クソッタレ。バカみたいに書類が溜まっとる思っとったけど、前当主がサボってたからやないか。おかしいと思ったんよ。書類の日付が明らかに古いのが混ざっているからなぁ。
家中改革も楽やないなぁ。
「そろそろ休め。無理をしすぎだ」
「何言うとんの。自分のことは僕が1番わかっとる。それに、パパが僕の体調気遣う暇ないんちゃう?」
3ヶ月前に天逆鉾を探すように頼んだやん。躯倶留隊動員許可もだしたったのに、いつまで時間かかってるん。
「....一応、五条家が持っているであろうことは判明した」
書類を捲る手を止める。なんやねん、それ。
「どない経緯でそうなったん。天逆鉾は...なんやっけ。直哉くんが大好きやった甚爾君?いうんが借りパクしたんやなかったん?」
「甚爾は馬鹿らしい懸賞金話に乗っかって五条悟に殺された。調査の結果その可能性が高い。そのまま天逆鉾は五条悟が盗んだと....思う」
「推測が多いなぁ。まあでも、僕もそうやと思うわ。あんな使える特級呪具を放置するアホおらんもん」
「五条悟が介入している以上手を引くしかない」
「いつから禪院が五条の顔色を伺うようになったん。自分がどれだけ情けないこと言うてるかわかっとる?」
五条悟。現代最強の呪術師。流石に相手と時期が悪いなぁ。家中をある程度まとめて安定させてからやないとあかん。5年──いや、3年もあればええやろ。天逆鉾は3年後に返してもらおか。
「もうええよ、部屋から出ていきい。僕はまだ書類仕事残っとるさかい」
「だが、流石に無理を」
「くどい言うとんねん。当主命令や、とっとと去ねや」
「......わかった。だが、せめて食事だけはとってくれ」
そんな暇ないねん。見とったらわかるやろ。気が散るからさっさといなくなれや。
『ご飯もってきた』
「なんや、もう禪院家巡りは飽きたん?どの部屋行っても綺麗やと思うで」
『門を掃き、福を招け。穢れし心に──居場所なし』が家訓やからな。要は家中常に綺麗に保てってことや。座敷ちゃんを不機嫌にさせんようにな。それと、今までみたいなドブカスは家には不要いらん。
というか、まだ暫く遊んできてもらわんと困る。座敷ちゃんの相手する暇がないくらい忙しいんや。
『飽きてない。でも、ご飯持ってきた』
「ありがとうなぁ。けど、僕はええわ。誰か他の人にあげ」
『受け取らないの?──本当に?』
あかん。なんで僕に重圧かけとんねん。善意の押し売りが過ぎるやろ。しかもなんや、持ってきてるのがおにぎりか。
おにぎり嫌いやねん。食べると土と草の味が口の中に広がる気がするんよ。おにぎりのお陰で生き延びたかもしれんけど、お陰でおにぎりが嫌いになったわ。
「後で食べるから置いといてや」
『うん』
座敷ちゃんの機嫌を損ねすぎんのも問題やし、しゃあないから食べるか。
「........しょっぱいなぁ」
思い出補正入っとったわ。草の味も土の味もせん。塩の塊を僕は今食べさせられとる。誰や、これ作ったの。絶対に倉庫の前におにぎりを置いていってくれたやつやろ。名乗り出んから探すのやめたんよな。
朧気だった。
何かをしたかったわけじゃない。何かを考えていたわけじゃない。目に入る人間をただ襲っていた。
ゴリラみたいな顔をした人間に殴られて、たくさんの人間に囲まれて攻撃された。だから抵抗した。頑張ってやり返した。でも、敵わなかった。
──気づけば、私は汚くてボロボロの倉庫にいた。意識がはっきりとしていた。思考することが、考えることができていた。だからか意図せず言葉を紡いでいた。
『.......ここ、汚い。きらい』
『ぼ、僕が....僕が君を取り込んで召喚した術師や。情けない話やけど、僕のことこれから守ってくれん?』
子どもがいた。痩せ細っていて、見るからに不健康な子どもが必死な目をして私を見ていた。
「僕を信じてくれれば、綺麗な部屋で過ごせるって約束したるから」
私はその目を知っている。私はその飢えを知っている。生に執着している瞳だ。死にたくなくて足掻いている表情だ。
『──口減らし?』
──私はそれを知っている。
「あ、違う。あなた、ゴリラの後ろで逃げ回ってた子?」
朧気な記憶の中にこの子どもの記憶があった。後ろの方で動き回ってた。意識がはっきりとしていない時の私と会ったことがある。生贄として戦わされ、今度は口減らしのために殺されそうになっている。
「辛いよね。悲しいよね。土美味しくないよね」
わかる。知っている。それは酷く辛いことだと。
この子どもを助けてあげなければいけない。
「死にたないんや。草でも土でも喰らうたるよ──でも、明日からはちゃう。君が協力してくれれば、僕も君も美味いもん食えるて約束する」
──?この子どもはもしかしたら、口減らしで放置されていたのではないのかもしれない?
口減らしじゃなかった。呪術師だった。私は呪霊操術?とかいう術式で召喚されたらしい。
ここは良いところだ。どこにいっても綺麗で、どこにいっても歓迎してくれる。たまに攻撃してくる人もいたけど、物言わぬ肉塊になった。
子ども。雅は忙しそうにしている。召喚したままにしてほしいというわがままを聞いてもらっている以上、これ以上わがままを言うのは心苦しい気がしなくもない。
雅は勤勉だ。常に難しそうな紙の束に目を通して、自分よりも年上の人間たちに指示を出している。2、3日徹夜で寝ていないなんてこともザラにある。
心配だ。何かしてあげることはないだろうか。そうだ、ご飯をもっていってあげよう。人は食べないと死ぬ。食べれば生きる。
炊事場を見つけた。誰かがいる。ご飯を分けてもらおう。
『......今どきの子どもはこんなにしょっぱいのが好き?』
禪院雅。私たちの1つ年下で、つい1年前までは私たち以上に虐められていたやつ。私達もそりゃあ酷い扱いを受けてたが、あそこまでじゃない。男尊女卑ってだけで飯とかは食えてたしな。
そんなやつが今や禪院家当主だ。皆が口を揃えて言う。禪院家改革の時だと。禪院家の全員が期待している。五条悟が生まれた日に変わってしまったパワーバランスを──禪院雅がひっくり返すと。
期待するのもわかる。手持ちの呪霊は全て特級呪霊。今現在確認されている手持ち呪霊は『座敷童子』『白狐』『八咫烏』。
座敷童子はよく屋敷内をウロウロしているらしい。私には見えねぇが、甘いもの、特に和菓子が好きらしい。それと、座敷童子に『ちょうだい』って言われた時は断ったらダメなんだとか。
白狐は人の形をしている時と狐の形をしている時があるらしいが、基本は人型らしい。屋敷内で出会うことがあれば平伏しないとダメなんだと。それをしなかったらしばらくの間陰湿な嫌がらせをされるらしい。
八咫烏も白狐と同じだな。普段は人の形をして屋敷にいるらしい。中庭でゆっくりと日向ぼっこしていることが多いとか。
あ?私が見えもしねぇのに知ってるのには理由がある。
「それでね、今日は白狐様に会ったの」
「昨日は八咫烏で一昨日は座敷童子、その前は雅だったか?」
そう、真依のせいだ。ほんの1年前までは私が手を引っ張らないと1人で歩くこともできなかったのに、今や1人でも自由に屋敷内を歩けるようになっている。まあ、特級呪霊が闊歩しているような屋敷に雑魚呪霊はいつけねぇか。
「様」
「いや、別にいいだろ。この部屋には私とお前しか」
「様!」
「あーっ、わかったわかった。ちゃんと次からは様付けする」
ご覧の通り心酔してやがる。元々雅に対して淡い気持ちを抱いていた真依だ。愛し人が頭角を示して家のトップになって、私達も差別されなくなった。心酔する理由はそれだけで充分だ。
でもよ、あんまり求めすぎるな。昔ならともかく、今の雅に私たちは釣り合わねぇよ。期待するだけ、希望を抱くだけ絶望も深くなんだろ。真依も内心それが分かっているからこそ、昔おにぎりを作って倉庫前に置いたのは自分だって言わなかったんだろうけど。
「雅様はすごいの。真希だってあの噂聞いたでしょ?」
「あれか。呪術総監部の一員に自分と父親をねじ込んだってやつだろ。その結果、加茂家と揉めたんじゃなかったか?」
「揉めてなんかない。加茂家なんて禪院家の敵じゃないんだから。あんな古臭いだけの家が禪院家と揉めるなんて出来るわけないでしょ」
前までは禪院家であることに嫌悪感すら抱いていたのに、今ではむしろ誇らしげに語っている。それどころか、この家の一員であることに誇りを持っている節さえ生まれてきた。
....分からなくもない。今の禪院家は前までとは別物だ。それと同時に真依の毒舌がレベルをあげた。これも雅に憧れた影響なんだろうか。ろくでもねぇな。
「ってか、情報古くない?そっちじゃないんだけど」
「どっちだよ」
情報が古いも何も、私が知っている情報は基本お前から教えてもらってるんだから当たり前だろ。たまに躯倶留隊の連中から教えてもらう時もあるけどよ。
「あっちよ」
「.....どっちだよ」
まあ、真依が前よりも明るく楽しそうだから私としてはなんでもいい。私も訓練受けれるようになって楽しいしな。
それにしても、雅は拘りが強すぎるよな。呪霊操術って無数に呪霊を取り込んで操れるんだろ?それなのに、特級呪霊ばかり集めてあまつさえ自由に行動させている。
天才ってのはそういうもんなのか?私にはわからねぇけど。今はとりあえず、楽しそうに話してる真依の話に耳を傾けるか。
禪院家からの雅評価
部下たち
『あの人についていけば間違いない』
『禪院家の良心』
『挨拶とか労いの言葉をかけてくれる。この人のためなら死ねる』
『希望すれば家事などのサポートができるようになった』
『加茂家と揉めている時の加虐的な笑顔に惚れた。まさに禪院』
女中たち
『人権を得ることができた。休めるようになって嬉しい』
『労ってもらえるようになった。男尊女卑という概念が家から消えた』
『当主or甚壱さんが目を通す目安箱を設置してくれた』
『希望すれば家事以外もできるようになった。事務作業が楽しい』
『特級呪霊が屋敷内で動き回っているからか、理不尽な事を言う人が居なくなった』
五条家
依然険悪。禪院家が頭一つ抜けそうなため警戒中。
加茂家
険悪。呪術総監部の席を2つ奪われた挙句、抗議したら特級呪霊を差し向けられた。
呪術総監部は伝統と歴史を重んじる加茂家筆頭の保守派と、呪霊や呪術師の存在を公にすべきと考える禪院家筆頭の過激派に別れている。これとは別に、呪術界の風通しを良くしようとしている五条悟の革新派がある。
白狐
1級呪霊→特級呪霊。
八咫烏
1級呪霊→特級呪霊。