あかんやろ。特級クラスの強い呪霊なんやから、群れずに単騎でおれよ。
目の前には、おかっぱ頭に赤いスカートの少女が──二人。
「──なんで『トイレの花子さん』が2人おんねん」
都市伝説系の仮想怨霊は、知名度や地域による伝承の違いで個体差が出ることがあるとは聞くけど、これは予想外やわ。
『何して遊ぶ?』
『どうやって遊ぶ?』
無邪気な声が、廃校のトイレに響く。その声色とは裏腹に、刺すような重圧が放たれとる。流石特級やな。
僕の背後で、狐ちゃんが苛立ちを隠そうともせず鼻を鳴らした。
『ええい、鬱陶しい。先に燃えておれ』
【狐火】
狐ちゃんから放たれたのは、触れたものを塵一つ残さずに焼き尽くす高密度の火球。それが二人の花子さんを呑み込み、狭いトイレを一瞬で灼熱地獄に変えた。やるんなら言うてぇや。
『きいておらぬか』
炎が晴れた後、そこには煤一つついていない二人の少女が、ケラケラと笑って立っていた。
「せっかちやなぁ、狐ちゃん。で、倒せそ? 1人任せてもええ?」
見た感じ、全然きいてるように見えんのやけど。なんやねん、こっちの攻撃も特級レベルのはずやのに。
『.....チッ。烏にやらせよ。妾は童と2人で1人倒す』
『狐が1人で戦えばいい。私はサポートに回る』
「揉めとる場合ちゃうやろ。しゃあない。座敷ちゃん、片方の足止めを頼むわ。その間に狐ちゃんと烏ちゃんで、もう1人を確実に仕留める」
防御と撹乱に長けた座敷ちゃんなら、時間稼ぎは問題ない。狐ちゃんも時間稼ぎに向いてるんやけど、目を離すとサボるから信用できん。
僕が指示を飛ばしたと同時に、花子さんたちが動いた。
『炎?』
『炎上?』
『『炎上遊び!』』
彼女たちの小さな手のひらに、狐火と同じ蒼い炎がボッと浮かび上がる。
「物騒な遊び口にしとるけど、これって狐ちゃんのせいやない?」
『知らぬ』
白狐の技を見て模倣したんか。知名度があって諸説ある呪霊はこれやから厄介なんよ。『なんでもあり』になりよる。
「3人とも頑張ってーや。呪力で強化したるから」
僕は自身の呪力を惜しみなく3人に注ぎ込む。勝てない敵やない。向かい合っても絶望感はない。強いんやろうけど、僕の呪霊たちに勝てるレベルやない。
『合わせろ、烏』
『そっちが合わせて』
刹那、空気が爆ぜた。
【狐火・連】
【雷鳴】
強化された狐ちゃんが放つのは、さっきまでとは桁違いの熱量を持った火炎旋風。対する烏ちゃんは、黒い稲妻を放った。
視認すら困難な速度で、蒼い炎と黒い雷が交錯し、片方の花子さん一点に集中する。かわせんやろ。
轟音と共に校舎の壁が吹き飛んだ。領域展開とかされたら面倒やからな。この火力で、さっさと終わらせて取り込んで──
【禍福反転】
──パァンッ
そんな、間の抜けた音が響いた。
『『??』』
『は?』
『え?』
「.......なにしとんねん」
その場の全員が動きを止めた。特級呪霊2人が放ったコンビネーション。それが、煙が晴れたその場所に立っていた小さな影──座敷ちゃんの手によって、まるでシャボン玉のように弾け飛んでいたのだ。
座敷ちゃんの能力は、感知した悪意・敵意・害意といった『負の感情』を反転させて自身の力に上乗せして返すこと。
最強の盾にして矛。
なんでその能力が、あろうことか僕たち味方の攻撃に対して発動しとんのや。
『──童よ。何の真似じゃ?』
狐ちゃんの声が低くなる。今まで気が乗らない戦闘に参加しないことはあっても、敵対行動を取ることはなかった。
ここで無理やり引っ込めることは可能やけど、今後の信頼関係にヒビが入るんは困る。
座敷ちゃんは僕と、背後に庇った花子さんたちを交互に見て、静かに告げた。
『──虐めたら、ダメ』
「嘘やろ?」
本気で言うとるん?こっちは呪霊操術師として狩りに来とるんやけど。まさか、相手の姿形が子どもやから絆されたんか?確かに向こうは『遊ぼう』言うてたけど、あれ殺す気満々のやつやったで?
『──ククッ、なんじゃ?要は『敵になる』ということよな?よかろう、それも童の選択じゃ。困ったのぉ、人の子』
狐ちゃん、ニヤニヤしすぎやろ。そんな目で僕を見ても、身体は貸してやらんよ。そのまま乗っ取られそうやからな。
『狐がやるくらいなら、私の方がいい。すぐに終わらせる』
烏ちゃんもやる気ださんでええねん。君らに身体預けるん怖いねんて。
「待ちぃや。何が不満なん、座敷ちゃん。確かにこっちから手を出したけど、その子らも反撃の準備しとったやんか」
『してない』
座敷ちゃんは頑として首を横に振る。振らんといてくれ。せめて、縦に振ってくれや。
『雅は『遊ぼう』って言った。この子達は、誘われて喜んだだけ──いきなり燃やそうとした白狐が悪い』
「勘弁してぇや。僕、座敷ちゃんと揉めたないんやけど」
あかんなぁ。これ、座敷ちゃんの視点で僕らの方が悪者になってもうてる。
座敷ちゃんの行動原理は『虐げられている子供の味方』や。困ったなぁ、どないしようか。無理やり引っ込た方が楽なんやけど....はぁ、関係が壊れそうやしなぁ。
『雅、この子たちを仲間にしたいんでしょ?』
「そらそうやけど」
『なら、ちゃんと誘えばいい。悪くない子に無理やりは、ダメ』
「........ほんまに言うてる?」
呪霊相手に『言葉で説得して手持ちに加わってや』言う呪霊操術師が、世界のどこにおんねん
『ねぇ、ゲーム』
『つぎのゲーム、ちょうだい』
「昨日買うたばかりやろ。そないに一日中ピコピコ遊んどったらあかんよ」
──成功してもうた。
なんやねん。なんでこれで交渉成立すんねん。
ありがたいし、嬉しいし、取り込んだ後に反抗されるリスクがなくなったのも助かる。せやけど、僕はこれでええんか?
呪術師として、命のやり取りをして、呪いの本質を理解して調伏する──みたいなプロセス、全部すっ飛ばしてもうた。
『トイレの花子さん』。学校の怪談の代表格。その強さは底知れず、まともにやり合えば最低でも校舎の一つや二つは消し飛んでいたはずや。
それが、校舎の壁が一部吹き飛んでトイレが焼けこげたくらい。それで手に入れたのは、最強の特級呪霊2人。
「........ええんや、うん。結果が全てや」
自分に言い聞かせる。そうせなあかん気がした。
『ケチ』
『たくさんの娯楽教えてくれるって言った』
『嘘つきは泥棒の始まり。泥棒は──殺してもいい?』
『殺そう。殺せばいい』
「物騒なこと言うなや。嘘ちゃうわ、順番がある言うとんねん」
そう、これが彼女らが僕の手持ちに加わった最大の理由──『退屈』や。トイレの花子さんは、その名の通り『トイレ』という狭い空間、あるいは校舎という鳥籠に縛られた地縛霊に近い性質を持つ。
来る日も来る日も、代わり映えのしない風景。怯える人間を驚かしたりたまに殺すだけの単調な日々。
そこへ僕が提示した条件は、『外の世界への自由』と『無限の娯楽』。Nintendo Switchと、各地の銘菓。校舎に縛られない生活。
特級呪霊のプライドよりも、数百年以上の退屈が勝った瞬間やった。
『......うん、わかった』
『.....なら、お菓子。甘いやつ』
「なんやっけ。華ちゃんは和菓子で、花**ちゃんは洋菓子やったよな?ゴリラ面しとるやつかその部下に言うたらすぐに用意するはずや」
「それと、暇やったら炳と躯倶留隊の連中で遊んでええからな。あいつら頑丈やし、鬼ごっこでもかくれんぼでも、死なん程度になら何でも付き合わせたってええよ。」
実戦形式の訓練にもなるし、あいつらも喜ぶやろ。良かったなぁ、特級呪霊と戯れることができるなんて羨ましいわぁ。
すると、僕の背後から他の連中もここぞとばかりに口を開いた。
『妾はいなり寿司じゃ。揚げたての、汁が染み出るようなやつを早急に用意せよ』
『私は上等な肉と酒。肉は血の滴るようなレアで』
『私はおはぎと大福。あと、金平糖も』
ここは託児所なん?それとも動物園なんか?僕は先生でも飼育員でもないんやけど。
「.....あれや、全部まとめてゴリラ面に言いに行き。30分以内に用意せんかったら、屋敷の屋根一つくらい吹き飛ばして急かしてもええから」
知らん知らん。僕に言うても用意せぇへんよ。
部屋が静かになったところで、ようやくふぅと息をつけた。
「....僕も、なんか腹減ったなぁ」
特級呪霊たちが美味いもんを要求してくるせいで、つられて口が寂しくなってきた。
たまには、自分で何か作ってみよか。誰かに作ってもらう料理もええけど、気晴らしも必要や。やったことないけど、適当にやればできるやろ。
不味かったらパパに食わせたらええ。ご飯を無駄にするんわよくないからなぁ。
雅君の呪霊操術解釈講座
「呪霊操術は、術師が呪霊『を』操る術式」
──そんなん、誰が決めたん?
教科書通りの常識に、後の人間が何も考えずに従っていく。思考停止や。そんなんやから、いつまで経っても成長せんのや。
発想の転換や。
呪霊『が』術師を操る術式でもええやんか。
呪霊は『受肉』した方が、肉体を得て出力も強度も跳ね上がる。やったら、一時的に僕の身体の主導権を渡して、呪霊に任せるのも一つの戦術やろ?
まあ、身体返してもらえんと困るから、あんまりやりたないけど。僕の呪霊は手駒やない。互いに尊重し合うパートナーや。
.....あ、他の呪霊操術師は呪霊を手駒やと思ってるから出来んよな。教科書に書いてることしか出来んよな。ほんに悪いなぁ、気が利かんで。怒らんといてや。
ようやく次回、関われる。
原作キャラと関われるんだ!
雅君は炊事場へと向かった。そこにいた人物は?
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禪院真希
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禪院真依
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西宮桃