に笑うのか。こんな風に人を見下ろすのか。

 

「息子に残りの生涯仕えるなんて──死ぬより屈辱やろ?」

 

お前はどれだけ孝行息子なんだ。屈辱なわけがないだろ。俺の息子がお前でよかった。

 

「残りの人生をお前の作る禪院家のために捧げると誓おう」

 

「これからの禪院家の家訓は『門を掃き、福を招け。穢れし心に──居場所なし』や。従わんカスはパパが殺したらええねん」

 

「御三家はどうせどの家もクズやねんから、禪院家は一抜けしよか。クズ御三家トップは加茂家と五条家で争えばええねん」

 

「他の家なんて古びた家訓と共に滅びたらええんよ」

 


 

あっかーん。

 

どないしよう。早めに新しい呪霊を使役せな、不安でしゃーないわ。

 

というのもや、僕の唯一の手持ちである『座敷童子』は、完全に自身の意思で動く。つまり、必ずしも僕の命令を聞いてくれるわけではないんよ。

 

座敷ちゃんが僕のために動くのは『僕が攻撃されそうな時』『僕が虐められそうな時』だけ。これは約束してくれた。縛りは結んでくれんかったけど、まあ信じて問題ないやろ。僕が死んだら座敷ちゃんも消滅する可能性はあるからな。

 

でも逆に言えば、それ以外の時は座敷ちゃんの意思次第。

 

『攻撃して』言うても、相手が戦意喪失してたら『──イジメないって言ってるよ?』とか言うて攻撃やめる可能性がある。

 

完全に言うことを聞いてくれるなら、パパも殺しとったのに。まあ、もうええけどな。死ぬまでこき使ったるから。

 

はぁ.....それにしても、もうしんどい。

 

当主としての仕事、面倒くさすぎるやろ。山のような書類をなんで僕がやらなあかんねん。僕まだ7歳やで?遊び盛りなんやけど。

 

おまけに、適度に座敷ちゃんの機嫌もとらなアカン。

 

呪力消費したくないから召喚やめたくても、本人が『ここ、綺麗で居心地いい』言うて重圧かけてくるし。

 

いや、無理やり戻すことはできるんよ。でも、そんなことしてヘソ曲げられて、次召喚した時に『ぷいっ』てされたら僕が死ぬやん?

 

せやから僕は今も、目の前でおはぎを頬張っとる座敷ちゃんを現界させ続けなあかん。

 

「なぁ、座敷ちゃん、それ美味い?」

 

『ん、おいしい』

 

「.........そら良かったな」

 

あーあ、無駄な呪力使わされとるなぁ。僕の呪力量が規格外じゃなかったら血反吐吐いてるで、ほんま。

 


 

挑発していた理由:虐め認定されないと座敷ちゃんが動いてくれないため。

 


 

おはぎを貪る座敷ちゃん

 

 

【挿絵表示】

 

 




やだよー、直哉くんもっと書きたかったよー。
ドブカスラッシュ書きたかったよー。
成長した真希真依にボコられる姿書きたかったよー。
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